セロ弾きのゴーシュ
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『セロ弾きのゴーシュ』(セロひきのゴーシュ)は、宮沢賢治の童話作品。
注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。
目次 |
[編集] 登場人物
- ゴーシュ
- この作品の主人公。名前はフランス語の「不器用な」という単語から来ているという説がある(他にフランス語の「カッコウ」、チェロの擬音という説もあり)。「金星音楽団」という交響楽団に所属しているが、名前の通りセロ(チェロ)の演奏が下手でいつも楽長に怒られていた。しかし夜中の動物たちとの触れ合いで次第に成長していく。
- 三毛猫
- ゴーシュの家を最初に訪れた動物。勝手に上がってきたうえゴーシュの畑から青いトマトばかり持ってきて、さらには生意気な知ったかぶりをしたので鬱憤ばらしのため、散々にいじめられる。
- かっこう
- かっこうの鳴き声のドレミファ(音階)を正確に習うためにゴーシュの家へ来た。プライドが傷ついたゴーシュに心身ともに傷つけられ、彼の後悔は後の祭りであった。
- 狸の子
- 小太鼓の係で、ゴーシュのセロに合わせてこいと言われてゴーシュの家へ来た。子狸に悪い所を指摘されても怒らず謙虚にうけとめる。
- 野鼠の親子
- 最後にゴーシュの家へ来た動物。ゴーシュはこの野鼠によって、自分のセロの演奏で動物の病気が治ると知る。この親子は戸棚のパンを失敬する泥棒であったがゴーシュは承知でパンを与える。
[編集] あらすじ
ゴーシュは町の活動写真館の楽団「金星音楽団」でセロ(チェロ)を弾く係。楽団では近く町の音楽会で演奏予定の「第六交響曲」の練習を続けていたが、ゴーシュは下手なためにいつも楽長に厳しく叱責されていた。そんなゴーシュのもとに、カッコウを始め様々な動物が夜毎に訪れ、いろいろと理由を付けてゴーシュに演奏を依頼する。そうした経験を経た後の音楽会本番で「第六交響曲」の演奏は成功し、司会者が楽長にアンコールを所望すると、楽長はゴーシュを指名した。ゴーシュは当惑しながらも、動物たちの訪問を思い出しつつ、「印度の虎狩り」という曲を夢中で演奏する。その演奏は楽長を初めとする他の楽団員から賞賛を受けることになった。
[編集] 鑑賞
ゴーシュの性格は粗野で、楽長に叱られた鬱憤晴らしに、弱者(生意気な猫)を虐めるなど卑屈な若者として描かれている。 しかし動物たちへの無償の行為を通じて次第に謙虚さと慈悲の心が芽生え、それによって真に音楽を理解できる青年へと成長していったという物語になっている。
楽長の指摘は、音が遅れた(リズムが悪い)、糸(音程)が合っていない、感情が出ないであった。 ゴーシュは猫から何も学ばなかったが、知らずに重要な曲の選択と予行演習をここで行っている。ゴーシュはカッコウとの反復練習で自らの音程の狂いを自覚する、さらにタヌキの鋭い指摘によって、自分の楽器の特性を知ったのである。 また、ネズミの母親からゴーシュが人知れず役立っていることを教えられ、自信を持つ。 ゴーシュは、小心者であったが、この自信によって大観衆を前に怒りをぶつける度胸を獲得したのである。 リズム、音程、感情の三つが改善された結果、ゴーシュの演奏が聴衆の心を動かしたのである。 ゴーシュは楽長から褒められて初めて自分の上達を知り、動物達との練習の日々を懐かしんだのである。
なお、カッコウに謝罪しながら、猫への謝罪がないことについて、単に賢治が猫嫌いだったからという説や、猫を虐め過ぎると二度と帰ってこなくなる(謝罪でめでたしとならない生き物である)ことを賢治はよく知っていたという説、最後のせりふは回想であって、謝罪ではなかったという説など様々な議論がある。
[編集] 賢治とチェロ
本作には、賢治自身が実際にチェロを練習した経験が反映されていると考えられる。賢治は農民の啓発と生活改善を目的とした「羅須地人協会」を主催していた時代に、農民楽団の実現と自作の詩に曲を付けて演奏することを目指してチェロを購入し練習した。1926年に上京した際には、新交響楽団(現在のNHK交響楽団の前身)の楽士だった大津三郎の自宅に練習のために通っている(賢治は「三日でチェロを演奏できるようになりたい」と頼み、大津は困惑しながらもレッスンを引き受けた。またこのレッスンは1928年の上京時にも行われたのではないかという説がある)。また、賢治が独習本(平井保三著『ヴィオロン・セロ科』)を抜粋して筆写したものが現存している。こうして熱心に取り組んだチェロであったが、お世辞にも演奏はうまいとはいえず、「ゴーゴースースー」と鳴るような状況であったと伝えられる。
このチェロは後に友人であった花巻高等女学校の音楽教諭・藤原嘉藤治のチェロと交換された。藤原のチェロには孔が開いており、この孔が本作に出てくる子鼠が出入りする孔のヒントになったともいわれる。賢治のチェロは戦争中は藤原が所有していたために、賢治の実家の空襲被害から免れることができた。現在、花巻市の宮沢賢治記念館に展示されている。
[編集] 第六交響曲
[編集] 作曲者
本作に登場する「第六交響曲」については誰の作品であるか明記されていないため、作曲者は不明である。1982年にアニメ化された際にはベートーヴェンの交響曲第6番ヘ長調作品68「田園」が用いられた。
[編集] 賢治と「田園」
賢治は多くのSPレコードを所有していたが、その大半は友人に譲渡するなどで手放してしまっている。そのなかで最後まで手元に残していた数点の中にベートーヴェンの交響曲第6番があった。このSPはハンス・プフィッツナー指揮、ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団による録音で、現在もCDで入手可能である。
[編集] 映像化作品
- 1949年 - 映画『セロひきのゴーシュ』/製作:日本映画
- 全編、影絵アニメーションで製作された映画。野鼠の親子は登場しない。
- 1963年 - 映画『セロひきのゴーシュ』/製作:学研映画局/声の出演:加藤弘、上田恵子、堀絢子、松島みのり、貴家堂子、増山江威子
- 1982年 - 映画『セロ弾きのゴーシュ』/製作:オープロダクション、監督:高畑勲/声の出演:佐々木秀樹(ゴーシュ)、雨森雅司(楽長)、白石冬美(ねこ)、肝付兼太(かっこう)、高橋和枝(子だぬき)、よこざわけい子(野ねずみの子・ヴィオラの娘)、高村章子(野ねずみの母)、槐柳二(コンサートマスター)、矢田耕司(司会者)、千葉順二(チェロ主席)、三橋洋一(Aさん)、峰あつ子(団員)、横尾三郎(団員)
- 原作に登場する「インドの虎狩り」や「愉快な馬車屋」は元々架空の楽曲だが、1982年のアニメ映画版では音楽を手がけた間宮芳生が新たに作曲した。
[編集] オペラ、ミュージカルなど
- 1957年 - 清水脩 オペラ《セロ弾きのゴーシュ》
- 1986年 - 林光 オペラ《セロ弾きのゴーシュ》
- 2005年 - 白石准 山猫合奏団による語りと音楽《セロ弾きのゴーシュ》
- 2008年 - 中村彩子 オペラ《セロ弾きのゴーシュ》
[編集] 外部リンク
[編集] 参考文献
- 「セロ弾きのゴーシュの音楽論」(梅津時比古、東京書籍、2003年)
- 「ゴーシュという名前」(梅津時比古、東京書籍、2005年)
- 「チェロと宮沢賢治」(横田庄一郎、音楽之友社、1998年)
- 「宮沢賢治の音楽」(佐藤泰平、筑摩書房、1995年)


