チャイナリスク

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チャイナリスクとは、中国(中華人民共和国)のかかえるカントリーリスクである。つまり、中国国内で外国企業が経済活動を行う際もしくは中国人を雇い入れる際のリスク(不確実性)、特にダウンサイドリスクだけを取り出したもの。

概要[編集]

チャイナリスクの体系[編集]

  • オペレーションリスク
    • 生産
      • 品質管理の困難:食のチャイナショック:2008年に起こった中国製食品中毒問題は、安全安心を掲げてきた生活協同組合のCO・OPブランドで販売された中国製食品であっただけにその影響とショックはなおさら大きく、中国における製品の品質管理の難しさを消費者に認知させる結果になった。
      • 部品・原材料の現地調達の困難
      • 限界に近づきつつあるコスト削減
      • 輸入品に対する高関税、非関税障壁
    • 販売
      • 代金回収の困難
      • 模倣品の氾濫
      • 在庫調整と需要予測の困難
    • 雇用・労働
      • 人材(中間管理職・技術者)の採用難
      • 労働者の質・教育レベル
      • 賃金水準の上昇
      • 労務問題(ストライキ、労働組合問題など)
      • 過剰な縁故採用・縁故昇進(縁故資本主義の横行)
      • ジョブホッピング
    • 投資環境
      • 不透明な政策運営
      • 中央・地方の不統一性
      • 経済法制度の未整備
      • 恣意的な法制度の運用
      • 会計制度・税制の不備および運用の不透明性
      • 技術流出および不十分な知的財産権保護
      • 運輸・電力などインフラ問題
      • 外国資本優遇措置の見直し
      • 外資系企業及び地場企業との競争激化
      • M&Aの増加に伴う統合、敵対的買収の横行
    • 経済
      • 為替操作国疑惑
      • 中国経済の持続的成長
      • 政府のマクロ経済の運営
      • インフレもしくはデフレ圧力
      • 不動産バブル
      • 不良債権問題
      • 証券市場の低迷
      • 為替制度改革
      • 恒常的な国家財政の赤字
      • 国有企業改革
      • 資源・エネルギー不足
  • 商行為以外でのカントリーリスク
    • 社会
    • 政治
      • レアアース等の禁輸措置
      • 市場に対する中立性の不明瞭さ(共産党一党独裁):詳細は、中華人民共和国#政治を参照の事
      • 安全保障問題:冷戦終結まではイデオロギー対立でしこりが生じていた周辺の社会主義国(主にソ連・ソ連寄りの衛星国)や国家正当性を巡る台湾(中華民国)との対立姿勢などの安全保障にまつわる諸問題、近年では国威発揚の為に容認され続けている民族主義・対外拡張主義に基づく地政学上での周辺国との対立姿勢があらゆるレベルの商行為にもたらす害悪が懸念される。
      • 反日教育:戦後の社会主義体制下で政権の維持と民族主義向上のために徹底的な反日教育を施された世代が、世代交代が進んだことで現在では政治・行政・経済の中枢に深く携わっており、歪められた日本観や反日教育に根拠する日本国家・日本人への優越感・差別感情が中国の国家全体に蔓延している。
  • セキュリティーリスク
    • 中国民事訴訟法231条問題(のちに255条に改定) 近年、訴訟をおこされ、未解決の案件があると裁判所が判断するだけで、外国人に対する出国制限措置が容易に発動されている。
    • 対日本抗議行動
      • 反日デモ
      • 不買(ボイコット)運動
      • 日系企業への破壊行為、日本車の破壊行為とそれに起因する日本車購入回避
    • 治安悪化
    • 新興感染症
      • 後天性免疫不全症候群(AIDS)の拡大
      • 重症急性呼吸器症候群(SARS):2002年12月広東省広州において海鮮卸売業を営む周作芬が中山大学付属第二病院に担ぎ込まれたことからはじまると言われるいわゆる新型肺炎である。重症急性呼吸器症候群は中国を発端とし、わずか7か月で世界29カ国に広がり800人近くの死者を出した。闘病を強いられその後無事回復した初の患者である周作芬は病院で「毒王」というあだ名で呼ばれた。[1]
    • 動物伝染病・家畜伝染病人獣共通感染症の脅威

[2]

チャイナリスクの歴史的サイクル[編集]

リスクの内容[編集]

これについて、ジェームズ・マックグレゴールは、著書「中国ビジネス最前線で学ぶ教訓」で以下のように述べている。

やむを得ない場合を除いて間違っても国営企業と合弁を組むな。合弁の結果、中国側は貴社の技術、ノウハウ、カネのすべてを手に入れ、企業をコントロールする

[3]

  • 現地人による過度の安全性の軽視と品質の低下
    • 一般に値段と安全・信頼性をはかりに掛けると前者を重視する
  • 不透明な市場の流れにより半ば横行している株式のインサイダー取引
  • 中国バブル崩壊論
    • 中国の経済発展はバブルであり、2008年の北京オリンピック、2010年の上海万博の前後に崩壊するのでは無いかといった予測がしばしば日本の経済専門家の間で指摘される。
  • 官僚の絶大な権力による法令の朝令暮改
    • 行政手続きの不透明性

例えば日経ビジネスオンラインでは、許可申請を少し変更したら、認可が下りるまでに4年かかった王子製紙のコメントのあとで以下のとおり結んでいる[4]。 王子製紙の篠田和久社長は今回の経験について、こう語る。

日本でも規則は変わるが、まず話し合いがあってのことだ。…… 中国では、それが予告なしに起こる。もっと透明性が必要だ

中国での事業展開に苦労したことのある経営幹部なら、一様に篠田氏の話に共感するだろう。

下記内容のいくらかは、中国脅威論と共通する部分が多い。

  • 政治の腐敗による贈収賄
  • 特有の社会主義による労働運動、労働慣行
  • 情報人権に関する制限の問題 (日中記者交換協定も参照のこと)
  • しばしば諸外国から不公正であると指摘される裁判制度
  • 軍事力の増大とナショナリズムによる周辺諸国との摩擦
    • 中国軍事脅威論に関連して、軍事転用可能なハイテク技術においては、日本から中国国内への移転ができないといった制限がある。

背景[編集]

改革開放後、漸次的に共産主義の経済制度を資本主義化・市場化していく過程で、多くの企業が中国へ進出した。

しかし、共産主義のもとで形成されていた経済制度や既得権益と、資本主義の下で活動していた企業の利益は各所で衝突。中国での経営では文化の差を超えて独特の経営慣行が求められることとなった。

日本欧米を始めとする先進国では、普通選挙に基づく民主主義政治体制として採用され、法の支配の下で基本的人権が保障されている。しかし、中国では、中国共産党が事実上の一党独裁によって権力を掌握しており、市民の力によって中国の民主化を目指した1989年六四天安門事件も、人民解放軍の投入によって阻止された。改革開放後も一党独裁体制を放棄する兆候はなく、人民解放軍の一部を暴徒鎮圧向けに改編した武装警察やインターネットにも及ぶ情報検閲などによって強権的に維持されている

現在まで、中国に次々と進出する日本企業は、チャイナリスクを考慮した行動や対策を行ってこなかった。これは、「政治的・歴史的な緊張関係にとらわれず、未来志向の経済協力による日中融和を目指す」という姿勢、言い換えれば日本企業の利益最優先主義の姿勢によるものであり、またチャイナリスクを考慮した行動を取ることは裏を返せば中国当局を徒に刺激することでもあったためである。

しかし、その日本企業が当てにしていた中国において、在留日本人が暴力事件に巻き込まれる事件が多発し、日本企業が地下鉄工事や道路建設において競争入札の門前払いを喰らうなど、日本人に対する差別が原因と思われる事態が次々と発生。2005年に中国全土へ広がった反日デモは、その中でも特に顕著な例であり、日本の総領事館にまで投石などが相次ぎ、取締りを行うべき治安部隊がその行為を黙認、中国政府は「日本側の態度が暴動の原因として」謝罪や賠償責任まで否定するという状況に至った。

これらの諸問題の解決策として、中国側による反日デモの誠実な謝罪や犯人の徹底追及、中国政府による損害賠償、アカデミックなレベルでの歴史問題の解決や日中間の民間交流の促進、日本側が行っているODAや経済協力による日中融和政策の中国側の理解などがあげられるが、根本的には中国共産党一党独裁と急進的な市場経済の導入に伴う社会的な歪みに起因するものであり、実効性を伴う解決策が見出せていない。

影響[編集]

中国でビジネスを行う企業にとってのチャイナリスクの問題は、主にリスクマネジメントなどの企業防衛の観点から、経営戦略上も決して無視することができない要素となっている。

特に日系企業の間ではタイベトナムインドロシアなど他の新興国にも生産拠点を分散させたり、日本国内での生産に回帰する動きが広がっている。下記チャイナプラスワンも参照。同様に、一般的な商取引においても日本企業と中国企業の間にタイ・ベトナム・台湾などの関連企業や商社を介在させるといった手法で、中国との間にワンクッション以上挟みこむことで、若干のコスト上昇というマイナスよりもひと度トラブルが勃発すれば巨額の経済的損失や知的財産の流出を発生させ企業の経営自体を揺るがしかねないリスクやチャイナ・ハラスメントの低減を優先させる動きもある。

知的財産権に対する認識の低さ、知的財産である先端技術の流出や模倣、中国産製品にまつわる品質面の諸問題などは経営戦略において軽視できない問題であり、これを警戒して、中国での製造は先端技術を用いないローエンドモデルの製品に限定したり、あるいは一部のパーツや組立用部材のみの製造にとどめ、日本国内や他の新興国の拠点でその後の最終組立を行っている企業や、先端技術を用いる最新機能を持つ製品やハイエンドモデルは知的財産の漏洩防止措置が配された日本国内の拠点で製造するという企業も存在している。また、ハイエンド製品ではなくとも、より高い信頼性を要求される業務用向けなどの製品については中国以外の製造ラインを使用する企業もある。

パソコン業界でも、ローエンド帯の製品を主力商品としているオンキヨー(旧ソーテック)やMCJ系のマウスコンピューターユニットコムなどは、一時期「MADE IN CHINA」というイメージが根強かった大手家電メーカーのローエンド製品と暗示的に比較する形で、日本国内の工場での製造であるという『安心感』を主要なセールスポイントの1つとして謳っている[5]。現在ではノートパソコンを中心に富士通など一部の大手家電メーカーも日本国内でのマザーボード製造・本体組立に回帰する傾向を見せている。

また、原材料・部品や鉱物資源・レアアースの輸入においても、2010年9月の尖閣諸島中国漁船衝突事件後に中国が行った事実上の輸出規制以降、中国政府の資源供給を政治的武器として使用する姿勢や中国の国内情勢そのものをリスク要因と捉えて、中国国内への一極集中の依存から脱却し、中国以外の国からも安定的な入手が可能になる様に入手経路の構築を図ったり、レアアースレス(レアアースの不使用・使用量減)やリサイクル技術・代替品の開発・研究を行うなど、「中国離れ」を模索する動きが各産業で見られる様になった。この結果、中国のレアアースの日本向け輸出量は2011年に前年比34%減を記録し、その後も減少傾向にある[6]

チャイナプラスワン[編集]

チャイナリスクを回避するためのリスクマネジメントの手法の1つにチャイナ・プラス・ワン(China plus one)、あるいは中国プラス1がある。これは中国向けの投資やビジネスを行いつつもあえて中国一国に集中させず、平行して他の国においても一定規模の投資や商取引を展開し、リスクの分散化と低減を図る企業動向である。

中国以外の他国の候補地としては、インドやベトナムなど他のアジア諸国が多い。中国の製造業への投資が近年鈍化傾向となった要因の一つとして指摘されている[2]

過去に起きた事例[編集]

  • 東日本旅客鉄道による新幹線E2系電車の技術提供により開発された中国高速鉄道CRH2型電車、および中国高速鉄道CRH380A型電車に関して、米国議会の超党派諮問機関「米中経済安保調査委員会」は「中国企業が外国技術を盗用した最も酷い実例」と明記した。
  • 中国の一部である香港の企業が企画した学研地球儀が中国国内の工場を出荷される間際に台湾の表記をめぐって中国政府によって出荷差し止め圧力を加えられ、一連の騒動によって結果的に学研は販売停止に追い込まれた。
  • 中国の上海にある日本人学校で使用するために取り寄せた日本の図書を上海税関は中華人民共和国出版管理条例に違反すると認定し、一部を差し止めた。
  • 北京で行われたテニスの大会で伊達公子がPM2.5に対する不快感をあらわにしている。初戦勝利の後に頭痛に悩まされはじめ「今の私にはこのどんよりした景色をみるだけで気分が悪くなりさらに体調が悪くなるんじゃないかって怖くなってきます」と述べるなど日に日に事態は深刻化。少しでも早い北京脱出を願い、ホテルの部屋にこもっていたという[7]
  • 外国企業に対して、デジタル機器のソフトウェアのソースコード開示を強制する「ITセキュリティー製品の強制認証制度」を2009年5月から導入するとしている。
  • 北京松下(パナソニック)にて「退職を迫られた中国人従業員約600人」が「日本人社長」を6時間にわたって取り囲む。不況のために70%の人員削減をしようと試みたが、中国当局がそれを禁止した。パナソニックは赤字運営を続けざるをえなくなっている。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]

脚注[編集]

  1. ^ ザ!世界の仰天ニュース「奇跡の医療スペシャル」より
  2. ^ a b 2005年10月号 ジェトロセンサー
  3. ^ 2007年3月20日付配信 産経新聞より引用
  4. ^ 『王子紙、中国進出の誤算』2008年1月21日付配信 日経ビジネスオンライン
  5. ^ ただし、「国内製造」をセールスポイントしているメーカーのパソコンにしても、ほとんど全てのパーツやベアボーンキットを日本国外、主に中国や台湾からの輸入に依存しており、実態を見る限りでは「国内組み立て」にしか過ぎず、パーツを供給する台湾メーカーも多くが実際の製造拠点は中国国内に置いている。「日本製パソコン」を銘打っているからといって使用されるパーツが品質面・性能面で特別に吟味されているわけでもない。また、これら「日本製パソコン」のメーカーの製品故障率が中国製の競合他社の製品と比較して低いというデータが提示されているでもない。実態としては、単に最終組み立ての工場が地球上のどこにあるかという問題でしかない。
  6. ^ レアアース「もっと調達して」中国業者懇願 2年前と状況変化 - MSN産経ニュース 2012年10月5日
  7. ^ 伊達公子「ため息」の次は…北京のスモッグに悩まされ敗退デイリースポーツ 2013年10月1日