自己愛性パーソナリティ障害

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
自己愛性人格障害から転送)
移動: 案内検索
自己愛性パーソナリティ障害のデータ
ICD-10 F60.8
統計 出典:WHO
世界の患者数 不明
日本の患者数 不明
学会
日本 日本精神神経学会
世界 世界精神医学会
この記事はウィキプロジェクト雛形を用いています
自己愛性パーソナリティ障害(NPD)
分類及び外部参照情報
水面に映った自身を見つめるナルキッソス
ICD-10 F60.8
ICD-9 301.81
MedlinePlus 000934
MeSH D010554
プロジェクト:病気Portal:医学と医療
テンプレートを表示

自己愛性パーソナリティ障害(じこあいせいぱーそなりてぃしょうがい、英語: Narcissistic Personality Disorder)とは、ありのままの自分を愛せず、自分は優越的で素晴らしく特別で偉大な存在でなければならないと思い込むパーソナリティ障害である。

目次

概要 [編集]

境界性パーソナリティ障害(BPD)とセットにして扱われる事もあるが、自己愛性パーソナリティ障害の方が安定性が高い。境界性パーソナリティ障害は、発達的にみて自己愛性パーソナリティ障害と関連していると見る向きがあり、境界例患者は治療が進むと自己愛性パーソナリティ障害様の機能や能力を獲得する場合がある[1]。これとは逆に、自己愛型防衛に失敗した自己愛性パーソナリティ障害の患者が自棄的感情に陥り、境界性パーソナリティ障害様の状態を呈することもある。自己愛性パーソナリティ障害と境界性パーソナリティ障害は似た点も多く、鑑別が困難な場合もある[2]

自己愛性パーソナリティ障害は従来男性に多いとされてきた[3]が、2000年以降は女性も増加し、ほとんど性差のない時代に入ってきたという報告がある[4]。また摂食障害、特に拒食症患者は背後に自己愛性パーソナリティ障害が控えているケースが多い[5]

境界性パーソナリティ障害の原因として日本では過保護アメリカでは虐待が多いという指摘があるが、自己愛性パーソナリティ障害に関しても似たような言説がある。過保護や虐待は強い束縛や暴力だけではなく、多忙な親に放置されたり無視される等のネグレクトも含まれる。境界性パーソナリティ障害同様、生理学的要因も考えられている。発症因子として実際に社会的評価が高かったり、ルックスや家柄が良い、IQが高い等、常に賞賛を浴びる状態が幼少期から続くなどの環境要因が強く主張されている。自己愛性パーソナリティ障害の万能感は母子関係によって強化されることがある。

DSM-IV-TRでは診断名に自己愛性パーソナリティ障害が存在するが、WHOICD-10では正式な診断分類として採用されていない。

診断基準 [編集]

DSM-IVでは以下の診断基準が用いられている。誇大性(空想または行動における)、賞賛されたいという欲求、共感の欠如の広範な様式で、成人期早期に始まり、種々の状況で明らかになる。以下のうち5つ(またはそれ以上)当てはまれば自己愛性パーソナリティ障害だと診断される。

  1. 自己の重要性に関する誇大な感覚。自分の業績や才能を誇張する。
  2. 限りない成功、権力、才気、美しさ、あるいは理想的な愛の空想にとらわれている。
  3. 自分が特別であり、独特であり、他の特別なまたは地位の高い人や施設にしか理解されない、または関係があるべきだと信じている。
  4. 過剰な賞賛を求める。
  5. 特権意識、つまり特別有利な取り計らい、または自分の期待に自動的に従うことを理由なく期待する。
  6. 対人関係で相手を不当に利用する、つまり自分自身の目的を達成するために他人を利用する。
  7. 共感性の欠如。他人の気持ちや欲求を認識しようとしない、またはそれに気づこうとしない。
  8. しばしば他人に嫉妬する、または他人が自分に嫉妬していると思い込む。
  9. 尊大で傲慢な行動、態度。

臨床像 [編集]

自分について素晴らしい理想的な自己像(誇大的自己)を抱き、自分は他人より優れた能力を持っている、あるいは自分は特別だと思い込んでいる。また自分が理想とするような権力や能力のある人を理想化し、まるで自分がその人であるかのように考えたり振る舞ったりすることがある。さらに自分が極めて優れた能力や魅力、権力を持っていて、それを行使して自らの自己愛を満たしていくという非現実的な空想にしばしばふけることがある。そうした誇大的な自己像に基づいたふるまいや、積極的な自己顕示により、内的には不安定であるにもかかわらず「頭がいい」「仕事ができる」「表現力がある」といった長所を持つと思われることがある。しかしその背後には、深刻な自己不信や漠然とした空虚さを感じており、本質的には他者に依存している。

誇大的自己を維持するために、際限なく周囲からの称賛・好意・特別扱いを得ようとしており、その現実化のため絶えず努力や自己顕示を行っている。しかしそれを実現できない時には抑うつに陥る。能力がない自己愛者は、より退行した形で他者からの是認を求めることがある。 その内実は、深刻な自己不信と抑うつを抱える愛されない無能的な自己を、誇大的自己を追い求めることで救済しようとする試みと捉えることができる[6]

一方で自分に批判や否定を向けられると、怒りや憎しみを持つか、屈辱感や落胆を経験する。これらの感情は必ずしも表出されるわけではない。また否定をされるとそれを受け入れられずに現実逃避し、嘘や詭弁で逃げようとすることがある。そのため批判や失敗について反省したり、その時の辛さや痛みを認識する能力に欠けている。失敗や批判から学ぶ能力に乏しい。 なお誰か他の人に認めてもらわないと自分を維持できないのは、安定した自己像が存在せず、他者という鏡を通してしか自己意識の高揚を感じられないためである。

自己肯定感や自尊心が高ぶる感覚を持続的に維持することができる。この感覚が支配している間は、自己肯定感や自尊心が損なわれる事もあるという弱い一面を自分が持っていることをほとんど意識しない。一方で、自己肯定感や自尊心が大きく傷つけられるような体験をすると、一転して自分はだめだ、価値がない、無能だと感じる。自身についてもある一つの体験についても、よい面もあれば悪い面もあるといったとらえ方ができない。

他者と人間関係を持つにしても、それは自らの自尊心を支えるために人を利用しているにすぎない。本当の意味で他者に共感したり、思いやりを持ったり、感謝したりする能力に乏しく、他者との現実的な信頼関係を持つことができない。 良心に乏しく利己的な人間である[7]。それにもかかわらず「自分は良心的で利他的な行いをしているから、他者から愛されるべき存在でなければならない」と自己評価している場合が多いため、現実とのギャップが受け入れられず抑うつ的になることがある。なお学習の結果、うわべだけの思いやりを示すことは可能である。

病理学 [編集]

フロイト [編集]

愛情対象の選択 依存型:自分を保護し養育してくれる対象を選ぶ

ナルシシズム型
対象の中に自分自身を見出しそれに愛情を向ける
ナルシシズムの定義
自己に対してのみ愛情を集中させる心的態度であり、リビドーが自我に逆流してしまった状態 
発達図式
〈自体愛(オートエロティズム)→自己愛→対象愛〉
  • こうして移行、達成して初めて個としての自立する。
  • 自己愛は発達途上の未熟なもの。
治療
この理論においては治療手段は確立されていない。パーソナリティ障害は精神病の一部として考えられていた。

コフート [編集]

病因
よい親子関係が築けなかったために心が十分に成長しなかったという環境因を重視する『欠損モデル』である。この場合の欠損とは生まれついてのものではなく、養育過程で生じた後天的な『欠損』を意味し、共感を用いて育て直すことが治療方針となる。怒りは共感的反応を得られない時に生じる二次的なものと見ている。鏡映化欲求および理想化欲求を操作し、理想化された親のイメージ・自己評価調節機能を内在化し、構造的空虚の解消を目指す。
自己愛転移
鏡転移:治療者が自分のことを理解をもって受け入れ愛してくれているのだと感じ、それまで秘かに抱いていた誇大的な自己を治療者に見せるようになること。
理想化転移:治療者を絶対的で完全な人物として感じ、その治療者を崇拝するような態度を見せる傾向。
治療
理想化転移を引き受ける。患者の鏡転移に正しい部分は答えて、間違っている部分は修正していく事。共感的に患者の誇大性と能力を承認しながらも、大きく現実と乖離している誇大性や自分の能力を現実に照らし合わせて修正していく。また過度な理想などを徐々に現実的に修正していくことも含まれる。これらは治療者による適切な共感によってなされる。共感しつつ患者の幼少期に承認されないままに残った誇大性や傷付いた心を探索することで、心の欠損部分を修復していく。また、間違いや失敗には素直に謝るなど、理想化対象である治療者にも現実的には至らない部分もあるのだという認識を与える(適量の欲求不満)。これらの過程を経ると、次第に対象の機能を内在化し、健全な自己評価調節機能を獲得し、理想化対象から是認や承認を得ずとも空虚さを感じなくなるようになる(変容性内在化)[8]
分類
  • 誇大的で要求がましい自信過剰タイプ。
  • 自己評価が低く羞恥傾向があり、しばしば心身不全感を訴えるタイプ。 
  • (共通点)自己が満たされない空虚感と傷つきやすさ。
  • 再び傷つけられることへの強い怒りを示す傾向がある点。

カーンバーグ [編集]

病因
子どもの体質的な羨望及び攻撃性の強さに重きを置く『葛藤モデル』である。自己の内部にあるアグレッションが強すぎるために自己をコントロールできないほどの『葛藤』が生じるのだと考え、解釈を通して直面化し、自我を賢くすることを目指す。葛藤モデルは、怒りを生得的に持ち合わせた一次的なものと見ている。
治療
内的な貪欲さを患者自身が認め受け入れていくことを支援し解釈を通じて直面化を繰り返す。自分の悪い部分などを他者へ投影するなどした時に、本当は患者自身に抱えきれない葛藤があることを教えていくことが重要になる。自己の内部に存在している葛藤が強すぎるためにコントロールができないのだと考え、解釈を通じて自分でコントロールできるようになることを目指す[9]
分類
  • 幼児的自己愛…現実的。愛情、信頼、依存、暖かさ。
  • 病的自己愛…非現実的。依存はみられない。無遠慮で冷たい。
  • 相手に対する羨望や、認め難い依存欲求を防衛するために、それを外界へ投影して相手を軽蔑・脱価値化し、一方で他者に依存する必要のない満ち足りた存在であると感じようとする。

治療 [編集]

  • 治療の中心は精神療法である。薬物療法は抑うつ症状等に対する対症療法として行う。

経過・予後 [編集]

  • 慢性的で治療困難。自分の力、若さ、肉体は衰えていくものだけに一層自己愛にしがみつくこともある。
  • 将来への変化が期待できなくなる中年期になると、誇大的自己を維持できなくなり、危機をむかえるケースがある。

疫学 [編集]

  • 一般人口では1%以下
  • 病院患者の中では2~16%
  • 男性≧女性 男性が50〜75%[3](近年は性差が見られなくなってきているという報告がある)

鑑別診断 [編集]

出典 [編集]

[ヘルプ]

参考文献 [編集]

  • ジェームス・F・マスターソン(著)、 富山幸佑 他(監訳) 『自己愛と境界例 発達理論に基づく統合的アプローチ』 星和書店、1990年9月。ISBN 9784791102020
  • 丸田俊彦 『コフート理論とその周辺 自己心理学をめぐって』 岩崎学術出版社、1992年12月。ISBN 9784753392100
  • ハインツ・コフート(著)、 笠原嘉 他(監訳) 『自己の分析』 みすず書房、1994年3月。ISBN 9784622040910
  • M・スコット・ペック(著)、森英明(訳) 『平気でうそをつく人たち ―虚偽と邪悪の心理学』 草思社、1996年12月。ISBN 9784794207418
  • 和田秀樹 『壊れた心をどう治すか コフート心理学入門 II』 PHP研究所、2002年10月。ISBN 9784569624587
  • 町沢静夫 『自己愛性人格障害』 駿河台出版社、2005年11月。ISBN 9784411003652
  • 市橋秀夫(編) 『精神科臨床ニューアプローチ 5 パーソナリティ障害・摂食障害』 メジカルビュー社、2006年5月。ISBN 9784758302302
  • 狩野力八郎 『自己愛性パーソナリティ障害のことがよくわかる本』 講談社、2007年12月。ISBN 9784062594219
  • 市橋秀夫「男性の自己愛性パーソナリティ障害と抑うつ」、『Depression Frontier』第7巻第2号、2009年10月、 20-26頁。

関連項目 [編集]