中野剛志

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中野 剛志
(なかの たけし)
生誕 中野 剛志
(なかの たけし)
1971年
神奈川県
国籍 日本の旗 日本
研究分野 経済ナショナリズム
出身校 東京大学教養学部
エディンバラ大学大学院
影響を
受けた人物
西部邁
佐藤誠三郎
主な受賞歴 ドミニク・ジャッキン=バーダル論文賞
山本七平賞奨励賞
中央公論新社新書大賞 第3位(『TPP亡国論』)
プロジェクト:人物伝

中野 剛志(なかの たけし、1971年 - )は日本の経産官僚、評論家特許庁総務部総務課制度審議室長を経て、経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課長。研究分野は経済ナショナリズム[1]

来歴・人物[編集]

神奈川県出身[2] 。東京大学教養学部教養学科(国際関係論)卒業。『表現者』塾(西部邁塾長)出身[3][4]

1996年平成8年)、大学卒業後に通商産業省(当時)に入省。1999年(平成11年)には資源エネルギー庁長官官房原子力政策課原子力専門職に就任。

2000年(平成12年)より、イギリスのエディンバラ大学大学院に留学し、政治思想を専攻。2001年(平成13年)に同大学院より優等修士号(MSc with distinction)を取得[5]

2003年(平成15年)、経済産業省資源エネルギー庁資源・燃料部政策課課長補佐。2004年からは同課燃料政策企画室併任。同年、経済産業省エネルギー・新エネルギー部新エネルギー対策課課長補佐に就任。

2005年(平成17年)にエディンバラ大学大学院より博士号社会科学)を取得[6][2]

経済産業省産業構造課課長補佐を経て、2010年(平成22年)6月、京都大学大学院工学研究科(都市社会工学専攻)教授・藤井聡の研究室に退職出向[7]。同研究室には初め助教として在籍し、翌年には准教授に昇格した。独立行政法人経済産業研究所コンサルティングフェロー兼任。

2011年3月17日、『TPP亡国論』の印税収入の半分相当を、日本赤十字社の「東日本大震災義援金」に寄付した[8]。『TPP亡国論』は20万部を超えるベストセラーとなっている[9][10]

2012年(平成24年)5月31日をもって京都大学を退職し[11]、翌6月1日より経済産業省に復帰[7]。独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構に出向となり、同機構総務企画部主幹、同機構ロボット・機械システム部主幹兼戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)『革新的設計生産技術』推進委員会オブザーバーを務めた[12][13]。2014年から経済産業省に戻り、特許庁総務部総務課制度審議室長に就任[14]。2017年7月5日経済産業省商務情報政策局情報技術利用促進課長[15]

雑誌『発言者』、『表現者』に評論を連載し、佐伯啓思と『発言者』誌上において「近代」の解釈をめぐって論争を展開した。

研究活動[編集]

イギリス経験論の代表的人物であるデイヴィッド・ヒューム経済ナショナリストとし[16]、ヒュームからアメリカの経済ナショナリストであるアレクサンダー・ハミルトンへの流れ[17]、ハミルトンを経由して経済ナショナリストの一大学派であるドイツ歴史学派の創始者フリードリッヒ・リストまでの思潮を辿り[18][19]、ヒュームからヘーゲルを経て[20]新古典派経済学の創始者の一人とされるアルフレッド・マーシャルが実は経済ナショナリストであることを論証しようと試みた[21]。また、混同されがちな経済ナショナリズムと重商主義はその立場が異なることを、「ネイション」(国民あるいは人々の社会的・文化的・心理的紐帯)と「ステイト」(政府あるいは政治的・法的制度)の両者の基盤の違いを軸に論じた[22]

主張・言論活動[編集]

経済思想
経済ナショナリストによる思想の再解釈を通して、これらの思想の底流にあるのは、理性と思索により抽象化・単純化した思考ではなく、文化や社会慣習、常識の蓄積などをあるがままに掴み取ろうとする解釈学的アプローチであるとする。抽象的な数理モデルや、経済現象を利己的個人に還元した方法論的個人主義など、これらに基づく主流派経済学の非現実的な抽象論を批判し、これに依拠する民営化規制緩和小さな政府などの新自由主義的な手法が問題解決に対して失効しているばかりか、軋轢や問題の原因でもあると主張している[23]
中野は、新自由主義が信奉する自由放任の市場経済は、家族・共同体といった保守が重視する価値を破壊するため、国家・道徳のためにも、保守は新自由主義と手を切るべきだと主張している[24]
経済史
経済思想史の流れで経済が順調ではない時の傾向として、通常の経済学の議論で見落とされていたものに注目する動きが出てくるとし、危機の時はオーソドックスから逸脱できた国だけが生き残れるとする[25]
経済論
デフレーションを解決することが最優先課題であるとし、内需拡大こそ重要であるとしている[26]外需促進は貿易黒字の拡大を伴うが、これは円高を促し国際競争力を失う自殺行為であると指摘する。むしろ、財政出動により内需を拡大することで輸入が増加し、これが円を安くし国際競争力を高めることにつながるとする。すなわち、財政出動による内需拡大こそが円高を止めるとする。マンデルフレミングモデルに対して、デフレ下では金利の大幅な上昇はありえないため、自国通貨高にはならないと主張している[27]
「くたばれグローバル資本主義」が座右の銘であり[28]、海外からの需要取り込みや国際分業の伸展により経済活性化を目指すグローバル成長戦略論には否定的である[29]
TPP反対派の代表[30]、TPP反対の急先鋒[31]とも言われており、反TPP論者として注目されている[32]。TPPについて中野は「日本はすでに開国している」「TPPで輸出は増えない」「TPPは日米貿易だ」と持論を展開している[33]。中野が編集した『TPP 黒い条約』ではTPPが内包する問題点を、中野を含め専門家7人がそれぞれ解説している[34]

受賞[編集]

  • 2003年(平成15年)、エディンバラ大学大学院留学中に執筆した論文「経済ナショナリズムを理論化する」[35]により民族性ナショナリズム学会のドミニク・ジャッキン=バーダル論文賞(Dominique Jacquin-Berdal Essay Prize)を受賞[36]
  • 2012年、『日本思想史新論』により山本七平賞奨励賞を受賞[37]
  • 同年、『TPP亡国論』(集英社新書2011年)により新書大賞で第3位を受賞[38]

評価[編集]

ジャーナリストの森健は、中野の著書『TPP亡国論』について「著者はまずTPPは国内総生産比率で事実上、日米2カ国の自由貿易協定(FTA)に過ぎないことを示した上で、アメリカはなりふり構わぬ輸出強化策に出ていることを証明する。冷静な論考の過程で見えてくるのは、国民を幸せにしないグローバル経済の問題だ。TPPだけに終わっていないのが本書の深みだ」と評している[39]

元京都大学農学部教授の祖田修は、中野の著書『反・自由貿易論』について「本書はTPPに関し、最も信頼しうる著作の一つである」と評している[40]

早稲田大学政治経済学部教授の若田部昌澄は、中野が経済学を理解した上で、自説に適した理論を的確に選び[19]、「そう言われればそうかな」と思ってしまうような論を展開しているとして、「トレード」を教える反面教材としては悪くないとしている[41]。これを獨協大学経済学部教授で経済評論家の森永卓郎は、中野の議論もきちんと経済学に基づいたもので立つ経済学が違うのだと若田部が指摘していると書評に書いている[42]。また、森永卓郎は「国内市場の保護のために最も強力な手段は為替である」という点に関しては、若田部と中野の立場は一緒であり、円高やデフレは基本的には貨幣問題で、資金供給量の多寡が為替・物価を決定するという基本的な経済理論を共有していると述べている[42]

若田部は「いろいろな人が反TPP論を繰り出したが、どれも中野のバリエーションのようなものだった。彼の議論をあらためて確認しておくことにはまだ意義がある」と述べている[43]

松原隆一郎は最初に景気回復は赤字財政による公共投資で可能になるの中野の主張を聞いて疑問を持ったと述べている。政府が国民の貯金を上回る累積赤字を背負うなら、その国家は財政破綻するのではないかと問うた。中野は銀行制度において、預金通貨は振り込まれる預金が転送されて生まれるのではなく、資金を求める人の口座に返済可能と判断し準備預金を積む限りで貸出額を記帳するだけで預金通貨は発生するので、政府も国債を政府紙幣を発行して「受領」されさえすれば通貨になるのだから、不況期には政府は支出を無限に増やせるのであると主張した。松原はこの貨幣論はその国家がどこまで「信用」されるかにかかっているため、中野の軍事技術・費用逓減産業・地理的差異など、長期にわたって富を生み出す仕組みの説明で理論の筋が見えたと述べている[44]

著書[編集]

単著[編集]

共著[編集]

編著[編集]

共訳書[編集]

論文[編集]

TV出演[編集]

参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 国力とは何か 経済ナショナリズムの理論と政策 中野剛志著東洋経済オンライン 2011年9月7日
  2. ^ a b 中野 剛志”. 日本文化チャンネル桜. 2012年2月20日閲覧。
  3. ^ 『AERA 2012年6月4日増大号』のインタビュー記事より
  4. ^ 「筆者はまことに幸福なことに、十年以上にわたって(西部)先生の薫陶を直接受け、その精緻な思想、強靭な精神、そして生真面目でユーモアのある人生観から少なからざる影響を受けてきた。本書の中に、西部先生の保守思想の痕跡に気づいた読者も少なくないと思う。」『国力論』220頁。
  5. ^ 『夕学五十講』講師紹介ページ”. 2012年7月20日閲覧。
  6. ^ TPP「大きな利益などない」 京大大学院・中野剛志准教授 講演採録WEB TOKACHI-十勝毎日新聞 2012年4月12日
  7. ^ a b 中野剛志 「等身大で闘い続けた一年余を振り返る」 Internet TV 『超人大陸』 NPOカルチャーショッククラブ 2012年6月4日号
  8. ^ 中野剛志:「TPP亡国論」発刊にむけて (News Spiral)
  9. ^ 「TPP黒い条約」目次と執筆者
  10. ^ TPP参加は「主権」の投げ売り、黒い条約だ! 『TPP亡国論』中野剛志が放つ最後の警告『TPP 黒い条約』J-CASTモノウォッチ 2013年6月17日
  11. ^ 中野 剛志 准教授京都大学 都市社会工学専攻 藤井研究室
  12. ^ 「推進委員会(第1回)構成員名簿(PDF形式:160KB) 」内閣府
  13. ^ 「戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)『革新的設計生産技術』推進委員会(第1回)議事要旨」内閣府
  14. ^ 「幹部一覧(METI/経済産業省)」
  15. ^ [1]日本経済新聞
  16. ^ 『国力論』、53-110頁。
  17. ^ 『国力論』、19-31頁。
  18. ^ 『国力論』、32-52頁。
  19. ^ a b 若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、159頁。
  20. ^ 『国力論』、111-142頁。
  21. ^ 『国力論』、143-171頁。
  22. ^ 『国力論』、35-38頁、46-54頁、107-110頁。
  23. ^ 『国力論』、174-175頁、198-200頁。
  24. ^ 書評 本よみうり堂 『保守とは何だろうか』 中野剛志著、『「リベラル保守」宣言』 中島岳志著、『保守の本分』 noiehoie著、『「常識」としての保守主義』 櫻田淳著YOMIURI ONLINE(読売新聞) 2013年11月11日
  25. ^ 中野剛志・柴山桂太『グローバル恐慌の真相』166-167頁。
  26. ^ 売国奴に告ぐ! 中野剛志、三橋貴明著東洋経済オンライン 2012年04月17日
  27. ^ 内需拡大が円高を止める
  28. ^ TPP反対の中野剛志 グローバル化を喜ぶ人は「ほとんど反民主主義者」NEWSポストセブン 2011年12月25日
  29. ^ 内需拡大が円高を止める|三橋貴明オフィシャルブログ「新世紀のビッグブラザーへ blog」への寄稿
  30. ^ TPPの憂鬱 ―― 誤解と反感と不信を超えてSYNODOS -シノドス- 2011年11月9日
  31. ^ インタビュー 「道民はもっと怒れ、エセ龍馬たちの言いなりになるな!」財界さっぽろ 2011年3月
  32. ^ 「TPPはアメリカの雇用対策」田中康夫と中野剛志が指摘日刊SPA! 2011年11月8日
  33. ^ 中野剛志:TPPはトロイの木馬──関税自主権を失った日本は内側から滅びるNews Spiral 2011年1月14日
  34. ^ 中野剛志氏が編集 TPPの問題点を専門家7人が解説した本NEWSポストセブン 2013年7月2日
  35. ^ Takeshi Nakano (2004). “Theorising economic nationalism”. Nations and Nationalism 10 (3): 211–229. doi:10.1111/j.1354-5078.2004.00164.x. 
  36. ^ Dominique Jacquin-Berdal Essay Prize(英語)
  37. ^ 書評 第21回 山本七平賞 選評 および 受賞の言葉PHPビジネスオンライン 衆知 2012年12月19日
  38. ^ 新書大賞2012特設ページ(中央公論新社)
  39. ^ 【レビュー・評価】:TPP亡国論 著 中野剛志asahi.com(朝日新聞社) 2011年4月3日
  40. ^ 反・自由貿易論 中野剛志 著東京新聞 Chunichi Bookweb(TOKYO Web) 2013年7月28日
  41. ^ 若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、172頁。
  42. ^ a b TPP推進派の気鋭の論客が経済をコンパクトに解説した本登場NEWSポストセブン 2012年9月27日
  43. ^ 若田部昌澄・栗原裕一郎 『本当の経済の話をしよう』 筑摩書房〈ちくま新書〉、2012年、159-160頁。
  44. ^ https://mainichi.jp/articles/20170319/ddm/015/070/013000c
  45. ^ 視点・論点 「TPP参加の是非」NHK 2011年10月21日
  46. ^ TPP反対派の急先鋒・中野剛志「メディアが報じないアメリカの本音。やはり日本は狙われている」週プレNEWS 2011年11月10日

外部リンク[編集]