現役ドラフト
現役ドラフト(げんえきドラフト)は、日本野球機構(NPB)で2022年より導入されている移籍制度である[1]。
導入の経緯[編集]
日本プロ野球選手会が、メジャーリーグベースボール(MLB)が導入している『ルール・ファイブ・ドラフト』を参考に、出場機会が少ない中堅選手の移籍活性化を狙いとし、導入を希望していたもの[2][3]。2018年7月に選手会の臨時大会においてその議論が交わされ[4]、2018年8月から選手会とNPBの選手関係委員会との間で事務折衝を続け[4]、2019年3月に選手会がNPBとの事務折衝で、この制度の導入を正式に提案した[3]。素案が提出された当初は「ブレークスルードラフト」の仮称で報じられていた[5]。
NPBにおいては、1970年から1972年に選抜会議(トレード会議)が行われ、さらに、フリーエージェント制の代案としてセレクション会議が1990年に2度行われたものの、いずれも定着することができなかった経緯がある[4]。
その後、2020年1月21日に、プロ野球実行委員会によって制度案を取りまとめ、2020年1月22日に、NPBと選手会の間で現役ドラフトについての事務折衝が行われ、この中で、プロ野球実行委員会によって取りまとめた制度案が提示された[6]。選手関係委員会の委員長で阪神タイガース副社長兼球団本部長の谷本修は報道陣に対し、12球団の方針が大筋合意したことを明らかにした[6]。2020年2月中にはそれぞれの球団を巡回し、NPBがまとめた案を持参し、選手側の意見を集め、もし、選手会が合意すれば、2020年3月5日のプロ野球実行委員会で2020年からの導入が決定される予定であった[6]。
しかし、新型コロナウイルスの流行による同年のシーズン開幕延期などで議論が中断。4月6日のプロ野球実行委員会後には谷本が選手会とのやりとりは行っているとした上で「2020年中には難しくなったのは共通の理解」と年内の開催が難しくなっていることを示唆している[7]。
その後も協議が続けられ、2022年9月に指名方式が判明[8]。10月7日、NPBと選手会は同年12月9日に開催することで合意した[9]。
制度[編集]
2022年11月7日にNPBが公表した制度規定は以下の通り[10]。
指名対象選手[編集]
現役ドラフトでは、NPB12球団が提出した選手が指名対象選手となる。
ただし、以下の選手は指名対象とすることができない。
- 外国人選手
- 複数年契約を結んでいる選手
- 翌季の年俸が5,000万円以上(ただし、1名に限り年俸5,000万円以上1億円未満の選手を対象とすることができる)
- FA権を保有している、または行使したことがある
- 育成選手
- 前年の年度連盟選手権試合終了の日の翌日以降に、選手契約の譲渡によって獲得した選手
- シーズン終了後に育成から支配下契約となった選手
各球団は、シーズン終了後の全保留選手名簿の提出と同時に、指名対象として2人以上を提出する必要がある。
指名方式[編集]
各球団が指名したい選手1名に投票(予備指名)を行い、最も多くの票を獲得した球団が1番目の指名権を獲得する。最多得票の球団が複数となった場合、同年のドラフト会議におけるウエーバー順で指名権を決定する。指名権を獲得した球団が予備指名を行った選手を指名し、指名権は選手を指名された球団に移行する。同様の手順で、12球団が各1人を指名した時点で1巡目の指名を終了する。
選手が指名された球団が既に指名を終えている場合、指名権は予備指名の得票順(同数の場合ウエーバー順)により移行先を決定する。1巡目では、
- すでに指名を受けた選手
- 指名された選手の所属球団の選手
を指名することはできない。予備指名の選手が上記の条件により指名できない場合、指名可能な別の球団の選手を指名する。また11番目に指名を行う球団は、12番目の指名順の球団の所属選手を指名しなければならない。
1巡目終了後、2巡目の指名意思を示した球団で2巡目の指名を行う。2巡目は参加球団の中で1巡目の指名の逆順で行われるが、参加球団は指名順になった段階で指名を棄権することもできる。2巡目では、
- すでに指名を受けた選手
- 2巡目において指名された選手の所属球団の選手
- 2巡目の指名を棄権した球団の選手
を指名することはできない。
なお現役ドラフトは非公開で行われ、対象選手リストの情報のうち指名を受けた選手の氏名以外の情報について、各球団は秘密保持の義務を負う。
各年の結果[編集]
議論[編集]
- 里崎智也は「球団側はできるだけ(選手を)出したくない。しかし当初案の1チーム8人となってくると、(毎年)一つの球団で8人ぐらいは戦力外になるので、早めの戦力外選手の見本市になってしまう。現役ドラフトもあってないような制度になってしまう」と現役ドラフトに否定的であり、さらに「登録日数ではなく、プロテクトを40人くらいと決める。その中に2年目の選手やFAを持っている選手などは入れなくていいなどの細かいルールを決めて、1チーム20人くらいの選手がリストアップされないようでは、活性化にならない」「トレード候補にあがる選手がそのリストに入っていないと活性化されない」とも述べ、実効性のあるリスト化の難しさを指摘(2021年9月時点)[12]。
- 原辰徳は2020年2月時点で「シーズンの佳境に入ってサインプレーを変更する必要がある。すでに優勝争いやクライマックスシリーズ進出をあきらめた球団ならまだしも、秋以降の勝負所で同一リーグの全球団にわざわざ“スパイ”を送り込む羽目になりかねない」「各球団8人供出というのも、球団側が好きに選べる方式では不要な選手の押し付け合いになるのは目に見えている。見込みのない育成選手をまとめて、現役ドラフト用にあえて支配下登録する方策も採り得」「シーズン佳境の夏場に誰が現役ドラフトの対象に選ばれるか選手にソワソワされては、たまったものではない。名簿に載って指名されず残った選手の心境を思えば、チームの士気に大きくかかわる問題だと分かる」という観点から「今のままの中身では到底、賛同できない」と明言している[13][14]。
脚注[編集]
注釈[編集]
出典[編集]
- ^ “NPB現役ドラフト議論「選手会と大きな齟齬ない」”. 日刊スポーツ. (2019年10月1日) 2022年10月7日閲覧。
- ^ “労組プロ野球選手会が定期大会 現役ドラフトの来季実施を強く要望”. スポニチ. (2019年12月5日) 2022年10月7日閲覧。
- ^ a b 鷲田康「ついに実施される「現役ドラフト」。でもこのままでは選手救済できない。」『Number Web』、2020年1月24日。2020年1月31日閲覧。
- ^ a b c 「現役ドラフト協議、過去複数の移籍活性化策定着せず」『日刊スポーツ』、2019年12月6日。2020年2月8日閲覧。
- ^ “出場機会少ない選手のドラフト案、各球団で検討へ”. 日刊スポーツ. (2019年11月11日) 2022年10月7日閲覧。
- ^ a b c 「現役ドラフト、7・20前後に実施へ 東京五輪直前の“ビッグイベント”」『サンケイスポーツ』、2020年1月23日。2020年1月29日閲覧。
- ^ 「NPB、現役ドラフトは来季へ先送りも」『サンケイスポーツ』、2020年4月7日。2020年4月10日閲覧。
- ^ “現役ドラフトの指名方式判明 12球団がリストから指名したい選手に投票 最多得票球団に1番目指名権”. スポニチ. (2022年9月10日) 2022年10月7日閲覧。
- ^ “「現役ドラフト」12月9日開催決定 出場機会に恵まれない選手の移籍を活性化”. 日刊スポーツ. (2022年10月7日) 2022年10月7日閲覧。
- ^ “NPBが「現役ドラフト」の制度規定公表 全部で10項目 開催時期や開催方法など定める”. 日刊スポーツ. (2022年11月7日) 2022年11月7日閲覧。
- ^ “2022年度現役ドラフト結果”. NPB.jp 日本野球機構 (2022年12月9日). 2022年12月9日閲覧。
- ^ プロ野球、現役ドラフト議論に里崎氏が警鐘「早めの戦力外選手の見本市になってしまう」実現への道のりは? ABEMA TIMES 2021.09.04 09:06 (2021年9月29日閲覧)
- ^ 「現役ドラフト」NPB案に巨人・原監督は断固NO 「今のままでは賛同できない」 選手側も反発「要らない選手の押し付け合いになるだけ」 (1/3ページ) zakzak 2020.2.19 (2021年9月29日閲覧)
- ^ 「現役ドラフト」NPB案に巨人・原監督は断固NO 「今のままでは賛同できない」 選手側も反発「要らない選手の押し付け合いになるだけ」 (2/3ページ) zakzak 2020.2.19 (2021年9月29日閲覧)
外部リンク[編集]
- 2022年度現役ドラフト結果 | 2022年度公示 - NPB.jp 日本野球機構