外来語表記法 (大韓民国)

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外来語表記法(がいらいごひょうきほう、외래어 표기법)は、大韓民国国立国語院が定めた、朝鮮語で使用される外来語のハングル表記に関する規定である。1986年文教部告示第85-11号として制定され、数回にわたり改訂されている。

この規定では、他言語の音韻等を、韓国の標準語に近い音韻と対応させてハングルで表記する方法を示している。

目的[編集]

当法の目的は、外国語から朝鮮語に取り入れられて使用されている言葉を統一された方法で書くことであって、外国語の発音教育のためのものではない。これは朝鮮語で日常的なコミュニケーションをする中での標準表記型を提供するためのもので、実際に外国語を話すときにそのまま発音するものではない。朝鮮語話者の外国語の発音に問題がある場合、外国語の効果的な発音教育方法と関連した議論をすべきで、外来語表記法を使用して問題を解決しようとすべきではない[1]

特徴[編集]

朝鮮語固有の表記によるの特徴は以下のとおりである。

  • 現地に該当する国で使う言語表記を使うことを原則とする(特にアメリカやイギリス等の英語園の国)。例:노스캐롤라이나주(ノースカロライナ州)
  • 濃音, , , )と激音(, , , )が対立しない言語の場合は、激音を使用して表記する。
  • , , の後は、[j]音を含む二重母音を使用しない[2]。(英語の'chalk'は「쵸크」と書かず「초크」とする)

現行外来語表記法の構成[編集]

第1章「表記の基本原則」[編集]

  • 第1項:外来語は朝鮮語の現用24字母のみ使用する
  • 第2項:外来語の1音韻は原則として1文字とする
  • 第3項:パッチムは「, , , , , , 」のみを使う
  • 第4項:破裂音表記は濃音化しないことを原則とする[3]
  • 第5項:既に定着している外来語は慣用表記を尊重するが、その範囲は用例と別に定める

第2章「表記一覧表」[編集]

他の言語の音韻を朝鮮語の音韻に対応させて整理した表である。表1は、他の表の基礎となるものであり、その他の表で規定されていない外国語を表記する際の基本原則ともなる。表2以降は主要な個別言語のアルファベット類とハングルをそれぞれ対照させたもので、以下18言語が規定されている。

第3章で規定がある英独仏語は、第2章の表はなく、表1の規定に基づくことを原則とする。

第3章「表記細則」[編集]

字母など以外に、ハングル表記の際に書く言語の状況に合わせて詳細規定を定めたものである。現在以下21の節でここの言語別に分類されている。第2章で扱っている言語は、英独仏語と第2章に対照表がある言語である。

  • 第1節:英語の表記
  • 第2節:ドイツ語の表記
  • 第3節:フランス語の表記
  • 第4節:スペイン語の表記
  • 第5節:イタリア語の表記
  • 第6節:日本語の表記
  • 第7節:中国語の表記
  • 第8節:ポーランドの表記
  • 第9節:チェコ語の表記
  • 第10節:セルビア・クロアチア語の表記
  • 第11節:ルーマニア語の表記
  • 第12節:ハンガリー語の表記
  • 第13節:スウェーデン語の表記
  • 第14節:ノルウェー語の表記
  • 第15節:デンマーク語の表記
  • 第16節:マレー・インドネシア語の表記
  • 第17節:タイ語の表記
  • 第18節:ベトナム語の表記
  • 第19節:ポルトガル語の表記
  • 第20節:オランダ語の表記
  • 第21節:ロシア語の表記

第4章「人名、地名表記の原則」[編集]

人名と地名を表記するときの詳細規則を定めたものである。現行の規定は、以下の3節で構成される(以下、漢字が関係するものについては、太字を原音由来のハングル表記とする)。

  • 第1節「表記原則」
表記原則
  • 第1項: 外国の人名、地名の表記は、第1章~3章の規定に従うことを原則とする。
  • 第2項:第3章に含まれていない言語圏の人名・地名は現地音に従うことを原則とする。
  • Ankara - 앙카라(トルコ語)
  • Gandhi - 간디(インド英語)
  • 第3項:現地音ではなく、第3国の発音で通用しているものは、慣用に従う。
    • Den Haag - 헤이그(英名The Hagueに由来)
    • Caesar - 시저(英語読みに由来)
  • 第4項:固有名詞の翻訳名が通用する場合は、慣用に従う。
    • 第2節「東洋の人名・地名表記」
    東洋の人名・地名表記
    • 第2項:中国語の歴史地名として現在使われていないものは韓国式の漢字読みにし、現代でも通用する地名は中国語音を転記するが、必要に応じて漢字を併記する。
    • 臨渝关 - 린위관ではなく임유관
    • 山海关 - 산해관ではなく산하이관
    • 第3項:日本の人名と地名は、時代に関係なく仮名発音をそのまま転記することを原則とし、必要に応じて漢字を併記する。
    • 豊臣秀吉 - 풍신수길ではなく도요토미 히데요시
    • 大阪市 - 대판시ではなく오사카 시
    • 第4項:中国と日本の地名のうち、漢字を朝鮮語読みする慣用があるものは、そのように読んでも良い。
    • 東京 - 도쿄と동경
    • 京都 - 교토と경도
    • 上海 - 상하이と상해
    • 台灣 - 타이완と대만
    • 黃河 - 황허と황하
    • 対馬 - 대마도と쓰시마
    • 第3節「海、島、川、山などの表記細則」
    海、島、川、山などの表記細則
    • 第1項:「海」「島」などが外来語に続く際は分かち書きをし、朝鮮語に続く際は一単語とする。
  • 第2項:「海」は全て'해'で統一する。
  • 第3項:韓国国内以外の「島」は全て'섬'で統一する。
    • 漢字使用地域で地名に海、島、川、山などを意味する語がそのまま含まれている場合でも、 「강」、「산」、「호」、「섬」を続ける。
    • 第5項:地名そのものに「山脈」「山」「川」などの意味が含まれているものは「산맥」「산」「강」などを続ける。

    外来語用例の表記原則[編集]

    外来語用例の表記原則(외래어 표기 용례의 표기 원칙)は、1986年の外来語表記法が制定された後に発刊された「外来語表記用例集(地名・人名)」、追伸欄に細則という形で上乗せされた規則である。この内第6章 - 9章に関しては、実際の国立国語院で外来語の単語を審査するときに適用されるため、以上の外来語表記法に準ずる地位を有している。そのため国立国語院のウェブページでは、これらの章を外来語表記法とともに紹介し、この規定が設けられた後に改正された外来語表記法とずれる場合は「※」の表示をして混乱を避けるようにしていた。

    現在、国立国語院のページ上に同規則は公開されていないが、用例集においては現在も規則に準拠して表記されている。

    8章と9章に関しては、ヨーロッパで古典語の地位を確立された2言語に関する規定である。いずれも現代言語として通用するもの[8]だが、古典語としての地位のために古代語の音韻を無視できない状況にある。そのため8章と9章では古代語、現代語それぞれの音韻、そして韓国での表記習慣の三者に妥協を見て定められた臨時の規定である[9]

    関連項目[編集]

    脚注[編集]

    1. ^ 新しい国語ニュース2002年3月号:外来語表記法の理解-英語の発音"ハンマー"は外来語表記法か?
    2. ^ 「ㅈ、ㅊ」のあとに二重母音を使わないでください, 「쥬스」は誤った表記?
    3. ^ この原則は、 摩擦音破擦音の表記にも適用されている。
    4. ^ 外来語用例の表記原則 第6章「表記の原則」(ウェブアーカイブ)
    5. ^ 外来語用例の表記原則 第7章「その他言語表記の一般原則」(ウェブアーカイブ)
    6. ^ 外来語用例の表記原則 第8章「ラテン語の表記原則」[リンク切れ]
    7. ^ 外来語用例の表記原則 第9章「ギリシャ語の表記原則」[リンク切れ]
    8. ^ ここでいうラテン語の「現代語」とは、現在バチカンなどで使用する音韻体系を基準とする。 この「現代ラテン語」は、現代イタリア語の音韻体系と、字母の音韻対応方式に準じて発音される。
    9. ^ 臨時と言われるのは、この規定に基いてギリシャ語やラテン語をハングルで表記した場合、古代語と現代語のどちらの発音も正確に転写できない場合が発生するという問題があるためである。 代表的な例として、カエサルの名言である「Veni、Vidi、Vici」(来た、見た、勝った)を挙げることができる。 古代ラテン語では「ウェニ、ウィディ、ウィキ」に近い発音を、現代のバチカンで使用する発音では「ヴェニ、ヴィディ、ヴィチ」に近い発音をする。しかしこの規定に従う場合「ヴェニ、ヴィディ、ヴィキ」になって両方と異なるようになってしまう。

    外部リンク[編集]