ランジャナー文字
ランジャナー文字 | |
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類型: | アブギダ |
言語: |
ネワール語 サンスクリット チベット語 |
時期: | c. 1100–現在 |
親の文字体系: | |
子の文字体系: | ソヨンボ文字 |
姉妹の文字体系: |
プラチャリット文字 Litumol |
注意: このページはUnicodeで書かれた国際音声記号 (IPA) を含む場合があります。 |
ブラーフミー系文字 |
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ブラーフミー 前6世紀-前3世紀- |
ランジャナー文字(ランジャナーもじ、Rañjanā)は、ランツァ文字とも呼ばれ[1]、11世紀に発達したアブギダに属する書記体系である[2]。ランジャナー文字は、現在のネパールでは主にネワール語の表記に用いられるが、サンスクリットにも用いる。ネパール以外にチベット・モンゴル・中国などの仏教寺院でも用いられる。通常は左から右へと書かれるが、クタークシャルと呼ばれる形式では上から下へと書かれる[2]。ランジャナー文字は標準的なネパールのカリグラフィーの文字とも考えられている。
発達
[編集]ランジャナー文字はブラーフミー系文字の一種であり、北インドとネパールのデーヴァナーガリー文字に似ている[1]。ランジャナー文字は大乗仏教と密教の寺院の大部分でも主要な文字である[3]。ランジャナー文字はプラチャリット文字とならんでネパールの文字のひとつと考えられている[4]。 ネパール暦345年(西暦1215年)にカピタナガルのビクシュ・アナンダによって金のインクで書かれた八千頌般若経は、ランジャナー文字の早い例である[5]。
文字
[編集]母音
[編集]a अ | aḥ अः | ā आ | āḥ आः | i इ | ī ई | u उ | ū ऊ | ṛ ऋ | ṝ ॠ | |
ḷ ऌ | ḹ ॡ | e ए | ai ऐ | o ओ | au औ | å अँ | aṃ अं | ay अय् | āy आय् | ey एय् |
子音
[編集]k क | kh ख | g ग | gh घ | ṅ ङ |
c च | ch छ | j ज | jh झ | ñ ञ |
ṭ ट | ṭh ठ | ḍ ड | ḍh ढ | ṇ ण |
t त | th थ | d द | dh ध | n न |
p प | ph फ | b ब | bh भ | m म |
y य | r र | l ल | v व | |
ś श | ṣ ष | s स | h ह |
kṣ क्ष | tr त्र | jñ ज्ञ |
記号
[編集]-
ग
-
ब
-
क
ランジャナーの母音記号のつけ方には以上の3種類がある。
- ख, ञ,ठ,ण,थ,ध,श は ग の規則に従う
- घ,ङ,च,छ,झ,ट,ड,ढ,त,द,न,न्ह,प,फ,ब,भ,म,य,र,ह्र,ल,ल्ह,व,व्ह,ष,स,ह,त्र は ब の規則に従う
- ज,म्ह,ह्य,क्ष, ज्ञ は क の規則に従う
数字
[編集]0 ० | 1 १ | 2 २ | 3 ३ | 4 ४ | 5 ५ | 6 ६ | 7 ७ | 8 ८ | 9 ९ |
使用
[編集]ランジャナー文字は現代のネパールでは主にネワール語の表記に用いられるが、サンスクリットを書くのにも用いられる。大乗仏教と密教では伝統的に、さまざまな真言を書くのに用いられることで知られる。観音菩薩の真言である六字真言、多羅菩薩の真言である「oṃ tāre tuttāre ture svāhā」、文殊菩薩の真言である「oṃ a ra pa ca na dhīḥ」など[6][7][8]。ヒンドゥー教の碑文に用いられることもある[9]。
中国の仏教や、その他の東アジアの仏教では、真言や陀羅尼を記すためのサンスクリットの文字はランジャナー文字ではなく、唐代の中国で普及した、より早い時代の悉曇文字が使われることが多い[10]。しかし、後に中国でチベット仏教の影響が強まると、それにともなってランジャナー文字も普及した。このため、東アジア各地にランジャナー文字が存在するものの、悉曇ほど一般的ではない[11]。
北朝鮮の開城市にある1346年の梵鐘にはランジャナー文字で仏頂尊勝陀羅尼経が書かれている。これはランジャナー文字が使用された最東端の例である[12]。
ランツァ文字
[編集]ランジャナー文字は、チベットに伝わってランツァ (チベット文字:ལཉྫ་、拡張ワイリー方式: lany+dza) の名で呼ばれた。ランツァはサンスクリットのランジャ (Rañja) に直接由来する[10]。ランツァ文字はネパールの標準的なランジャナー文字と多少異なっている。チベットでは、ランツァ文字はサンスクリットの文章を記すのに用いられた[13]。文殊所説最勝妙義経、金剛般若経、八千頌般若経などをこの文字で書いた例が見られる。ランツァ文字はまた、翻訳名義大集のようなサンスクリットとチベット語の辞典の写本・版本にも用いられる。
しかし、今日においてもっとも頻繁に用いられるのは、チベット語文献の表題であり、サンスクリットによる題をランツァ文字で記し、その後ろにチベット文字による翻字とチベット語訳を記す。そのほか、寺院の壁、マニ車、曼荼羅の描画などにおいて装飾的に用いられる。
モノグラム
[編集]クタークシャル (Kuṭākṣar) と呼ばれる、ランジャナー文字のモノグラムがある。ランジャナー文字は、ネパール系諸文字のうち、モノグラムとして書くことのできる唯一の文字である。
20世紀以降
[編集]ランジャナー文字はネパールでは20世紀なかばに使用されなくなったが、近年になって使用が劇的に増加した。カトマンズ市、ラリトプル市、バクタプル市、キルティプル市、バネーパー市などの地方政府によって、標識や便箋などに使用されている。カトマンズ盆地では、ネワール語を保存するためにランジャナー文字を促進し、研修するためのクラスが定期的に開かれている。ランジャナー文字はネパール・バサ運動に承認され、新聞やウェブサイトのタイトルに使用されている。
ネパール・ドイツ合同プロジェクトがランジャナー文字で書かれた写本を保存するための努力を行っている[14]。
ランジャナー文字のためのUnicodeブロックはマイケル・エバーソンによって提案された[15]。
ギャラリー
[編集]-
チベット仏教ニンマ派の寺院。ランツァ文字を装飾的に用いる
-
招待状
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新聞 Sandhya Times
脚注
[編集]- ^ a b Omniglot
- ^ a b Jwajalapa
- ^ Folk tales from the Himalayan kingdom of Nepal: Black rice and other stories, p.47, Kesar Lall, Ratna Pustak Bhandar
- ^ Nepalese Inscriptions in the Rubin Collection
- ^ Nagarjuna Institute: Buddhist Sites of Nepal - Hiraynavarna Mahavihara (archive.org)
- ^ Teachings of Buddha
- ^ Dharma Haven
- ^ Ranjana font
- ^ Asian art
- ^ a b Chattopadhayaya, Alaka (1999). Atisa and Tibet: Life and Works of Dipamkara Srijnana: p. 201
- ^ Jiang, Wu (2008). Enlightenment in Dispute: The Reinvention of Chan Buddhism in Seventeenth-Century China: p. 146
- ^ Jens-Uwe Hartmann (1998). “The Rañjanā script”. The Fifth Seal. Caligraphic Icons/Kalligraphikons. Paintings by Rolph A. Kluenter. pp. 37-39
- ^ Ranjana script and Nepal Bhasa (Newari) language
- ^ Ranjana Script
- ^ Preliminary proposal for encoding the Rañjana script in the SMP of the UCS
外部リンク
[編集]- Ranjana script
- Newari/Ranjana script page on Omniglot
- N3649: Preliminary proposal for encoding the Rañjana script in the SMP of the UCS
- Ranjana script
- Akṣara List of the Manuscript of Aṣṭasāhasrikāprajñāpāramitā, ca. the 11-12th Centuries, Collection of Sanskrit Mss. Formerly Preserved in the China Ethnic Library - ウェイバックマシン(2011年7月7日アーカイブ分)
- Akṣara List of the Sanskrit Inscriptions of Feilai peak, Hangzhou, China ( 1282-1292 CE)
- Lantsha script
- 『ネワール文字』世界ことば村 。
- 『欽定同文韻統』 巻1 。(四庫全書本、上からランジャナー文字、チベット文字、満州文字、漢字)