気分障害
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気分障害 | |
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概要 | |
診療科 | 精神医学, 臨床心理学 |
分類および外部参照情報 | |
ICD-10 | F30-F39 |
ICD-9-CM | 296 |
MeSH | D019964 |
気分障害(きぶんしょうがい、英: mood disorder)は、精神疾患の一群である。
概念
ある程度の期間にわたって持続する気分(感情)の変調により、苦痛を感じたり、日常生活に何らかの支障をきたしたりする状態のことをいう。うつ病と双極性障害など広範囲な精神的疾病がこの名称にあてはまる。
精神疾患の主要な分類法であるICD-10とDSM-IVの両者において用いられている語であり、この2者間で細かい分類の仕方は異なるものの含まれる概念はほぼ同一である。
分類
うつ病性障害
双極性障害
薬物誘発性気分障害
気分障害は、その病因が向精神薬や化学物質の直接的な生理学的効果に帰結できる場合、または薬物中毒や離脱症状と併せて発症した場合、薬物誘発性に分類される。 また、個々の薬物乱用障害と同時に気分障害が発症することがある。 薬物誘発性気分障害は躁病・軽躁・混合・またはうつ病エピソードの特徴を持つことがある。
ほとんどの物質は気分障害の様々を引き起こす可能性がある。たとえばアンフェタミンやコカインのような覚せい剤は、軽躁・混合躁病・およびうつ病エピソードを引き起こす可能性がある。
アルコール誘発性気分障害
大量飲酒者とアルコール依存症患者では、高い確率で大うつ病性障害が発生する。 アルコール乱用やうつの患者について、それが既存の疾患であったかについては論争があるが、近年の研究では幾つかのケースでは該当し、アルコールの乱用は直接的にうつを引き起こしているという事が、多くの乱酒者についてのデータによって結論づけられた。[1][2][3] 高い自殺率についてもアルコール関連の問題の1つである。[4] うつがアルコールに関連しているかどうか見分けることは、患者の履歴を注意深く観察することで可能である。[3][5][6]アルコール乱用と関連したうつや他のメンタルヘルス問題は、脳内の化学成分の歪みが原因と考えられるため、一定期間の断薬によって改善する傾向がある。[7]
ベンゾジアゼピン誘発性気分障害
ジアゼパムやクロルジアゼポキシドなど、多くの抗不安薬、睡眠薬であるベンゾジアゼピンの長期使用はアルコールと似た効果を脳にもたらし、うつ病に関連している[8]。
大うつ病はベンゾジアゼピンの長期使用や長期離脱症候群によって形成される。
ベンゾジアゼピンは一般的に不眠・不安・筋肉の痙攣を治療するために使用される薬剤グループである。
ベンゾジアゼピンはアルコールと同様に神経科学系に作用し、セロトニンとノルエピネフリン(ノルアドレナリン)のレベルを減少させることによってうつ病を悪化させると信じられている[9][10][11][12]。
大うつ病はベンゾジアゼピン離脱症候群の一部として起こることがある[13][14][15]。
ベンゾジアゼピン依存患者の長期フォローアップ研究では、10人(20%)が過剰服用していたが、しかし既存症状がうつ病であったのは二人だけであった。1年をかけたゆっくりとした離脱プログラムにより過剰服用する患者はいなくなった[16]。
ベンゾジアゼピンからの離脱に起因するうつ病は、通常数ヶ月後に治まるが、いくつかのケースでは6-12ヶ月間続くことがある[17][18]。
インターフェロン誘発性気分障害
インターフェロンによるうつ病の予防に抗うつ薬が有効であることなどが明らかにされている。[19]
起源
多くの著者は、気分障害が進化的適応であると提案している。落ち込みや抑うつは、危険・損失・無駄な努力をもたらす目標追求に対しての状況対応能力を高めるという。[20] そういった状況では、低いモチベーションにより特定の行動を阻害することで優位性を高めるという。この理論では、なぜ気分障害が多発し、生殖年齢のピーク時にある人々に頻繁に発症するか説明することができる。もし抑うつを機能不全と捉えた場合、これらの特性を説明するのは難しい。[20]
抑うつ気分はそのような状況の損失、離婚、または子または配偶者の死など、生命の発生、特定の種類の予測可能な応答である。これらは、生殖能力または潜在的な損失を通知する、または人間の先祖の環境でそうしている出来事である。抑うつ気分は、それが行動の以前の(と繁殖失敗)状態から背を向けることは、個々を引き起こすという意味で、適応応答として見ることができる。
抑うつ気分はインフルエンザなどの疾患中には一般的である。それは個人の身体活動を制限することにより、回復を助ける進化メカニズムであるといわれている。[21] 冬の間に起こる、低いレベルの抑うつ・季節性情動障害は、過去に食物が不足していた時間に身体活動を制限する適応能力だと言われている。[21] それは人間が食料の過不足がもはや天候に左右されない状況であっても、冬の間気分が落ち込む本能があるためだと主張されている。[21]
2008年10月の厚生労働省の気分障害患者の年代別・性別の分布を見ると、日本ではとりわけ60~70歳代と30~40歳代の女性の患者数が多い。[22]
ICD-10における気分障害
以下のように小分類される。
- 躁病エピソード
- 双極性障害
- うつ病エピソード
- 反復性うつ病性障害
- 持続性気分(感情)障害
- その他の気分(感情)障害
- 詳細不明の気分(感情)障害
DSM-IVにおける気分障害
- 双極性障害 - いわゆる「躁うつ病」である。I型双極性障害、II型双極性障害、気分循環性障害、特定不能の双極性障害の4つに分けられる。
- うつ病性障害 - 大うつ病性障害、気分変調性障害、特定不能のうつ病性障害、抑うつ関連症候群の4つに細分化される。いわゆる「うつ病」は大うつ病性障害に含まれる(そのため、うつ病のことを「大うつ病」と呼ぶことがあるが、重症なうつ病という意味ではない)。気分変調性障害は抑うつ神経症とも称される。
- 一般身体疾患を示すことによる気分障害
- 特定不能の気分障害
関連項目
出典
- ^ Fergusson DM, Boden JM, Horwood LJ (March 2009). “Tests of causal links between alcohol abuse or dependence and major depression”. Arch. Gen. Psychiatry 66 (3): 260?6. doi:10.1001/archgenpsychiatry.2008.543. PMID 19255375 .
- ^ Falk DE, Yi HY, Hilton ME (April 2008). “Age of onset and temporal sequencing of lifetime DSM-IV alcohol use disorders relative to comorbid mood and anxiety disorders”. Drug Alcohol Depend 94 (1-3): 234?45. doi:10.1016/j.drugalcdep.2007.11.022. PMC 2386955. PMID 18215474 .
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- ^ 厚生労働省「患者調査」