KC-46 (航空機)
KC-46 ペガサス
KC-46は、アメリカ合衆国の航空機メーカー、ボーイング社が開発した空中給油・輸送機[1]。形式名称KC-46A愛称はペガサス[2]。
開発母機はボーイング767。2017年までに最初の18機が調達され、KC-135を置き換えながら179機が生産される予定。当初の計画ではKC-10もKC-46において更新される予定であった[3]。
概要[編集]
ボーイングは老朽化が進むKC-135を代替する空中給油機としてKC-767の改良型であるKC-767ATをアメリカ国防総省に提案、100機をリース契約で調達する案を提示した。しかし、汚職問題によりこれは白紙化され、エアバス/ノースロップ・グラマンが提案するKC-30Tとの競争入札となった。2008年2月29日、KC-30T案をKC-45として採用することを、国防総省が発表し、KC-767ATは脱落した。この選定について、ボーイングは会計監査院(GAO)に対してKC-30Tの採用に関する異議を申し立て、機種選定をやり直すこととなった。最終的にノースロップ・グラマンが入札を見送ると発表、2011年2月24日、国防総省はKC-767をKC-46Aの名称で採用することを決定した。
2014年9月16日、配線の設計変更により初飛行が延期された[4]。
2014年12月28日、試作1号機(767-2C)が初飛行した。ただし、空中給油システムは装備していない。
試作機は4機(うち民間機登録の767-2Cが2機、軍用機のKC-46Aが2機)製造され飛行試験を行い、アメリカ連邦航空局(FAA)による民間機としての認証と、軍用の認証を取得することとなる[5][6]。
2015年6月2日、767-2C試験機が空中給油システム(ブームとポッド)を装備した状態で初めて飛行した[7]。
2015年10月23日、日本の防衛省が航空自衛隊の新たな空中給油機としてKC-46Aを選定し、3機を導入すると発表した[8]。更にその後、将来的に6機態勢にする方針が示された。2020年度末ごろから鳥取県の美保基地に配備される予定。
2017年の米空軍によるボーイングのリスク評価で米会計検査院による試験日程遅延によるテスト不具合も可能性を指摘され、KC-46計画自体が遅延する可能性を指摘している[9]。
2019年米空軍は受領が遅れていたKC-46Aに関して欠陥があり修理が必要なままで受け入れる方針を発表。納期は予定を既に2年余り超過していて、給油カメラの不具合を修復するにはさらに最大で4年かかる可能性があるとしたがボーイング自ら改修費用負担することで空軍と引渡に合意したとしている[10]。この時点でボーイングの開発費は、2011年に空軍との開発契約から締結して以来、40億ドル近く超過している[11]。同年1月10日に米ワシントン州エバレット工場引き渡され、同月25日1号機(56009)と2号機(76031)が米カンザス州マッコーネル空軍基地に納入された。
アメリカ空軍は2019年4月4日までにKC-46の納入を拒否した[12]。エバレット工場における品質保証問題で度々問題を起こしており、今回の納入拒否は削りカスや工具の放置等の問題が指摘を受けても改善されなかった事による2回目の処置である。
日本における運用[編集]
航空自衛隊は2001年に空中給油機の導入を決定し、4機のKC-767空中給油・輸送機の運用を2007年より順次開始した。一方で航空自衛隊の保有する作戦機の数に対して4機の空中給油機では数が足りないことは明白であり、また航空自衛隊最大の輸送機としての役割も期待されていたことから、空中給油・輸送機の更なる追加調達を模索していた。しかし防衛予算の厳しい状況を踏まえKC-767の追加調達は断念せざるを得ず、当面はKC-767の運用成果を踏まえて追加調達を検討するという方向に落ち着いた。
その後も世界では航空作戦の長時間化が進み、日本においても南西諸島等の陸上基地が少ない空域での作戦が想定されることから空中給油・輸送機の重要性は増す一方であった。これを受けて2013年12月に策定された25防衛大綱において日本周辺空域において持続的な各種作戦を遂行できるよう空中給油・輸送機部隊の増強が定められ、新たな空中給油・輸送機3機の整備が決定された[13]。これを踏まえて防衛省・航空自衛隊は空中給油・輸送機の選定を開始し、2015年にKC-46Aを選定したと発表。[14]2016年度予算にKC-46Aの取得に係る経費として231億円を計上し、翌年の2017年度予算より機体の調達を開始した。
航空自衛隊の発注したKC-46Aの初号機は2019年9月に組み立てが開始され、2021年度に受領する予定である[15]。また配備は鳥取県の美保基地に1個飛行隊の創設を予定しており[16]、格納庫と駐機場の整備が進んでいる[17]。
さらに2018年12月に策定された31中期防において、未調達だった1機を含めた4機の空中給油・輸送機の追加取得が決定され、2020年度予算において4機の一括調達が認められた。この4機についても美保基地への配備が想定されており、合計で6機のKC-46Aが美保基地に配備される計画となっている[18]。
KC-46Aの配備完了をもって航空自衛隊の保有する空中給油・輸送機は10機に拡充し、持続的な航空作戦遂行能力は大幅に増強されることとなる。また航空自衛隊のKC-767では装備していなかったブローブ・アンド・ドローグ方式での給油にも対応したことにより、UH-60J救難ヘリコプターや新たに導入が決定されたF-35B戦闘機、陸上自衛隊のMV-22Bへの給油も可能になる。
2019年7月5日、防衛省は空自の新空中給油・輸送機KC-46Aの修理に関する技術援助契約先として、767エンジンはプラット・アンド・ホイットニー(P&W)製PW4062でなくゼネラル・エレクトリック (GE) 製を採用している全日本空輸(ANA/NH)を選定したと発表した[19]。
予算計上年度 | 調達数 | 予算額 |
---|---|---|
平成29年度(2017年) | 1機 | 299億円 |
平成30年度(2018年) | 1機 | 267億円 |
平成31年度(2019年) | - | - |
令和2年度(2020年) | 4機 | 1,052億円 |
合計 | 6機 | 1,618億円 |
機体[編集]
ベースになったのはKC-767のアメリカ空軍向け提案モデルで、KC-767AT(Advanced Tanker)と呼ばれていたもの。開発中の767-200LRF(Long Range Freighter:長距離貨物輸送機)に基づいており、主翼は300ER型、翼、ギア、貨物ドア、床は300F、コックピットはボーイング787のグラスコックピットシステムを派生させたものを装備する[20]。
空中給油装置はKC-10のフライングブームの改良型になり、給油オペレーター席も3Dディスプレイを採用した新世代型になる。当初は主翼にウィングレットを装備する予定だったが、中止されている。キャビン床下には燃料タンクが増設されており、装甲されている上に被弾しても誘爆しないよう不活性ガスで満たされている。また、航空自衛隊向けの機体に対しては、収納式の階段であるエアステアが装備されるという情報がある。
地上旋回半径は39メートルで、標準的な幅45メートルの滑走路で180度旋回が可能となり、非常運用時整備されていない中規模な空港での運用も考慮された設計になっている。
KC-767と比べKC-46では生存性が高められており、ALR-69Aレーダー警報受信機(RWR)、AN/AAQ-24(V)ネメシス指向性赤外線妨害装置(DIRCM)といった自己防御装置を搭載しているほか、コックピット周辺にも防弾版が装備されている[21]。
仕様[編集]
出典: USAF KC-46A,[22] Boeing KC-767,[23] Boeing 767-200ER[24]
諸元
- 乗員: 3 (操縦士,副操縦士,空中給油オペレーター)
- 定員: 人員114人、463Lパレット 18枚、傷病者58人(担架24 歩行可能者34)
- ペイロード: 29,500 kg (65,000 lb)
- 全長: 50.5 m (165 ft 6 in)
- 全高: 15.9 m (52 ft 1 in)
- 翼幅: 48.1 m(157 ft 8 in)
- 空虚重量: 82,377 kg (181,610 lb)
- 最大離陸重量: 188,240 kg (415,000 lb)
- 動力: プラット・アンド・ホイットニーPW4062 ターボファン、282 kN (63,300 lbf[23]) × 2
燃料容量: 212,299 lb (96,297 kg)
最大転送燃料搭載量: 207,672 lb (94,198 kg)
性能
- 最大速度: マッハ 0.86 (570 mph, 915 km/h)
- 巡航速度: マッハ 0.80 (530 mph, 851 km/h)
- 航続距離: 12,200 km (6,385 nmi)
- 実用上昇限度: 12,200 m (40,100 ft)
脚注[編集]
- ^ "Air Force Announces KC-46A Tanker Contract Award"国防総省ニュースリリース,2011年2月24日
- ^ KC-46A空中給油機の愛称は「ペガサス」
- ^ "Boeing Wins Aerial Tanker Contract"国防総省ニュース,2011年2月24日
- ^ KC-46A開発計画に若干の遅れ 配線の設計を変更
- ^ ボーイングKC-46ペガサス試作1号機が初飛行
- ^ ボーイングと米空軍、KC-46空中給油機の初飛行成功
- ^ Boeing 767-2C tanker completes first flight with boom, wing pods
- ^ 防衛省、新空中給油機にKC-46A選定
- ^ KC-46開発がここまで遅れている理由と米空軍の対応
- ^ 米空軍、欠陥ある空中給油機を購入へ-ボーイングが修理代負担
- ^ “ボーイング空中給油機、不安を抱えて初納入” (2019年2月19日). 2019年3月14日閲覧。
- ^ 米空軍、給油機納入を再度中止 機内にまたゴミ放置2019年4月4日、CNN
- ^ “防衛省・自衛隊:「平成26年度以降に係る防衛計画の大綱について」及び「中期防衛力整備計画(平成26年度~平成30年度)について」” (日本語). www.mod.go.jp. 2020年6月27日閲覧。
- ^ “防衛省・自衛隊:新たな空中給油・輸送機の機種決定について”. www.mod.go.jp. 2020年6月27日閲覧。
- ^ “空自向けKC-46A、組立開始 21年受領へ” (日本語). Aviation Wire. 2020年6月27日閲覧。
- ^ 空中給油機:新型配備へ 空自美保基地、県が同意 /島根2017年3月18日、毎日新聞、2020年9月18日閲覧
- ^ “美保基地のKC-46A空中給油・輸送機の整備、地元自治体が申し入れ | FlyTeam ニュース”. FlyTeam(フライチーム) (2019年9月10日). 2020年6月27日閲覧。
- ^ “令和元年6月28日会議録(確定版)/鳥取県議会/とりネット/鳥取県公式サイト”. www.pref.tottori.lg.jp. 2020年6月27日閲覧。
- ^ 防衛省、ANAとKC-46A修理技術契約 767の新空中給油・輸送機(2019年7月8日)Aviation Wire
- ^ Boeing Receives U.S. Air Force Contract to Build Next-Generation Refueling Tankerボーイング社ウェブサイト2011年3月5日閲覧
- ^ “平成29年3月3日会議録/鳥取県議会/とりネット/鳥取県公式サイト”. www.pref.tottori.lg.jp. 2020年6月27日閲覧。
- ^ KC-46A Tanker Factsheet. U.S. Air Force, 18 May 2011.
- ^ a b KC-767 Advanced Tanker product card (archive copy), KC-767 International Tanker backgrounder. Boeing.
- ^ 767-200ER specifications. Boeing.
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
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