液状化現象
液状化現象(えきじょうかげんしょう)は、地震の際に、地下水位の高い砂地盤が振動により液体状になる現象。これにより比重の大きい構造物が埋もれ、倒れたり、地中の比重の小さい構造物(下水管等)が浮き上がったりする。ゆるく堆積した砂質土層では、標準貫入試験で得られるN値が10程度以下と小さい場合が多い。一般に、液状化現象が生じるかどうかは、FL値、液状化の程度はDcyやPL値などの指標を用いて判定する。単に液状化(えきじょうか、英: liquefaction)[1]ともいう。
なお、この現象は日本国内では新潟地震の時に注目されたが、当時はまだ「液状化現象」の言葉は使われておらず、行政やマスコミは「流砂現象」という言葉を使っていた[要出典]。
概要
実際は、地表付近の含水状態の砂質土が、地震の震動により固体から液体の性質を示すことにより、上部の舗装や構造物などが揚圧力を受け破壊、沈み込みを起こすものである。「流砂」とも呼ばれていた。
発生する場所は砂丘地帯や三角州、港湾地域の埋め立て地などがほとんどであるが、近年の研究では、旧河川跡や池跡や水田跡なども発生しやすい地質であることが分かってきた。近年、都市化で該当地域が多いことで被害拡大の影響が懸念される。
1964年6月16日に発生した新潟地震の際、信濃川河畔や新潟空港などでこの現象が発生したことから国内でも知られるところとなる。また同年に発生したアラスカ地震でも液状化による被害が発生し、これ以降土質力学の分野で活発に研究が行われるようになった。
東京都心部は、河口に位置する上、埋め立て地が多く存在することから、大地震の発生時には大規模な液状化現象が各所で発生し、建物の倒壊や堤防の破堤による浸水など大きな被害が発生するものと考えられている。現在、液状化現象の発生危険箇所をとりまとめたハザードマップが整備されており、堤防の補強などの措置が図られている。
ライフラインの被害も懸念され、ガス管はポリエチレン化が進んでいる(2011年3月時点で京葉ガスが90%[要出典])。一方、下水道管は耐震化が困難で、回復も遅いため、居住困難な状態が継続する場合がある(2011年の東日本大震災での福島第一原子力発電所免震棟、Jヴィレッジ、浦安市、いわき市など)。
液状化のプロセス
砂を多く含む砂質土や砂地盤は砂の粒子同士の剪断応力による摩擦によって地盤は安定を保っている。このような地盤で地下水位の高い場所若しくは地下水位が何かの要因で上昇した場所で地震や建設工事などの連続した振動が加わると、その繰り返し剪断によって体積が減少して間隙水圧が増加し、その結果、有効応力が減少する。これに伴い剪断応力が減少して、これが0になったとき液状化現象が起きる。この時、地盤は急激に耐力を失う。また、この時、間隙水圧は土被り圧(全応力)に等しい。この状態は波打ち際などで水が押し寄せるまでは足元がしっかりとしていても水が押し寄せた途端に足元が急に柔らかくなる状態に似ている。また、雨上がりの地面を踏み続けると、地面に水が吹き出てくる状態にも似ていると言える。
地震や建設工事などで連続した振動が砂地盤等に加わると前記の液状化現象が生じる場合があり、地盤は急激に支持力を失う。建物を地盤に固定する基礎や杭の種類は地質や土地の形質に合わせて多種にわたるが礫層や岩盤等の適当な支持層に打ち込む支持杭と異なる摩擦杭等では建物を支えていた摩擦力を失い、建物が傾く不同沈下を生じる場合がある。重心の高い建物や重心が極度に偏心した建物ではより顕著に不等沈下が生じ、阪神・淡路大震災による中高層建物のように転倒・倒壊に至る場合がある。
下層の地盤が砂質土で表層を粘土質で覆った水田等で液状化が起きた場合は、液状化を起こした砂が表層の粘土を突き破り、水と砂を同時に吹き上げるボイリング(噴砂)と呼ぶ現象を起こすことがある。1964年の新潟地震では県内の各地でボイリングが観測された。
地震に伴って液状化が発生しうる地点の震央距離 R(km)とマグニチュード M の関係は、 で表すことができる[2]とされている。
側方流動
側方流動(そくほうりゅうどう、英: lateral flow、lateral spreading)は、地盤流動現象の1つで、傾斜や段差のある地形で液状化現象が起きた際に、いわゆる泥水状になった地盤が水平方向に移動する現象をいう。
側方流動には大きく分けて2つのタイプがある。1つは、地表面が1 - 2%程度のゆるい勾配になっており、地中部には液状化層が存在するものである。この場合、地盤が傾斜に沿って移動することとなる。もう1つは、護岸などに見られるタイプで、地震の揺れおよび地盤の液状化で護岸などが移動することで、後背の地盤が側方流動を引き起こすものである。
このような側方流動が発生した場合、地中構造物に多大な影響を与える。例えば、杭基礎であれば、側方流動が発生することにより杭は地盤から水平方向にせん断や曲げの力を受けることとなる。この地盤からの力が杭の耐力を超過し、杭のせん断破壊等を起こす。このため、杭基礎は上部構造物を支える事ができなくなり、場合によっては構造物の転倒などを引き起こすことにつながっていく。
発生例
日本
- 1964年6月16日 新潟地震
- 信濃川河畔や新潟空港などで発生した。
- 1995年1月17日 兵庫県南部地震(阪神・淡路大震災)
- 神戸市のポートアイランド・六甲アイランドで大規模な液状化現象の発生が確認されている。
- 2004年10月23日 新潟県中越地震
- 小千谷市や長岡市、与板町、柏崎市など、水田や湖沼を埋め立てた箇所等で液状化の発生が見られた。
- 2011年3月11日 東北地方太平洋沖地震(東日本大震災)
- 関東地方では1都6県96市町村で液状化被害が確認されている[3]。世界最大の被害になった[4]。
日本国外
- 1906年 サンフランシスコ地震
- まだ液状化という用語は用いられていなかったが、それが原因と見られる地盤変状は多く記録され、文書にまとめられている。サンフランシスコ市エンバカデロ沿いのフィッシャーマンズ・ワーフ近くの地域、サンフランシスコ湾に沿ったオークランド市を含めた埋め立て地、モンテレー湾に沿ったサンタクルーズ市とワトソンビル市と国勢調査指定地域のモスランディングなど、1989年のロマ・プリータ地震と液状化発生地域の大部分が一致している[5]。その一方で、サンフランシスコ湾南部のアラメダ・クリークとコヨーテ・クリークに沿った地域などのようにサンフランシスコ地震では大規模な液状化が発生したが、ロマ・プリータ地震では液状化が発生しなかった地域もあった[6]。全体の液状化の程度としては地域の一部が液状化しただけの83年後の地震のそれとは比較にならないほどの大規模なものになった[7]。
- 1964年 アラスカ地震
- 1985年 メキシコ地震
- メキシコシティで発生。
- 1989年 ロマ・プリータ地震
- サンフランシスコ市のマリーナ地区は地盤の液状化現象が顕著に見られた[8]。地震による被害が特に大きかった建物が集中している地区である[9]。マリーナ地区ではほとんどすべての建物が何らかの被害に見舞われた[10]。この地区の埋め立て地と砂丘砂の地域では地震動の大きさにあまり差はないが、液状化被害の程度は両者で大きく差が開いた[11]。また、同市のマーケット・ストリートの通りに沿った3つの埋め立て地のいずれの地域においても大規模な液状化現象が発生した[12]。比較的新しい埋め立て地であったサンフランシスコ・オークランド・ベイブリッジのオークランド側取り付け部でも大規模な液状化が発生し、地表面での沈下量は最大40㎝にも及んだ[13]。サンフランシスコ・ベイエリアではこの他にオークランド国際空港(西側部分)、オークランド港、アラメダ海軍航空基地、ベイファーム島、人工島のトレジャー島などで大規模な液状化が発生している[14]。また、震源南側地域ではサンタクルーズ市内、ワトソンビル市近郊のパハロ川流域、モスランディング(河川に沿った地域や太平洋沿岸)などで大規模な液状化が発生している[15]。
- 2011年 カンタベリー地震
- クライストチャーチ市で発生。
対策
以下の対策により、新しく埋め立てられた土地では液状化現象の被害が抑えることができる。
- サンドコンパクションパイル工法 - 砂を入れて突きかため柱を作り、その上に建築物を載せる(東京ディズニーランドで一番重いシンデレラ城を支えている)。
- ドレーン工法 - 柱を作り水を抜き液状化を抑え、非常時には水を逃がす。
- グラベルドレーン工法 - 砕石。
- ペーパードレーン工法 - 紙または布。
- サンドドレーン工法 - 砂。
- 地盤を薬品で固める。
- 杭(パイル) - 鉄製またはコンクリート製の杭を支持基盤(N値=50以上が望ましい)まで打ち込む(東京都内で54mという例がある)。
- 地下室を作る - 建物の比重が下がり、土の上に浮いた形になる。
- ガス管をポリエチレン製に変える。
- 建物への引き込み部分がずれに弱いので、フレキシブルにする。
- スクリュー・プレス液状化対策工法
脚注
- ^ 文部省編『学術用語集 地学編』日本学術振興会、1984年、19頁。ISBN 4-8181-8401-2。
- ^ 植竹富一ほか「1828年越後三条地震の地変等の記事について」(PDF)『歴史地震』第20号、歴史地震研究会、2005年、233-242頁、ISSN 1349-9890、NAID 40007024362。
- ^ 国土交通省 関東地方整備局 企画部 広域計画課. “東北地方太平洋沖地震による関東地方の地盤液状化現象の実態調査結果について”. 防災. 国土交通省 関東地方整備局. 2012年2月5日閲覧。
- ^ 大成建設 船原英樹 (2012年3月14日). “1.過去の地震と液状化現象”. 防災. 耐震ネット. 2016年2月21日閲覧。
- ^ 建築学会(1991年) pp.142-143
- ^ 建築学会(1991年) p.143
- ^ 磯山(1989年) p.78
- ^ 建築学会(1991年) p.99
- ^ レッドファーン(2013年) p.180
- ^ 大久保(1990年) p.34
- ^ 衣笠(1990年) p.13
- ^ 建築学会(1991年) p.132
- ^ 建築学会(1991年) p.137
- ^ 建築学会(1991年) pp.138-139
- ^ 建築学会(1991年) pp.140-142
関連項目
参考文献
- 吉見吉昭『砂地盤の液状化』(第2版)技報堂出版〈土質基礎シリーズ〉、1991年。ISBN 4-7655-1511-7。全国書誌番号:91048164。
- 若松加寿江『日本の液状化履歴マップ : 745-2008 : DVD+解説書』東京大学出版会、2011年。ISBN 978-4-13-060757-5。
- 阿部勝征(1章:pp.1-15),石丸辰治(2章:pp.16-109,5章:153-231),あべ木紀男(3章:pp.110-116),吉田望(4章:pp.117-152),木内俊明(6章:pp.232-242),大町達夫(7章:pp.243-270),亀田弘行(8章:pp.271-315),北川良和(9章:pp.316-348),村上處直(10章:pp.349-382),広井脩(11章:pp.383-433)・・・以上の各章編集責任者他多数『1989年ロマプリータ地震災害調査報告』日本建築学会、1991年。ISBN 978-4818900691。
- 磯山龍二『土木施工30巻12号「サンフランシスコ地震土木構造物の被害」(PDF)』オフィス・スペース、1989年 。
- Martin Redfern (原著),川上紳一 (翻訳)『地球-ダイナミックな惑星 (サイエンス・パレット)』丸善出版、1994年。ISBN 978-4621086681。
- 大久保泰邦『地質ニュース 1990年5月号 No.429「サンフランシスコから」(PDF)』実業公報社、1990年 。
- 衣笠善博『地質ニュース 1990年8月号 No.432「サンフランシスコ(ロマプリータ)地震」(PDF)』実業公報社、1990年 。
外部リンク
- 新潟地震対策連絡会. “液状化現象とは”. 国土交通省北陸地方整備局. 2013年8月23日閲覧。
- 神戸市 市民参画推進局 広報課. “震災記録写真集”. 阪神・淡路大震災の記録. 神戸市. 2013年8月23日閲覧。
- エンジニアが見た新潟県中越地震(長岡技術科学大学 経営情報系 情報システム計画研究室) [リンク切れ]
- “地盤の液状化と軽減技術 コース”. Webラーニングプラザ 技術者 eラーニング. 科学技術振興機構. 2013年8月23日閲覧。
- 納口恭明; 宮本浩江 (2007年3月). “感性でとらえる地盤液状化の科学おもちゃエッキー” (PDF). 防災科学技術研究所. 2013年8月23日閲覧。