欧州連合からのイギリス脱退

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
ナビゲーションに移動 検索に移動

この記事では欧州連合からのイギリス脱退(おうしゅうれんごうからのイギリスだったい: Withdrawal of the United Kingdom from the European Union)、通称・俗称でブレグジット[1]Brexit[注 1])、つまりイギリス欧州連合から脱退することについて解説する。

時代を遡れば1975年に、欧州経済共同体(EEC。欧州連合(EU)の前身。)加盟存続の可否についてイギリスで国民投票が行われた。この時の投票では「イギリスはEECの加盟国であり続ける」が上回った。

時代が変わり、世界情勢やイギリスの状況も変わった2015年10月に政治戦略立案家のマシュー・エリオット英語版ドミニク・カミングス英語版によって党横断キャンペーンとして設立されたVote Leave英語版[注 2]Brexitを推進する中心的組織となり、労働党および保守党のメンバーから広範囲の支持者を得た。[注 3] そして2015年欧州連合国民投票法英語版が成立し、イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票2016年6月23日に実施されたところ、「EU離脱」への投票数が、「EU残留」への投票数を僅差で上回った。この投票結果を見て、イギリスの政治家や国民らも、EU中枢部も、EU加盟諸国も、またイギリスに支社や工場や販売先などを持ち経済活動を行っている世界各国の企業も、Brexitが実際に行われることはほぼ間違いなくなったと理解し、本格的な分析・思案を開始し、様々な対応や対策をとることになり、EU中枢部とイギリスの間でも、またイギリス議会内でも、離脱のより具体的な形をめぐって激しい駆け引きがおこなわれており、それらは現在も進行中である。

歴史[編集]

イギリスとEEC(EU)とのなれそめ

イギリスは、1957年にEECを創設したローマ条約の当事国ではなかった。後に、イギリスは、1963年1967年にEEC加盟を申請したが、いずれもフランス大統領シャルル・ド・ゴールにより拒否された[2]。ド・ゴールがフランス大統領を辞任すると、イギリスは3度目の加盟申請を行い、ようやく認められた。1973年1月1日にイギリスはEECに加盟し、広く共通市場としてイギリスを開放した。このことはエドワード・ヒース保守党政権下で行われた[3]ハロルド・ウィルソン率いる野党の労働党は、EECのイギリス加盟問題を再交渉しそのままEECに残るか国民投票を行うことを公約として1974年10月イギリス総選挙に臨んだ。

1975年の国民投票[編集]

1973年のエネルギー危機英語版は、多くの西側諸国にとって経済問題の原因となった。

1975年にイギリスはEECに留まるべきかを問う国民投票を行った。しかし与党の労働党内部に重大な意見の相違があり、1975年4月26日一日の党大会英語版において脱退賛成は2:1という結果に終わった。内閣は強硬な欧州容認派の英語版の閣僚と強硬な欧州懐疑派の閣僚に分裂していた為、ハロルド・ウィルソン内閣の共同責任英語版憲法上の慣例英語版を延期し、閣僚が自己の立場を公にすることを認めた。23人いる閣僚の内7名が、EEC加盟に反対であった。

1975年6月5日有権者は「イギリスは欧州経済共同体(共通市場)に留まるべきと考えるか」という問題に賛成か反対か投票することを求められた。シェトランド諸島アウター・ヘブリディーズを除きイギリスの全ての行政カウンティは、「賛成」が過半数を占めた。投票結果に合わせてイギリスはEECに残留した。

賛成票 賛成(%) 反対票 反対(%) 投票率(%)
17378581 67.2 8470073 32.8 64.5

更なる展開[編集]

野党の労働党は、EECから脱退する公約で1983年イギリス総選挙を戦った[4]マーガレット・サッチャーの保守党政権が再選されて大敗した[4]。その後労働党は政策を変更した[4]

マーストリヒト条約の結果、EECは欧州連合になった。マーストリヒト条約の採択に向けて労働党議員ジェレミー・コービンはこの条約は主権国家の政権の経済政策から独立している欧州中央銀行(ECB)が加盟国の民主主義を損なうと言いながら民主的なアメリカ合衆国の方向性にEU加盟国を進めることはないと考えた[5]。コービンはECBの最初の政策の優先順位が物価の永続性を維持しECBがユーロの創設がEU加盟国に対する「銀行家の欧州」を強制すると付け加えながら銀行家により配置されていると主張した[5]

国民投票党英語版はイギリスのEU加盟に関する国民投票を行うことを政策綱領にして1997年イギリス総選挙を戦うジェームズ・ゴールドスミスにより1994年に創立された[6]。この選挙で547選挙区で候補者を擁立し、8708601票を獲得した[7]。505選挙区で(ゴールドスミスが提供した)供託金を失いながら票が拡散したために小選挙区で勝つのに失敗した[7]

欧州懐疑主義政党イギリス独立党(UKIP)も1990年代初頭に創立された。イギリスで2004年欧州議会議員選挙で第3党に、2009年欧州議会議員選挙で第2党に、2014年欧州議会議員選挙で第1党に躍り出た。この最後の選挙は、労働党や保守党より他の政党がイギリス全土の選挙で最大の得票率を取った1910年総選挙英語版以来初めてであった。

2016年国民投票へ向けた動き[編集]

2012年、イギリスのデーヴィッド・キャメロン首相は、イギリスのEU加盟問題に関する国民投票を求める声を拒否したが、公共の支援を判断する将来の国民投票の可能性を示唆した[8][9]。BBCによると[10]

首相は欧州連合内のイギリスの位置を確実にする必要性に「イギリス国民の真剣な支持」があることを認めたが、国民に「戦術的かつ戦略的な忍耐」を求めた。

UK Politics、BBC

2013年1月、キャメロンは2015年に選出されれば再交渉する一括提案に関して2017年末までにEU加盟に関する国民投票を行うと発表した[11]

デーヴィッド・キャメロン率いる保守党は、2015年総選挙に勝利した。その後間もなくして国民投票を可能にする2015年欧州連合国民投票法英語版が、議会に提案された。自身は改革された欧州連合への残留を支持しながらも[12]、キャメロンは保守党の閣僚や議員が自身の良心によりEUに留まるか脱退するかを選択して選挙に臨めると発表した。この決定は党所属の閣僚向けの良心投票英語版の為に増大する圧力に続いて行われた[13]。加えて内閣共同責任英語版の通常の規則の例外としてキャメロンはEU脱退に向けて公然と運動することを閣僚に認めることになる[14]

2016年2月22日のイギリス議会下院(庶民院)での演説で[15]キャメロン首相は「2016年6月23日付の国民投票イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票)」を発表し「リスボン条約第50条」を引用しながら脱退する国民投票多数派となった場合に欧州連合から脱退する法的枠組みを設定した[16]。キャメロンは脱退票に基づいて速やかに第50条の施行をする目的や脱退に向けた協定を交渉する「2年に限った活動」について語った。英国の人口の52%がEUを離れることに賛成票を投じた。[17]

2016年国民投票(直)前の諸意見[編集]

世論

イギリスがEUを脱退すべきか留まるべきかという公の意見は様々だが、投票は一般に僅かに残留に多数派を示していた。2015年10月の投票に関する分析は、年配の人に脱退を支援する傾向が見られるのに対して若い人はEUに留まることに賛成する傾向が見られることを示していたが、性別による差異は見られなかった[18]

離脱支持団体

EU脱退に賛成する公式の運動団体としてVote Leaveが活発な活動を行った。他にも離脱支持団体は多数あったが、主要なものとしてはLeave.EUGrassroots OutBetter Off Outなどがあった。

米国大統領による要請表明

アメリカ合衆国大統領バラク・オバマはテレグラフ紙への寄稿で、EUを脱退しないようイギリス人に要請し、「イギリスがEUを脱退する為に投票するなら、イギリスはアメリカ合衆国との新たな貿易合意を結ぶために「列の後ろに」並ぶことになる」と警告した。これに対し両派それぞれの中で激しい議論が巻き起こった[19][20][21]

2016年国民投票の実施と開票[編集]

イギリスの欧州連合離脱是非を問う国民投票は2016年6月23日に実施され、 開票の結果、残留支持が16,141,241票(約48%)、離脱支持が17,410,742票(約52%)であり、離脱支持側の僅差での勝利となった。投票率は約72%であった[22]

2016年国民投票後の動き[編集]

2017年3月29日、英国首相テリーザ・メイはEUから正式に離脱するために欧州連合基本条約(TEU)第50条を発動した[23]。これに際し英国側の全権大使がEU大統領ドナルド・トゥスクへEU離脱を告げる一通の手紙を渡した。その手紙には「英国国民の総意に従い、TEU第50条が発動された。英国は欧州連合を離脱する。」などといったことが書かれてあった[23]

2017年6月に行われた総選挙直前の時期には残留を支持する有権者は2割程度になった。EUからの離脱支持は45%。国民投票では残留に投票したが「政府には離脱する義務がある」と考える層が23%に上り、離脱納得が68%である。2017年の総選挙において主流な政党で唯一EU残留と2度目の国民投票実施を公約に掲げた自由民主党 (イギリス)は前回選挙の時の7.9%から7.3%に得票率が減少した[24]

マイケル・フィニスィーの「ピアノのための第三政治路線」はこれを批判して書かれ、残留を支持する大学の構内で初演された。[25]

参照[編集]

  1. ^ Britainexitを合わせたかばん語he UK's EU referendum: All you need to know”. BBC News. 2016年3月24日閲覧。
  2. ^ Vote Leave(=「離脱に投票」)という表現を、組織名そのものにしている。
  3. ^ イギリスの政治議院内閣制であり、かつ(極端なほどに典型的な)二大政党制であり、影響力らしい影響力を行使できるのは実際上はこれら2党だけであり、逆に言えば、労働党および保守党の双方の側の(半数以上の)支持を得られれば、結果として、2つの党の力関係が選挙でどう転んでも、議会全体によって承認されたような議決を得られるのはほぼ間違いなくなる、という政治的な構造になっている。
  1. ^ 英国のEU離脱「ブレグジット」に大きな懸念http://jp.wsj.com/articles/SB11810945248234553346004581493310364859244
  2. ^ “1967: De Gaulle says 'non' to Britain - again”. BBC News. (1976年11月27日). http://news.bbc.co.uk/onthisday/hi/dates/stories/november/27/newsid_4187000/4187714.stm 2016年3月9日閲覧。 
  3. ^ “1973: Britain joins the EEC”. BBC News. (1973年1月1日). http://news.bbc.co.uk/onthisday/hi/dates/stories/january/1/newsid_2459000/2459167.stm 2016年3月9日閲覧。 
  4. ^ a b c Vaidyanathan, Rajini (2010年3月4日). “Michael Foot: What did the 'longest suicide note' say?”. BBC News Magazine. BBC. 2015年10月21日閲覧。
  5. ^ a b J. Stone:「ジェレミー・コービンはユーロが「銀行家の欧州の負担」に導くと予測した。」、independent.co.uk、2015年9月18日
  6. ^ Wood, Nicholas (1994年11月28日). “Goldsmith forms a Euro referendum party”. The Times: p. 1 
  7. ^ a b UK Election 1997”. Politicsresources.net. 2015年7月16日閲覧。
  8. ^ Nicholas Watt (2012年6月29日). “Cameron defies Tory right over EU referendum: Prime minister, buoyed by successful negotiations on eurozone banking reform, rejects 'in or out' referendum on EU”. The Guardian (London, UK). http://www.guardian.co.uk/politics/2012/jun/29/cameron-no-eu-referendum 2012年7月2日閲覧. "David Cameron placed himself on a collision course with the Tory right when he mounted a passionate defence of Britain's membership of the EU and rejected out of hand an 'in or out' referendum." 
  9. ^ Sparrow, Andrew (2012年7月1日). “PM accused of weak stance on Europe referendum”. The Guardian (London, UK). http://www.guardian.co.uk/politics/2012/jul/01/david-cameron-europe-referendum-noncommittal 2012年7月2日閲覧. "Cameron said he would continue to work for 'a different, more flexible and less onerous position for Britain within the EU'." 
  10. ^ David Cameron 'prepared to consider EU referendum'”. BBC News. BBC (2012年7月1日). 2012年7月2日閲覧。 “Mr Cameron said ... he would 'continue to work for a different, more flexible and less onerous position for Britain within the EU'.”
  11. ^ David Cameron promises in/out referendum on EU”. BBC News. BBC (2013年1月23日). 2016年4月23日閲覧。
  12. ^ David Cameron sets out EU reform goals”. BBC News (2015年11月11日). 2016年1月16日閲覧。
  13. ^ “Cameron: MPs will be allowed free vote on EU referendum – video” (Video). The Guardian. (2016年1月5日). http://www.theguardian.com/world/video/2016/jan/05/cameron-mps-will-be-allowed-free-vote-on-eu-referendum-video 2016年1月9日閲覧. "The PM also indicates Tory MPs will be able to take differing positions once the renegotiation has finished" 
  14. ^ Hughes, Laura; Swinford, Stephen; Dominiczak, Peter (2016年1月5日). “EU Referendum: David Cameron forced to let ministers campaign for Brexit after fears of a Cabinet resignation”. The Daily Telegraph. http://www.telegraph.co.uk/news/newstopics/eureferendum/12082083/EU-referendum-David-Cameron-gives-ministers-free-vote-live.html 2016年1月9日閲覧。 
  15. ^ Prime Minister sets out legal framework for EU withdrawal”. UK Parliament (2016年2月22日). 2016年2月29日閲覧。
  16. ^ Clause governing withdrawal from the EU by a Member State”. The Lisbon Treaty. 2016年2月29日閲覧。
  17. ^ Toptal - The Impact of Brexit on the Financial Services Sector
  18. ^ John Curtice, Senior Research Fellow at NatCen and Professor of Politics at Strathclyde University (2015年10月). “Britain divided? Who supports and who opposes EU membership”. Economic and Social Research Council. 2016年4月26日閲覧。
  19. ^ Barack Obama's views betray a 'woeful ignorance' on the impact of the EU on Britain's security, says Armed Forces minister, telegraph.co.uk; accessed 23 April 2016.
  20. ^ "EU makes Britain even greater": Obama, telegraph.co.uk; accessed 23 April 2016.
  21. ^ Michael, Shindler (2016年4月21日). “Obama is Wrong to Discourage Brexit”. CapX. Centre for Policy Studies. http://capx.co/obama-is-wrong-to-discourage-brexit/ 2016年4月25日閲覧。 
  22. ^ EU referendum: full results and analysis The Guardian, 24 Jun 2016
  23. ^ a b Theresa May invokes Cold War and warns EU of consequences after triggering Article 50 L. Hughes, The Daily Telegraph, 29 Mar 2017
  24. ^ https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20170611-00051983-gendaibiz-int&p=3
  25. ^ 外部リンク

関連項目[編集]