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現代貨幣理論

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現代貨幣理論(げんだいかへいりろん、英語: Modern Monetary Theory, Modern Money Theory、略称:MMT[1])とは、ケインズ経済学ポストケインズ派経済学の流れを汲むマクロ経済学理論の一つである[2][3][4][5]

変動相場制自国通貨を有している政府は通貨発行で支出可能なため、税収や自国通貨建ての政府債務ではなくインフレ率に基づいて財政を調整すべきだという財政規律を主張している[6]。MMTはその名の通り現代の貨幣についての理論が支柱となっている。貨幣を政府の負債であると見なし、政府が法定通貨での納税義務を国民や企業に課すことによって、法定通貨に納税手段としての基盤的な価値が付与されて流通するという貨幣国定説表券主義が基軸となっている[7]

MMTは主権通貨国における政府の財政政策について、完全雇用の達成・格差の是正・適正なインフレ率の維持等、財政の均衡ではなく経済の均衡[* 1]を目的として実行すべきであると主張している。そしてインフレーションリスクに対しては、政府の支出抑制や増税と、国債発行による超過貨幣の回収で対処できるとしている[8]

MMTの基軸部分の内容は、新古典派経済学の枠組みで構築されている主流派のマクロ経済学と対立しているため、政策的効果やリスクについては論争となっており、活発な議論がなされている[9]

概要

MMTの特に大きな特徴は、貨幣の起源や制度に焦点を当て、管理通貨制度の下で政府が独自に法定通貨を発行している国家を前提としている点である。

政府に通貨発行権があれば、政府の意思に基づき通貨発行による支出が可能である。政府が通貨発行で支出可能なのだから、財源のために税を集めるという理屈は成立しない。このMMTの見解は、政府の財源を税と債券発行によって先買権的に調達すべきであるとする主流派経済学の見方に挑戦するものである[10][11][9]

そして自国通貨建てであれば政府債務がどれだけ増加しても、政府は通貨発行で当該債務の償還が可能なため債務不履行(デフォルト)には陥らない。この構造によって政府債務の償還能力に対する市場の信認も磐石なため、政府債務の拡大が信用不安につながることもない。したがって、適切な財政収支は税収や自国通貨建ての債務の大きさとは無関係であり、常に足元の国民経済の状態に左右される。ゆえに政府は税収や債務残高にとらわれず支出や減税が可能であり、それにあたっての制約は供給能力(インフレ制約)であると、MMTは主張する[12]

また、MMTは無税国家が可能であると主張しているわけではない。自国通貨を発行する国にとっては財源確保の手段ではなく、法定通貨での納税義務を国民や企業に課すことで、法定通貨の基盤的な通用力と流動性を確保し、さらに経済の調整弁として貨幣を回収することによってインフレ率や格差を調整するための手段であると、MMTは主張する[13]

MMTは、自国通貨を発行することができる政府について主に以下のように説明する。

  1. 徴税や国債の発行による財源を確保する必要なしに、支出することができる。
  2. 自国通貨建ての債務で債務不履行(デフォルト)を強制されることはない。
  3. 経済の実物的な資源(労働資本資源)の利用が限界に達した場合に発生する、インフレ率の上昇が財政の制約である。
  4. 徴税で貨幣を経済から取り除くことで、ディマンドプルインフレーション(需要インフレ)の抑制が可能である(ただし、それを実行する政治的意思が常にあるとは限らない)。
  5. 国債の発行が民間部門の資金を締め出すことはない(クラウディングアウトは起こらない)。

上記の見解のうち、信用創造とインフレの動きにおいて主流派経済学と対立しているわけではない。例えば、連邦準備制度理事会(FRB)第13代議長アラン・グリーンスパンは、「アメリカ合衆国はいかなる負債も支出することができる。なぜなら我々は常に通貨を発行することができるからだ。従って、デフォルトになる確率はゼロだ。」と述べている[14]。しかし、MMT論者は金利の影響力に関して主流派経済学の見方には同意しない[15][16][17][18][19]

MMTの理論的バックグラウンドは次の5つにまとめられる[20]

  1. 最近の貨幣史研究を踏まえつつ、貨幣を国家の創造物と捉える「表券主義」ないしは貨幣国定説の立場を取る。
  2. 主流派のマクロ経済学が金融政策を重視する傾向にあるのに対し、MMTはケインズ派の原点にたちかえり、財政政策の有効性を再評価する。
  3. 財政政策の方針としては(1940年代にアバ・ラーナーが提唱した)機能的財政アプローチを引き継ぐ。
  4. インフレなき完全雇用を実現する政策手段として、「就労保証プログラム」の導入を提唱する。
  5. 政策目標としては、雇用と物価の安定だけでなく、(ハイマン・ミンスキーの金融不安定化仮説を踏まえて)金融の安定化も重要だと考える。

また、MMTは以下のような事実解釈に基づいている[21]

  1. 政府の支出は租税収入によって賄われているのではない。政府の支出に租税収入は必要でない。それどころか、政府が先に貨幣を創造しなければ、誰も租税を支払えない。
  2. 政府は貨幣を創造できるのだから、支出を行う際にそもそも借入などする必要がない。従って、国債は財源調達ではなく金利調整手段である。
  3. 貯蓄が政府の赤字をファイナンスするのではない。政府の赤字が貯蓄を創造するのである。
  4. 政府は、自国通貨建てで売られているものなら何でも購入する「支出能力」がある。
  5. 銀行は、集めた預金、金庫の中の現金、あるいは中央銀行に保有している準備預金を元手に貸出を行っているのではない。それどころか、貸出が預金を創造するのである。

これまでの主流な経済理論では、「政府の財政赤字が累積して政府債務が増大していけば、通貨の信認が失墜することによる通貨暴落や、クラウディングアウトと国債の信用リスク増大による金利上昇が発生し、それに伴う高インフレを招く」という見解が主流でった。そのため「国債発行の増大や政府債務の拡大は望ましくなく、基本的に税収の範囲で支出を行うべきだ」という均衡財政政策が主張されてきた。他方、MMTではこれを「収入が限られている家計の制約と通貨を発行している国家の財政制約を混同している」と批判し、「財政赤字・政府債務の拡大が自国通貨建てである限り、主流派経済学者が主張する信用不安やインフレの問題は発生せず、有効需要が増大した場合にインフレ圧力がかかるのみ」という論拠で「政府は足元の国民経済を健全にするための財政運営に専念すべきで、財政赤字や政府債務の増大をまったく懸念する必要はない」と主張している[22]

MMT論者が主張する政府債務とインフレ率の関係については、MMTが登場する以前にも類似する主張は見られた。ジョン・F・ケネディ大統領の下で大統領経済諮問委員会委員を務めたノーベル経済学賞受賞者でもあるジェームズ・トービン回顧録の中で、ケネディに政府債務の大きさについて経済的な上限を問われた際、「唯一の制約はインフレである」と返答したと記している[23][24]

理論

MMTでは不換貨幣を通貨単位として用いることによる過程と結果とを特に分析した理論となっている。ここでいう不換貨幣とは、例えば政府発行紙幣が挙げられる。すなわち、「貨幣的主権を持つ政府は貨幣の独占的な供給者であり、物理的な形であれ非物理的な形であれ任意の貨幣単位で貨幣の発行を行うことができる。そのため政府は将来の支払いに対して制限的な支払い能力を有しており、さらに非制限的に他部門に資金を提供する能力を持っている。そのため、政府の債務超過による破綻は起こりえない。換言すれば、政府は常に支払うことが可能なのである」とする[25]

MMTは政府によって作られた不換貨幣が自国通貨として使われているような近代経済を扱う。国家が主権を有する貨幣システムにおいては、中央銀行は通貨を発行することができるが、貨幣発行のような水平的な取引は資産負債とで相殺されるためネットの金融資産を増やすわけではない。「政府のバランスシートにおいてあらゆる政府発行の貨幣性商品は資産として計上されない。政府自らは貨幣を所有しないのである。あらゆる政府発行の貨幣性商品は負債として計上される。政府支出によりこのような貨幣性商品は作られ、課税・国債発行によりこのような貨幣性商品は消えていく。」[25] 赤字支出に加えて、株価の上昇などによる評価効果もネットの金融資産を増加させうる。MMTではVertical moneyは政府支出を通じて還流の過程に入るとする。法定不換貨幣に課税することは「強制力を持つ民間の納税義務」という形で貨幣そのものに対する需要を創出し、法定不換貨幣の流通を促す。加えて、罰金、各種料金、ライセンスも貨幣への需要を創出する。[26][27]。政府は政府自身の意志に基づいて(独自)通貨を発行することができるため、MMTは政府支出(政府の赤字支出もしくは黒字予算)に関連する課税水準は政府が政府活動の資金を集めるための手段ではなく、実際には政策手段であり、これに「公的な雇用提供プログラム(Job guarantee program)」など他の様々な政策をあわせることによりインフレーション失業率を操作することができると主張する。

経済理論史におけるMMT:表券主義理論として

MMTに影響を与えた先行理論には、ゲオルグ・フリードリヒ・クナップの表券主義、アルフレッド・ミッチェル=イネスの信用貨幣論、ラーナーの機能的財政論、ミンスキーの銀行システム論(金融不安定性論)[28]、ウェイン・ゴドリー(Wynne Godley)の部門バランス論(Sectoral balances)などがあり、MMTはこうしたアプローチを統合した理論である[17]

表券主義(chartalism) は、貨幣の本質を国家による貨幣の制定と見なす学説であり、貨幣国定説また国家貨幣説とも呼ばれ[29]、クナップによって提唱された。クナップは『貨幣国定説』(1905年)で、貨幣はコモディティ実物貨幣)というよりも法による創造物であると論じた[30][* 2]。クナップによれば、当時の金本位制とは、通貨単位の価値がその通貨が含むまたは交換される貴金属の量に依存する考え方であるとして、これを金属主義と呼んだ。これに対してクナップは、国家は純粋な紙幣を創造することができ、国家による貨幣が公共支出機関によって受け入れられているという限りにおいて、紙幣を法定通貨と認識することで商品と交換可能にすることができるとするとする表券主義を論じた[30]。経済における国家の役割に関するクナップの思想は、ケインズおよびケインジアン学派に影響を与えた[32][* 3]L.ランダル・レイやマシュー・フォースター(Mathew Forstater)らMMTを主張する経済学者は、クナップの他に、アダム・スミスジャン=バティスト・セイJ.S.ミルカール・マルクスウィリアム・スタンレー・ジェヴォンズなど初期の古典派経済学における課税主導の紙としての通貨という表券主義的な観方をさらに一般化したとも主張する[32][34]

レイ以外のMMTを主張する経済学者、ウォーレン・モズラー(Warren Mosler)、, ステファニー・ケルトンビル・ミッチェル[* 4]、MMTの数学的フレームワークを行ったパブリナ・R・チェネーバ(Pavlina R. Tcherneva)[* 5]らも貨幣創造(money creation、信用創造)の仕組みの研究をすすめ、こうしてMMTによって表券主義思想が復興し、レイはこれを新表券主義(Neo-Chartalism)と称した[36]

MMTに大きな影響を与えた別の理論としては、アルフレッド・ミッチェル=イネスの信用貨幣論がある。ミッチェル=イネスは、貨幣は交換の媒介としてではなく、政府による課税を通じた繰延支払の基準(standard of deferred payment)として存在しているとし、政府の資金は課税によって回収できる負債であると論じた[37][* 6]

このほか、MMTに影響を与えた経済学者としては、貨幣価値が金と密接に関連しているという考えを放棄すべきだとした上でインフレや不況対策を回避してきた責任は貨幣を発行したり課税する能力のある国家にあると主張したラーナー[38]、金融不安定性仮説を提唱して信用創造を表券主義的に理解したミンスキーなどがいる[28]

MMTおよび表券主義的思想を支持ないしそれに近い研究をしている研究者には、銀行と金融システムの詳細なテクニカル分析を行ったスコット・フルワイラー[39]ジョン・ケネス・ガルブレイスの息子ジェームズ・ケネス・ガルブレイス[* 7]、銀行貨幣と国家貨幣との違いを一覧表にしたバジル・ムーア[41]、スティーブン・ヘイル[42][43]、著書『フリーマネー』で表券主義のエッセンスを平易に説明したロジャー・マルコム・ミッチェルなどがいる[44]

2019年2月には、ビル・ミッチェル、ランダル・レイ、マーティン・ワッツらによる初のMMTをベースとした経済学の教科書『マクロ経済学』が出版された[45][9]

貨幣循環理論とMMT

ポスト・ケインズ派経済学においてランダル・レイのように表券主義を称するMMT支持者は、表券主義が貨幣循環理論(Monetary circuit theory)に代わるまたはそれを補足する理論とする一方で、両理論とも内生的貨幣供給論(endogenous money)としての体勢をとっているとする。すなわち、貨幣は、のように経済外部からではなく、財政支出や銀行融資などによって経済内部において創造されるとする。このような補足的な見方からは、循環理論が(民間と民間の)水平的な相互作用のモデルであるのに対して、表券主義は(政府から民間への、またはその逆の)垂直の相互作用を説明する理論とされる[46][47]

ポスト・ケインズ派経済学

市場均衡理論を前提とし、第二次世界大戦後に主流となったアメリカンケインジアンや、新古典派ミクロ経済学の理論を基礎にし、1980年代に登場して主流派経済学として認知されたニュー・ケインズ派とは異なり、ケインズの貨幣概念(信用貨幣論)に従い、不確実性を問題の中心に据えて経済を論じてきたポスト・ケインズ派経済学は、独特の理論的発展が進められてきた。

ポスト・ケインジアンアバ・ラーナーは、

  1. 民間金融資産は、国債発行の制約とはならない。財政赤字はそれと同額の民間貯蓄を生み出す。
  2. 政府は、自国通貨発行権を有するので、自国通貨建て国債が返済不能になることは、理論上あり得ないし、歴史上も例がない。政府は、企業や家計とは異なる。
  3. 財政赤字の大きさ(対GDP比政府債務残高)などは、財政危機とは無関係である。
  4. 財政赤字の大小を判断するための基準は、インフレ率である。インフレが過剰になれば、財政赤字は縮小する必要がある。デフレであるということは、平成日本の財政赤字は少なすぎるということ。
  5. 税は、財源確保の手段ではない。税は、物価調整や所得再分配など、経済全体を調整するための手段である、

と論じた[48]

ポスト・ケインズ派経済学の中には、金融不安定性仮説を提唱したハイマン・ミンスキーやその弟子のL・ランダル・レイも含まれる。レイは、国定信用貨幣論を基礎に、ケインズのマクロ経済学とラーナーの機能的財政論を統合し、MMTを提唱した。

国際経済と政府

MMT論者は国債の保有者が外国の主体か否かに関わらず、自国通貨建ての国債である限り、政府が財政破綻することはありえないと主張する。これは政府に自国通貨の発行権があるためである(ただし、国債保有者が国債を売って通貨売りを大規模に行うことで為替レートに影響を与える可能性はある)[49]

MMT論者が、財政リスクにおいて主流派経済学の見解に同意する点は、国債が外貨建てである場合である。なぜなら、政府は外貨を発行して国債を返済することができないからである。政府が外貨建て国債を持続可能な状態にする方法は、自国通貨の為替レートを大きく下落させないようにすることである。もし外貨建ての国債が大きく増加して持続可能性に対する市場の信任が揺らいだり、自国通貨の為替レートが大きく下落すれば、国債の返済能力における信用不安につながり、それがさらなる通貨安と国債金利の上昇を誘発し、国債の返済負担がスパイラル的に増加する。その場合、政府は財政破綻に陥るか、輸入抑制や輸出拡大の戦略にシフトしたり、外国人にとっての自国通貨の需要を高めるために金利を引き上げて、為替レートの下落を防ぐ必要が生じる。しかしどれも飢餓輸出高インフレにつながるため自国経済に悪影響を及ぼす[50]

日本での議論

日本国内の政財官界や学術界、大手マスコミなどは、MMTの認知が日本で広がりを見せた現在でも、概ねプライマリーバランスを均衡させるという意味での財政再建・財政健全化の必要性を主張している。また、MMTを紹介・批評する場合でもMMTに対して否定的な見解を示している[51][52][53][54][55][56][57][58]

MMTは中長期的な財政赤字の拡大を容認し、政府の円建て債務がどれだけ増大しても信用不安による経済財政の悪化はありえず、財政赤字(通貨発行)の調整による総需要管理を行えば問題がないとするものである。これは、財政赤字や政府債務残高の拡大を不健全と見なし、歳出抑制や増税等の緊縮財政を通じて、いわゆる「国の借金」を削減したり財政収支を均衡化あるいは黒字化することが必要であるとする、国内の通俗的な一般常識や政府方針と決定的に対立する[59][60][61]。また支出の拡大を伴う政府の政策について、政府支出が税収に制約されるといった前提の下で、増税や予算の付け替えなど財源確保をどうすべきかといった議論や指摘が無意味である事を示すものである。

このように、MMTはこれまでの経済財政運営の考え方の軸である前提を根本的に覆すゲームチェンジャー的な内容である。そのため、MMTが急速に経済論壇で広がり、メディア国会等で頻繁に取り上げられることで、MMT支持派と不支持派による批判合戦のような状況が展開されている[62]

自民党の安藤裕衆議院議員が中心となって立ち上げた自民党若手議員の連盟である日本の未来を考える勉強会が、中野剛志藤井聡三橋貴明青木泰樹森永康平等、MMTを支持する有識者を講師とした勉強会を行っており、それを元にした内閣への政策提言や記者会見等を行っている[63][64]

2019年7月16日にはステファニー・ケルトン、同年11月7日にはビル・ミッチェルが来日し、京都大学レジリエンス実践ユニットの主催するMMT国際シンポジウムで講演をした[65][66][67]

評価

肯定的評価

  • アメリカと日本で注目されているとされる[68][69]
  • 中野剛志は、MMT理論はポスト・ケインズ派の一つの到達点であると評価している[70]
  • MMTの肯定派は、通貨発行権を持つゆえに自国通貨建て債務の返済不能状態に陥るリスクがゼロの政府が自国通貨建て債務を拡大しても、MMTの否定派が主張する信用リスクに伴う金利急上昇や国債や通貨の暴落の引き金につながるリスクは極めて低い、と主張している。[71][72][73]
  • ステファニー・ケルトンは「貨幣の発行者である政府が財政収支の辻褄を合わせる事を目標にすることは無意味あるいは害をもたらすものであり、適切な政府支出・財政赤字の水準は税収ではなくインフレ率や社会のリソース(供給能力)などの経済状態を材料にして決めるべき、つまり財政の均衡ではなく経済の均衡を目標にして決めるべき」と主張している。[74]
  • 1970年代以降、先進諸国では政府債務の拡大を忌避する緊縮財政新自由主義の政策が採られてきた。しかし、2000年代に入り先進諸国で金融政策中心による景気勃興政策が行き詰まり、さらにリーマン・ショックなどで民間負債拡大に傾倒した政策リスクが顕在化する中、政府が積極的に負債を負って財政拡大をする景気勃興政策の重要性を主張するMMTがピックアップされている。先進諸国で政府債務が過去最高を更新し続ける中で金利上昇も高インフレも発生しない現実において、政府債務の増大が金利上昇や高インフレを招くと説く主流派経済学の誤りとMMTの理論的正しさ及び有効性を証明しているとされる。[75]
  • 2008年アメリカ合衆国選挙で、MMTを主唱しているアレクサンドリア・オカシオ=コルテスが共和党候補のアンソニー・パパスを破り、史上最年少の女性下院議員となった。
  • ステファニー・ケルトンやビル・ミッチェルは、GDP比の政府債務が世界最高水準にあるにも関わらず、財政破綻しない日本がまさにMMTの正しさを示す見本だと主張している。[68][76][77]
  • 岡本英男は「MMTで日本でも赤字財政が通常の姿である現実を認めた上で、小さな政府金本位制、均衡財政こそが善というパラダイムとの決別が必要だろう」と指摘している[78]

否定的評価

  • この理論に反対する人々には、「アメリカではインフレが起きた際に、それを止める目的でドルの金利上昇や利上げが起きた場合に基軸通貨ドルを借りている途上国を中心に世界経済に混乱をもたらすこと、日本では今後にこのまま財政赤字が拡大して、インフレ懸念による預金引き出しラッシュ(取り付け騒ぎ)が起きた場合と日本国債の日本人保有率や円建て国債率が低下して、外国人保有率・外貨建て債権率が上昇することで円の対外信用が下落したと判断した外国人債権者らによる円の売却ラッシュが起きた場合にはハイパーインフレが起きる」との声がある[79][80][81]
  • 物価水準の財政理論(FTPL)論者(クリストファー・シムズほか)はMMTとほぼ同じ仮定による議論で、短期理論であるMMTに存在しない物価理論を導入すると、それが統合政府の長期的予算制約式と一致することを証明した。これにより、ドーマー条件及び横断性条件を満たさない政府はデフォルトに陥る可能性があることを指摘した。
  • ドイツではほとんど報道されず、イギリスでも批判的に扱われているとされる[69]
  • ステファニー・ケルトンバーニー・サンダース米上院議員のアドバイザーを務めたが、サンダース議員はMMTと明確に距離をとっている[69]
  • 早川英男は、MMTは会計論に終始し、価格や均衡の概念を欠くところに本質的な弱点があると主張している。
  • 塚崎公義は日本の財政赤字に関して日銀が紙幣を発行して国債を償還しさえすれば破綻しないとMMTに近い主張をするが、通貨量の増大にともない発生したインフレの場合、MMTの主張するような増税による緊縮財政政策では経済が混乱し、また対外債務のある国では海外の債権者の行動リスクが大きいので採用できないと批判する[79]。また、米ドルは基軸通貨であるため、その混乱による世界的な影響が大きいと批判する[79]
  • 小幡績は、MMTは財政均衡主義では行われないはずの際限なき財政拡大を招き、経済に対する公的セクターの拡大によって旧ソ連と同じような資源配分の不効率と浪費が発生し、経済が弱体化すると主張する。[82]


脚注

[脚注の使い方]

注釈

  1. ^ NAIBER,non-accelerating inflation buffer employment ratio.
  2. ^ 当時は、貨幣には耐久性と使用価値があるがゆえにコモディティの代理となり、物々交換経済から発展し、交換の仲介物となった、という見方が一般的だった[31]
  3. ^ クナップと表券主義についてジョン・メイナード・ケインズは『貨幣論』(1930)の冒頭で言及している[33]
  4. ^ Bill Mitchell.オーストラリアニューカッスル大学「完全雇用と公平性」研究所のビル・ミッチェルは、モダン・マネタリー・セオリー(現代金融理論)と称した。
  5. ^ パブリナ・R・チェネーバはMMTの数学的フレームワークを行い、雇用保証(Job Guarantee)プログラムに重点を置いている[35]
  6. ^
    税金が課されるときには必ず各納税者は、貨幣、硬貨、証明書、財務省(treasury, 国庫)に関する文書、またはその名称が何であろうとも、これらの通貨の発行によって政府が契約した負債の一部の償還に対して責任を負う。納税者は自分の債権の一部を、硬貨や証明書あるいはその他の形態の公的資金から取得しなければならず、また、それらを法的債務の清算のために財務省に提示しなければならない。納税者は負債の一部を償還または精算しなければならない。...課税による政府債務の償還が貨幣制度、およびいかなる形態であっても政府の「金」の発行の基本法則である。 — Alfred Mitchell-Innes、The Credit Theory of Money, The Banking Law Journal,Vol. 31 (1914), Dec./Jan., p.161.
  7. ^ James K. Galbraithは表券主義を支持し、モズラーの著作の序文を執筆している[40]

出典

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参考文献

書籍(和書)
書籍(和書以外)
雑誌
  • 経済理論学会, 編纂.「季刊 経済理論 第44巻第1号 特集 新自由主義と現代社会の危機」、経済理論学会、2007年4月20日、 ISBN 978-4-921190-92-7
  • 内藤敦之「貨幣・ 信用・ 国家−ポスト・ ケインズ派の信用貨幣論と表券主義」
  • 柴山桂太「国家が貨幣をつくる」
  • 鈴木正徳「固定観念を払拭し、「本来あるべき政府の財政」を取り戻せ――翻訳者が読み解く『MMT 現代貨幣理論入門』」
  • 中野剛志「財政赤字容認の「現代貨幣理論」を“主流派”がムキになって叩く理由」
  • 週刊エコノミスト 2019年6月25日号 毎日新聞出版 JAN 4910200340690
  • 特集 とことんMMT
  • 米国発「消費増税無用論」の真贋 中野剛志
  • ニューズウィーク日本版 2019年7月16日号 CCCメディアハウス JAN 4910252540796
  • 日本人が知るべきMMT
  • 週刊ダイヤモンド編集部, 編纂.「週刊ダイヤモンド 2019年8月3日号」『週刊ダイヤモンド』、ダイヤモンド社、2019年7月29日、 ASIN B07TLP9YL12019年9月21日閲覧。
  • 加藤出「「MMTブーム」と参院選に見る残念な日本の借金付け回し体質」
ウェブサイト
その他

関連項目

外部リンク