P-8 (航空機)

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P-8 ポセイドン

アメリカ海軍のP-8A

アメリカ海軍のP-8A

P-8は、アメリカ合衆国航空機メーカー、ボーイング社が開発した哨戒機。同社の小型旅客機ボーイング737からの改造機である。愛称はポセイドン(Poseidon)。

開発[編集]

アメリカ海軍における最初のテスト飛行を行うP-8Aと追従するP-3C(2010年4月10日)

アメリカ海軍1961年以来、固定翼対潜哨戒機としてロッキードP-3オライオンとその改良型を使用してきた。潜水艦の能力向上に応じて、対潜機器の能力向上を図ってきたが、搭載できる機器の重量が限界に近づいたことから、1980年代の半ばから、P-3後継機の研究を始めた。海軍は、ロッキード社が提案したP-3Cの改良型P-3GをP-7と命名し、この提案をもとにP-7の開発を進め1989年に2機の原型航空機を製造する定価契約をロッキードと結んだ。しかし、 ロッキードの開発遅延と3億ドルの予算超過が見込まれることがわかり、P-7プロジェクトは1990年7月に中止された。

2000年から再度、P-3後継機の競争を行わせ、ボーイングとロッキード・マーティンBAEシステムズが応募した。ロッキード・マーティンはP-3をアップデートした「オライオン21」を提案、ボーイングは737-800ERX旅客機の改修型である「737MMA(Multimission Maritime Aircraft-多用途海上航空機)」を応募した。ボーイングは既存の自社旅客機の軍事利用をたびたび提案し、E-767KC-767を開発したが、本機もその一環であった。BAEは1969年以来のニムロッド洋上哨戒機の新バージョンで応募したが、米国での生産パートナーが決定しないことから2002年10月に提案を取り下げた。後にニムロッドの新バージョン案は中止され、イギリス軍もP-8を導入することとなった。

2004年6月14日に政治力に勝るボーイング案が選定され、海軍は737MMAをP-8Aとして採用を決定した。プロジェクト費用は少なくとも150億ドル、最大で450億ドルであると予想され、レイセオンノースロップ・グラマン、スミス・エアロスペース、およびCFMインターナショナルが下請け契約者として協力する。

海軍は2004年7月8日に5機のP-8Aを発注し、まず3機が試作機として納入され、試験が行われた。開発は難航したものの、2012年3月4日に量産1号機が海軍に引き渡された。

機体[編集]

P-8Aの操縦席
P-8Aの機体後部

機体は737NGシリーズの1つ、737-800ERXをベースにするが、翼端には同シリーズのオプション装備であるブレンデッド・ウイングレットではなく、ボーイング社の旅客機767-400ERのようなレイクド・ウイングチップ(傾斜翼端)を備える。P-3は4発のターボプロップエンジンを搭載していたが、P-8は2発のターボファンエンジンとなり、巡航速度と航続距離が向上した。搭乗口は737-800ERXと同じく機首側面の両側に存在する。後部の降着装置は737と同じく格納時にタイヤの側面がが露出するタイプである。

操縦席はアナログ計器中心のP-3から一新され、737NG仕様をベースとしたグラスコックピットが導入され、航空機関士の席が無いコクピットクルー2人制となった。

爆雷魚雷を搭載する兵器倉はP-3では機首下部だったが、P-8は機体後部に設置された。主翼には左右2カ所にハードポイントが備えられ、各種ミサイルの搭載が可能。P-3では機体下部に電子戦ポット用のハードポイントが存在したが、P-8では当初から各種電子機器を搭載しているため削除された。

ソノブイはP-3Cでは機体後部下面に48ある発射口の半分は機外からのみ装填でき、機内から装填可能な発射口もラックから手作業運び装填されていたが、P-8は機体内部のソノブイランチャーによる自動装填が可能となり、発射口も兵器倉後方の右に4箇所、左に3箇所と大幅に削減されている。しかし搭載数はP-3Cの84本に対しP-8は129本と増加した。海上に目印を付ける染色マーカーなどを投下するため、機内からアクセスできる位置に手動投下口が設けられている。

機首に搭載されたAN/APY-10レーダーは、P-3C最新型で搭載されているAN/APS-137に改良を加えた発展型で、合成開口レーダー(SAR)や逆合成開口レーダー(ISAR)などのモードを備えている[1]。これらの哨戒機材などの機内アビオニクスに安定した電力を供給できるよう、左エンジンには737-800ERXの2倍の発電出力を持つ発電機を搭載している。

尾部はMAD(磁気探知機)ブーム搭載の考慮した設計であるが、主要顧客のアメリカ海軍は海面上低高度での索敵を想定しないためMADブームはオプションとなり、P-8Aは搭載しない。後に導入したインド海軍向けのP-8Iには搭載されている。

P-3Cではアップデートでの提供だったターレット式のカメラなどの捜索用の電子機器は標準装備となっている。

乗員は操縦士3名(機長副操縦士、リザーブ)とTACCO2名、オペレータ4名(センサーワン/ツー、センサースリー/フォー)の計9名となり、P-3の11人から削減されている。また各種機器の性能と信頼性向上、自動化などによりORD(機上武器整備員)、NAV/COM(航法・通信員)、IFT(機上電子整備員)は搭乗する必要がなくなり、染色マーカーの投下などは手の空いたオペレータが行う。一方でP-3より航続距離が伸び行動時間が増えるため、交代要員としてリザーブパイロットが同乗する。また無人航空機と連携(後述)など新たな任務形態に備えセンサースリー/フォーは「EWO電子戦オペレータ)」と呼ばれる乗員であり、TACCOも2名体制となった。

機内のオペレーター席は乗員各自が持つカードをスロットに挿入すればどのコンソールも使用できる汎用タイプとなっている。これらから得た情報は、737NGと同様のコックピットでも共有できる[2]

運用[編集]

P-8Aのオペレータ席(マレーシア航空370便の捜索任務)
P-8Aの手動投下口にMk58(海洋位置マーカー)をセットするオペレータ(マレーシア航空370便の捜索任務)

前任のP-3やイギリス空軍のニムロッドはエンジンを4発搭載しているが、低速で長時間哨戒を行うために、現場空域上では1~2発停止してロイター飛行を行う。ボーイングも双発のP-8ではエンジンを1発停止して哨戒することを計画していたが、双発機の片方停止の場合は、4発機の場合よりも大きな不整モーメントが発生する。加えて、母体の737は経済性・快適性を最優先する旅客機として胴体から離したパイロン式主翼懸架を採用しているため、なおさら大きな不整モーメントが発生し、飛行安定性が毀損するのみならず、当て舵による抵抗増大から燃費も劣化してしまう。このため米国の運用構想では、連続した監視を補完する約40機のMQ-4C トライトン英語版海上無人航空機と協同で運用されることになっている[3]。また、ハワイディエゴガルシア島ジャクソンビルジャクソンビル海軍航空基地日本嘉手納基地イタリアのシゴネラにある5つのサイトで情報を補完し合う。ジャクソンビル海軍航空基地にはフライトシミュレータや搭乗員用の訓練施設を併設したP-8A統合訓練センター(P-8A Integrated Training Center)が設置されている。

米海軍での配備数は108機を予定している。P-8計画には当初からオーストラリアが参加しており、次いでイタリアカナダが参加した。また、アメリカ国防総省は現在P-3を使用する15カ国での採用を見込んでいる。イタリアでは14機のP-8Aを採用する計画であったが、開発費が予想以上にかかったことから、人件費高騰による予算圧迫を理由に購入を数年間遅らせることとなった。

2012年からジャクソンビル海軍航空基地の第16哨戒飛行隊がP-3Cから機種転換に着手し、2013年11月に初期作戦能力(IOC : Initial Operational Capability)を獲得し、2013年10月3日に発表した日米安全保障協議委員会(2プラス2)に基づいて2013年11月29日西太平洋(嘉手納基地)派遣へ出発。[4]

2013年12月2日にP-8Aが2機沖縄県嘉手納基地に到着。数日内に4機が到着し、計6機で東シナ海の監視に当たる[5]

各型[編集]

P-8A
アメリカ海軍向け
P-8I ネプチューン(Neptune)
インド海軍のP-8I
インド海軍向け。
インド海軍の要求により、P-8Aに装着されてないAN/ASQ-508A磁気探知機(MAD)と、後方探知用のAPS-143C(V)3マルチモードレーダーが搭載されている[6]。搭載するAN/APY-10は気象モード、対地モード、対空モードが加えられ、データおよびシグナルプロセッサ、アンテナ部にいくらかの変更が加えられている[7]敵味方識別装置や、インド海軍の航空機船舶、陸上施設間の戦術データやメッセージの交換が可能にするための戦術データ・リンク等の統合戦術情報伝達システムはインドBEL社(en)製を使っている[8]
なおP-3の前世代機であるP-2の愛称もネプチューンである。


採用国[編集]

P-8A(左)とP-1(右)の比較

老朽化したP-3Cの置き換えを前提としたP-8は、更新時期が迫るP-3Cや派生型を導入する国だけでなく、イギリス[9]やフランスなど独自開発機を導入する国にもにも売り込みが図られており、同じくP-3Cの後継機として開発されたP-1や、 エアバスが提案するA319ベースの哨戒機『エアバス A319 MPA』なども売り込みが図られているため競合するが、2016年現在、P-1は日本のみ、A319 MPAはインドとオーストラリアに提案するもP-8が選ばれ採用無しとセールス面ではP-8が大きく先行している。


アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

世界中で約20機を運用中。2015年7月から本格的な量産機の受領を開始し、経年化したP-3Cを置き換える主力哨戒機となる。特に東シナ海南シナ海において、急速な海洋進出行動を強める中国人民解放軍に対して、関係国の要請に基づき軍事バランスを保つための哨戒活動を担う。2014年時点で109機調達予定[10]

インドの旗 インド

長距離海上偵察や対潜戦能力を強化するため、Tu-142MK-Eの後継として導入を計画し、2009年3月にアメリカ合衆国政府が承認、8機が21億ドルで納入が決定した。
2013年5月から納入を開始し、配備数は24幾を予定している。2013年5月インド軍はインド向け仕様となるP-8I型機の第1号機を受領した[11]

オーストラリアの旗 オーストラリア

P-8計画には当初からオーストラリアが参加しており、2012年にA$73.9m (US$81.1m)で契約を締結した。アメリカ海軍と同じP-8Aを導入し、MQ-4Cとの混合運用を計画している。
オーストラリア空軍では2016年からAP-3Cとの置き換えを開始、KC-30Aからの空中給油にも対応している[12]
予定国

イギリスの旗 イギリス

イギリス空軍が配備するニムロッドMR.2の後継としてニムロッドMR.4が開発されていたが、国防費削減を目指したデーヴィッド・キャメロン政権により計画は2010年10月にキャンセルされ、改めて後継機の選定が行われた。P-8とP-1が検討されたが、最終的にP-8を9機導入することが決定した[13]
計画のみ

日本の旗 日本

海上自衛隊では川崎重工業ライセンス生産したP-3Cを利用してきたが、2000年前後から経年劣化に伴い後継機が計画された。当初は国内で哨戒機を新規開発、ボーイング757ボーイング767など旅客機ベース、当時は開発中だったP-8の導入など複数の案が存在したが、最終的には国産機の開発が決定され、川崎重工業P-1が採用された。

スペック[編集]

  • 全長:38.56 m
  • 全幅:35.81 m
  • 全高:12.83 m
  • 翼面積:?
  • 自重:62,730 kg
  • 最大離陸重量:83,780 kg
  • 搭載量:34,096 kg
  • システム:ボーイング総合防御システム
  • エンジン:CFMインターナショナル社製 CFM56-7B ターボファン 2基
  • 推力:27,000lbf(120kN)×2
  • 最高速度:906km/h=M0.74
  • 航続距離 SI = 4,500 nmi (8,300 km)
  • 実用上昇限度:41,000ft
  • 乗員:9名

比較[編集]

主な対潜哨戒機の比較表
アメリカ合衆国の旗P-3C[14][15] ソビエト連邦の旗Il-38[16] イギリスの旗アトランティック アメリカ合衆国の旗P-8[17] 日本の旗P-1
画像 Orion.usnavy.750pix.jpg Ilyushin Il-38 in flight 1986.JPEG Breguet.atlantic.fairford.arp.jpg US Navy P-8 Poseidon taking off at Perth Airport.jpg Kawasaki P-1 - Japan Maritime Self-Defence Force - 5504 - Royal International Air Tattoo 2015 (19103649324).jpg
全長 35.6 m 39.60 m[16] 31.75 m 39.5 m 38 m
全幅 30.4 m 37.42 m[16] 36.30 m 37.6 m 35.4 m
全高 10.3 m 10.16 m[16] 11.33 m 12.83 m 12.1 m
発動機 T56A-14 ×4 イフチェンコ AI-20M×4[16] タイン RTy.20 Mk 21 × 2 CFM56-7B ×2 F7-10 ×4
ターボプロップエンジン ターボファンエンジン
最大離陸重量 63.4 t 66 t[16] 44.5t 85.8 t 79,7 t
実用上昇限度 8,600 m 10,000 m[16] 10,000 m 12,500 m 13,520 m
巡航速度 607.5 km/h n/a 556 km/h(7,200 m) 810 km/h 833 km/h
航続距離 6751 km[18] 7500 km[16] 9,000 km 8,300 km[19] 8,000 km[18]
戦闘行動半径 4,410 km n/a n/a 3,700 km[20] n/a
最大滞空時間 15時間 13時間[16] n/a n/a n/a
乗員 5-15名 7-8名[16] 12名 9名 11名
運用開始 1962年8月 1971年 1965年 2013年3月 2013年3月
運用状況 現役 現役 現役 現役 現役
採用国 20 2 5 3 1

注釈[編集]

  1. ^ 石川潤一「東シナ海を睨む 米海軍哨戒機/哨戒部隊の現状 (特集 米海軍の新型哨戒機P-8ポセイドン)」、『航空ファン』第63巻第3号、文林堂、2014年3月、 58-65頁、 NAID 40019953542
  2. ^ 「P-8A POSEIDON : 日本への展開も始まった米海軍の新型哨戒機 (特集 米海軍の新型哨戒機P-8ポセイドン)」、『航空ファン』第63巻第3号、文林堂、2014年3月、 10-15頁、 NAID 40019953184
  3. ^ Wastnage, Justin. "Boeing unveils new 737 signals intelligence concept." Flight International, 26 January 2006. Retrieved: 12 September 2012.
  4. ^ アメリカ海軍、P-8AポセイドンIOC獲得 沖縄へ出発
  5. ^ “米海軍の新型P8A哨戒機が日本に到着、防空圏めぐる緊張の中”. トムソン・ロイター. ロイター. (2013年12月3日). トップニュース. オリジナル2013年12月3日時点によるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20131203001251/http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9B108X20131202 2013年12月3日閲覧。 
  6. ^ Indian Navy pleased with P-8I performance on first op deployment
  7. ^ Indian Navy Gets First P-8I Radar
  8. ^ Boeing gets equipment from BEL for Indian Navy aircraft
  9. ^ 初の国産哨戒機、日本が英国に売り込み検討 ロイター 2015年1月7日付
  10. ^ P-8Aポセイドン&MQ-4Cトライトン,石川潤一,軍事研究,2014年11月号,株式会社ジャパン・ミリタリー・レビュー,P192-203
  11. ^ Indian Navy to double orders for P-8I maritime reconnaissance aircraft
  12. ^ P-8A Poseidon - Royal Australian Air Force - オーストラリア空軍
  13. ^ 英、核戦力更新に6兆円 テロ対応で2旅団1万人規模も創設 - 産経ニュース
  14. ^ アメリカ海軍 (2009年2月18日). “The US Navy - Fact File: P-3C Orion long range ASW aircraft” (英語). 2013年6月10日閲覧。
  15. ^ Lockheed (1994年2月23日). “Standard aircraft characteristics - P-3C Update II (PDF)” (英語). 2013年6月10日閲覧。
  16. ^ a b c d e f g h i j Borst, Marco P.J. (Summer 1996). “Ilyushin IL-38 May- the Russian Orion” (pdf). Airborne Log (Lockheed): 8–9. http://www.p3orion.nl/il-38%20may.pdf. 
  17. ^ Boeing Defense, Space & Security (2013年3月). “P-8A overview (PDF)” (英語). 2013年6月10日閲覧。
  18. ^ a b 防衛庁 (2002年). “防衛力整備と予算の概要 (PDF)”. 2013年6月10日閲覧。
  19. ^ Boeing: p-8-poseidon
  20. ^ Military-Today.com (2013年). “Boeing P-8 Poseidon Maritime Patrol Aircraft” (英語). 2013年6月10日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]