防衛装備移転三原則

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防衛装備移転三原則(ぼうえいそうびいてんさんげんそく)とは、日本国政府が採る武器輸出規制および運用面の原則のことである。2014年平成26年)4月1日に、国家安全保障戦略に基づいて、武器輸出三原則に代わる新たな政府方針として制定された[1]

概要[編集]

武器輸出三原則は、基本的に武器兵器)の輸出や国際共同開発をほぼ認めず、必要があれば、そのたびに例外規定を設けて運用する内容だったのに対して、防衛装備移転三原則は、武器の輸出入を基本的に認め、その上で禁止する場合の内容や、厳格な審査を規定する内容となっている。

従来の武器輸出三原則においては、武器の輸出は長らく事実上不可能な状態にあった。それゆえ日本製の武器は生産量が限定され、量産効果が出ないため高価にならざるを得ず、半ば不文律と化している対GDP1%以内の限られた防衛費を、さらに圧迫するという弊害があった[2]

特に、高性能となり研究開発費・生産費・維持費などといった諸コストが膨らみやすい現代の兵器開発は、たとえアメリカ合衆国のような軍事的・経済的な超大国にとっても一国単独でのプロジェクトは大きな負担となりつつある。それゆえ国際共同開発を主眼とするのが世界の潮流であり、防衛装備移転三原則はこれに沿ったものである[3][4]。このため、2014年4月1日以前より武器輸出三原則を見直すべきとの動きがあった[5]

こうした意見を受け、安倍政権2013年8月より、武器輸出三原則に関する議論を本格化させ[6]2014年3月11日国家安全保障会議にて防衛装備移転三原則の名称や原案が決まり[7]、2014年4月1日に武器輸出三原則に代わる防衛装備移転三原則を発表、日本は従来の武器の国産重視政策を転換して、国際共同開発を推進することとなった[8][9]

新三原則に基づく防衛装備移転や国際共同開発への参加には、防衛産業の育成や開発コスト削減、先端技術取得などを通して、日本の防衛力を強化する狙いがあり[10]2015年10月1日に発足した防衛装備庁が一元管理を行う[11]

内容[編集]

策定趣旨[編集]

我が国を取り巻く安全保障環境が一層厳しさを増していることなどに鑑みれば、国際協調主義の観点からも、我が国によるより積極的な対応が不可欠となっています。我が国の平和と安全は我が国一国では確保できず、国際社会もまた、我が国がその国力にふさわしい形で一層積極的な役割を果たすことを期待しています。これらを踏まえ、我が国は、国際協調主義に基づく積極的平和主義の立場から、我が国の安全及びアジア太平洋地域の平和と安定を実現しつつ、国際社会の平和と安定及び繁栄の確保にこれまで以上に積極的に寄与していくこととしています。

こうした我が国が掲げる国家安全保障の基本理念を具体的政策として実現するとの観点から、防衛装備の海外移転に係るこれまでの政府の方針につき改めて検討を行い、これまでの方針が果たしてきた役割に十分配意した上で、新たな安全保障環境に適合するよう、これまでの例外化の経緯を踏まえ、包括的に整理し、明確な原則を定めることとしました。

—  防衛装備移転三原則について”. 防衛省 (2014年4月1日). 2014年10月13日閲覧。

主な内容[編集]

  1. 移転を禁止する場合の明確化。 ①当該移転が日本国政府の締結した条約その他の国際約束に基づく義務に違反する場合、②当該移転が国連安保理の決議に基づく義務に違反する場合、③紛争当事国(武力攻撃が発生し、国際の平和及び安全を維持し又は回復するため、国連安保理がとっている措置の対象国)への移転となる場合。これらが該当する場合、防衛装備の海外移転を認めない。
  2. 移転を認め得る場合の限定並びに厳格審査及び情報公開。①平和貢献・国際協力の積極的な推進に資する場合、②日本の安全保障に資する場合、等に限定し、透明性を確保しつつ、厳格審査を行う。
  3. 目的外使用及び第三国移転に係る適正管理の確保。原則として目的外使用及び第三国移転について日本国政府の事前同意を相手国政府に義務付けること。

運用[編集]

2014年7月17日国家安全保障会議において、2件の防衛装備の海外移転が認められた。1件はアメリカ合衆国への輸出であり、三菱重工業が生産するパトリオットミサイル(PAC-2)の姿勢制御を行うシーカー・ジャイロという部品である。この部品を使ったミサイルは、さらにカタールに輸出される予定。もう1件はイギリスとのミサイルの共同研究であり、三菱電機半導体技術を使い、ミサイルの精度を高める技術を研究する予定となっている[12]

2014年12月18日、日本は装備品の海外移転を促進するため、政府による支援の在り方を検討する有識者会議を発足させた[10][13]。日本から武器を調達する国や、他国との共同開発に乗り出す日本メーカーへの資金援助、輸出した装備の使用訓練や整備支援の仕組みなどを検討する[14]

2015年1月1日現在、防衛省が政府開発援助の枠外で、日本の防衛関連企業から武器を購入した開発途上国などを対象とした援助制度の創設を検討している。具体策は今夏をめどに調整している[15]

2015年5月18日、国家安全保障会議にて、オーストラリア軍の次期潜水艦をめぐる共同開発に関し海上自衛隊の最新鋭そうりゅう型潜水艦の技術情報移転が認められた[16]オーストラリアコリンズ級潜水艦更新計画への入札プロセスへの参加を求められ[17]売り込みを行ったが、ターンブル豪首相はフランスとの共同開発を発表した[18]

2015年7月23日、国家安全保障会議にて、アメリカが開発中のイージス艦向けの最新システムを巡り、関連するソフトや部品を日本でつくり同国に輸出することを決めた。同国は目標物の位置情報などを複数のディスプレーに表示し、共有できる装置の開発にあたり、技術力の優れた日本企業の参加をかねて求めていた[19]

2016年8月31日、国家安全保障会議にて、TC-90フィリピンへの移転が認められた。TC-90は、海上自衛隊の所有する練習機で、最大5機がフィリピン海軍へ有償貸与されフィリピンの南シナ海での監視能力強化が図られることになる。なお、本件が自衛隊装備の他国供与第一号となる[20][21]

航空機ではインド海軍と沿岸警備隊がUS-2の導入を予定している。この他にもP-1C-2の売込みが行われている。

2017年3月22日、G7サミットで日本とイタリア間での防衛装備品・技術移転に関する交渉が開始され[22]、同年5月22日に日伊防衛装備品・技術移転協定の署名がなされた[23]

2017年7月19日、日本とドイツ間で当時8か国目となる防衛装備品協定を締結した。[24]

2017年11月13日、日本とフィリピンとの間で、TC-90の有償貸付から無償譲渡に変更する取決めに防衛装備庁長官ととフィリピン国防次官が署名した[25]

対象装備品[編集]

脚注[編集]

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  1. ^ 防衛装備移転三原則”. 外務省 (2014年4月1日). 2014年10月13日閲覧。
  2. ^ 小川剛義(元航空開発実験集団司令官) (2014年4月11日). “日本を弱体化させる危険性もある防衛装備移転三原則 国家の産業振興政策という位置づけを明確にし、より高い技術への飛躍を”. 日本ビジネスプレス. http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/40419 2014年10月13日閲覧。 
  3. ^ “国際共同開発を推進=装備品調達戦略を決定-防衛省”. 時事ドットコム. (2014年6月19日). http://www.jiji.com/jc/zc?k=201406/2014061900829 2014年10月13日閲覧。 
  4. ^ “欧州軍需大手MBDAと三菱電、F35向けミサイル共同開発へ”. Reuters. (2014年7月3日). http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0F80XD20140703 2014年10月13日閲覧。 
  5. ^ “三原則見直しに理解要請、武器輸出で防衛相析”. 産経新聞. (2014年2月23日). http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140223/plc14022321300008-n1.htm 2014年10月13日閲覧。 
  6. ^ “禁輸三原則「撤廃」も/武器輸出に新指針検討/安倍首相前向き/歯止めの議論不可欠”. 共同通信. (2014年7月27日). http://www.47news.jp/47topics/e/244065.php 2014年10月13日閲覧。 
  7. ^ “名称は「防衛装備移転…」 武器三原則見直し原案を決定 12日から与党協議”. 産経新聞. (2014年3月11日). http://sankei.jp.msn.com/politics/news/140311/plc14031120590014-n1.htm 2014年11月1日閲覧。 
  8. ^ NHKスペシャル ドキュメント“武器輸出” 防衛装備移転の現場から - NHK名作選(動画・静止画) NHKアーカイブス
  9. ^ 今野忍 (2014年4月4日). “武器の「国産重視」転換へ 防衛省、国際共同開発を推進”. 朝日新聞. http://www.asahi.com/articles/ASG436F94G43UTFK01M.html 2014年10月13日閲覧。 
  10. ^ a b “武器輸出推進へ政府が支援策=有識者会議で検討着手”. 時事ドットコム. (2014年12月18日). http://www.jiji.com/jc/zc?k=201412%2F2014121800712 2014年12月21日閲覧。 
  11. ^ 防衛省の装備調達は、これから大きく変わる東洋経済
  12. ^ “防衛装備の輸出、新原則で初承認 米にミサイル部品”. 日本経済新聞. (2014年7月18日). http://www.nikkei.com/article/DGXNZO74420310Y4A710C1EA2000/ 2014年10月13日閲覧。 
  13. ^ “武器などの防衛装備 輸出支援策検討へ”. NHK. (2014年12月18日). http://www3.nhk.or.jp/news/html/20141218/k10014070271000.html 2014年12月21日閲覧。 
  14. ^ 久保信博 (2014年12月18日). “防衛省が武器輸出の支援策で初会合、資金援助など検討”. Reuters. http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPKBN0JW0LY20141218/ 2014年12月21日閲覧。 
  15. ^ 東京新聞 武器購入国に資金援助 途上国向け制度検討 2015年1月1日 07時14分
  16. ^ “豪潜水艦開発手続きに参加”. Reuters. (2015年5月18日). http://jp.reuters.com/article/kyodoPoliticsNews/idJP2015051801001866 2015年5月19日閲覧。 
  17. ^ “豪州、次世代潜水艦入札プロセス開始 日独仏に参加求める”. 朝日新聞. (2015年3月25日). http://www.asahi.com/international/reuters/CRWKBN0ML0JV.html 2015-4-4 ]閲覧。 
  18. ^ “豪潜水艦の共同開発、仏が受注 日本は落選”. AFPBB. (2016年4月26日). http://news.livedoor.com/article/detail/11457611/ 2016年4月26日閲覧。 
  19. ^ 政府、イージス艦部品やソフトを対米輸出 NSCで決定 日本経済新聞 2015年7月23日付
  20. ^ 海自「TC90」練習機 哨戒機パイロット養成だけでなく南シナ海では中国への警戒・監視に利用 - 産経ニュース
  21. ^ 防衛装備の海外移転を認め得ることとしました〜TC-90等のフィリピンへの移転について〜 経済産業省 (プレスリリース) 2016年9月6日付
  22. ^ 【日伊首脳会談】G7サミットで「保護主義に対抗」のメッセージ発表で合意 - 産経ニュース 2017年3月22日
  23. ^ 日伊防衛装備品・技術移転協定の署名 外務省 報道発表 2017年5月22日付
  24. ^ 日独、防衛装備品協定を締結 機動戦闘車の開発などに力 - 朝日新聞デジタル 2017年7月19日
  25. ^ 海上自衛隊練習機TC-90のフィリピンへの移転に係る防衛当局間の取決めへの署名について

関連項目[編集]