メタアナリシス
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メタアナリシス(英語: Meta-analysis)とは、複数の研究の結果を統合し、より高い見地から分析すること、またはそのための手法や統計解析のことである。メタ分析、メタ解析とも言う。ランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスは、根拠に基づく医療 (EBM) において、最も質の高い根拠とされる[2]。メタアナリシスは科学的総合の重要な部分だが[3]、メタアナリシスを理解せずに結論を受け入れるのは危険である[4]。
メタアナリシスという言葉は、情報の収集から吟味解析までのシステマティック・レビューと同様に用いられることがある[5]。厳密に区別する場合、メタアナリシスはデータ解析の部分を指す[6][5]。また、メタアナリシスとシステマティックレビューをまとめてリサーチ・シンセシスとも言う。
歴史
[編集]20世紀初頭の1904年の報告書にて、イギリスの統計学者のカール・ピアソンが、臨床試験の結果をメタアナリシスによって最初に分析したとされている[7]。その後1920年代には、イギリスの統計学者のロナルド・フィッシャーが農業の分野で複数の研究の分析の方法を挙げて、1935年には著書で発表した[7]。
1971年には、ノーベル化学賞とノーベル平和賞の受賞者である化学者ライナス・ポーリングが、ビタミンCの摂取は風邪の予防や治療に効果があることは、4件のランダム化比較試験を統合した結果によって裏付けられているとしている[8]。これは医学における初期のメタアナリシスのひとつに数えられるものである[9]。なおこの予防効果については賛否両論のある形で研究が続いてきた[10]。
1976年には統計学者のジーン・V・グラスがメタアナリシスという用語を「複数の研究を統合して分析する」という意味で説明し、その数年後には医学分野で盛んに採用されるようになった[7]。また、1990年代初頭までには「文献を偏りなく探索する」システマティックレビューという言葉との混用が見られるようになった[7]。
2020年、人工知能を使ったメタアナリシスの迅速な作成方法が発明された[11]。
手順
[編集]メタアナリシスは、研究の抽出とプール解析の手順を踏む。この際に、主観的あるいは恣意的なバイアスを避けるのは、ランダム化比較試験(RCT)からの連続である[要説明][12]。
- 研究の抽出:見つかった研究全てを対象とする。恣意的に研究を抽出することを避ける[13]。
- プール(pool):データを結合し、治療群と対照群それぞれのエンドポイントの平均値を算出する。
- 効果量(英語: effect size)の算出:治療群と対照群の平均値の差異を標準偏差で割る。効果量の値が、治療がプラスになるのかマイナスになるのかの客観的な尺度として算出される。
ランダム化比較試験において、治療群と対照群の改善度の差異が小さい場合、統計による検出力が低く、統計的有意性のある差異が発見されないことがある。しかし、メタアナリシスによって、母集団の数を大きくすることで、この統計的有意性のある差異が発見される可能性が上がる。
バイアスの問題
[編集]製薬会社が自社の医薬品の有効性を良く見せるために、良い結果の研究のみを選択してプール解析を行う場合があるが、厳密にはメタアナリシスではない[13]。
選択的包含バイアス
[編集]メタアナリシスにおける選択的包含バイアスを理解するために、メタアナリシスがどのように試験の効果推定値を測定しているか公表が推奨されることがある[14][15]。
出版バイアス
[編集]否定的な結果が論文となって公表されにくいという出版バイアスにより[12]、結合する元のデータに肯定的な結果が多くなってしまう。抗うつ薬のパキシルの否定的な結果のデータの隠蔽から、薬剤の有効性と危険性が再評価された結果、評価が下がったことから出版バイアスの影響が懸念された[16]。パキシルの不祥事からの議論は、世界医師会や医学雑誌編集者国際委員会による研究の事前登録に関する声明や、2005年の世界保健機関(WHO)や2007年のアメリカ医薬品局(FDA)による研究登録制度の構築につながった[17]。出版バイアスを軽減する方法の一つに、情報公開法に基づいて、各国の規制機関から薬の認可のために提出された全データを入手し分析する手法がある[18]。
メタアナリシスに灰色文献を含めると、メタアナリシスの信頼性が向上すると言われることがある。その理由は、灰色文献の厳密さは公表文献と変わらないからであり[19]、お蔵入り問題の解決策として灰色文献をメタアナリシスに含めるべきである。しかし、未発表や灰色文献の研究結果を含まないメタアナリシスの質に大きな影響を与えるメタアナリシスはごく少数であるとされることもある[20]。
人工知能ベースのメタアナリシス
[編集]2020年代に入り、人工知能を用いたメタアナリシスの方法論が導入されている[11]。人工知能のメタアナリシスへの応用は、省人化だけでなく、従来のメタアナリシスの問題点として、解析期間が1年に迫り、最新の論文が考慮から外れるケースが多いことが挙げられる[21]。さらに、2021年と2022年には、世界中で年間500万本以上の論文が発表されると推定されており[22]、人間がこれらすべての論文を分析することは困難である[21]。加えて、メタアナリシスを行う際に集団思考やその他のバイアスが生じる可能性が非常に高いため、人工知能による迅速なメタアナリシスの自動化は現在重要であるが[21]、人工知能が生成するメタアナリシスに対する専門家による検閲は、2022年時点で必須となる[23][24]。
脚注
[編集]出典
[編集]- ^ “SUNY Downstate EBM Tutorial”. library.downstate.edu. 2004年3月23日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年9月3日閲覧。
- ^ 津谷、正木 2006, p. 12
- ^ Morrissey 2016, pp. 1922–1931
- ^ Ahn & Kang 2018, pp. 103–112
- ^ a b 津谷 2003, pp. 1415–1422
- ^ “Box”. app.box.com. 2022年7月9日閲覧。
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- ^ Office of Dietary Supplements - Vitamin C (Report) (英語). アメリカ国立衛生研究所. 18 September 2018.
- ^ a b Michelson et al. 2020, pp. e20007
- ^ a b 津谷、正木 2006, pp. 9–12
- ^ a b アービング・カーシュ 2010, pp. 60–61.
- ^ Page et al. 2016, pp. e011863
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- ^ Conn et al. 2003, p. 256
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- ^ a b c “Meta-Analysis — A Comprehensive Guide to Utilizing AI” (英語). SciSpace Resources (2024年4月3日). 2024年9月23日閲覧。
- ^ “Number of Academic Papers Published Per Year – WordsRated” (英語) (2023年6月1日). 2024年11月4日閲覧。
- ^ Christopoulou 2023, pp. 115–140
- ^ Feng et al. 2022, pp. 1425–1432
参考文献
[編集]主な執筆者、編者の順。
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- 津谷喜一郎「EBMにおけるエビデンスの吟味」『Therapeutic Research』第24巻第8号、2003年、1415-22頁、NAID 50000285052。
- 津谷喜一郎、正木朋也「エビデンスに基づく医療(EBM)の系譜と方向性 保健医療評価に果たすコクラン共同計画の役割と未来」(pdf)『日本評価研究』第6巻第1号、2006年3月、3-20頁、NAID 40007259318。
- 洋書
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