フッ素

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酸素 フッ素 ネオン
-

F

Cl
外見
淡黄褐色(加圧しなければほとんど無色)

冷却した液体状態のフッ素
一般特性
名称, 記号, 番号 フッ素, F, 9
分類 ハロゲン
, 周期, ブロック 17, 2, p
原子量 18.9984032(5) 
電子配置 1s2 2s2 2p5
電子殻 2, 7(画像
物理特性
気体
密度 (0 °C, 101.325 kPa)
1.7 g/L
融点 53.53 K, −219.62 °C, −363.32 °F
沸点 85.03 K, −188.12 °C, −306.62 °F
臨界点 144.13 K, 5.172 MPa
融解熱 (F2) 0.510 kJ/mol
蒸発熱 (F2) 6.62 kJ/mol
熱容量 (25 °C) (F2)
31.304 J/(mol·K)
蒸気圧
圧力 (Pa) 1 10 100 1 k 10 k 100 k
温度 (K) 38 44 50 58 69 85
原子特性
酸化数 −1
(弱い酸性酸化物)
電気陰性度 3.98(ポーリングの値)
イオン化エネルギー 第1: 1681.0 kJ/mol
第2: 3374.2 kJ/mol
第3: 6050.4 kJ/mol
共有結合半径 57±3 pm
ファンデルワールス半径 147 pm
その他
結晶構造 cubic
磁性 nonmagnetic
熱伝導率 (300 K) 27.7 m W/(m⋅K)
CAS登録番号 7782-41-4
主な同位体
詳細はフッ素の同位体を参照
同位体 NA 半減期 DM DE (MeV) DP
18F 天然には存在しない 109.77 min β+ (97%) 0.64 18O
ε (3%) 1.656 18O
19F 100% 中性子10個で安定

フッ素(フッそ、弗素、: fluorine)は原子番号9の元素元素記号ラテン語のFluorumの頭文字よりFが使われる[1]。最も軽いハロゲン元素。また、同元素の単体であるフッ素分子(F2、二弗素)をも示す。

全元素中で最も大きな電気陰性度を持ち、化合物中では常に −1 の酸化数を取る。反応性が高いため、天然には蛍石氷晶石などとして存在し、単体では存在しない。

歴史

古くから製鉄などにおいて、フッ素の化合物である蛍石 (CaF2) が融剤として用いられた。例えば、ドイツの鉱物学者ゲオルク・アグリコラ1530年に著書「ベルマヌス」Bermannus, sive de re metallica dialogus において、蛍石を炎の中で加熱し、融解させると、融剤として適切であると記している。1670年には、ドイツのガラス加工業者のハインリッヒ・シュヴァンハルト (Heinrich Schwanhard) が蛍石の酸溶解物にガラスエッチングする作用があることに気づいた。蛍石に硫酸を加えると発生するフッ化水素1771年カール・シェーレが発見していた。未知の元素が蛍石 (Fluorite) に含まれる可能性から、フランスのアンドレ=マリ・アンペールは、未発見の新元素に fluorine と名付けた。フッ化水素塩化水素の組成がフッ素と塩素の違いだけであると、最初に主張したのはアンペールであった。彼はその後、名称を変える。ギリシア語の「破壊的な」という語から、 phthorine とした。ギリシア語ではアンペールの新名称(Φθόριο)を採用している。しかしながら、イギリスデーヴィーが fluorine を使い続けたため、多くの言語では fluorine に由来する名称が定着した。なお、日本語の「弗素」はドイツ語のFluorの音訳の1文字目から取られたものである。名称は定まったが、フッ化水素の研究は進まず、酸素を発見したラヴォアジェも単離には至らなかった。

1800年イタリアアレッサンドロ・ボルタが発見した電池が、電気分解という元素発見に極めて有効な武器をもたらした。デービーは1806年から電気化学の研究を始めると、カリウムナトリウムカルシウムストロンチウムマグネシウムバリウムホウ素を次々と単離。しかし1813年の実験では電気分解の結果、漏れ出たフッ素で短時間の中毒に陥ってしまう。デービーの能力を持ってしてもフッ素は単離できなかった。単体のフッ素の酸化力の高さゆえである。実験器具自体が破壊されるばかりか、人体に有害なフッ素を分離・保管することもできない。

アイルランドのクノックス兄弟は実験中に中毒になり、1人は3年間寝たきりになってしまう。ベルギーの Paulin Louyetとフランスのジェローム・ニクレも相次いで死亡する。1869年、ジョージ・ゴアは無水フッ化水素に直流電流を流して、水素とフッ素を得たが、即座に爆発的な反応がおきた。しかし、偶然にも怪我一つなかったという。

ようやく1886年アンリ・モアッサンが単離に成功する。白金イリジウム電極を用いたこと、蛍石をフッ素の捕集容器に使ったこと、電気分解を-50℃という低温下で進めたことが成功の鍵だった。材料にも工夫があり、フッ化水素カリウム(KHF2)の無水フッ化水素(HF)溶液を用いた。だがモアッサンも無傷というわけにはいかず、この実験の過程で片目の視力を失っている。フッ素単離の功績から、1906年のノーベル化学賞はモアッサンが獲得した。翌年、モアッサンは急死しているが、フッ素単離と急死との関係は不明である。

性質

単体は通常2原子分子の F2 として存在する。常温常圧では淡黄褐色で特有の臭い(塩素のようとも、きな臭いとも称される)をもつ気体。非常に強い酸化作用があり、猛毒。

融点 −223 ℃、沸点 −188 ℃、比重 1.11(沸点時、空気を1とする)。反応性が極めて高く、ヘリウムネオン以外の殆んどの単体元素を酸化化合物(フッ化物)を作る。

ガラスや白金さえも侵すためその性質上、単体で保存することはほとんどない。もっぱら単体よりも穏やかな化合物の状態で保存され、容器には化合物であっても侵されにくいポリエチレン製の瓶や、テフロンコーティングされた容器が用いられる。単体はフッ化水素 (HF) を電解するか、フッ化水素カリウム (KHF2) を電解することで得られる。

人体への影響

必須微量元素のひとつであると主張する学術団体がある。欠乏と過剰になる量の範囲が狭い(歯のフッ素症#食事摂取基準を参照)。フッ素のサプリメントは、日本国外では製品化されているが、日本国内での製品化は難しいと主張されることもある。主な摂取源は飲料水と動物の骨などである。

フッ素の過剰摂取は骨硬化症脂質代謝障害糖質代謝障害と関連がある(フッ素症を参照)。

フッ素の化学反応

フッ素の単体は酸化力が強く、ほとんど全ての元素と反応する。

用途

その性質上、フッ素を単体で使う場面は少なく、フッ化カルシウム (CaF2) と硫酸 (H2SO4) から生成するフッ化水素 (HF) を介して利用されることが多い。ウラン235 (235U) 濃縮のため、揮発性の高いフッ化ウラン (UF6) を製造する目的で単体フッ素が利用されることは、特筆すべき事柄である。

フッ素の化合物は、一般に極めて安定しており、長期間変質しないという特徴を持つ。この性質は環境中で分解されにくく、いつまでも残存するということを意味しており、その使用には注意が必要である。

フッ化物#利用も参照

屈折率の制御

フッ素にはガラスの屈折率を低下させる働きがあるため、光ファイバーなど通信の分野において、その屈折率制御にフッ素が使われている。

ロケット

単体のフッ素はロケット燃料酸化剤としても使われる[2]

清掃

半導体液晶の製造装置に溜まったシリコンなどのかすを除去するためにフッ素ガスが使われている。

フッ素の化合物

フッ素の化合物はフッ化物と呼ばれる。

金属のフッ化物

非金属のフッ化物

フッ素のオキソ酸

フッ素のオキソ酸は慣用名をもつ。次にそれらを挙げる。

オキソ酸の名称 化学式
(酸化数)
オキソ酸塩の名称 備考
次亜フッ素酸
(hypofluorous acid)
HFO
(−I)
次亜フッ素酸塩
( - hypofluorite)
 
  • オキソ酸塩名称の '-' にはカチオン種の名称が入る。

その他

同位体

参考文献

  1. ^ Storer, Frank Humphreys (1864). First outlines of a dictionary of solubilities of chemical substances. Cambridge. pp. 278–280 
  2. ^ 長倉三郎ら編、「フッ素」、『岩波理化学辞典』、第5版CD-ROM版、岩波書店、1999年

関連項目

外部リンク

ハロゲン間化合物
フッ素 塩素 臭素 ヨウ素 アスタチン
フッ素 F2
塩素 ClF ClF3 ClF5 Cl2
臭素 BrF BrF3 BrF5 BrCl BrCl3 Br2
ヨウ素 IF IF3 IF5 IF7 ICl I2Cl6 IBr IBr3 I2
アスタチン AtCl  AtBr  AtI At2?

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