モータリック

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モータリック[1]Motorik)は、クラウトロック・バンドによって愛用され、クラウトロック・バンドの音楽と深く関連付けられている4/4ビートのことである。

解説[編集]

音楽ジャーナリストによって造られたこの用語は、ドイツ語で「運動スキル (motor skill)」を意味している。モータリック・ビートは、ドイツの実験的ロック・バンド、カンのドラマー、ヤキ・リーベツァイトによって開拓された[2][3][4][5]ノイ!クラウス・ディンガーはモータリック初期におけるもう一人の先駆者であり、後にそれを「アパッチ・ビート (Apache Beat)」と呼んだ[6]。モータリックのビートはクラフトワークの「Autobahn」の1セクションで聴くことができるが、この曲はまさにこの体験を祝うために作られたような曲である[7]。この曲は、ノイ!のセルフタイトル・アルバム『ノイ!』収録の「Hallogallo」でも全編を通して聴くことができる[8]

一部の音楽評論家は、モータリックのスタイルはベートーヴェンロッシーニの音楽と同様の前進する勢いの感覚を伝え、ジャズのリズミカルなドラム演奏に似ていると考察した[9]。彼らは、それが当初から「産業近代の栄光」を呼び起こしたと述べた[9]

モータリックのビートは4/4拍子で、適度なテンポになっている。このパターンが、曲全体の各小節で繰り返される。スプラッシュまたはクラッシュ・シンバルが、ヴァースやコーラスの最初の小節で叩かれることがよくある。クラウス・ディンガーは、これが「まさに人間のビートだ」と強調し、「本質的には人生について、どのように動きを保持し、走り続け、動き続けなければならないかということについてのものだ」と付け加えた[10]。基本的なパターンは次のとおり。

Staff notation showing the motorik drum beat

語源[編集]

音楽ジャーナリズムにおけるこの言葉の使用は、容赦ないオスティナートのリズムを表すために音楽評論家によって長い間使われてきた用語「モーターリック (motoric)」をもじって改変したもの[9]、または単に「モーター (motor)」と「音楽」(ドイツ語で「ムジーク (musik)」)の組み合わせに由来している可能性がある[11]。さらに、モータリックはドイツ語で運動能力を意味している。この名称は、反復的でありながら前進するリズムの感覚に由来しているのかもしれない。これは高速道路 (motorway)での運転体験に喩えられている[12]

応用[編集]

ヴェルヴェット・アンダーグラウンドのドラマー、モーリン・タッカーのドラム・スタイルは、音楽評論家のクリス・ジョーンズによって特に「プロト・モーターリック」と特徴づけられている[13]。ドイツのクラウトロック・バンドとは別に、モータリック・ビートはさまざまなジャンルのバンドによって使用されており、サイケデリック・ロックポストパンクインディー・ロック、および現代の非ドイツの「クラウトロック」バンドに最も多く使用されている。モータリック・ビートは、ケニー・モリスとバッジーというドラマーたちの関与により、スージー・アンド・ザ・バンシーズの音楽におけるもち味とされる特徴となった[14][15]。その他の著名なアーティストには、ジョイ・ディヴィジョン、ビーク、ザ・ウォー・オン・ドラッグス、エレクトラレーン、ザ・ラプチャーLCDサウンドシステムキング・ギザード&ザ・リザード・ウィザード、シー・オー・シーズ、モダン・ラヴァーズイギー・ポップパブリック・イメージ・リミテッドウルトラヴォックスステレオラブヨ・ラ・テンゴ、エンドレス・ブギー、アイドルズ、ムーン・デュオ[16]、そしてサム・フェンダーのドラマーであるドリュー・マイケルなどがいる[17][18]

脚注[編集]

  1. ^ モトリック」の表記もある。
  2. ^ Adelt, Ulrich (2016). Krautrock: German Music in the Seventies. University of Michigan Press. p. 18. ISBN 978-0-472-05319-3 
  3. ^ Savage, Mark (2017年1月23日). “Jaki Liebezeit: Can drummer dies aged 78”. BBC News. https://www.bbc.co.uk/news/entertainment-arts-38716464 2017年1月26日閲覧。 
  4. ^ Millions, Kid (2017年1月23日). “Love Time: Remembering Can Drummer Jaki Liebezeit's Otherworldly Groove”. Rolling Stone. https://www.rollingstone.com/music/features/remembering-can-drummer-jaki-liebezeits-otherworldly-groove-w462423 2017年1月26日閲覧。 
  5. ^ Spice, Anton (2017年1月22日). “Can drummer Jaki Liebezeit has died aged 78”. The Vinyl Factory. http://thevinylfactory.com/news/can-drummer-jaki-liebezeit-dies/ 2017年1月26日閲覧。 
  6. ^ Kopf, Biba (2002年). “Klaus Dinger interview transcript (2001)”. The Wire. 2017年1月26日閲覧。
  7. ^ Albiez, Sean; Pattie, David (2011). Kraftwerk: Music Non-Stop. UK: Continuum. p. 102. ISBN 978-1-4411-9136-6. https://books.google.com/books?id=ZVDVrWyAk2YC&pg=PA102 
  8. ^ Taylor, Steve (2006). The A to X of Alternative Music. UK: A&C Black. p. 160. ISBN 978-0-8264-8217-4. https://books.google.com/books?id=KPOsu8JOHO8C&pg=PA160 
  9. ^ a b c Bottà, Giacomo (2020). Deindustrialisation and Popular Music: Punk and Post-Punk in Manchester, Düsseldorf, Torino and Tampere. Finland: Rowman & Littlefield. p. 48. ISBN 978-1-7866-0738-6. https://books.google.com/books?id=cejkDwAAQBAJ&pg=PA48 
  10. ^ Klaus Dinger: Pioneer of the 'motorik' beat”. Independent.co.uk (2008年4月9日). 2023年8月27日閲覧。
  11. ^ Buckley, David (2015). Kraftwerk: Publikation. UK: Omnibus Press. p. 86. ISBN 978-1-7832-3618-3. https://books.google.com/books?id=JroSCgAAQBAJ&pg=PT86 
  12. ^ Jurek, Thom. “Neu! — Neu!”. AllMusic. en:All Media NetworkAll Media Network. 2018年8月29日閲覧。
  13. ^ Chris Jones (21 June 2007). Review of "The Velvet Underground & Nico" for the BBC. Retrieved 20 October 2007.
  14. ^ Gillespie, Bobby (2021). Tenement Kid: Rough Trade Book of the Year. UK. ISBN 978-1-4746-2209-7. https://books.google.com/books?id=ydchEAAAQBAJ&pg=PA112 
  15. ^ “Siouxsie And The Banshees: 'We were losing our minds'” (英語). Uncut. (2014年10月24日). オリジナルの2022年9月24日時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/Q4cHm 2022年9月24日閲覧。 
  16. ^ Arizuno, Lee (2009年5月22日). “Motorikpop: A Secret History Spotified” (英語). The Quietus. オリジナルの2012年7月28日時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/ZGLd 2022年9月24日閲覧。 
  17. ^ Petridis, Alexis (2021年10月7日). “Sam Fender: Seventeen Going Under review − music that punches the air and the gut” (英語). The Guardian. オリジナルの2021年11月20日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20211120100349/https://www.theguardian.com/music/2021/oct/07/sam-fender-seventeen-going-under-review-polydor 2022年8月3日閲覧. "clipped and taut, equal parts motorik beat" 
  18. ^ Merrick, Hayden (2021年10月22日). “Middle England Woes and Glistening Guitars Collide on Sam Fender's 'Seventeen Going Under'”. PopMatters. オリジナルの2022年8月26日時点におけるアーカイブ。. https://archive.today/eoZXW 2022年9月24日閲覧. "Here, again, is the driving motorik beat that doesn't let up" 

外部リンク[編集]