交響曲第5番 (チャイコフスキー)

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交響曲第5番ホ短調 作品64は、チャイコフスキー1888年に作曲した交響曲。チャイコフスキーの数ある曲中でも交響曲第6番『悲愴』と並ぶ人気曲となっている。

作曲の経緯と初演[編集]

チャイコフスキーは1877年交響曲第4番を作曲したあと、『マンフレッド交響曲』を作曲したほかは、交響曲から遠ざかっていた。疲労や曲想の枯渇感があったようである。しかし、1886年にヨーロッパに演奏旅行し、当地で好評を得たことや、マーラーリヒャルト・シュトラウスグリーグら作曲家との交流が刺激となり、意欲を取り戻したといわれる。作曲者48歳、1888年の5月から8月にかけて作曲された。

同年11月、作曲者自身の指揮によりサンクトペテルブルクで初演された。初演では、聴衆は好意的だったが、専門家の批評は芳しくなく「チャイコフスキーは枯渇した」、「3つのワルツを持つ交響曲」などといわれ、チャイコフスキー自身も曲の出来映えについて「こしらえ物の不誠実さがある」と手紙に書くほどだった。が、その後は演奏会のたびごとに大好評となり、成功作として本人も評価するようになった。

編成[編集]

編成表
木管 金管
Fl. 2、ピッコロ1 Hr. 4 Timp. 1 Vn.1 1
Ob. 2 Trp. 2 Vn.2 1
Cl. 2 Trb. 3 Va. 1
Fg. 2 Tub. 1 Vc. 1
Cb. 1

曲の構成[編集]

古典的な4楽章制の交響曲。ただし、第3楽章ではスケルツォの代わりにワルツが採用されている。演奏時間は45分から50分程度。打楽器で用いられているのはティンパニのみで、他の交響曲では用いているシンバルも用いられていない。

第1楽章[編集]

Andante - Allegro con anima - Molto piu tranquillo ホ短調、序奏付きのソナタ形式

序奏はアンダンテ、4/4拍子。冒頭でクラリネットが暗い旋律を吹く。この主題は「運命の主題」ともいわれ、その冒頭の動機は「運命の動機」ともいわれており、各楽章に現れて全曲の統一感を出している。

主部はアレグロ・コン・アニマ、6/8拍子。弦の行進曲調のリズムに乗って、クラリネットとファゴットが第1主題を出す。哀愁感のある推移主題の後、第2主題はヴァイオリンによるワルツ風な旋律。リズミカルな小結尾を経て展開部に入る。

展開は第1主題に基づく。再現部は第1主題、第2主題の両方が再現されるが、そのプロセスは短縮されている。その後、第1主題によるコーダとなり盛り上がった後、徐々に速度が落ちて動きを止めるように、低音弦楽器のフェルマータで暗く重い結末となる。

演奏時間は13分半から18分程度。

第2楽章[編集]

第2楽章のホルンソロ

Andante cantabile, con alcuna licenza - Moderato con anima - Andante mosso - Allegro non troppo - Tempo I ニ長調三部形式

短い弦の序奏のあとで提示される第1主題はホルンの美しい調べが印象的である。次にオーボエで第2主題の断片が提示されるが、直ちに再び第1主題の登場となる。今度は弦が主役を担当しホルンは補強にまわっている。曲が活発に動き出すと間もなく、弦で第2主題が再登場する。ここでは第2主題が繰り返されクライマックスを築く。中間部に入るとクラリネットで短調の新たな旋律が現れ、大きく盛り上がると1回目の「運命主題」の回帰がある。

ピッツィカートによる短い経過部のあと、第1主題が弦で再現される。やがて第1主題の後半部分を利用して緊迫感を増すと、テンポが落ちて第2主題が演奏されて第2楽章のクライマックスが築かれる。コーダに入る前に突然、トゥッティで「運命動機」が強奏される。コーダでは弦が第2主題の断片を奏でつつ、楽章は静かに閉じられる。

演奏時間は13分から15分半程度。

第3楽章[編集]

Valse. Allegro moderato イ長調、A-B-A-コーダからなる三部形式。

チャイコフスキーは交響曲第4番の第1楽章で「ワルツのテンポ」を指示しているが、ここでは純然たるワルツを採用した。弦によって主要主題が提示され繰り返される。主題は木管に引継がれ展開される。主要主題の再現に相当する部分は、木管で主題が再現し、トゥッティにて繰り替えされる。木管による短い経過句を経て中間部へ至る。

中間部は弦による細かい音型が特徴。この音型にティンパニーが弱音で応答する。この音型は木管に引継がれ、再び弦に戻ってくると、この音型に乗ったまま、主要主題が復帰してくる。主要主題は提示と展開の部分はそのまま再現するが、その後は変形されトゥッティで力強く演奏される。「運命動機」はコーダでクラリネットとファゴットに静かに現れる。

演奏時間は5分から7分程度。

第4楽章[編集]

Finale. Andante maestoso - Allegro vivace (Alla breve) - Molto vivace - Moderato assai e molto maestoso - Presto ホ長調 → ホ短調 → ホ長調、序奏付きのソナタ形式。

序奏は「運命動機」に基づく。主部はティンパニの連打に導かれ、第1主題は華やかで民族的な香りもある。第2主題は木管により、穏やかながら、やはり行進曲調。コデッタではまた「運命動機」が扱われる。展開部は、弦が第1主題のリズムを刻み、そのうえに第2主題が変奏される。徐々にスピードが落ちたところでいきなり再現部となり劇的に盛り上がり、全休止をはさんで勝利感に満ちたコーダへなだれ込んでいく。ここでは「運命動機」が高らかに奏され、ホ長調6/4拍子に変化した第1楽章の第1主題をオーボエとトランペットが豪快に掛け合って全曲を締めくくる。

演奏時間は11分から15分半程度。

備考[編集]

  • 映画では『オーケストラの少女』や『カーネギー・ホール』で用いられたことで知られる。
  • ジャズ音楽の『Moon Love』は、本作の第2楽章主要主題をモチーフにしている。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]