素性文字

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素性文字[1](そせいもじ、英語: featural script)とは、文字体系の分類のひとつ。音素文字のレベルよりさらに細かく、弁別的素性を反映させた表音文字を言う。

ジェフリー・サンプソン英語版が、アイザック・ピットマン速記[2]、およびハングルの特徴を説明するために、この語をはじめて使用した。

概要[編集]

サンプソンは文字に関する著書『Writing Systems』の第6章[3]を素性体系としてのハングルの分析にあて、ハングルに先行する表音文字が音素のレベルまでを対象にしているのに対し、ハングルは子音も母音も弁別素性の分析をもとに文字が設計されているところに特徴があるとした。

サンプソンによれば、表記体系は以下のように分類される[4]

表記体系  

glottographic  

表音文字    

素性文字



音素文字



音節文字





表語文字    

形態素文字



複数形態素(単語など)にもとづく文字







semasiographic



ハングルが弁別的素性をもとに設計された珍しい文字体系であることは、サンプソン以前に趙元任が述べている[5]

ジョン・デフランシスは素性文字という考えに反対し、ハングルをアルファベットに含めている[6]

問題点[編集]

趙元任は、人間が文字を読むときにいちいち発音の特徴に注意しているわけではないとして、ハングルのような文字設計に疑問を呈している[5]

サンプソンも、ハングルは覚えやすいが、どの字も同じような形になってしまうため、読みやすさは犠牲になっているとしている[7]

ハングル以外の素性文字[編集]

サンプソンは、通常の文字体系ではハングルと同じ設計のものはほかにないが、アイザック・ピットマンの速記文字がこれに近いとしている[8]

エルフ語の文字(テングワール)も素性文字に含まれる[9]

ピーター・T・ダニエルズ英語版は、さまざまな言語によるアラビア文字の借用を論じて、借用されるごとにアラビア語に存在しない音を表す文字を既存の文字の変形によって作るため、より素性文字的になっていくとした[10][11]

脚注[編集]

  1. ^ この日本語名は李翊燮等(2004) p.48 に見える
  2. ^ Sampson (1985) p.40
  3. ^ 2015年の第2版では8章
  4. ^ Sampson (1985) p.32
  5. ^ a b チャオ (1980) pp.155-156
  6. ^ DeFrancis (1989) pp.196-198
  7. ^ Sampson (1985) pp.143-144
  8. ^ Sampson (1985) p.123
  9. ^ Daniels (1997) p.370
  10. ^ Daniels (1997)
  11. ^ Kaye (1996) p.743

参考文献[編集]

  • 李翊燮、李相億、蔡琬 『韓国語概説』 梅田博之; 前田真彦訳、大修館書店2004年ISBN 446921289X
  • ユアン・レン・チャオ 『言語学入門:言語と記号システム』 橋本萬太郎訳、岩波書店1980年
  • Daniels, Peter T (1997). “The Protean Arabic Abjad”. In Asma Afsaruddin; A.H. Mathias Zahniser. Humanism, Culture, and Language in the Near East: Studies in Honor of Georg Krotkoff. Eisenbrauns. pp. 369-384. ISBN 1575060205. 
  • DeFrancis, John (1989). Visible Speech: The Diverse Oneness of Writing Systems. University of Hawaii Press. ISBN 0824812077. 
  • Kaye, Alan S (1996). “Adaptations of Arabic Script”. In Peter T. Daniels; William Bright. The World's Writing Systems. Oxford University Press. pp. 743-762. ISBN 0195079930. 
  • Sampson, Geoffrey (1985). Writing Systems. Stanford University Press. ISBN 0804717567. 

関連項目[編集]