日韓秘密軍事情報保護協定

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

日韓秘密軍事情報保護協定[1](にっかんひみつぐんじじょうほうほごきょうてい、: 한일 군사비밀정보보호협정)は、日本大韓民国の間で秘密軍事情報を提供し合う際、第三国への漏洩を防止するために2016年に締結した軍事情報包括保護協定(GSOMIA)である[2]

正式名称は秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定(ひみつぐんじじょうほうのほごにかんする にほんこく/にっぽんこく せいふとだいかんみんこくせいふとのあいだのきょうてい、: Agreement Between the Government of Japan and the Government of the Republic of Korea on the Protection of Classified Military Information: 대한민국 정부와 일본국 정부 간의 군사비밀정보의 보호에 관한 협정)。単にGSOMIA(ジーソミア、: General Security of Military Information Agreement)とも称される。

概説[編集]

2000年代以降、北朝鮮(朝鮮民主主義人民共和国)の核開発ミサイル問題を日韓両国は強く懸念しており、またこれらの問題は両国と同盟関係にあるアメリカ合衆国にとっても重要な問題であった[2]。日本は日本海方面に飛翔したミサイルの航跡や電波傍受において優越しており、韓国は38度線付近の情勢や脱北者からの情報を掌握する立場にある。日本と韓国は同盟関係になく、日韓でGSOMIAが締結されていないことは、日米・米韓での軍事行動の際に参加していない国の保有する機密情報を使うことができず、アメリカの極東戦略にとっても重要な問題であった[2]。このため、日韓GSOMIAの締結は日米韓3か国にとって恩恵をもたらすものと見られていた[2]

日韓間のGSOMIAは、2011年より実務者間で交渉が進められており、2012年6月29日に締結される予定であったが、韓国側の都合により急遽延期された[3]

2016年に交渉が再開され、同年11月23日ソウル韓国国防部で署名式が行われた[4]。発効後、この協定により交換・共有された軍事機密は主に北朝鮮のミサイル発射に関する、日本側が哨戒機偵察衛星で収集した写真資料などと韓国側が脱北者などの人間を通じて得た情報である[5][6]

協定は、1年ごとに自動更新されることとなっており、終了させる場合は更新期限の90日前(8月24日)までに相手国へ通告することとなっている[7]2019年8月22日に韓国が協定の破棄を決定し[8]、日本側に伝達した。

経緯[編集]

2010年[編集]

2009年1月に日韓の首脳が合意した「日韓新時代共同研究プロジェクト[9]」の報告書が2010年10月に発表された[10]

12月7日の日韓外相会談で日本の前原誠司外相は安全保障・防衛分野における日韓間の協力を推進していきたいと韓国側に伝えた[11]

2011年[編集]

1月10日、韓国で行われた日韓防衛相会談において、自衛隊韓国軍が軍事物資や役務を協力し合う物品役務相互提供協定(ACSA)の内容についての意見交換と議論、情報保護協定(GSOMIA)の内容についての意見交換など、日韓両国の防衛協力・交流を拡大・深化させていくことで合意した[12]

2012年[編集]

日韓初の防衛協力協定でもあったため[13]李明博政権下であった2010年以降、韓国政府は日本政府と秘密交渉を行っていたが、締結直前になって条約の存在が初めて韓国国民に明らかにされると強い反対運動が起きた[14]

協定は2012年6月29日の午後に締結されることとなっていたが、締結予定時刻の1時間前に韓国政府から延期の申し入れがなされ、日本政府はそれを受け入れた。

2012年7月16日金星煥外交通商相はソウルを訪問した前原誠司民主党政調会長に対し、アメリカ合衆国ニュージャージー州に設置された旧日本軍慰安婦記念碑の撤去運動を日本側が行ったことなどが署名延期の原因だと主張した[15]

2016年[編集]

2016年11月23日にソウルの韓国国防部で署名式を非公開で行い、即日発効した[16]

署名には日本側から長嶺安政駐韓日本国特命全権大使、韓国側は韓民求国防相が協定文に署名した。それに伴い、22日午後朴槿恵大統領はこの協定の署名を裁可した。

韓国側は前回の反省を踏まえ、この署名に先立って行った協議過程(仮署名、次官会議、閣議決定などの予定)を公表し、また署名も行った後には協定文を公表することも表明している[17]

2019年[編集]

2018年に発生した韓国海軍レーダー照射問題では日韓の防衛当局が対立する構図となり、1月には産経新聞が協定延長の可否を言及した[18]。また日本がキャッチオール規制の運用見直し(いわゆる「ホワイト国からの韓国除外」の措置等)を行ったことを受け、韓国では延長の可否が取りざたされ、2019年7月18日には大統領府(青瓦台)の鄭義溶国家安保室長が協定の「再検討もあり得る」と破棄の可能性について言及した[19]。韓国政府は「ホワイト国からの韓国除外」措置が「韓国を安全保障上信頼できない国である」と認定しているとして、反発を強めていた[20][21]

7月17日、日本の河野太郎外相は、両国関係が悪化しても朝鮮半島の情勢を安定させる等の目的から協定を更新して維持すべきだと発言をした[22]、韓国大統領府は8月22日、国家安全保障会議(NSC)の常任委員会を開き、協定の破棄を決めた[21]。8月26日、破棄決定の理由について韓国の李洛淵首相は、「日本が根拠も示さず、韓国を安全保障上信頼できない国であるかのようにレッテルを貼り、(輸出手続きを簡略化できる)輸出優遇国のリストから韓国を外したためだ」と説明。「日本の不当な措置が元に戻れば、わが政府もGSOMIAを再検討することが望ましい」と述べた[20]

協定破棄に対し、8月22日に日本の河野太郎外相は駐日韓国大使を呼んで抗議した[23]。翌日、韓国政府から日本政府に伝達が行われたため、同年11月23日午前0時に効力を失う予定となる[24]

なお、韓国政府がGSOMIA破棄に踏み切ったのは文在寅大統領の最側近・曺国(チョ・グク)をめぐる疑惑から国民の目を反らすために行ったのではないかとする見方が最大野党・自由韓国党などから指摘されている[25][26]

10月3日、韓国は、前日に北朝鮮が発射したミサイルの情報提供を行うよう日本に要請。日本側は、協定自体は有効であるとして情報提供を行うこととした[27]

協定破棄に対する日韓以外の反応[編集]

アメリカ合衆国[編集]

アメリカは日韓の情報共有が米軍の行動を有利とするものであるため、日韓のGSOMIA締結を仲介してきた経緯がある[2]。韓国政府がGSOMIAの延長問題に言及した2019年7月18日、アメリカ国務省報道官室は、「ボイス・オブ・アメリカ」を通じて、北朝鮮の最終的で完全に検証可能な非核化を達成して地域平和を実現するために「GSOMIAを全面的に支持する」と発表し、協定の継続を求めていた[28]8月9日に訪韓したマーク・エスパー国防長官も、鄭景斗韓国国防部長官に対し「協定継続の必要性」を訴えていた[29]

米国政府の事前の要請にも関わらず、韓国政府が破棄を発表した8月22日、アメリカ国防総省マイク・ポンペオ国務長官は韓国の破棄決定について、強い懸念と失望を表明した[30]。8月28日、国防総省アジア太平洋地域安全保障政策統括のランドール・シュライバー国防次官補は改めて強い懸念と失望を表明し、再考を求めた。さらに韓国政府がアメリカ政府に破棄の事前通告を行い、了承を得ていたと発表したことに対しては、通告はなかったと回答している。またこの日、韓国外交部趙世暎第1次官[31]は、ハリー・B・ハリス・ジュニア駐韓アメリカ大使を呼び、韓国政府の今回の決定についてアメリカ政府が失望と懸念を繰り返し表明することを自粛するよう求めている[32]。8月29日に韓国大統領府は、破棄の決定は国益に沿ったものであり、「同盟関係であっても、韓国の国益のためには、何も優先することはできない」として、米韓同盟より破棄を優先させるべきだとコメントしている[33]

北朝鮮[編集]

2019年7月28日、北朝鮮の対外宣伝サイト「わが民族同士」は、日韓秘密軍事情報保護協定を批判し、韓国に対して「協定の破棄」を要求した[34]。9月2日、朝鮮労働党の機関紙「労働新聞」は、「破棄は南の民心を反映したもので当然だ」とし、李洛淵首相が輸出管理を撤回すれば協定の破棄を再検討するとしたことには、「アメリカと日本の顔色をうかがっており、優柔不断だ。民心に逆らう行為だ」と批判している[35]

脚注[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ 日韓秘密軍事情報保護協定に関する日韓間の協議” (日本語). 外務省 (2016年11月13日). 2019年8月23日閲覧。
  2. ^ a b c d e 黒井文太郎 (2019年8月15日). “もし明日、韓国との軍事情報共有協定(GSOMIA)が破棄されたら……どんな問題が起きるのか” (日本語). ビジネス・インサイダー. 2019年8月22日閲覧。
  3. ^ [政治]【日々是世界 国際情勢分析】日韓秘密情報保護協定署名延期の真相+」『MSN産経ニュース』(産業経済新聞社)、2012年7月10日、1面。2014年5月17日閲覧。, オリジナルの2012年7月10日時点によるアーカイブ。
  4. ^ “日韓秘密軍事情報保護協定の署名” (プレスリリース), 外務省, (2016年(平成28年)11月23日), http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/press4_003950.html 
  5. ^ 「韓国外交の孤立」に緊迫のソウル…日韓情報協定の破棄でトドメ” (日本語). DailyNK Japan (2019年8月22日). 2019年8月23日閲覧。
  6. ^ 【社説】何のためのGSOMIA破棄なのか懸念される=韓国” (日本語). 中央日報 (2019年8月23日). 2019年10月6日閲覧。
  7. ^ “日韓GSOMIA延長”. 朝日新聞デジタル. 朝日新聞社. (2018年8月25日). https://www.asahi.com/articles/DA3S13649755.html 2019年7月18日閲覧。 
  8. ^ 최새일「[速報]日本との軍事情報協定を破棄 韓国が決定」『聯合ニュース』、2019年8月22日。2019年8月22日閲覧。
  9. ^ “日韓新時代共同研究プロジェクト 報告書” (日本語) (PDF) (プレスリリース), 外務省, (2010年10月), https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/22/10/PDF/102201.pdf 2019年8月23日閲覧。 
  10. ^ “日韓新時代共同研究プロジェクトの報告書発表” (日本語) (プレスリリース), 外務省, (2010年10月22日), https://www.mofa.go.jp/mofaj/press/release/22/10/1022_03.html 2019年8月23日閲覧。 
  11. ^ 日韓外相会談(概要)” (日本語). 外務省 (2010年12月7日). 2019年8月23日閲覧。
  12. ^ 日韓防衛相会談の結果概要” (日本語). 防衛省 (2011年1月10日). 2019年8月23日閲覧。
  13. ^ 日韓、戦後初の防衛協力協定を締結へ 聯合ニュース」『AFPBB』、2012年6月27日。2019年8月23日閲覧。
  14. ^ 韓日軍事情報保護協定破棄のカード出すも…韓国に残された時間は3週間のみ」『中央日報』、2019年8月2日。2019年10月6日閲覧。
  15. ^ 共同通信社[国際]「日本が世論悪化させた」 情報協定延期で韓国」『MSN産経ニュース』(産業経済新聞社)、2012年7月16日。2019年10月6日閲覧。, オリジナルの2012年7月16日時点によるアーカイブ。
  16. ^ 2016年(平成28年)12月2日外務省告示第459号「秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定の署名及び効力発生に関する件」
  17. ^ 軍事情報協定、23日に署名=日韓、先送りから4年」『時事ドットコム』(時事通信社)、2016年11月22日。2019年8月23日閲覧。, オリジナルの2016年11月22日時点によるアーカイブ。
  18. ^ 共同通信社韓国、検証作業改めて要請 レーダー協議打ち切り」『産経新聞』(産業経済新聞社)、2019年1月22日。2019年10月6日閲覧。
  19. ^ 恩地洋介「日韓軍事情報協定「再検討も」韓国高官が言及」『日本経済新聞』(日本経済新聞社)、2019年7月18日。2019年10月6日閲覧。
  20. ^ a b 武田肇日本の対応次第で「GSOMIA再検討」韓国首相が発言」『朝日新聞デジタル』(朝日新聞社)、2019年10月6日。2019年8月26日閲覧。
  21. ^ a b 恩地洋介「日韓軍事情報協定を破棄 韓国政府が決定」『日本経済新聞』(日本経済新聞社)、2019年8月22日。2019年8月22日閲覧。
  22. ^ 共同通信社外相、日韓軍事情報協定は維持を」『ロイター』(ロイター)、2019年7月17日。2019年10月6日閲覧。, オリジナルの2019年7月18日時点によるアーカイブ。
  23. ^ 日本政府、韓国に抗議=外相「極めて遺憾」-軍事情報協定破棄で」『時事ドットコム時事通信社、2019年8月22日。2019年8月23日閲覧。
  24. ^ 聯合ニュース韓国外交部、GSOMIA終了を日本大使に伝達」『Wow!Korea』、2019年8月23日。2019年10月6日閲覧。
  25. ^ 韓国大統領側近の不正疑惑 釜山市長室を強制捜査」『NHK NEWS WEB』(NHK)、2019年8月29日。2019年8月30日閲覧。, オリジナルの2019年8月29日時点によるアーカイブ。
  26. ^ 「韓国大統領は疑惑かわすため反日世論あおり」見方強まる」『NHK NEWS WEB』(NHK)、2019年8月29日。2019年8月30日閲覧。, オリジナルの2019年8月29日時点によるアーカイブ。
  27. ^ “政府、韓国にミサイル情報提供へ GSOMIA破棄の撤回促す”. 共同通信社. (2019年10月3日). https://this.kiji.is/552429359805318241 2019年10月3日閲覧。 
  28. ^ イ・ジョンウン「米国務省、「韓日のGSOMIA延長を支持する」と即反応」『東亜日報』、2019年7月20日。2019年10月6日閲覧。
  29. ^ ユ・ヨンウォン「米国防長官「CVIDまで北を制裁」、ホルムズ派兵にも言及」『朝鮮日報』、2019年8月10日。2019年10月6日閲覧。, オリジナルの2019年8月10日時点によるアーカイブ。
  30. ^ GSOMIA破棄 米国「強い懸念と失望」」『日テレNEWS24』(日本テレビ放送網)、2019年8月23日。2019年8月23日閲覧。
  31. ^ 2012年には外交部東北アジア局長を勤めており、締結破棄の責任を取って辞任・退職していたが、文在寅政権下で外交部に復帰している。
  32. ^ 韓国次官 米大使に韓日軍事協定破棄への失望表明の自粛要請」『聯合ニュース』、2019年8月28日。2019年8月28日閲覧。
  33. ^ GSOMIA終了は国益に沿った決定 米との同盟より優先=韓国大統領府」『聯合ニュース』、2019年8月29日。2019年8月29日閲覧。
  34. ^ 共同通信社北朝鮮、日韓軍事協定の破棄を韓国に要求」『日本経済新聞』(日本経済新聞社)、2019年10月6日。2019年7月28日閲覧。
  35. ^ 「韓国のGSOMIA破棄は当然」朝鮮労働党機関紙」『NHK NEWS WEB』(NHK)、2019年7月28日。2019年10月6日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]