ドラゴントライアングル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
ドラゴントライアングルがあると主張されている海域

ドラゴントライアングル (Dragons Triangle) もしくは魔の海 (Devil's Sea) とは、日本近海に存在すると主張され、バミューダトライアングルと同様に船舶や航空機が突如行方不明となるとされる海域である。また北太平洋の広い海域を対象にしてフォルモサトライアングルフォルモサは台湾の別称)と呼称する場合もある。いずれにしても、事実や科学的裏付けはない。

超常現象研究家の主張[編集]

チャールズ・バーリッツ著の『魔海のミステリー』(日本語訳:芸文社)などのアメリカ合衆国超常現象研究家が主張するところによれば、日本列島の南方海域である太平洋の、千葉県野島崎小笠原諸島グアムを結んだ三角形海域は日本の「魔の海域」であり、航空機や船舶が謎の失踪をするバミューダトライアングルと同様であるとしている。また、イギリスの著名な作家かつオカルト研究家であるコリン・ウィルソンも、日本の南東の硫黄島からマーカス島(南鳥島)にかけての海域を「魔の海域」としている[1]

バーリッツによれば、「1942年から1954年にかけて日本海軍の5隻の艦艇をはじめ多くの船舶や航空機など700名以上の乗員が消失した」とされる。また、「日本政府も100名以上の研究者を動員した結果、この海域を「魔の海域」として危険地帯に指定しており、日本人もまた昔からこの海域は海底にすむドラゴン[2]がひきずりこむと恐れている」というものである。また、バーリッツはこの地帯で失踪事件が起きる原因を、「バミューダトライアングルと同じく未確認飛行物体(UFO)の仕業」とも主張している。

元ネタ[編集]

アメリカ合衆国のクシュによる著作『魔の三角海域』(角川文庫、1975年)によれば、元ネタは日本の読売新聞1955年1月14日の記事が外信で歪められ、ニューヨーク・タイムズに事実誤認の記事が掲載されたものだとしている。これは読売新聞が漁船「伸洋丸」の遭難を伝える記事[3]で「魔の海」や「ナゾのまゝ姿を消す」といったキャプションを付けており、過去5年間に9隻の漁船が失踪したと報道した記事である。読売新聞の記事では、一部に事実誤認や誇大表現があるものの、漁船の失踪は強風や時化など悪天候のため発生したと報じていた。にもかかわらず、ニューヨーク・タイムズは、あたかも超常現象によって、晴天の中突如失踪したというような記事になっていたという。またオービス・パブリッシング著、矢追純一監訳による『世界の超常現象ファイル 失われた世界への旅』(同朋社出版、1996年)は、第五海洋丸の遭難事故について「説明のつかない状況で消息を絶った」と事実とは異なる記載をするなど、完全にフィクションの物語と化している。

魔の海域の実態[編集]

否定意見[編集]

「ドラゴントライアングル」ないし「魔の海域」という語句・説に対する世界の認知度は低いとされる。「そもそも”謎の失踪”など存在していない」と考える意見がある。また前述のバーリッツの著書における日本の描写も、当の日本人の目からすると、または現状の日本を知り得る知性から判断するに、大変奇異なものである。特に「日本では大規模な海難事故は全国的には全く報道されない」という話は、戦時中などの特殊な社会情勢下ならともかく、現在の日本では当てはまらない。また「晴天の穏やかな海域で失踪した」という事実もない。そもそも、東洋・日本だから即ドラゴンという安直なネーミング自体、現地の感覚ではない、西洋的な誤解に満ちたイメージである。日本語では「龍」は単なる「ドラゴン=竜」よりも「竜神」という表現の如く、禍ではなく神として捉えられる。

この海域はしばしば台風温帯低気圧による暴風雨が発生し、それに伴う三角波によって遭難する船舶は特段珍しいことではない、とされる。また北太平洋航路は北米とアジアを結ぶ国際航路であり、往来する船舶も多く、分母の多さに比例すれば、取り立てて事故率が高いわけでもない。航空機も同様である。

例示される遭難した船の種類や事故当時の気象状況の記述が不正確かつ、該当する海域外で起こった事故をも数に含めているといった、バミューダトライアングルとも共通の疑問点ないしは問題点が確認される。ドラゴントライアングルを採り上げる際に例示される事故は、かなり歪めて記載されている事が多い。、そのため、「報道がなんらかの原因で歪められて伝わって生じたデマ」の可能性が高い、と主張する意見がある[誰?]

事実との相違点[編集]

バーリッツがドラゴントライアングル内で発生したと主張する原因不明の海難事故であるが、、多くの場合その発生年月日や発生場所が実際とは間違っている上に、該当する海域から離れた太平洋上で発生した海難事故をドラゴントライアングル海域内で発生したと強引に結びつける傾向がある[要出典]。そのためドラゴントライアングル附近にある千葉県野島崎沖や犬吠崎沖合も、設定海域外であるにも関わらず、その範疇に入れられている。なお、千葉県沖合いの太平洋海域は海の難所として知られ、救難信号を出す間もなく沈没した海難事故が実際に多く発生している。1969年1月5日に「ぼりばあ丸」が沈没するなど、1980年までに1万トン以上の鉱石運搬船などの貨物船14隻が沈没し152名の死者・行方不明が発生している[4]

しかし現在では、例えば「尾道丸沈没事故」(1981年1月沈没)について、沈没までに時間があったため破損箇所の写真が撮られており、その解析から時化で船体強度設計を大幅に超える高波(三角波)に遭遇し、船体構造を破壊されたことが原因であると断定されている。また船首部が破断し沈没したが船尾部が沈没しなかったため奇跡的に助かったという事例もあることから、原因不明の失踪とされた海難事故も自然災害に拠るものと結論付けられる。また21世紀の現在においては、設計基準が強化され安全性が高められたため、このような大規模な海難事故は少なくなっている。

バーリッツが唱えていた、日本海軍艦艇の失踪事件は実際には存在せず、1935年9月に発生した第四艦隊事件(原因は演習中に遭遇した台風災害による大規模海難事故、ただし沈没した艦艇はない)を、故意にまたは過失で一緒にした可能性が高い。また犠牲者数が700名とあるが実際には56名であり異なる。1944年12月には、アメリカ第3艦隊フィリピン沖で台風に遭遇し駆逐艦が沈没ないし破損し、多数の艦載機が失われ800人以上が犠牲になっており、それを混同した可能性もある[要出典]

そのほか、海難事故や航空事故も著書で『原因不明』としているが、ほとんどの事故は原因が判明している。またバーリッツの著書で該当するとしている事故は海難事故33件、航空事故6件であるが、と学会会長・SF作家の山本弘によれば[5]実際に確認できない事故が多く、確認できたものでも事故原因が判明しているか、実際の事故の概要と異なっていたという。

1952年には明神礁噴火を観測していた海上保安庁の観測船「第五海洋丸」が噴火に巻き込まれ、乗組員や研究者31名が全員殉職する海難事故が発生している(後に遺留品が発見された)。この時に海上保安庁は近辺海域を海底火山危険区域に設定(1999年8月9日に解除)しているが、これも前述のように火山活動による「事故」を超常現象によるものとすりかえている。また洞南丸(1963年失踪)のように、遭難場所が和歌山県潮岬沖であるうえに、荷崩れによって転覆の危険があるため総員退避すると乗員が通信(生存者なし)しているものなど、原因がはっきりとし残骸も発見されている「海難事故」を「原因不明の消失」に仕立て上げ、歪めて記述している。

また航空機の失踪であるが、実際に原因不明で失踪したのは1979年ヴァリグ・ブラジル航空機遭難事故ぐらい[6]であるが、他の航空事故は原因が判明している。たとえば1970年2月にフジテレビが”かりふぉるにあ丸”遭難事故の取材のためチャーターした東京航空の航空機(機体記号:JA3414)が行方不明になったが、これも突如行方不明になったのではなく、杜撰な飛行計画のために燃料が枯渇して、不時着水したことが明らかになっている。この様子は別の航空機が目撃していたが、前述のバーリッツの著書はこの事例を何故か「JAL341」と記述しており、実在する航空会社の運行便が失踪したかのような記述になっている。

バーリッツはドラゴントライアングルで発生したUFOコンタクト事件として、1981年4月17日金沢から300kmの日本海上(ママ)で、輸送船「滝京都丸」がUFOに遭遇してあわや沈没する危険があったとのエピソードが紹介されているが、これは日本では全く誰も知らないUFO遭遇事件であり、地元ですら追認もされていないことから、信憑性に乏しい[7]。また、日本海はドラゴントライアングルとは全く関係がなく、地理上大きく離れているため、日本の地理に疎いアメリカの読者を騙しかねないといえる。この事件であるが、原典は僅かに日時が違うものの、アメリカの原子力潜水艦が日本の輸送船を沈没させた事件である可能性が高い。これは1981年4月9日に東シナ海を航行中の日本の貨物船日昇丸がアメリカ海軍原子力潜水艦ジョージ・ワシントン」に衝突され、沈没した事件である。この事件では潜水艦が救助せず逃亡した上にアメリカ海軍も事実関係をすぐに認めなかったため、一時「謎の物体に衝突」(ないしソ連の原子力潜水艦)といった報道がなされたのである(米原潜当て逃げ事件を参照)。また4月17日には福井県の敦賀原子力発電所で放射能を帯びた排水によって海草が汚染されたとされる報道があり、この2つの事件をミックスして捏造した可能性が高い[要出典]

マスメディアに登場した魔の海域[編集]

オカルト番組[編集]

日本では前述のように、この海域での海難事故は、自然災害とはされても超常現象とされることはない。しかし、アメリカの歴史エンタテイメント専門チャンネルであるヒストリーチャンネルのシリーズ番組「UFO Files」(この番組はエリア51のように有名な話題のほか、中国のUFOや未確認潜水物体といった日本では認知度の低い話題が取り上げられている)では、ドラゴントライアングルの特集番組”Pacific Bermuda Triangle ”(「太平洋のバミューダトライアングル」、アメリカ側が用意した日本語タイトルは「太平洋、バミューダ島、三角形」)のタイトルで2006年9月4日にオンエアされた。

番組はドラゴントライアングル内の失踪原因をバーリッツのUFO原因説に比重を置いたものであった。そのため多くの日本人が出演しているが、日本の周辺で超常現象により船舶や航空機が失踪することはないと主張する否定論者よりも、日本周辺海域に超常現象の起きる海域があることを肯定する論者の意見に立脚したものであったといえる。そのため「結果ありき」の番組であった。

アメリカ人が日本語を読めないことをいいことに、アメリカ軍機失踪の記事として、母子心中の記事(インタビューを受けた山本弘が用意したものだという)を使っていたり、「第五海洋丸」が「第五海王丸」になっているなど、日本人から見ると情報を捏造したヤラセ番組にしかみえない内容であったという。また山本によれば、番組制作元は日本の防衛庁(現・防衛省)1971年7月に犬吠崎南西20km沖合いに墜落した対潜哨戒機について、「ドラゴントライアングル」で発生したから超常現象によるものではないかと問い合わせたが、事故機が所属していた海上自衛隊から「機体は回収されているし、事故原因も判明[8]している」と回答したにもかかわらず、それでもなお超常現象のはずだと主張していたという。そのため製作元の姿勢にも問題があった。

またドラゴントライアングルで発生したUFOコンタクト事件として、前述の輸送船「滝京都丸」がUFOに遭遇してあわや沈没する危険があったとのエピソードが紹介されている。この場面ではCGによる再現映像が放映されたが、日本人証言者は誰も出ておらず、信憑性に乏しい。また日本海はドラゴントライアングルから大きく離れているため、日本の地理に疎いアメリカの視聴者を騙しかねないといえる。

この時期に日本でUFOに遭遇したのではないかと騒がれたものに三陸沖キノコ雲事件1984年4月9日)や日航ジャンボ機UFO遭遇事件1986年11月17日)があるが、「滝京都丸」事件はバーリッツの捏造の可能性が高い[9]といえる。そのため、意図的に作られた、真実性よりも娯楽性がつよい番組であるといえる。

パロディ[編集]

  • フジテレビ系深夜アニメ放送枠(ノイタミナ枠)のアニメ「モノノ怪」第3,4話にて、主人公らが乗る船が迷い込んだ、妖怪の支配する海域が「竜の三角」という名で呼ばれている。登場人物の一人いわく新島[10]、野島崎、未知の「南蛮の島」に囲まれた海域だという。
  • トミーウォーカー社のPBW『シルバーレイン』に、千葉県野島埼、小笠原諸島、グアムを結んだ海域として登場し、同地に多数のゴーストが群れ集っていたほか、海底に三匹のドラゴン型ゴーストが潜んでいた。

脚注[編集]

  1. ^ 「明治・大正・昭和・平成 事件・犯罪大事典」、東京法経学院出版、2002年、764頁、
  2. ^ [[原田実 (作家)|]](と学会会員)によれば、元ネタは『怪獣王ゴジラ (GODZILLA THE KING OF MONSTERS)』(海外公開版『ゴジラ』、1956年
  3. ^ 実際には伸洋丸は無線機が故障したまま航海しており、翌日に無事発見された
  4. ^ 「明治・大正・昭和・平成 事件・犯罪大事典」、東京法経学院出版、2002年、764頁、
  5. ^ 『と学会誌18』70頁~77頁
  6. ^ 事故原因は機体が発見されていないため、調査ならびに原因確定はなされていないが、当時の新聞記事に拠れば、失踪時に飛行していた空域が荒天であったために墜落した、と推測されている。
  7. ^ 日本語の書籍には、バーリッツの著書のほか、バーリッツの書籍から引用した矢追純一監訳による『世界の超常現象ファイル 失われた世界への旅』(同朋社出版、1996年)以外に情報源は無く、またUFOとの遭遇情報を隠匿する必要もないといえるため、アメリカ側による出典情報とバーリッツが主張するものしかない。
  8. ^ 早朝濃霧の海上自衛隊下総航空基地に着陸しようとした対潜哨戒機が滑走路手前にあった木に接触し右翼予備燃料タンクが落下。そのため着陸を中止しバランスをとるために左予備タンクを海上に落とすために海上に向かい墜落した事故。回収されたフライトレコーダーの解析から、機体制御を喪失して墜落したとされた。
  9. ^ 山本弘は参考文献の中で、船名は「日本の状況を良く知らないアメリカ人が適当に付けた」と主張しており、実際に内陸都市の「京都」の名称を船名に付ける可能性は極めて低い。なおアメリカ側による滝京都丸事件の顛末は外部リンクを参照のこと
  10. ^ 超常現象本などでの「新島」という表記(バーリッツの著作の "Ogasawara Shito" の誤訳)を伊豆諸島の新島(にいじま)と間違えたもの

参考文献[編集]

外部リンク[編集]