はさみ (動物)

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カニのハサミ 写真上部に一対のハサミ状の第一脚が見える
カブトガニは口の前の体節にそなわる鋏角はもちろん、5対の歩脚の先端がすべてハサミ状をなしている。ただし、末尾の歩脚だけは3本指状の構造を採る

動物に見られるハサミ)とは、カニの第一脚のように紙や布を切る道具(はさみ)と似た構造を言う。

カニのハサミ[編集]

カニの第一脚の先端は、先端が二つに割れ、動かせるようになっており、その形は確かにハサミに見える。これは、先端の節とその次の節から伸びる突起から形成されるもので、両者の間で挟むように動かせる。一般に刃は着いていないので、ハサミというよりは、ペンチピンセットのような働きが主体である。

より詳しく見ると、先端の節は細くてやや曲がった棒状になっている。それに次ぐ節は大きく膨らんで、多量の筋肉を収める。節足動物の足の節は、それぞれに一定方向にしか動かない。第一節の動く方向の側の第二節の端の部分から第一節と同じくらいの長さの突起が出て、第一節と向かい合うようになっている。この突起と第一節が鋏の刃に当たる。第一節の腱が第二節に入り込み、ここに多くの筋肉が付着し、これを引っ張ることでハサミの開閉が行われる。つまり第一節の側が動き、第二節の突起は動かない。そこで、第一節を可動指、第二節の突起を不動指とよび、第二節の中央部を掌部ということもある。

ハサミはえさとなる生物をつまみあげ、捕捉し、あるいは殻を粉砕したうえで、食べられる部分を裁断、引きちぎるのに用いられる。また、敵を攻撃する際や、防御のため、さらにはシオマネキ類やチゴガニ類のようなスナガニ科でよく見られるように、異性をめぐる闘争やそれに関係したダンスなどのデモンストレーションにも用いられることがある。

さまざまなハサミ[編集]

甲殻類の顎脚に見られる鋏状(右)と亜鋏状(左)の構造

類似の構造は多くの節足動物の足に見られる。最もよく見られるのは、やはり甲殻類である。十脚類ザリガニ類、ヤドカリ類、カニ類はその大部分がよく発達したハサミを第一脚に持つし、他の足にも鋏をもつ場合もある。エビ類でも一対以上のハサミを持つものは多い。その他、タナイス目オキアミ目などにはっきりしたハサミを持つものがある。

鋏角類カブトガニサソリにも鋏がある。カブトガニの場合は目立たないが歩足の先端が鋏になっている。サソリやカニムシなどの場合、触肢が立派なハサミに発達している。また、触肢がハサミとして発達している鋏角類であっても、鋏角は小さいながらも鋏になっている。鋏脚が名前どおり鋏状になっているものは多く、ザトウムシ類やダニ類もそうである。

特に甲殻類の鋏は時として左右が不対称になっている。大きい鋏は武器として用いられる例が多い。極端な例はシオマネキである。このカニの場合、大きい鋏は雌を巡る争いやデモンストレーションに用い、餌を採るのは小さい方の鋏だけを使う。これに関わって、鋏に性的二形を生じる例も少なくない。また、ヤドカリでは大きい方の鋏を貝殻入り口の蓋として用いる。

ハサミムシの一種 Forficula auricularia

ハサミに似た構造[編集]

第一節と向かい合う突起が第一節の基部からやや離れたところにあるものもある。この場合、第一節は第二節の突起ではなく、第二節の突起までの間の部位で第一節の内側とかみ合う。外見的にはややに似た姿となる。この状態を亜鋏状と言う。ワレカラヨコエビなどの端脚類、口脚目(シャコ類)などにそのようなものが見られる。

昆虫類は非常に種数が多く、その足の構造にも多様なものが見られるが、不思議に単独でハサミとなった付属肢を持つものはほとんど無い。鎌状の亜鋏状の足を持つものが散見される程度である。カマキリカマキリモドキ、カマバエ(カマキリバエ)、カマバチ、タガメなどの例があり、いずれも獲物を押さえつける器官として発達している。またハサミムシは、単独の付属肢でハサミを構成するわけではないが、腹部の先端の1対の尾肢が硬化して、鋏状の構造と機能を持つため、この名がある。類似の構造がコムシ目のハサミコムシにも見られる。

また、第三節にも第二節と同様な突起を生じ、三本指になる例もある。カブトガニでは後ろの足が三本指になり、これを広げることでかんじきのように泥の上でも足を支えられるようになっている。

中国雲南省カンブリア紀地層から発見された澄江生物群に属するパラペユトイアは、アノマロカリスに似た構造を持つ動物である。アノマロカリスは口の前に一対の触手を持ち、その形がエビの腹部と間違われたように節に分かれ、内側には歯のような突起があるが、パラペユトイアの触手は、先端近くの節から長い突起を出して、三本歯のはさみ状になっている。