カントリーリスク

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カントリーリスクとは、海外投融資や貿易を行う際、対象国の政治・経済・社会環境の変化のために、個別事業相手が持つ商業リスクとは無関係に収益を損なう危険の度合いのこと[1]GDP国際収支外貨準備高、対外債務、司法制度などの他、当該国の治安、政情、経済政策などといった定性要素を加味して判断される[2]。多くは民間の格付会社によって公表される。

特に開発途上国においてはカントリーリスクが高くなる傾向が強くなる[3]

第一次石油危機の際、多くの開発途上国において対外債務が累積し、これまでの商業リスク概念を超えた考え方が必要であるとしてカントリーリスク概念が注目されるようになった[4]

要因[編集]

収益を損なう原因のうち何をカントリーリスクの要因として考えるかはさまざまな意見があり、明確ではないが、主なものを以下に挙げる[5][2][4]

経済情勢の変化[編集]

デフォルト
1980年代の東ヨーロッパ諸国と中南米諸国、1994年のメキシコ
インフレーション

政治情勢の変化[編集]

内乱革命、その他政情不安による治安の悪化
三井グループがイランと協力して設立したイランジャパン石油化学は1979年のイラン革命、1980年に勃発したイラン・イラク戦争の影響を受ける。最終的に9割がた完成していた石油プラントは放棄され、総額6,000億円もの投資が無駄になった。
政権と経済界との癒着、政権による企業経営への介入
一部の国では財閥が有力政治家と深く関わり、政権内の権力闘争により企業経営が左右される。ロシアやウクライナの政権によるオリガルヒへの介入などが代表的。

当該国の政策変更[編集]

外資規制、為替政策の変更
国有化、その他政策・法律の変更
エジプトによるスエズ運河国有化、キューバ革命によるアメリカ系企業の接収・国有化などが代表的。
国際法の解釈の変更
韓国における日韓請求権協定の解釈の変更[6]により発生した徴用工訴訟問題など。
ジンバブエ化

社会的要因[編集]

  • 国民の教育水準の低さ
  • 政治家や公務員(警察、行政機関など)の腐敗(職務の怠慢、賄賂による汚職職権濫用の横行など)
  • 犯罪の検挙率の低さ
  • 司法制度の不備や不公正、遵法意識の欠如(法務リスク)
  • 所得格差の増大や、宗教・民族対立・地域間格差などの社会問題
  • 他者の知的財産権著作権特許商標など)の軽視による侵害・濫用・詐取
  • 先端技術や商品製造ノウハウの流出と模倣品の氾濫

自然災害など[編集]

  • 地理学的・水文学的・環境学的な要因
    • 自然災害(地震、津波、火山など)や環境汚染(大気汚染、水質汚染など)のリスクと対策の欠如

カントリーリスクが特に懸念される地域[編集]

アフリカ中南米といった途上国は総じてカントリーリスクが高い[3]。またラオスカンボジアなど東南アジア諸国の一部や、イランなど中東諸国もカントリーリスクが懸念される[3]

他にロシア連邦をはじめとする旧ソ連諸国、北朝鮮などが特にカントリーリスクが高い地域である[3]。日本では中国のカントリーリスクであるチャイナリスクが注目を集めている。

韓国も、韓国の最高裁判所(大法院)が日韓請求権協定について日本の裁判所とは異なる解釈をして日本企業に対して賠償命令を出しているため[7]、日本企業の韓国内財産差し押さえの可能性があり[8]、日韓請求権協定成立以前から存在していた日本企業にとってはリスクが上昇していた。2019年1月8日に大邱地方法院(地方裁判所に相当)の浦項支院が新日鉄住金の韓国内資産に対する差し押さえ申請を承認した[9][10]ことにより、日韓請求権協定成立以前から存在していた日本企業にとってはさらにリスクが高まった。また、日本による韓国への輸出厳格化措置に対して、日本製品不買運動が続いていることもリスク上昇の一因である[11]

イギリスEconomist Intelligence Unitによると、2005年時点では東欧、ロシア、アメリカ合衆国、中国を除くアジア太平洋地域、中国の順でカントリーリスクが上昇している。

カントリーリスクを象徴する事件の例[編集]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ カントリーリスク(=「非常危険」)|用語集”. www.nexi.go.jp. 日本貿易保険. 2020年7月29日閲覧。
  2. ^ a b 松岡温彦 (1981). “カントリー・リスク分析の現状と課題”. オペレーションズ・リサーチ 26: 4-5. http://49.212.88.81/~archive/pdf/bul/Vol.26_01_004.pdf. 
  3. ^ a b c d 2020 COUNTRY RISKMAP”. 日本貿易保険. 2020年7月29日閲覧。
  4. ^ a b 有馬敏則 (2006-01-31). “カントリーリスク概念とBIS統計”. 彦根論叢 (滋賀大学経済経営研究所) 357: 68. https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/8732695. 
  5. ^ 貿易保険とは”. 日本貿易保険. 2020年7月29日閲覧。
  6. ^ 山本晴太 (2014年). “日韓両国の日韓請求権協定解釈の変遷” (PDF). pp. 15-20. 2019年8月9日閲覧。
  7. ^ “韓国最高裁「日本企業、徴用者に賠償責任ある」”. 中央日報. (2012年5月24日). https://web.archive.org/web/20200810084656/https://japanese.joins.com/JArticle/152640 
  8. ^ “韓経:【社説】日本の対韓直接投資が4年連続で減る理由”. 中央日報. (2016年10月5日). https://web.archive.org/web/20210119130725/https://japanese.joins.com/JArticle/221408 
  9. ^ 強制徴用判決、新日鉄住金の韓国内資産の差し押さえへ”. 中央日報日本語版. 中央日報 (2019年1月9日). 2019年8月9日閲覧。
  10. ^ パク・ミンヒ (2019年1月9日). “大邱地裁、“戦犯企業”新日鉄住金の韓国資産の差し押さえ申請を承認”. Hankyoreh Japan. ハンギョレ新聞社. 2019年8月9日閲覧。
  11. ^ 渡邊康弘 (2020年7月21日). “日韓関係崩壊の「真の意味」とは…日本企業が相次いで韓国企業との取引停止”. FNNプライムオンライン. https://www.fnn.jp/articles/-/64976 2024年1月9日閲覧。 
  12. ^ 解説HP
  13. ^ “【噴水台】 国民情緒法”. 中央日報. (2005年8月12日). https://web.archive.org/web/20130518123646/http://japanese.joins.com/article/603/66603.html 

外部リンク[編集]

  • Economist Intelligence Unitのページ - EIUはイギリスのThe Economist傘下の企業間事業部門である。例えば、Press releaseから2005年4月14日付けの" Global business risk rose sharply in first quarter of 2005, according to new Corporate Risk Barometer"を開くと、地域別のカントリーリスクの上昇率などを参照できる。