居酒屋兆治

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居酒屋兆治
著者 山口瞳
発行日 1982年6月
発行元 新潮社
ジャンル 長編小説
日本の旗 日本
言語 日本語
ページ数 232
コード ISBN 978-4-10-322625-3
ISBN 978-4-10-111115-5文庫判
ウィキポータル 文学
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居酒屋兆治』(いざかやちょうじ)は、山口瞳の連作的長編小説。『兆治』(ちょうじ)と題し『1979年10月号から1980年11月号に連載、改題して新潮社より1982年6月に刊行された。東京国立にある広さ5縄のれんのモツ焼き屋「兆治」を舞台に、店に集う客たちのさまざまな愛憎劇を描く[1][2][3]

1983年降旗康男監督、高倉健主演により映画化。また1992年渡辺謙主演により、2020年遠藤憲一主演によりテレビドラマ化。

あらすじ

函館で居酒屋「兆治」を営む藤野英治。不器用ながら、真っ直ぐな人生を歩もうとすればするほど、かつての恋人や学校の先輩、昔の職場の上司、幼馴染が何故か不幸な目に遭ってしまう。そんな人生に苦悩しながら、それでも英治は前向きに生きていこうとしていた。

登場人物

モデル

舞台となるモツ焼き屋「兆治」のモデルになったのはかつて東京都国立市の南武線谷保駅の近くにあった居酒屋「文蔵」[4]。山口の近所の行きつけの店で、山口が『週刊新潮』に連載を続けた名物コラム『男性自身』シリーズの中にもたびたび登場した。山口は「家の近くに、赤提灯の店がある。毎晩、そこへ飲みに行って客の言葉を記録し、日記ふうの小説が書けないだろうかと、考えたことがある」と書いていて、もともと物置だったところを借り受け「滑稽なくらいにちいさい」店だった[5][6]

店名のモデルはプロ野球選手ロッテオリオンズエース投手だった村田兆治。主人公・藤野英治は高校時代に投手で、村田兆治への憧れから店の名を「兆治」にしたという設定[6]。野球ファンの山口瞳が、村田の全力投球に魅了されていたことが背景にあったといわれる[7]

書誌情報

映画

居酒屋兆治
監督 降旗康男
脚本 大野靖子
製作 田中プロモーション
東宝
出演者 高倉健
大原麗子
加藤登紀子
池部良
音楽 井上堯之
撮影 木村大作
配給 東宝
公開 日本の旗 1983年11月12日
上映時間 125分
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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降旗康男監督、高倉健主演により舞台を函館に移して映画化され、1983年11月12日に公開された。

あらすじ

函館居酒屋「兆治」を営む藤野英治。輝くような青春を送り、挫折と再生を経て現在に至っている。かつての恋人で、今は資産家と一緒になった「さよ」の転落を耳にするが、現在の妻茂子との生活の中で何もできない自分と、振り払えない思いに挟まれていく。周囲の人間はそんな彼に同情し苛立ち、さざなみのような波紋が周囲に広がる。「煮えきらねえ野郎だな。てめえんとこの煮込みと同じだ」と学校の先輩の河原に挑発されても、頭を下げるだけの男。そんな夫を見ながら茂子は、人が人を思うことは誰にも止められないと呟いていた。

キャスト

藤野英治
演 - 高倉健
主人公。函館で居酒屋「兆治」を営む無口な男。以前は球児であったが肩を壊して断念し、その後入社した北洋ドックではオイルショックの際に、自身の出世と引き換えに同僚をクビにするよう命じられたのに反発して退社に至っている。
神谷さよ
演 - 大原麗子
英治の元恋人。かつて自身と神谷との間で縁談が持ち上がった際、若く貧しい己が身を負い目に思った英治が身を引いたことで、裕福だが心から愛してもいない神谷と望まぬ結婚をし、それ故に英治のことを忘れられない。家に放火し失踪する。キャバレーで働きながらたびたび英治に電話をかける。
藤野茂子
演 - 加藤登紀子
英治の妻。夫とともに「兆治」を切り盛りし、何があろうとも夫を支える良妻だが、夫が不器用さゆえに時に損しているのを特別咎めはせず、半ば諦観している。
岩下義治
演 - 田中邦衛
英治の親友で、球児時代は彼とバッテリーを組んでいた同級生。「兆治」の常連客。精肉店経営。
河原
演 - 伊丹十三
英治と幼馴染の先輩。三光タクシー副社長。小さい頃から「ガキ大将気質」だと言われており、酒が入ると英治に何かと目を付けて暴力をふるい、英治もそれに耐えていたが、兆治で鈴子の死について、その顛末を悪口を大いに交えて無神経に言い続けた結果、我慢できなくなった英治に殴られる。
峰子
演 - ちあきなおみ
「兆治」の向かいにある小料理屋「若草」を営む陽気な女性。
有田
演 - 山谷初男
英治の元同僚。「兆治」の常連客。
小寺
演 - 河原さぶ
英治の元同僚。「兆治」の常連客。
越智
演 - 平田満
英治の元同僚。「兆治」の常連客。すすきののキャバレーで知り合ったさよに結婚を申し込む。
堀江
演 - 池部良
「兆治」の常連客。生命保険会社社員。
秋本
演 - 小松政夫
「兆治」の常連客。タクシー運転手。河原から借金をして三光タクシーに移籍。
神谷久太郎
演 - 左とん平
さよの夫。牧場経営。
河原洋子
演 - 中島唱子
河原の娘。
秋本鈴子
演 - 立石凉子
秋本の妻。
岩下靖子
演 - 片山満由美
岩下の妻。
吉野耕造
演 - 佐藤慶
北洋ドック専務。北洋ドックにつとめていた英治をクビにする。
井上
演 - 美里英二
「若草」の常連客。井上造船所社長。元々は歌手になりたかったらしく、カラオケの趣味が高じて会社を潰す。
相場
演 - 大滝秀治
小学校校長。月に1度か2度朝食の目玉焼きが3個になることに苦悩している。
相場多佳
演 - 石野真子
相場の妻で、36歳年下。
小関
演 - 小林稔侍
英治がさよと共謀して神谷の財産を狙って放火したのではないかと疑っている。そのため、英治は河原を殴った一件で警察に留置されたのに、さよに関する聴取ばかりをされた。
中村
演 - 三谷昇
沢井
演 - 石山雄大
市役所職員
佐野
演 - 細野晴臣
市役所職員
松川
演 - 東野英治郎
英治の師匠。焼き鳥屋経営。
ミーコ
演 - 好井ひとみ
「若草」のホステス。
勝子
演 - 大沢ゆかり
キャバレーのホステス。
エミリー
演 - 水木薫
キャバレーのホステス。
桐山
演 - 佐野秀太郎
英治が通っていた高校の現在の野球部のエースピッチャー。かつての英治と同様に肩を痛めてしまい絶望するが、英治に諭されて奮起する。
モツ屋
演 - あき竹城
アベックの男
演 - 武田鉄矢
アベックの女
演 - 伊佐山ひろ子
土産を持ってきた客
演 - 山口瞳、山藤章二

主題歌

スタッフ

エピソード

  • カラオケが趣味の男・井上のキャスティングには梅沢富美男が候補として挙がっていたが、井上の人物像や脇役である事が気に入らず、出演を断っている。長いキャリアを誇る梅沢だが、映画出演は意外に少なく、その理由として、本作のオファーを蹴った事が原因ではないかと、暗に仄めかしている[8]
  • 山口瞳と親交があり山口のエッセイ『男性自身』シリーズにたびたび登場する「市役所のガマさん」のモデルで、国立市の市長を約5年半にわたり務めた佐藤一夫が、居酒屋のシーンにエキストラで出演している[9]
  • 映画公開から7年後の1990年10月13日、店名のモデルになった村田兆治の最後の公式戦登板を見た高倉健が、村田の引退劇に感銘を受け、村田と面識はなかったが、花束と手紙を持って村田の自宅を訪ねた。しかし村田は不在で、車の上に花束と手紙を置いて帰った。夜、村田が自宅に帰り封筒を開けると「長い間、本当にお疲れさまでした。高倉健」と書かれてあり、感激したという[7][10]

DVD

  • 「居酒屋兆治」
  • 「高倉健 DVD-BOX」

受賞歴

  • 第7回日本アカデミー賞
    • 最優秀録音賞(紅谷愃一)
    • 優秀脚本賞(大野靖子)
    • 優秀助演男優賞(伊丹十三)
    • 優秀助演男優賞(田中邦衛)
    • 優秀助演女優賞(加藤登紀子)
  • 第26回ブルーリボン賞 助演男優賞(田中邦衛)
  • 第8回報知映画賞 助演男優賞(伊丹十三)

テレビドラマ

1992年版

居酒屋兆治
ジャンル テレビドラマ
原作 山口瞳
企画 鈴木哲夫
香取雍史
脚本 安倍徹郎
監督 三村晴彦
出演者 渡辺謙
桜田淳子
美保純
川谷拓三
永島暎子
阿藤海
段田安則
片桐はいり
音楽 小六禮次郎
国・地域 日本の旗 日本
言語 日本語
製作
プロデュース 小川晋一
古屋克征
製作 フジテレビ
国際放映
放送
放送チャンネルフジテレビ系
放送国・地域日本の旗 日本
放送期間1992年7月10日
放送時間金曜 21:02 - 22:52
放送枠金曜ドラマシアター
放送分110分
回数1
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1992年7月10日フジテレビ系の「金曜ドラマシアター」枠で放送された。

キャスト(1992年版)

スタッフ(1992年版)

2020年版

リバイバルドラマ
居酒屋兆治
原作 山口瞳
脚本 櫻井剛
演出 猪原達三
出演者 遠藤憲一
井川遥
渡辺いっけい
西村まさ彦
手塚とおる
徳井優
上島竜兵
六平直政
藤田朋子
石橋蓮司
真矢ミキ
音楽 西村由紀江
国・地域 日本の旗 日本
言語 日本語
製作
制作統括 目黒正之東映
中村高志NEP
髙橋練NHK
撮影監督 今井孝博
編集 髙橋信之
制作 NHKエンタープライズ
製作 NHK
東映
放送
放送チャンネルNHK BSプレミアム
NHK BS4K
放送国・地域日本の旗 日本
放送期間2020年3月28日
放送時間土曜 21:00 - 22:30
放送分90分
回数1
公式ウェブサイト
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「リバイバルドラマ」シリーズとして、NHK BSプレミアムおよびNHK BS4Kにて2020年3月28日の21時から22時30分に放送された。主演は遠藤憲一[11][12]

キャスト(2020年版)

主要人物
その他

スタッフ(2020年版)

脚注

  1. ^ 居酒屋兆治”. 小学館. P+D BOOKS. 2020年1月16日閲覧。
  2. ^ 山口瞳 電子全集20 1979〜1980年『兆治』”. 小学館. 2020年1月16日閲覧。
  3. ^ 山口瞳『居酒屋兆治』”. Panasonic Melodious Library. TOKYO FM (2019年11月20日). 2020年1月16日閲覧。
  4. ^ 山口治子 (2007年9月15日). “〜作家 山口 瞳が愛した国立の街と人・家族〜”. 情報紙『国立トピ!』のブログ版. 国立トピ!. 2020年1月16日閲覧。
  5. ^ 川本三郎「山口瞳ー『居酒屋兆治』の国立」『それぞれの東京 昭和の町に生きた作家たち』淡交社、2014年、136-145頁。ISBN 978-4-473-03679-7 
  6. ^ a b 山口瞳流、大人の飲み方”. 本の話WEB - 文春写真館(文藝春秋) (2013年4月30日). 2017年5月1日時点のオリジナルよりアーカイブ。2017年5月1日閲覧。
  7. ^ a b “【あの時・サンデー兆治】(5)引退試合を見たあの人からの手紙”. スポーツ報知 (報知新聞社). (2017年4月24日). オリジナルの2017年4月24日時点におけるアーカイブ。. https://archive.fo/20170424085316/http://www.hochi.co.jp/baseball/npb/20170422-OHT1T50173.html 2017年5月1日閲覧。 
  8. ^ その一方で主演の高倉は黒澤明からの『』への出演依頼を断って本作に出演している。
  9. ^ “「市役所のガマさん」映画出演も 佐藤一夫・国立市長偲ぶ”. 産経ニュース (産経デジタル). (2016年11月17日). https://www.sankei.com/article/20161117-XUL66WFHIJN3BMS4XPACQ5EDDE/ 2020年1月16日閲覧。 
  10. ^ “【スポーツ茶論】ミスター・ベースボール 別府育郎”. SANSPO.COM (産業経済新聞社). (2014年12月16日). オリジナルの2017年4月30日時点におけるアーカイブ。. https://archive.fo/20170430160638/http://www.sankei.com/column/news/141216/clm1412160008-n1.html 2017年5月1日閲覧。 “村田兆治氏、面識のなかった健さんから引退試合の日に花束”. SANSPO.COM (産業経済新聞社). (2014年11月19日). オリジナルの2017年4月30日時点におけるアーカイブ。. https://archive.fo/20170430155404/https://www.sanspo.com/article/20141119-UDEISCIC3RL7RKYRIVRKXS7WWM/ 2017年5月1日閲覧。 
  11. ^ “遠藤憲一:「居酒屋兆治」リバイバルドラマで主演 「健さんとはまた違う居酒屋兆治に…」”. まんたんウェブ (株式会社MANTAN). (2020年1月15日). https://mantan-web.jp/article/20200115dog00m200037000c.html 2020年1月15日閲覧。 
  12. ^ 遠藤憲一さん主演『居酒屋兆治』制作開始!”. NHK (2020年1月15日). 2020年1月15日閲覧。

外部リンク

映画
テレビドラマ