タックス・ヘイヴン

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2007年版タックス・ヘイヴン指定地域 "Stop Tax Haven Abuse Act", US Congress.
ドイツGDPに占めるタックス・ヘイヴン下にある資産総額[1] The "Big 7" shown are Hong Kong, Ireland, Lebanon, Liberia, Panama, Singapore, and Switzerland.

タックス・ヘイヴン英語: tax haven)とは、一定の課税が著しく軽減、ないしは完全に免除される国や地域のことである。低課税地域(ていかぜいちいき)、租税回避地(そぜいかいひち)とも呼ばれる[2]

パラディ・フィスカルフランス語: paradis fiscal)ともいい、これはフランス語で「税の(fiscal)楽園(paradis)」の意だが、英語の haven は「避難所」の意で、heaven(楽園)とは異なる。

起源[編集]

タックス・ヘイヴンは、小さな島国など産業が発達しない国家が、国際物流の拠点となることを促進するために作った制度である。貿易の拠点となれば、定期的に寄港する船乗りなどが外貨を消費するため、海洋国家にとっては有利な方法だと考えられてきた。[要出典]

現状と課題[編集]

海外[編集]

国際金融取引を活発化させる目的で、一定の減税措置や外国資本企業は登記費用のみで法人税がかからない会社設立方法・通貨決済方法が設けられることは珍しいことではない。その意味では、世界最大の実質タックス・ヘイヴンはロンドンシティ・オブ・ロンドン金融特区であるといわれる。タックス・ヘイヴンの位置としては、国際金融取引の中継地として利用されることを主眼に置いた、それ自体は特に主要な産業のない地域が想定される。代表的な場所としては、英国領ケイマン諸島バージン諸島といったカリブ海島国が挙げられる。なお、ケイマン諸島の外国資本企業法人税減免システムは、実は宗主国英国であるシティ・オブ・ロンドンの課税システムをそのまま導入したことに由来する。[3]

一方、現代の国際金融取引においては、租税負担の軽減を目的として、多くの資金がタックス・ヘイヴンを経由して動いており、もはやタックス・ヘイヴンは企業の競争力維持のために必要不可欠な存在であると考えられている。その一方で、税率の低い国や地域に実体のない子会社を設け、利益を移して税負担軽減を狙う目的に使う企業も少なくない。このため、タックス・ヘイヴンを利用した租税回避スキームに対して主要国各国は、いわゆるタックス・ヘイヴン対策税制を整備してこれに対抗しようとしているものの、税の抜け穴の根絶にはほど遠い状況である。それというのも、国際決済機関クリアストリームの2000年度口座リストによれば、タックスヘイブンにある欧州・米国の大銀行を中心とする口座の大半が、機関内の匿名口座になっていたのである。

さらに、一部のタックス・ヘイヴンには、本国からの取締りが困難だという点に目を付けた、暴力団マフィアの資金や第三国からの資金が大量に流入しているといわれている(マネーロンダリング)。2007年世界金融危機では、金融取引実態が把握しにくいことが災いし損失額が不明瞭化、状況悪化を助長したとして批判されている。

日本[編集]

日本のタックス・ヘイヴン税制は、軽課税国に所在する関係会社を通じた課税回避に対して、海外関係会社の所得を日本の親会社の所得に合算して課税する制度を指す。軽課税国とは、日本から見た場合に定められる基準税率(20%)を下回る場合に該当するもので、例としてシンガポール(法人税率17%)などが当てはまる。 この税制による徴税は、日本における二重課税ではなく、対象国と日本の税率の差異に相当する額に対して追加課税される仕組みである。この時対象となる課税所得は、日本法人の株式保有割合に対応する部分であり、対象国の所得を日本でのものとみなして日本で合算課税することとなる[4]。なお2010年度の税制改正によって、地域統括会社に対してはタックス・ヘイヴン対策税制の適用要件が緩和されている[5]

2015年1月19日「海外の口座情報監視」と日本経済新聞が報道、日本国政府は日本に居住しながら、海外に隠し資産を持つ「富裕層による租税回避の監視」を強化する方針を出した[6]。40カ国を超す税務当局と連携して、日本に住む人が海外に持つ預金などの口座情報を捕捉し、2018年から個人番号と連動して国税庁に集約させるものである。ケイマン諸島など英領の租税回避地(タックスヘイブン)の協力も得る。国境を越えた税逃れに国際連携で対抗する。

定義[編集]

タックス・ヘイヴンの明確な定義はない。アメリカ合衆国デラウェア州の法人税制やLLCの税制から判断すると、アメリカが世界で最も悪質なタックス・ヘイヴンである、と唱える者もいる。デラウェア州の法人制度や税制は、世界中のタックス・ヘイヴンのモデルとなっており、それ以前にタックス・ヘイヴンを実現可能な制度・税制は、世界に存在しなかった。また、デラウェア州は北米で最もキャッシュフローが巨額なタックス・ヘイヴンでもある。

独立国家の制度・税制に他国がとやかく言うのは、内政干渉であるという説もある。タックス・ヘイヴンと呼ぶこと自体が、差別的あるいは内政干渉であるという意見も存在する。産業がグローバル化する中で、各国の税制対策を巡って国・地域を超えて議論が行われている。以下では例として、経済協力開発機構 (OECD) と日本のタックス・ヘイヴンの基準を示す。

OECDによる活動[編集]

規定[編集]

経済協力開発機構 (OECD) では、下記(イ)に当てはまり、かつ下記(ロ)の (a) - (c) のいずれか一つでも該当する非加盟国・地域を「タックス・ヘイヴン」と認定し、有害税制リストに載せている。

  • (イ) 金融・サービス等の活動から生じる所得に対して無税としている又は名目的にしか課税していないこと。
  • (ロ)
    • (a) 他国と実効的な情報交換を行っていないこと。
    • (b) 税制や税務執行につき透明性が欠如していること。
    • (c) 誘致される金融・サービス等の活動について、自国・地域において実質的な活動がなされることを要求していないこと。

対策[編集]

OECDはG20加盟国とともに、国際的な取り組みとしてこうした政策をさらに広げようとする方針にある。[7]

  • 導入済み:日本、アメリカ合衆国、英国、ドイツ、中国、韓国

2013年、15のアクションプランを特定した2013年の「BEPS行動計画」を発表。(BEPS=税源の侵食と利益移転、Base Erosion and Profit Shifting)これは、越境活動に影響を及ぼす国内ルールへの整合性導入、課税と経済活動及び価値創出との一致を確保するための既存の国際基準における実体要件の強化、企業・政府の透明性及び確実性の改善という3つの指針をもつ。OECD租税委員会が立ち上げたプロジェクトで、外国子会社に対する合算税制の強化、租税条約濫用の防止などの行動計画を持つ。

2015年8月13日、OECDG20加盟国40カ国余りが、タックス・ヘイヴンを利用した企業の過度な節税策を防ぐ税制を全面的に導入していく見通しとなった。既に日米英が採用している課税の仕組みをインド、オランダ、スイスなど10カ国以上が導入する方針。また、加盟国以外の国にも導入を促していく方針だが、シンガポールマレーシアなどは税制優遇策を企業誘致戦略の重要な柱と位置づけているため、今後応じるかどうかは不明であり、今回の税制導入後の抜け道となる可能性がある[8]

2015年10月、上記方針にのっとり、OECDは国際租税ルール改革に関する措置の最終パッケージを提示した。 BEPSによる税収の損失を、「控えめに見積もっても年間1,000~2,400億米ドル、世界全体の法人税収の4~10%に達する」と推計。また「開発途上国では税収の多くの部分を法人税収により依存している現状に鑑みると、BEPSが開発途上国に与える影響は特に大きい」とあらためて問題提起した。そのうえで、1世紀間中に、最も抜本的な措置として、二重非課税に終止符を打ち、課税と経済活動及び価値創出との一致を促すことで、BEPSを引き起こしているタックスプランニングの仕組みを無効化することを目指すと発表した [9]。 なおBEPSは各国への勧告という形式であり、法的拘束力はない。

各国政府による対策[編集]

タックスヘイヴンを用いた租税回避について、多くの国や地域ではその対抗策を講じようとしている。

例えば、日本の場合、租税特別措置法40条の4および66条の6においてタックス・ヘイヴン対策税制が規定されており、居住者または内国法人が外国に有する関係法人のうち所得課税の実効税率が20%以下であるものについて、その所得を当該居住者または内国法人の収益とみなすこととしている。

なお日本は1978年度に導入した。

主なタックス・ヘイヴン一覧[編集]

いずれもOECDの発表による。

OECD国際フォーラム調査による国際的に認められている税基準の実施状況に関する進捗レポート[10][編集]

国際的に認められている税基準を約束したが、実施が十分でない国・地域[編集]

タックスヘイヴン[編集]
その他の金融センター[編集]
(参考)当初、国際的に認められている税基準を約束しなかった国・地域(現在は約束)[編集]
  • コスタリカ/Costa Rica
  • マレーシア(ラブアン)/Malaysia(Labuan)
  • フィリピン/Philippines
  • ウルグアイ/Uruguay

タックス・ヘイヴン・リスト(2000年6月付)[編集]

非協力的タックス・ヘイヴン・リスト(2002年4月18日付)[編集]

  • アンドラ
  • リベリア
  • リヒテンシュタイン
  • マーシャル諸島
  • モナコ
  • ナウル
  • バヌアツ

非協力的タックス・ヘイヴン・リスト(2009年4月2日付)[編集]

2000年6月以前に2005年までの有害税制除去を約束した国・地域[編集]

香港[編集]

香港は、まず法人税が17.5%と安い。また、銀行預金については利子に課税されない[11]。有価証券等の含み益、つまりキャピタルゲインも非課税である[12]

脚注[編集]

  1. ^ Shafik Hebous (2011) "Money at the Docks of Tax Havens: A Guide", CESifo Working Paper Series No. 3587, p. 9
  2. ^ 日本経済新聞ブルームバーグを始め、多くの日本語メディアでは「タックスヘイヴン(租税回避地)」との記載が一般的である
  3. ^ “租税回避マネー”を追え ~国家vs.グローバル企業~ | NHK クローズアップ現代
  4. ^ http://www.bk.mufg.jp/report/insasean/AW20140403.pdf
  5. ^ https://www.jetro.go.jp/ext_images/jfile/report/07001006/report.pdf
  6. ^ http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS17H09_Y5A110C1MM8000/
  7. ^ EU 租税回避1兆ユーロとの闘い | BS世界のドキュメンタリー | NHK BS1
  8. ^ http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS12H2S_S5A810C1EE8000/
  9. ^ http://www.oecd.org/tokyo/newsroom/oecd-presents-outputs-of-oecd-g20-beps-project-for-discussion-at-g20-finance-ministers-meeting-japanese-version.htm
  10. ^ いわゆるタックスヘイヴン・ブラックリスト。2009年5月19日付
  11. ^ 日本は20%
  12. ^ 日本は10%
    ワールド・リサーチ・ネット 『意外なツボがひと目でわかる世界地図』 青春出版社 2007年 p.52.

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

参考文献[編集]