エアバス A330 MRTT

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A330 MRTT/KC-30/ボイジャー

エアバス A330 MRTT(Airbus A330 Multi Role Tanker Transport)は、エアバスA330-200をベースに開発した空中給油/輸送機である。2007年6月15日に初飛行。

概要[編集]

胴体尾端にARBS(Airbus Military Aerial Refuelling Boom System)と呼ばれるフライングブーム方式空中給油装置を、左右主翼外側にプローブアンドドローグ方式の空中給油ポッドを備える。ARBSはプローブアンドドローグ方式の給油装置FRU(Fuselage Refuelling Unit)に変更することができ、さらにフライングブーム方式の受油リセプタクルを装備すれば、自身も空中給油を受けられるようになる。空中給油オペレーター席はコックピット後部にあり、テレビカメラの映像を3Dディスプレイで見ながら給油操作を行う。

床下を燃料タンクに充て、キャビンを貨物スペースとしていた従来の空中給油機と異なり、本機のキャビンは旅客仕様と同様で最大300名の人員を輸送でき、床下は貨物スペースとして使用される。これは、床下を燃料タンクに充てなくともKC-135などを上回る燃料搭載量を持つためで、後述するイギリスのように不要になれば空中給油装置を取り外して民間旅客機に転用することもできる。なお、キャビンに貨物扉を設置した貨物仕様とすれば最大45トンの貨物を輸送でき、貨客混載にも対応できるとされるが、2012年現在この仕様を採用した国はない。

エンジンも旅客仕様と同様プラット・アンド・ホイットニーPW4000ゼネラル・エレクトリックCF6-80E1ロールス・ロイストレント700から選択することができる。現時点ではオーストラリアとサウジアラビアがCF6を、イギリスとUAEがトレントを採用している。

今後の生産機は、構造変更による空力改善やアビオニクスの更新を行った新型になる予定で、2016年9月30日に新型A330 MRTTの初号機が初飛行した[1]

配備[編集]

採用国[編集]

オーストラリアの旗 オーストラリア
ローンチカスタマーであるオーストラリア空軍は、空中給油機として運用していたボーイング707の後継として2004年にKC-30Aの名称で5機を発注した。2008年から配備を始める予定だったが、テスト中のトラブルによりARBSの開発が遅れたため、最初の機体の納入は2011年となった。2013年に初期運用能力を獲得し[2]、2014年9月からは中東へ展開し過激派組織ISIL爆撃作戦の支援に参加している。2015年7月1日オーストラリア国防省は2機の追加発注を発表、VIP輸送機としても機能するこれらの機体は、2017年と2019年に納入予定[2][3]。2015年11月には、F-35Aとの給油試験を完了し[4]、2017年3月最終的な運用能力を獲得した[2]
またオーストラリアではスマートタンカーという名称でエアバスと共同研究を開始する予定である。これではKC-30Aを通信ノードまたはコマンド・コントロールセンターとして使用する可能性を探るほか、ISRの作業にどのように使用されるか、あるいはどのように秘密作戦に使用されるのかを検討する。同時に給油ブームの自動化をどのように高めるかについても検討する。これにより、空中給油オペレーター(ARO)の疲労問題を緩和し、ブームの動きを受油する航空機のパイロットに予測させることが可能となる[5]。ハードウェアの変更には三角測量を支援し、コンピュータ制御システムの奥行き知覚を強化するために、KC-30Aの後部胴体の下に垂直に取り付けられたカメラを追加することが含まれる。オーストラリアは2017年3月にこのシステムのための研究実施で合意し、保有する5機の内1機をこの試験に使う可能性が指摘されている。準備が整うまでに約2年かかると予想されている[6]
イギリス空軍のボイジャー
尾部のARBSがないことがわかる
イギリスの旗 イギリス
イギリス空軍は2004年に次期空中給油機としてA330 MRTTを選定し、ボイジャーKC.2/KC.3の名称で2007年に発注に至った。KC.2は給油装置が左右主翼外側の空中給油ポッドのみ、KC.3はさらに胴体にFRUを装備している。14機を取得予定であり、2011年からPFI形式でエアバス、ロールス・ロイス、タレスなどが出資する民間会社エア・タンカーが所有し、運用されている[7]。導入後に欧州全体での軍用輸送機・空中給油機の共有が進んだため、余剰となった機体を民間機仕様に改装した上で、欧州のリゾート向けチャーター機専門の航空会社にリースされ、民間航空路に投入されている機体もある[8][9]
サウジアラビアの旗 サウジアラビア
サウジアラビア空軍KE-3Aの後継として6機取得予定で2011年から配備が始まり、2013年2月25日から運用を開始した[10]
アラブ首長国連邦の旗 アラブ首長国連邦
アラブ首長国連邦空軍は2007年に3機を購入する覚書をエアバスとの間で締結[11]、2008年2月にエアバスはUAEとの契約の締結を発表した[12]。2013年に最初の機体が納入された[13]
フランスの旗 フランス
フランス空軍は、KC-135の後継として2014年に12機を発注した。配備は2018年を予定している[14]
シンガポールの旗 シンガポール
シンガポール空軍はKC-135の後継として6機を発注したことが2014年3月7日にエアバスより発表された[15]
大韓民国の旗 韓国
韓国空軍B767 MMTTKC-46との競合の末、海外派兵など作戦任務地域での滞空時間や空中給油量、人員および貨物空輸などで優秀な性能を見せたことなどを評価して、2015年6月30日にA330 MRTT選定したことを発表した[16]。4機を導入する予定でエンジンはロールス・ロイス製のトレント700シリーズが選定された[17]
国際共同
オランダノルウェーポーランドの3ヶ国はA330 MRTTの共同購入・共同運用に向けてエアバス社と交渉を行っており[18]、内オランダは2016年7月27日に国防省が議会に対し、A330 MRTTの取得をルクセンブルクと共に契約を行うと通知している。契約内容は契約は、2機の確定発注と6機のオプションとなっている[19]

採用を検討した国[編集]

アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
アメリカ空軍の次期空中給油機KC-X選定には、ノースロップ・グラマンがEADSと提携してKC-30Tの名称で応募し、2008年2月29日にKC-45の名称で179機の採用が発表された。しかしボーイング側は、3月11日にアメリカ会計監査院(GAO)とエアバス及びノースロップ・グラマンに対して異議を申し立てると発表した。6月18日にGAOが空軍の選定に重大な誤りがあるという調査結果を公表したため、KC-45の採用は白紙に戻された。2010年3月9日ノースロップ・グラマンが応募を見送ると発表、2011年2月24日にアメリカ国防総省KC-767をKC-46Aの名称で採用したため、KC-45は不採用となった。
インドの旗 インド
インド空軍は、1987年から開始された空中給油機の導入検討時にIl-78MA310 MRTTとともに比較検討した結果、保有するIl-76MDと互換性があり輸送機としても使用できることが評価されたIl-78に敗れている[20]。2008年からは新たに給油機の導入が検討され、KC-767AT、Il-78MKIとともに提案された結果A330 MRTTが選定されたがインド財務省は、価格が高すぎるとしてA330MRTTの購入をキャンセル、2010年より新たに入札を実施した[21]。その結果2013年1月にA330 MRTTが再び選ばれエアバスが優先交渉相手に選定されて6機の購入交渉が開始されたが[22]、インド政府の上層部は出力が十分でない割に高価であるとして交渉は難航[23]、最終的に運用コストが高いという理由から2016年8月に再びキャンセルされた[24][25]
ブラジルの旗 ブラジル
ブラジル空軍KC-137の後継機選定計画KC-X2においては、B767 MMTTとともに候補に挙がり一時は優位とされる報道もあったが[26]、2013年にB767 MMTTに敗れている[27]
日本の旗 日本
航空自衛隊では、KC-46とともに候補に上がると考えられていたが、エアバスは「A330 MRTTはベストセラーの空中給油機となるが、競合企業が米国政府の対外有償軍事援助(FMS)を活用した場合、価格面で太刀打ちすることはできなくなる」と述べ、この提示要件では採算が合わないため提案を見合わせた[28]

スペック[編集]

出典: 公式サイト(英語)

諸元

性能

  • 巡航速度: M 0.86 (550 kt)
  • 航続距離: 12,500 km (6,750 nm)
  • 実用上昇限度: 10,700 m (35,000 ft)
  • 翼幅荷重


お知らせ。 使用されている単位の解説はウィキプロジェクト 航空/物理単位をご覧ください。

脚注[編集]

  1. ^ エアバスDS、アップグレード施した初のA330 MRTTで初飛行FlyTeam ニュース 2016年10月4日
  2. ^ a b c RAAF A330 MRTT fleet achieves final operational capability
  3. ^ オーストラリア空軍、KC-30A(A330 MRTT)を2機追加発注FlyTeam ニュース 2015年7月1日
  4. ^ ​PICTURES: Australia completes KC-30A tanker trials with F-35A
  5. ^ ​AVALON: RAAF, Airbus look to increase MRTT capabilities
  6. ^ Australian tankers to get automatic midair refueling capability
  7. ^ 民間会社所有の英空軍ボイジャー給油機、米海兵隊のAV-8Bに給油FlyTeam ニュース 2014年10月17日
  8. ^ イギリス空軍向けA330 MRTT、旅客機仕様に改修 民間にリースへ FlyTeam ニュース 2015年2月8日
  9. ^ A330 MRTTがトーマスクックの商業路線にデビュー FlyTeam ニュース 2015年5月6日
  10. ^ サウジ空軍、エアバスA330MRTTが就役FlyTeam ニュース 2013年2月28日
  11. ^ UAE to buy 3 Airbus refuelling aircraft
  12. ^ United Arab Emirates Order the A330 MRTT Air To Air Refuelling Aircraft from EADS
  13. ^ エアバス・ミリタリ、アラブ首長国連邦へ初のA330 MRTTを納入FlyTeam ニュース 2013年2月7日
  14. ^ フランス空軍、A330 MRTT 12機を採用 2018年から配備FlyTeam ニュース 2014年11月24日
  15. ^ シンガポール空軍、エアバスA330 MRTTを6機発注FlyTeam ニュース 2014年3月8日
  16. ^ 韓国空軍、空中給油機にエアバス選定
  17. ^ 韓国空軍、空中給油・輸送機にエアバスA330 MRTTを選定 4機導入FlyTeam ニュース 2015年7月1日
  18. ^ オランダとポーランド、ノルウェーがA330 MRTTを共同購入FlyTeam ニュース 2014年12月22日
  19. ^ オランダ国防省、NATO加盟国で共同運用するA330 MRTTを発注へ
  20. ^ 航空ファン 2009年6月号 P.30-33
  21. ^ Привычка проигрывать
  22. ^ インド政府、空中給油機にA330MRTT導入へAviation Wire 2013年1月10日
  23. ^ $1-billion Airbus midair tanker deal caught in turbulence | Business Line
  24. ^ India Cancels Deal for Six Airbus Tankers
  25. ^ New Delhi backs down from A330 MRTT deal
  26. ^ Brazil to seek deal for A330 tankers
  27. ^ IAI wins Brazilian KC-X competition
  28. ^ Airbus: 日本の航空自衛隊向け多目的空中給油機の提案を見合わせ・提示要件では採算が合わず

関連項目[編集]

類似する航空機

外部リンク[編集]