信用創造

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信用創造(しんようそうぞう、: Credit creation)とは、銀行が初めに受入れた預金 (本源的預金) の貸し付けによってマネーサプライ(通貨供給量)を創造できる仕組みを表す[1]。簡易には準備預金制度のもとで、銀行のみが有する「貨幣を生み出す」機能を指し、創造される信用貨幣の量は準備預金制度に依存する[2][1]銀行貨幣経済において果たしている重要な機能のひとつ。預金創造とも呼ばれる[1]

概要[編集]

預金準備率が10%の時、銀行が融資を行う過程で以下の通り信用創造が行われる[2]

  1. A銀行はW社から預金1,000円を預かる(そのうち900円を貸し出すことができる)。
  2. A銀行がX社に900円を貸出、X社が900円をB銀行に預金する(そのうち810円を貸し出すことができる)。
  3. B銀行がY社に810円を貸出、Y社が810円をC銀行に預金する(そのうち729円を貸し出すことができる)。
  4. C銀行は729円をZ社に貸し出す。

A銀行は1,000円の預金のうち、100円だけを準備として残り900円を貸し出す。A銀行が貸し出しを行うと貨幣供給量は900円増加する。貸出が実施される前は貨幣供給量はA銀行の預金総量1,000円のみであったが、貸出が実施された後の貨幣供給量はA銀行預金1,000円+B銀行預金900円=合計1,900円に増加している。このとき、W社は1,000円の預金を保有しており、借り入れたX社も900円の現金通貨を保有している。この信用創造はA銀行だけの話ではない。X社がB銀行に900円預金することで、B銀行が10%の90円の準備を保有し残りの810円をY社に貸し出す。さらに、Y社がC銀行に810円預金することで、C銀行が10%の81円の準備を保有し残りの729円をZ社に貸し出す。このように、預金と貸出が繰り返されることで、貨幣供給量が増加していく。[2]

以下の図は、1,000円の本源的預金が、預金と貸出がされるたびにその何倍もの預金額となり、貨幣供給量が増えていくことを示している[2]

A銀行の貸借対照表
資産 負債
準備 100円 預金 1,000円
貸出 900円
B銀行の貸借対照表
資産 負債
準備  90円 預金 900円
貸出  810円
C銀行の貸借対照表
資産 負債
準備  81円 預金 810円
貸出  729円

このとき、総貨幣供給量は、以下の通りである[2]。(準備・預金比率:

本源的預金1000円
A銀行 貸出×1000円
B銀行 貸出×1000円
C銀行 貸出×1000円
総貨幣供給量{}×1000円
      ×1000円

歴史[編集]

スコットランドの経済学者H・D・マクロード英語版は、銀行の本質を「要求払いの信用を創造し発行すること」と主張し、シュンペーターアルバート・ハーンドイツ語版フィリップス英語版らにより理論が発展した[1]

フィリップスは、「本源的預金 (primary de- posits) 」をもとにその乗数倍の貸し出しかできるため、その乗数的な預金である「派生的預金 (derivative deposits)」 が創出されると主張した[3]。フィリップスにより提示された「本源的預金と派生的預金の区別、個別銀行と銀行システムとの関係、貸し出し拡張の限界」に関する理論は信用創造の通説となり、部分的修正や精緻化を行う研究者が後に続いた[4]

フィリップスの公式(X:貸出限度、C:現金、R:支払準備率)[1]

1930年代になると、貨幣乗数の理論が登場し、合わせて理解されるようになる[1]

ジョン・メイナード・ケインズは 『貨幣論1』において「本源的預金」に対応する「受動的に創造する預金」 、「派生的預金」に対応する 「能動的に創造する預金」という概念を用いてフィリップスと同様の理論を提唱し、さらに、信用創造能力は理論上は無限であると主張した[5]クヌート・ヴィクセルもケインズと同様銀行の信用創造能力は無限であるとし、さらに、その能力は貨幣に対する市場の需要によって決定されるとした[6]。また、イギリスの経済学者であるR.G.ホートレー英語版は、「銀行貸出こそが貨幣供給の源泉」であるとした[7]

信用創造と景気循環[編集]

設備投資による借り入れなどが増加する景気のよい時期には、自然と貨幣が増加する。一方、設備投資が一巡し、新たな借入よりも返済が多くなれば、景気は落ち着き、貨幣は減少する。

このように信用創造は、貨幣需要(資金需要)にあわせて変動し、景気(名目GDP)と正の相関をもつことが想定される。マネーサプライ(現金+預金)と名目GDP(物価×実質GDP)の比をあらわすものには貨幣の所得速度がある。

出典[編集]

  1. ^ a b c d e f 信用創造』 - コトバンク
  2. ^ a b c d e マンキュー 1996, pp. 248-249.
  3. ^ 古川 2014, p. 32.
  4. ^ 古川 2014, pp. 34-39.
  5. ^ 古川 2014, pp. 39-41.
  6. ^ 古川 2014, pp. 40-41.
  7. ^ 古川 2014, pp. 43-47.

参考文献[編集]

関連項目[編集]