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[[節足動物]]の中で、ムカデ(ムカデ綱/唇脚綱 {{sname||Chilopoda}})は[[ヤスデ]]({{sname||Diplopoda}})・[[コムカデ]]({{sname||Symphyla}})・[[エダヒゲムシ]]({{sname||Pauropoda}})とともに[[多足類]]([[多足亜門]] {{sname||Myriapoda}})に分類される[[綱 (分類学)|綱]]の一つである。多足類の中で、ムカデとコムカデを近縁とする({{sname||Trignatha}}/{{sname||Atelopoda}} をなす)説もあったが、ムカデを[[後性類]]({{sname||Opisthogoneata}}, [[ムカデ上綱]]とも)、コムカデ・エダヒゲムシ・ヤスデを[[前性類]](Progoneata, [[ヤスデ上綱]]とも)に分ける説の方が多くの[[形態学 (生物学)|形態学]]と[[分子系統学]]の見解に支持される<ref name=":22">{{Cite journal|last=Cunningham|first=Clifford W.|last2=Martin|first2=Joel W.|last3=Wetzer|first3=Regina|last4=Bernard Ball|last5=Hussey|first5=April|last6=Zwick|first6=Andreas|last7=Shultz|first7=Jeffrey W.|last8=Regier|first8=Jerome C.|date=2010-02|title=Arthropod relationships revealed by phylogenomic analysis of nuclear protein-coding sequences|url=https://www.nature.com/articles/nature08742|journal=Nature|volume=463|issue=7284|pages=1079–1083|language=en|doi=10.1038/nature08742|issn=1476-4687}}</ref>{{r|:19|:15}}。名に現れるように、後性類は生殖孔を胴部の後方、前性類は生殖孔を胴部の前方に配置される。一方、ムカデとヤスデは姉妹群という、今まで提唱されなかった類縁関係を示唆する分子系統解析結果もわずかにある<ref>{{Cite journal|last=Szucsich|first=Nikolaus U.|last2=Bartel|first2=Daniela|last3=Blanke|first3=Alexander|last4=Böhm|first4=Alexander|last5=Donath|first5=Alexander|last6=Fukui|first6=Makiko|last7=Grove|first7=Simon|last8=Liu|first8=Shanlin|last9=Macek|first9=Oliver|date=2020-11-04|title=Four myriapod relatives – but who are sisters? No end to debates on relationships among the four major myriapod subgroups|url=https://doi.org/10.1186/s12862-020-01699-0|journal=BMC Evolutionary Biology|volume=20|issue=1|pages=144|doi=10.1186/s12862-020-01699-0|issn=1471-2148|pmid=33148176|pmc=PMC7640414}}</ref>。 |
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=== 下位分類 === |
=== 下位分類 === |
2022年8月17日 (水) 05:28時点における版
ムカデ | |||||||||||||||
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様々なムカデ[注釈 1]
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地質時代 | |||||||||||||||
シルル紀(約4億1,800万年前) - 現世 | |||||||||||||||
分類 | |||||||||||||||
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学名 | |||||||||||||||
Chilopoda Latreille, 1817 | |||||||||||||||
英名 | |||||||||||||||
Centipede Chilopod | |||||||||||||||
下位分類群 | |||||||||||||||
ムカデ(百足、蜈蜙、蜈蚣、蝍蛆、ムカデ類、唇脚類、学名: Chilopoda, 英語: Centipede, Chilopod)は、多足類に属する節足動物の分類群の一つ。分類学上はムカデ綱(唇脚綱)とされる[1]。頭部の直後に有毒な顎肢をもつ、脚が多く運動性に富む肉食動物である。オオムカデやゲジなどを含め、3,000種以上が記載されており[2]、最古の化石記録はおよそ4億2,000万年前の古生代シルル紀後期まで遡る[3]。
呼称
和名「ムカデ」の漢字転写は「百足」、「蜈蜙」、「蜈蚣」、「蝍蛆」などがある。学名「Chilopoda」はギリシア語の「kheilos」(唇)と「pod」(脚)の合成語[4]。英語名「centipede」(センティピード、センチピード)はラテン語の「centi」(百)と「ped」(脚)に由来する。ただしムカデの脚はどの種も奇数対であるため、ちょうど100本(50対)の脚をもつムカデは存在しない。日本語や中国語におけると、ゲジ類の構成種は「ゲジ」(蚰蜒、ゲジゲジ)という他のムカデとは別の名称で呼ばれ、一般に「ムカデ」から区別される傾向がある[5]。
形態
ムカデ類の体は縦長く、頭部と奇数対の歩脚が並んだ胴部からなる。胴部の前端は捕食用に特化した顎肢がある。体長は微小な4mmから大型な30cmまであり、多くが1-10cmに当たる[2]。
頭部
頭部は多くが腹背に扁平で、背面は頭板(cephalic plate)に覆われる[6]。4対の付属肢(関節肢)があり、前面は1対の触角(antenna)、腹面の頭楯(clypeus)以降は口器で上唇(labrum)と3対の顎(大顎 mandible・第1小顎 first maxilla・第2小顎 second maxilla)がある[7][6]。ゲジ類の触角は鞭状に細長く、数多くの環状節に分れるが、他の群では十数から数十節の数珠状で比較的に太短い。大顎は常に頭板と第1小顎に覆われて目立たなく、先端に細かな毛と歯が並んでいる[6]。小顎はいずれも付け根の肢節(基節)は腹板と癒合して基胸板(coxosternite)をなす[6]。第1小顎は丸みを帯びた2節の平板状で、基胸板前方中央1対の突起と合わせて口腔の下部をなす。第2小顎は4-5節の歩脚形で、ゲジ類の場合は細長く、他の群はやや太く短く、末端に爪やブラシ状の構造がある[6]。
眼の数と構造は次の通り分類群によって異なる。ナガズムカデ類は単眼1対、オオムカデ類は単眼最多4対、イシムカデ類は原則として単眼十数対以上、ゲジ類は真の複眼1対[6][8][9]、ジムカデ類は全てが無眼である[2]。一部の群、例えばオオムカデ類とイシムカデ類にも無眼の種類がある[10]。
胴部
胴部は縦長く、前端は顎肢をもつ1節、続いて脚をもつ奇数節の一連の体節(群によって15から191節)、末端は生殖に関わる2節と尾節からなる。
顎肢
頭部直後の第1胴節には、毒腺をもち、顎のような形をした捕食用の顎肢(がくし、forcipules、maxillipeds)がある。これは往々にして "毒牙" や "顎" と紹介されてきたが、(頭部由来の)顎ではなく、胴部由来の「特化した脚」であり[7][2]、「唇脚類」の名に現されるように、ムカデの最も重要な共有派生形質とされる[11][2]。付け根は第1胴節の腹面全体を占めた基胸板(coxosternite)で、ゲジ類のそれは左右2枚に分かれるが、他の群は一体化している[11]。残りの部位は牙状で、trochanteroprefemur(転節 trochanter と前腿節 prefemur の複合体)・後腿節(postfemur)・脛節(tibia)・跗節(tarsus)・ungulum の5節からなり、毒腺の開け口は尖った ungulum の末端より少し前にある[11]。ゲジ類以外の群では、跗節と ungulum が完全に癒合して頑丈な tarsungulum をなす[6]。オオムカデ類(Cryptops属の一部を除く[12])とジムカデ類は、途中の後腿節と脛節は外側が途切れて第1節と第4節を会合させ、第1-4肢節全てが1対の関節丘(ピボット)を共有する[12]。他の群では完全な後腿節と脛節をもち、特にゲジ類の顎肢は比較的に細長く、上下に湾曲でき、歩脚に近い形態を維持している[12][11]。毒腺は通常では顎肢に収納されるが、ジムカデ類の中では毒腺が胴部まで伸ばした例がある[11]。神経毒をもつと考えられるが、その成分と仕組みに関してはほとんどが未解明である[13]。この顎肢をもつ第1胴節の背面は、通常では1枚の独立した短い背板をもつが、オオムカデ類ではそれがなく、第1胴節は直後の第2胴節と共に1枚の大きな背板に覆われている[2]。
顎肢以降の体節
顎肢と第1胴節以降の体節には、それぞれ1対の脚(歩肢)をもつ胴節が数多く並んでいる。発育異常の奇形や改形類の初齢幼生を除いて、脚の対の数はどの種も奇数である[2]。脚は基部から順に柱状の6節(基節・転節[注釈 2]・前腿節[注釈 2]・後腿節・脛節・跗節[注釈 3][14])と末端の爪状の前跗節(pretarsus)に構成され[6]、転節と前腿節の関節は不動である[15][3]。ゲジ類の場合は非常に細長く、跗節が鞭のように数多くの跗小節(tarsomere)に細分される[2][6]。対の数は分類群によって異なり、ゲジ類・イシムカデ類・ナガズムカデ類の成体は15対、オオムカデ類は21ないし23対(そのうち Scolopendropsis duplicata は例外的に39ないし43対[16][17])、ジムカデ類は数が最多で種によって異なり、少ない種でも27対から47対までを示し、多い種は101対を超し、191対まである[2]。特にジムカデにおいては同種でも数は雌雄で異なり[2]、左右非対称[18]や偶数対の脚をもつ奇形も稀にある[15]:55。最終の1対はやや特化した曳航肢(えいこうし、ultimate legs)であり、歩行には用いず、分類群により感覚・威嚇・防衛・配偶行動・頭部(触角)に擬態・移動中のバランス調節などの機能を果たす[19][20][21]。一部の種では曳航肢がハサミのように嚙み合うため、捕食に用いられるのではないかと推測される[20]。
脚のある体節は全てが腹背で腹板(sternite)と背板(tergite)に覆われ、両側は柔軟な節間膜に包まれて小さな側板(pleurite)がある。腹板はほぼ同形だが、背板の構造は分類群によって大きく異なり、ジムカデ類以外のものでは往々にして節ごと背板の形態が異なる。ゲジ類のは8枚に癒合し、イシムカデ類のは顕著に長短を繰り返し、ナガズムカデ類のは一見して体節と合致しない21枚に細分され・オオムカデ類のは第1枚が顎肢をもつ第1胴節まで覆し・ジムカデ類は全ての背板がほぼ同形で、各背板の境目で更に1枚の短い背板が占め込んでいる[2][6]。イシムカデ類とオオムカデ類の場合、7枚目以前の偶数番目(2・4・6)と8枚目以降の奇数番目(9・11・13…)の背板が他の背板より短い[15]。
呼吸器(気管系)の開口である気門(spiracle, stigma)は脚をもつ胴節のみにあり、その数と位置は分類群によって異なる。ゲジ類の気門は背甲の後縁中央に並んで[22]、本群のみを含んだ「背気門類」の由来となる[2]。他のムカデ類(側気門類)では対になって体節の左右(脚の付け根上方の節間膜)に配置される。これを基に、ゲジ類の気門は側気門類とは別起源、もしくは左右の気門が癒合してできたものだと考えられる[22]。オオムカデ類・ナガズムカデ類・イシムカデ類はほとんどが長い背板をもつ体節(1・3・5・7・8・10およびそれ以降の偶数番目)のみに気門をもつが、ジムカデ類ではほぼ全ての胴節に気門をもつ[23]。なお、オオムカデ類の中には前述の体制を覆い、ほぼ全ての体節に気門をもっていた Plutonium zwierleini という例外もある[23]。
曳航肢の直後には生殖孔(gonopore)と生殖肢(gonopod)をもつ2胴節があり[2]、雌雄によって構造が異なる[6]。オオムカデ類の場合、これらの胴節は退化的で、普段は曳航肢の体節に格納され、背側からは見られない[15]:63。末端は退化的な尾節(telson)で、「anal valves」という肛門を覆いかぶさった1対の板状構造をもつ[6]。
生態
生息地
極地を除いて、ムカデ類は世界各地の陸上に分布し、熱帯雨林においては最も多様化している[2]。多くが森林中の落ち葉・朽木・石の裏など湿度の高い場所に住むが、草原・砂漠・洞窟・海岸などに生息する種類もいくつかある[2][24]。
小型のもの、特にジムカデ類は土壌動物として生活しているものが多い。また、イシムカデ類における地表にも出るホルストヒトフシムカデと同所的に分布する土壌性の強いダイダイヒトフシムカデを比較すると判るように、地中に棲む傾向の強い種は単眼数が少なかったり、無眼の場合もあり、淡い体色で、体毛が少なく、肢や触角が短い。地中や朽木の生活に特化したジムカデ類は無眼で、黄色や赤、白、緑などの体色を示し、非常に細長い体に短い足を多数持ち、土壌中をミミズのように穿孔する。つつくと尾端を頭部と擬態して後ずさりしたり、とぐろを巻くように体を丸める種が知られている。この類に属するヨコジムカデなど、地下5メートルほどの餌となる土壌生物の密度が薄い層からも得られることがあり、活発な垂直移動をしていると思われる種もある。オオムカデ類の小型種もほとんどは無眼で、土壌動物である。
捕食行動
ムカデ類は多くが単独生活をする夜行性の肉食動物であり、顎肢を用いて獲物の体に毒を注入する[2][11][12]。全般的には偏食性のないジェネラリストと考えられるが、ヤスデを専門に捕食するヨロイオオムカデというスペシャリストな例も存在する。腐肉を摂ることもあり[25]、人工飼育による観察では飢えた場合は植物組織を摂食する記録もある[26]。
オオムカデ類は多くが地表や樹上などを徘徊し、待ち伏せや偶発[2]に遭遇した昆虫などの小動物を捕食する。特に大型種ではカエル・トカゲ・鳥類・ヘビ・ネズミ・飛行中のコウモリなどの小型脊椎動物さえ捕食することが知られている[27][28]。イシムカデ類は、比較的短い体形で軽快に走り回り、小動物を捕らえる。徘徊生活に特化したゲジ類は滑るように素早く走り、鞭状の長い脚を投げ縄のように獲物を纏って捕食する[20][29]:222。飛行中の昆虫も採食し[11]、複数の獲物を持ちながらも移動できる[20]。ジムカデ類は細長い体で地下生活に適しており、土中のミミズなどを捕食する[24]。ナガズムカデ類の食性は明らかになっていないが、飼育下では朽木からシロアリを掘り出して捕食する行動が見られる[30]。
天敵
天敵として鳥類・爬虫類・哺乳類などの脊椎動物、および他の肉食節足動物などがある。ムカデ類を専門に捕食する肉食動物は、Aparallactus capensis というヘビの1種[31]や Stigmatomma pluto(旧 Amblyopone pluto)というジムカデ類を好んで捕食するアリの1種[32]が挙げられる。
防衛と擬態
相手に嚙み付いて自衛する習性をもつが、どのムカデ類も刺激や危険に遭うと反撃よりは逃走をしようとする[13]。一部の種類は胴部の末端が頭部に似た色と触角らしき曳航肢をもち、これは頭部に擬態し、それを狙って捕殺する捕食者を惑わす特徴だと考えられる[19]。ヨロイオオムカデは形態・行動ともヤスデに擬態し、背板は硬化して動きが遅く、刺激を受けると体を丸める[33]。イシムカデ類は最終数対の脚を上下に揺らして粘液を分泌し、クモやアリなどの小型捕食者からの攻撃を防ぐ[20]。ゲジ類は触角らしき曳航肢の他、脚を付け根から自切するという防衛手段をもつ。また、オオムカデ類は最終数対の脚をもち上げて威嚇することがある[19]。
繁殖と発育
繁殖は精包の受け渡しを通じて行い、雌は生殖肢を用いて雄の精包を拾い上げる。雌雄は輪を描くようにお互いの末端に向き合いながら、触角で相手の曳航肢と触れ合う配偶行動が知られる[20]。卵生で、ゲジ類とイシムカデ類の幼生は孵化から既に単独生活をするが、ジムカデ類・オオムカデ類・ナガズムカデ類の雌は育児習性をもち、卵と初齢幼生の世話をする[34][35]。
幼生の成長様式は分類群によって異なる。ゲジ類・イシムカデ類・ナガズムカデ類の初齢幼生は成体より少数の脚と体節で生まれ(それぞれ4対・6/7/8対・12対[2])、成長するたびに脱皮を通じてその数を増やしていく(増節変態)[2]。この特徴に因んで、これらのムカデ類は「改形類」(Anamorpha)としてまとめられてきた。ゲジ類とイシムカデ類は複数回の脱皮を通じて15対に達するが、ナガズムカデ類は1回だけで15対になる[30]。オオムカデ類とジムカデ類は、孵化から既に成体の同様の脚と体節の数を揃い、「整形類」(Epimorpha)と呼ぶ[2]。
分類
節足動物 |
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節足動物の中で、ムカデ(ムカデ綱/唇脚綱 Chilopoda)はヤスデ(Diplopoda)・コムカデ(Symphyla)・エダヒゲムシ(Pauropoda)とともに多足類(多足亜門 Myriapoda)に分類される綱の一つである。多足類の中で、ムカデとコムカデを近縁とする(Trignatha/Atelopoda をなす)説もあったが、ムカデを後性類(Opisthogoneata, ムカデ上綱とも)、コムカデ・エダヒゲムシ・ヤスデを前性類(Progoneata, ヤスデ上綱とも)に分ける説の方が多くの形態学と分子系統学の見解に支持される[36][3][15]。名に現れるように、後性類は生殖孔を胴部の後方、前性類は生殖孔を胴部の前方に配置される。一方、ムカデとヤスデは姉妹群という、今まで提唱されなかった類縁関係を示唆する分子系統解析結果もわずかにある[37]。
下位分類
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Phylactometria説に基づいたムカデの内部系統関係 |
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Amalpighiata説に基づいたムカデの内部系統関係 |
3,000種以上のムカデが知られ、ゲジ(ゲジ目 Scutigeromorpha)・イシムカデ(イシムカデ目 Lithobiomorpha)・ナガズムカデ(ナガズイシムカデ目 Craterostigmomorpha)・オオムカデ(オオムカデ目 Scolopendromorpha)・ジムカデ(ジムカデ目 Geophilomorpha)という5つの群(目)で大まかに分けられる[1]。化石種まで範囲を広げると、Devonobius delta という1種のみによって知られる Devonobiomorpha目がある[3][38]。
かつては発育様式を基に、ゲジ・イシムカデ・ナガズムカデを改形類(改形亜綱/ゲジ亜綱 Anamorpha)、オオムカデ・ジムカデを整形類(整形亜綱/ムカデ亜綱 Epimorpha)の2群に分ける分類体系があった。一方で、気門の構造などの形態学的構造と、ゲジ類における多くの祖先形質とされる特徴に因んで、ゲジ目のみからなる背気門類(背気門亜綱 Notostigmophora)と、残り全てのムカデ類からなる側気門類(側気門亜綱 Pleurostigmophora)の2群として区別する分類体系も提唱される[2]。分子系統解析では後者の系統関係を支持し、ゲジは最初期に分岐した基盤的なムカデであることを明らかにした[39][40]。
側気門類の内部系統については、イシムカデは基盤的で、育児習性を共有派生形質にしてナガズムカデと整形類が姉妹群(Phylactometria をなす)という系統関係が提唱される[2]。しかし分子系統解析では、むしろナガズムカデが基盤的で、イシムカデと整形類の姉妹群関係(Amalpighiataをなす)を支持する結果の方が出ている。これにより、ナガズムカデと整形類の育児習性は収斂進化の結果である可能性も示唆される[39][40]。
ゲジ
ゲジ類(ゲジ目 Scutigeromorpha, 英: house centipede, cave centipede[2])は約100種を含め、ムカデ類の中では既知最古の化石記録をもち[3]、ナガズムカデの次に種数が少ない目である[2]。
本群は多足類全般的にも真の複眼をもつ唯一の現生分類群で[8]、鞭状の細長い脚と短い胴部をもち、姿は他のムカデとは大きく異なる。頭部はやや分厚く、触角は長い鞭状で数百節に細分される[2]。15対の脚をもつ体節は8枚の背板のみに覆われ、最後の1枚を除いてそれぞれの後縁中央に1個の気門をもつ。
徘徊性で、投げ縄のように機能する長い脚で獲物を捕える[20]。洞窟で縄張りをつくり、集団生活をすることが知られる[2]。また、本群はヘモシアニンを用いて酸素分子を運ぶ唯一のムカデ類でもある[2]。子育てする習性はないとされる[2]。幼生は増節変態をし、4対の脚のみをもって生まれる[2]。
地中海原産で、北半球の温帯地域に広く分布する Scutigera coleoptrata が主によく知られ、本群の中で最も研究が進んだ種である[2]。日本ではオオゲジと、種和名がゲジの Thereuonema tuberculata という2種が分布する。
- (科)Psellioididae
- (科)Scutigerinidae
- ゲジ科 Scutigeridae:ゲジ(Thereuonema tuberculata)、オオゲジ、Scutigera coleoptrata など
イシムカデ
イシムカデ類(イシムカデ目 Lithobiomorpha, 英: stone centipede[41])は約1,500種を含め[42]、体長は多くが3cm以内のやや小型の目である[2]。
他の側気門類に比べて胴部は体長に対してやや短い。頭部は平たい円盤状で、触角は15-100節以上からなる。眼はイシムカデ科では単眼が十数対以上の集約し、トゲイシムカデ科では1対のみをもつ[2]。無眼の種もいくつかある[10]。15対の脚をもつ体節は同じ枚数の背板に覆われるが、顕著に長短を繰り返し、第2・4・6・9・11・13枚が明らかに短い。雌は鋏型の生殖肢をもつ。
徘徊性で、後方数対の脚から防衛用の粘液を分泌することが知られる[20][21]。子育てする習性はないとされる[2]。幼生は増節変態をし、通常7対の脚のみをもって生まれるが、6対もしくは8対の例もある[2]。
ヨーロッパ原産の汎存種であるオオチャイロイシムカデ[43]が主によく知られている[42]。
- イッスンムカデ科 Ethopolidae - イッスンムカデなど
- トゲイシムカデ科 Henicopidae - メクライシムカデ、ゲジムカデ、トゲイシムカデなど
- イシムカデ科 Lithobiidae - ヒトフシムカデ、オオチャイロイシムカデなど
ナガズムカデ
ナガズムカデ類(ナガズイシムカデ目 Craterostigmomorpha)は現生ムカデの中で種が最も少ない目で、2種のみによって知られ、オセアニア大陸のタスマニア州とニュージーランドのみに分布する[30][2]。
頭部はやや縦長く、1対の単眼をもち[30][10]、顎肢の基胸板は他のムカデより前へ伸びる[2]。15対の脚をもつ体節は21枚の背板に覆われ[2]、これは元々15枚であった背板のうち第3・5・7・8・10・12枚目がそれぞれ前後2枚に細分された結果とされる[44][15]:58。曳航肢をもつ体節の背板と腹板は円筒状に癒合し[2]、末端には「anogenital capsule」という対になったカプセル状の構造体をもつ[6][15]:63。
雌は卵と幼生を育つ[2]。幼生は増節変態をし、12対の脚のみをもって生まれる[2]。
オオムカデ
オオムカデ類(オオムカデ目 Scolopendromorpha, 英: tropical centipede[45], bark centipede[46])は800種以上を含め[2]、ムカデとして最も一般に知られる目である。
多くは10cm前後の大型で、最大のもの(ペルビアンジャイアントオオムカデ)は体長30cmに達し、世界最大のムカデとして知られている[2]。頭部は平たい円盤状で、基本としては4対の単眼をもつが、1対や無眼の種類もある[10]。脚はアカムカデ科では23対、他の群では21対[2]、Scolopendropsis duplicata のみ例外的に39ないし43対の脚をもつ[16][17]。背板の枚数は脚対の数に一致するが、1枚目の背板は直前の顎肢をもつ体節まで覆い被さる(他のムカデ類は顎肢の体節に独立した背板をもつ)。イシムカデ類ほどでないものの背板は長短を繰り返し、7枚目以前の偶数番目と8枚目以降の奇数番目の背板がわずかに短くなる。
強い神経毒と獲物への高い攻撃性を有し、特に大型のものは小型脊椎動物も捕食できる[28]。高い自衛性をもち、人間への咬害はほとんどがこの類に起因する[13]。雄は多層の外皮に覆われるビーンズ型の精包を産み[2]、雌は卵と幼生を育つ[2]。孵化直後の幼生は成体と同様の脚数をもつ[2]。
- メナシムカデ科 Cryptopidae
- (科) Mimopidae [47]
- (科) Plutoniumidae [47]
- オオムカデ科 Scolopendridae - オオムカデ属(トビズムカデ、アオズムカデ、ハブムカデ、タイワンオオムカデ、ベトナムオオムカデ、ペルビアンジャイアントオオムカデなど)、アオムカデ、ヨロイオオムカデなど
- アカムカデ科 Scolopocryptopidae - セスジアカムカデなど
ジムカデ
ジムカデ類(ジムカデ目 Geophilomorpha, 英: soil centipede[24])は約1,300種を含め、ムカデ類の中では種数が最も多い目である[2]。
多くが小型で、細長い胴部と比較的短い脚をもつ。縦長い頭部は眼をもたず、触角は14節からなる[2]。脚の数はムカデの中でも最多で多様化しており、ナガズジムカデ科は41-101対、他の群(Adesmata)は27-191対に及ぶ。特に後者は同種においても数は多様で、性的二形も示し、往々にして雌の方が多い[2]。脚のある全ての体節はほぼ同形で、それぞれの背板の境目にもう1枚の幅狭い背板が占め込んで、末端を除いて全ての体節に気門をもつ[2]。
地中に棲む土壌生物であり、自身より小型のミミズなど他の土壌生物を捕食すると考えられる[24]。雌は卵と幼生を育つ[2]。孵化直後の幼生は成体と同様の脚数をもつ[2]。
- マドジムカデ科 Chilenophilidae - フタマドジムカデ、ミドリジムカデなど
- ベニジムカデ科 Dignathodontidae - ベニジムカデなど
- ジムカデ科 Geophilidae [48] - スミジムカデ、ホソツチジムカデ、ヨコジムカデ、ツチムカデ、シマジムカデ
- オビジムカデ科 Himantariidae - ヨシヤジムカデなど
- ナガズジムカデ科 Mecistocephalidae - ツメジムカデ、ナガズジムカデ、ニブズジムカデ、タカシマジムカデ、タイワンジムカデ、モイワジムカデ、ヒロズジムカデ、アゴナガジムカデなど
- オリジムカデ科 Oryidae - ヒラタヒゲジムカデなど
- マツジムカデ科 Schendylidae - サキブトジムカデ、エスカリジムカデ、チチブジムカデ、モモジムカデなど
人間の生活との関わり
人間の生活と文化に関わるムカデ類は、オオムカデ類が特に代表的で、世間一般におけるムカデへのイメージとなっている。有毒や凶暴な習性で畏敬され、世界中でもいくつかの神話や伝説のテーマとなる[11]。
一部の種は室内環境に侵入することがある。この場合、有毒生物として広く知られるオオムカデ類のように、高い自衛性で刺激される度に嚙み付くことがあり、またはゲジ類のように単に素早い動きと異様な姿で害虫扱いされるものがある[5]。なおゲジ類に関しては、衛生的に無害かつ室内の衛生害虫を狩ることで益虫ともされる[5]。
咬傷
咬傷はほとんどがオオムカデ類で、それ以外のムカデ類によるのは稀である[13]。
大型のオオムカデ類に噛まれるとかなり痛むが、人命に係る被害や続発症はほとんど無い[13][49]。しかし子供やアナフィラキシーショックを発症する体質にある者への危険性は高く[49]、噛まれた場合には速やかに医師の診察を受けることが望ましい。主に夏場、山林に近い民家では、ゴキブリなどを捕食するためにムカデがしばしば家屋の内部に侵入する。この場合、靴の中や寝具に潜んだりすることから咬害が多く、衛生害虫としても注意が必要である。噛まれた場合、患部に異物が残っていればこれを除去して毒を絞り出し、患部を水道水で洗浄する。抗ヒスタミン剤を塗布する[50][51]。ゲジ類は家屋に侵入してくることもあるが、毒は弱く積極的に人を噛むこともなく、無害とされる[52]。また、小型のムカデは基本的にヒトの皮膚を貫通できない[49]。
近年[いつ?]の日本では、不快害虫の忌避効果を目的とした薬剤にムカデ・ヤスデの侵入防止効果を謳う場合が多い。家庭用殺虫剤等ではすぐには死なない(近年[いつ?]はムカデ用の殺虫剤が市販され、冷却により動きを止め、効果の解り易さを演出している)。俗に「ムカデはつがいで行動しているために、1匹を殺すともう1匹必ず現れる」と言われているが、ムカデにつがいで行動するような習性は無く(配偶時のみ短時間つがいで行動する)、1匹現れるような環境には自然とその他の個体も出現しやすいというだけのことである。
産業
産業との関連は少ない。オオムカデ類は地域によって食用とされ、オーストラリア原住民においては伝統的な調味料の原料に使用される[53]。観賞魚などの餌として冷凍のオオムカデが輸入されて市販されている。
漢方では生薬名を蜈蚣(ごしょう)といい、平肝・止痙・解毒消腫の効果があるとされる。油漬けや乾物は火傷や切り傷に効果があるとされ、民間薬として知られており一部に市販の例もある。
飼育
ペットとしての飼育対象は主にオオムカデ類で、輸入種を中心に拡大傾向にある。さまざまな種類が入荷しており、大型種ほど高値で販売される傾向がある。
モチーフ、象徴
「非常に凶暴で攻撃性が高い」というイメージ、「絶対に後ろに下がらない(後退しない)」という俗信、脚が多いことから「兵が多い(大軍)」という連想、多くの卵を産み温めて子育てをする性質を「子孫繁栄」と解くなど、武将の好む性質を持っていたことから、戦国時代には、兜の前立、旗差物、甲冑や刀装具の装飾など、ムカデのデザインを取り入れることが流行した[54]。また脚の多いことにより、伝令をムカデに例えることもあった。
『甲陽軍鑑』に拠れば武田家の金掘り衆は、トンネル戦法を得意とする工兵部隊で、百足衆と呼ばれたとも言われる。大蛇が河川を象徴し、砂鉄の採集や製鉄の技術者集団を表すことと比して、ムカデは地下坑道を掘り進み、自然金などの鉱石を採集する技術者集団を表しているという説がある[55]。
相馬中村藩に起源する相馬野馬追においては、「下がりムカデ」の旗が軍師の指物と指定されている。
赤城山などの神体として、また『毘沙門天』の使いとされ、神格化されている。商家においても、ムカデの多くの足から「客足が多い」、強い攻撃性から「他店に負けない」という意味で家紋や店紋、店名とすることがあった[54][56]。宮城県の南部では養蚕業の大敵であるネズミがムカデを嫌うという言い伝えと毘沙門天の使いという話が合わさり、養蚕業者の信仰を集めた例もある[54]。
男体山の大蛇と日光の戦場ヶ原で決闘した伝説、藤原秀郷による三上山の大百足退治伝説などが知られる[57]。
昆虫やクモ、サソリなどと同様、アクセサリーやグラフィックのモチーフになることや、子供向けの絵本のキャラクターとしてムカデが登場することもある(ムスティなど)。
ムカデの名が付いた生物
ムカデでないものの、呼称は「ムカデ」と名付けられた生物はいくつかある。
- コムカデ(コムカデ綱)はムカデと同じく多足類に分類されるが、ムカデ(ムカデ綱)ではない。
- ムカデエビという海底洞窟に生息する甲殻類は、多足類を彷彿とさせる姿で、ムカデのように毒牙に特化した付属肢をもつが、それはムカデの顎肢とは別起源の第1小顎である[58]。
- ウミウシにムカデミノウミウシやムカデメリベという種類があり、これらはムカデの脚のように胴体が櫛状になっていることから、その名が付いた。
- 水生昆虫のヘビトンボの幼虫は、ムカデのように長い胴体と、その胴体の両側に櫛状に呼吸用エラがムカデの脚のように並び、性質が荒くて噛みつくことから、「川ムカデ」という俗称がある。噛まれると痛いが、ムカデのような毒は持たない。
- ツツジ科の植物にジムカデ目と同じ和名をもつジムカデ(地百足)があり、葉と茎の形状がムカデに似ていることから名が付いた。
- ラン科の着生植物にムカデランがある。これも、樹上・岩上を這う茎の両側に短い棒状の葉が互生する姿がムカデの姿に似ていることから名づけられた。
脚注
注釈
出典
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