タックス・ヘイヴン

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タックス・ヘイヴン英語: tax haven)とは、一定の課税が著しく軽減、ないしは完全に免除される国や地域のことである。低課税地域(ていかぜいちいき)、租税回避地(そぜいかいひち)とも呼ばれる[1]

フランス語では パラディ・フィスカルフランス語: paradis fiscal)といい、これは「税の(fiscal)天国/楽園(paradis)」という意である。ドイツ語などでも同様の言い方をする。しかし、英語の「タックスヘイブン」の haven は「避難所」の意であり、heaven天国)の意味ではない。

概説[編集]

2007年版タックス・ヘイヴン指定地域 "Stop Tax Haven Abuse Act", US Congress.

タックス・ヘイヴンは、税制上の優遇措置を、域外の企業に対してとっている国または地域のことである[2]。 世界の資本主義の崩壊を招くような悪影響をもたらす存在となっている。

良く知られているタックス・ヘイブンの場所[編集]

代表的な場所としては、イギリスケイマン諸島バージン諸島といったカリブ海島国が挙げられる。なお、ケイマン諸島の外国資本企業法人税減免システムは、実は宗主国イギリスであるシティ・オブ・ロンドンの課税システムを「そのまま導入した」ことに由来する[3][4]
アメリカ合衆国デラウェア州も「租税回避地」として広く知られている。人間の居住者よりも多くの企業(公開・非公開)が存在しており、2016年4月の集計では、人口89万7934人に対し、企業数は94万5326社も存在し「法人税制やLLCの税制から判断すると、世界最悪のタックス・ヘイヴンである」とニューズウィークが指摘している[5]
デラウェア州が租税回避地になったのは19世紀末で、州は1社あたり年300ドルを得て、約4割がペーパーカンパニー立地に絡む歳入である[6]。デラウェア州ウィルミントン市北オレンジ通り1209番地にある2階建てのビルに31万社が存在し[7]、ペーパーカンパニーの代表名義弁護士等が多く、設立に実質所有者の情報は不要で州も把握できず、秘匿性が高い[6]

資金洗浄とタックス・ヘイブン[編集]

さらに、一部のタックス・ヘイヴンには、本国からの取締りが困難だという点に目を付けた、暴力団マフィアの資金や第三国からの資金が大量に流入しているといわれている(マネーロンダリング)。2007年世界金融危機では、金融取引実態が把握しにくいことが災いし損失額が不明瞭化、状況悪化を助長したとして批判されている。

タックス・ヘイブンと貧富格差の拡大[編集]

ドイツGDPとタックス・ヘイヴン下の資産総額の比率。タックスヘイブンへ逃げた資産の比率が次第に大きくなってきている。[8] The "Big 7" shown are Hong Kong, Ireland, Lebanon, Liberia, Panama, Singapore, and Switzerland.

1%の富裕層が世界の富の50%を所有する(オックスファム・アメリカ(NPO))といわれる格差が拡大している状況下で、2016年5月に公表された『パナマ文書』は、資本主義国に対し、逆進性の高い間接税(消費税)の増税ではなく、多国籍企業・富裕層の巨額の国際金融取引に課税する方向への発想の転換を求めている。

また資本主義各国は法人税切り下げ競争をやっている時ではなく、タックスヘイブンに逃げる巨額資産が格差を加速度的に広げ、安定的な経済社会運営を行うために税制によって、所得格差を縮小させるという、本来の税制機能を破壊しており、これを是正できるか否かは、資本主義が維持できるか否かに等しい、深刻かつ重大な課題である。(青山学院大学学長 租税法専門家 三木義一)

金融取引とタックス・ヘイブン[編集]

国際金融取引を活発化させる目的で、一定の減税措置や外国資本企業は登記費用のみで、法人税がかからない会社設立方法・通貨決済方法が設けられることは珍しいことではない。

現代の国際金融取引においては、租税負担の軽減を目的として、多くの資金がタックス・ヘイヴンを経由して動いており、もはやタックス・ヘイヴンは企業の競争力維持のために必要不可欠な存在であるという利用者側の論理があるが、タックスヘイブンがブラックボックスである限り、公正な企業活動が行われているか、非利用者側からの検証も利用者側からの実証も共に不可能である。

その一方で、税率の低い国や地域に実体のない子会社を設け、利益を移して税負担軽減を狙う目的に使う企業も少なくない。このため、タックス・ヘイヴンを利用した租税回避スキームに対して主要国各国は、いわゆるタックス・ヘイヴン対策税制を整備して、これに対抗しようとしているものの、税の抜け穴の根絶にはほど遠い状況である。それというのも、国際決済機関クリアストリームの2000年度口座リストによれば、タックスヘイブンにある欧州・米国の大銀行を中心とする口座の大半が、機関内の匿名口座になっていたのである。

判定と対策[編集]

タックス・ヘイヴンはいくつかの方法で認定されている。

以下ではとりあえず経済協力開発機構 (OECD) や日本のタックス・ヘイヴンの基準を示す。

OECDによる判定とリスト掲載[編集]

経済協力開発機構 (OECD) では、下記(イ)に当てはまり、かつ下記(ロ)の (a) - (c) のいずれか一つでも該当する非加盟国・地域を「タックス・ヘイヴン」と認定し、有害税制リストに載せている。

  • (イ) 金融・サービス等の活動から生じる所得に対して無税としている又は名目的にしか課税していないこと。
  • (ロ)
    • (a) 他国と実効的な情報交換を行っていないこと。
    • (b) 税制や税務執行につき透明性が欠如していること。
    • (c) 誘致される金融・サービス等の活動について、自国・地域において実質的な活動がなされることを要求していないこと。

OECDによる対策[編集]

OECDはG20加盟国とともに、国際的な取り組みとしてこうした政策をさらに広げようとする方針にある。[9]

  • 導入済み:日本、アメリカ合衆国、英国、ドイツ、中国、韓国

2013年、15のアクションプランを特定した2013年の「BEPS行動計画」を発表。(BEPS=税源の侵食と利益移転、Base Erosion and Profit Shifting)これは、越境活動に影響を及ぼす国内ルールへの整合性導入、課税と経済活動及び価値創出との一致を確保するための既存の国際基準における実体要件の強化、企業・政府の透明性及び確実性の改善という3つの指針をもつ。OECD租税委員会が立ち上げたプロジェクトで、外国子会社に対する合算税制の強化、租税条約濫用の防止などの行動計画を持つ。

2015年8月13日、OECDG20加盟国40カ国余りが、タックス・ヘイヴンを利用した企業の過度な節税策を防ぐ税制を全面的に導入していく見通しとなった。既に日米英が採用している課税の仕組みをインド、オランダ、スイスなど10カ国以上が導入する方針。また、加盟国以外の国にも導入を促していく方針だが、シンガポールマレーシアなどは税制優遇策を企業誘致戦略の重要な柱と位置づけているため、今後応じるかどうかは不明であり、今回の税制導入後の抜け道となる可能性がある[10]

2015年10月、上記方針にのっとり、OECDは国際租税ルール改革に関する措置の最終パッケージを提示した。 BEPSによる税収の損失を、「控えめに見積もっても年間1,000~2,400億米ドル、世界全体の法人税収の4~10%に達する」と推計。また「開発途上国では税収の多くの部分を法人税収により依存している現状に鑑みると、BEPSが開発途上国に与える影響は特に大きい」とあらためて問題提起した。そのうえで、1世紀間中に、最も抜本的な措置として、二重非課税に終止符を打ち、課税と経済活動及び価値創出との一致を促すことで、BEPSを引き起こしているタックスプランニングの仕組みを無効化することを目指すと発表した [11]。 なおBEPSは各国への勧告という形式であり、法的拘束力はない。

各国政府による対策[編集]

タックスヘイヴンを用いた租税回避について、多くの国や地域ではその対抗策を講じようとしている。

例えば、日本の場合、租税特別措置法40条の4および66条の6においてタックス・ヘイヴン対策税制が規定されており、居住者または内国法人が外国に有する関係法人のうち所得課税の実効税率が20%未満であるものについて、その所得を当該居住者または内国法人の収益とみなすこととしている。1978年度に導入した。

アメリカ合衆国オバマ政権は2008年の世界金融危機後、国外のスイスの銀行に秘密口座の情報開示を迫るなど強硬姿勢を取ってきたが、国内の会社法など関係法制は国ではなく州の権限であり、デラウェア州に制度改正を強いることはできず、オバマ大統領は2016年5月6日の記者会見で、銀行など金融機関に実質的所有者の情報把握を求める案について議会の協力を呼びかけた[6]

対策の進捗状況[編集]

  • OECD国際フォーラム調査による国際的に認められている税基準の実施状況に関する進捗レポート[12] ===

以下はOECDの発表による。


国際的に認められている税基準を約束したが、実施が十分でない国・地域[編集]

タックスヘイヴン[編集]
その他の金融センター[編集]
(参考)当初、国際的に認められている税基準を約束しなかった国・地域(現在は約束)[編集]
  • コスタリカ/Costa Rica
  • マレーシア(ラブアン)/Malaysia(Labuan)
  • フィリピン/Philippines
  • ウルグアイ/Uruguay

タックス・ヘイヴン・リスト(2000年6月付)[編集]

非協力的タックス・ヘイヴン・リスト(2002年4月18日付)[編集]

  • アンドラ
  • リベリア
  • リヒテンシュタイン
  • マーシャル諸島
  • モナコ
  • ナウル
  • バヌアツ

非協力的タックス・ヘイヴン・リスト(2009年4月2日付)[編集]

2000年6月以前に2005年までの有害税制除去を約束した国・地域[編集]

香港[編集]

香港は、まず法人税が17.5%と安い。また、銀行預金については利子に課税されない[13]。有価証券等の含み益、つまりキャピタルゲインも非課税である[14]

日本とタックス・ヘイブン[編集]

軽課税国とは、日本から見た場合に定められる基準税率(20%)を下回る場合に該当するものである。例としてはシンガポール(法人税率17%)などが当てはまる。 この税制による徴税は、日本における二重課税ではなく、対象国と日本の税率の差異に相当する額に対して追加課税される仕組みである。この時対象となる課税所得は、日本法人の株式保有割合に対応する部分であり、対象国の所得を日本でのものとみなして日本で合算課税することとなる[15]。なお2010年度の税制改正によって、地域統括会社に対してはタックス・ヘイヴン対策税制の適用要件が緩和されている[16]

2015年1月19日に日本経済新聞が「海外の口座情報監視」と報道、日本国政府は日本に居住しながら、海外に隠し資産を持つ「富裕層による租税回避の監視」を強化する方針を出した[17]。40カ国を超す税務当局と連携して、日本に住む人が海外に持つ預金などの口座情報を捕捉し、2018年から個人番号と連動して国税庁に集約させるものである。ケイマン諸島など英領の租税回避地(タックスヘイブン)の協力も得る。国境を越えた税逃れに国際連携で対抗する。

パナマ文書(タックス・ヘイブンの利用者を明らかにした文書)には、日本の個人として楽天の三木谷浩史、セコムの飯田亮、UCC上島珈琲の上島豪太などの名が掲載されていた[18]。企業としては、世界的な規模で活動する商社、郵船会社、アパレル会社、通信会社、玩具会社、音楽配信企業 等々企業名が掲載されている[19]

参考文献[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 日本経済新聞ブルームバーグを始め、多くの日本語メディアでは「タックスヘイヴン(租税回避地)」との記載が一般的である
  2. ^ デジタル大辞泉
  3. ^ “租税回避マネー”を追え ~国家vs.グローバル企業~ | NHK クローズアップ現代
  4. ^ タックス・ヘイヴンの位置としては、国際金融取引の中継地として利用されることを主眼に置いた、それ自体は特に主要な産業のない地域が想定される。[要出典]
  5. ^ ルーシー・クラーク・ビリングズ (2016年4月12日). “世界最悪のタックスヘイブンはアメリカにある” (日本語). ニューズウィーク日本語版. http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/post-4888_2.php 2016年6月29日閲覧。 
  6. ^ a b c 清水憲司 (2016年6月7日). “トランプ氏、クリントン氏も活用 米国の「租税回避地」”. 毎日新聞. http://mainichi.jp/premier/business/articles/20160602/biz/00m/010/012000c 2016年9月13日閲覧。 
  7. ^ 清水憲司 (2016年6月4日). “米デラウェア州2階建てビルで31万社租税回避の怪”. 毎日新聞. http://mainichi.jp/premier/business/articles/20160602/biz/00m/010/011000c 2016年9月13日閲覧。 
  8. ^ Shafik Hebous (2011) "Money at the Docks of Tax Havens: A Guide", CESifo Working Paper Series No. 3587, p. 9
  9. ^ EU 租税回避1兆ユーロとの闘い | BS世界のドキュメンタリー | NHK BS1
  10. ^ http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS12H2S_S5A810C1EE8000/
  11. ^ http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/oecd-presents-outputs-of-oecd-g20-beps-project-for-discussion-at-g20-finance-ministers-meeting-japanese-version.htm
  12. ^ いわゆるタックスヘイヴン・ブラックリスト。2009年5月19日付
  13. ^ 日本は20%
  14. ^ 日本は10%
    ワールド・リサーチ・ネット 『意外なツボがひと目でわかる世界地図』 青春出版社 2007年 p.52.
  15. ^ http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20140403.pdf
  16. ^ https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001006/report.pdf
  17. ^ http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS17H09_Y5A110C1MM8000/
  18. ^ [1]
  19. ^ [2]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]