権力

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

権力(けんりょく、英語 power、フランス語 pouvoir、ドイツ語 Macht)とは一般にある主体が相手に望まない行動を強制する能力である[1]

ここでは政治理論における権力について概観するので、相手の自発的に服従させる公式的な形態の能力である権威(authority)、そして相手の行動を統制する非公式の形態の能力である影響力(influence)、相手に嫌悪的な刺激を与える能力である暴力(violence)について個々の項目を参照されたい。

概要[編集]

権力という概念は、17世紀力学の発展を背景として生み出された。すなわち、物体はその位置エネルギー運動エネルギーから力学的エネルギーを生じさせる。これと同様に、何らかの「権力手段」、「基礎価値」をもつことによって、ある者が他者をその意に反してでも行動させうる、特別な「力」を保有している、という理解が生まれた。こうした権力観を「実体的権力観」という[2]

権力は、社会のあらゆる場面で成立する余地がある。一般に政治的な場面で用いられる権力(「政治権力」)といえば、一定の範囲の住民すべてに及ぶ強制力を有し、それを服従させるようにまで至った権力のことをさす。

そして、今日、政治権力といえば、国家権力を指すのが通例である。国家は、の制定権、警察軍隊政府官僚集団を独占的に保有することによって、実効的な統治権を確保する。

なお、物理的強制力をともなう政治権力を保持するだけでは、政治的正当性を確保するまでには至らず、安定的な支配を維持することは難しい(権威の欠如)。政治的正当性を確保するためには、政治権力・国家権力が被治者から支配に対する自発的な同意・服従を調達する必要がある。

研究史[編集]

近代的な概念としての権力の研究の端緒としてニッコロ・マキアヴェッリデイヴィッド・ヒュームの古典的な研究を挙げることができる。15世紀にマキアヴェッリは統治に不可欠な要素は軍備法律であると論じた。特に独立した国家を統治するための常備軍の設置の重要性を主張している。この組織的暴力によって統治者の権力を基礎付けるマキアヴェッリの現実主義と呼ばれる政治思想は権力の研究における理論的基礎として確立された。このような現実主義的な見方をヒュームは発展させた。ヒュームは軍事的征服植民地化などあらゆる政治変動において暴力が見出されることを指摘し、権力を研究することによって、従来の道徳的な政治理論に対して実証主義的な政治理論を構築することを主張した。そしてヒュームは論文「政治を科学に高めるために」(1742年)の中で権力が表現される統治の形態に着目し、要因として人間の性格や気質を排除しながら、より厳密な科学的方法で政治を研究することを論じている。

19世紀から20世紀にかけて成立した近代社会国民国家の研究を背景としながら、マックス・ヴェーバーは権力を社会関係の中で抵抗に逆らって自己の意志を強要する可能性として定義した。このヴェーバーの権力概念は直接的または間接的に後の研究者の研究に受け入れられ、特にシカゴ学派に属するチャールズ・メリアムハロルド・ラスウェル、国際政治学のハンス・モーゲンソウの研究などに影響を与えた。特にラスウェルは権力に関する重要な研究業績を残しており、シカゴ学派の権力理論の成果が示されている。ラスウェルの見解によれば、権力は社会のさまざまな価値と結びつけて捉えることが可能であり、ある行為の型に反した結果、重大な価値の剥奪が期待される関係として権力が定義できると考える。この権力の概念は罰金のように財産の剥奪を伴う権力だけでなく、社会的地位や名声の剥奪を伴う場合も権力として包括している。古典的な権力理論が政府組織の内部における権力関係だけではなく、ラスウェルは権力の影響が制度の外部、非公式な場面においても認められることを解明した。

備考[編集]

  • 他者や集団・組織に対し絶大な影響力を行使できる人のことを隠語として「実力者」ということがある。他者を服従させる何らかの特別な「力」を有している点ではこれも「権力者」の範疇に含まれるが、表舞台に立つことなく非公式に影響力を行使することから、通常の権力主体と比して可視化されにくい。そこから「影の支配者・実力者」と呼ばれることもある(いわゆる「キングメーカー」などもその一例であろう)。
  • 反権力を標榜する団体、個人には、権力への志向の強い傾向がみられ、権力欲の裏返しの表現である場合が往々にしてある。

特別権力関係[編集]

特別の公法上の原因により成立する、公権力と国民との法律関係をいう。

これは、公務員の勤務関係、国公立大学の在学関係、在監関係など、性質の異なる法律関係を、或る国民が公権力に服従するという関係として捉え、命令や強制について個別の根拠は必要とされず、さらに裁判所の司法審査権は及ばないとされていた。法治主義の下、現在においては、採用されていない。

日本国憲法の規定[編集]

行政・立法・司法の三権分立させることで均衡と抑制が図られる。また公務員の権力の濫用は戒められている。

出典[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ Dahl, 1957.その他の権力の定義については後述。
  2. ^ 高畠、1984年、47頁以下。

関連項目[編集]

参考文献[編集]

  • Arendt, H. 1972. On violence. in Crises of the Republic. New York: Harcourt Brace Jovanovich.
  • Aristotle. 1962. The politics of Aristotle. trans and ed. Barker, E. New York: Oxford Univ. Press.
    • アリストテレス著、山本光雄訳『政治学』岩波書店、1961年
  • Bachrach, P., and Baratz, M. 1962. Two faces of power. American Political Science Review 56:947-952.
  • Bachrach, P., Baratz M. 1970. Power and poverty. New York: Oxford Univ. Press.
  • Barrett, M. 1980. Womens' oppression today. London: Verso.
  • Barry, B. 1976. Power and political theory: Some European perspectives. London: Wiley.
  • Bell, R., Edwards, D. V., Harrison R. eds. 1969. Political power: A reader in theory and research. New York: Free Press.
  • Cartwright, D. ed. 1959. Studies in social power. Research Center for Group Dynamics, Publication No. 6. Ann Arbor: Univ. of Michigan, Institute for Social Research.
  • Dahl, R. A. 1957. The concept of power. in Behavioral Science 2:201-215.
  • Dahl, R. 1961. Who governs? New Have: Yale Univ. Press.
    • ロバート・ダール著、川村望、高橋和宏監訳『統治するのはだれか アメリカの一都市における民主主義と権力』行人社、(1961年)1988年
  • Foucault, M. 1977. Power/Knowledge. New York: Pantheon.
  • Giddens, A. 1979. Central problems in social theory. Berkeley: Univ. of California Press.
  • Hobbes, T. 1968. Leviathan. ed. C. B. Macpherson Middlesex: Harper.
    • トマス・ホッブズ著、永井道雄、宗方邦義訳『世界の名著23 リヴァイアサン』中央公論社、昭和46年
  • Hume, D. 1962. Enquiry concerning human understanding. Oxford: Clarendon Press.
  • Isaac, J. 1987. Power and Marxist theory: A realist view. Ithaca, NY: Cornell Univ. Press.
  • Jouvenel, D. De. (1949) 2010. On Power: The Natural History of Its Growth. trans. J.F. Huntington. Liberty Press.
  • Lasswell, H. D. (1936) 1990. Politics: Who gets what, when, how. New York: Peter Smith Pub Inc.
    • ラスウェル著、久保田きぬ子訳『政治 動態分析』岩波書店、1959年
  • Lukes, S. 1974. Power: A radical view. London: Macmillan.
  • Merriam, C. E. 1934. Political Power: Its Composition & Incidence. Whittlesey House.
  • Mills, C. W. 1956. The power elite. New York: Oxford Univ. Press.
    • ミルズ著、鵜飼信成、綿貫譲治訳『パワー・エリート 上下』東京大学出版会、2000年
  • Mosca, G. (1896) 1939. The ruling class. New York: McGraw-Hill.
  • Niebuhr, R. 1932. Moral man and immoral society. New York: Charles Scribner's Sons.
    • 大木英夫訳『道徳的人間と非道徳的社会』白水社、1998年
  • Polsby, N. 1980. Community power and political theory. New Heaven: Yale Univ. Press.
    • ポルスビー著、秋元律郎訳、『コミュニティの権力と政治』早稲田大学出版部、1981年
  • Poulantzas, N. 1973. Political power and social classes. London: New Left Books.
    • ニコス・プーランツァス著、田口富久治訳、山岸紘一訳『資本主義国家の構造 政治権力と社会階級 1-2』未来社、1978年
  • Parsons, T. 1969. On the concept of power. in Politics and Social Structure. New York: Free Press.
  • Simon, H. 1953. Notes on the observation and measurement of power. Journal of Politics 15: 500-516.
  • Weber, M. (1922) 1957. The theory of social and economic organization. ed. T. Parsons. Glencoe: Free Press.
    • ウェーバー著、浜島朗訳『権力と支配 政治社会学入門』有斐閣、1988年
    • ウェーバー著、世良晃志郎訳『支配の社会学』創文社、1962年