バベルの塔
バベルの塔(バベルのとう、ヘブライ語:מגדל בבל、英語:Tower of Babel)は、旧約聖書の「創世記」中に登場する巨大な塔。
神話とする説が支配的だが、一部の研究者は紀元前6世紀のバビロンのマルドゥク神殿に築かれたエ・テメン・アン・キのジッグラト(聖塔)の遺跡と関連づけた説を提唱する[1]。
概要
バベルの塔の物語は旧約聖書の「創世記」11章にあらわれる。そこで語られるのは下記のような記述である。位置的にはノアの物語のあとでアブラハムの物語の前に置かれている。
- 旧約聖書の記述
- 11:1 全地は一の言語一の音のみなりき
- 11:2 茲に人衆東に移りてシナルの地に平野を得て其處に居住り
- 11:3 彼等互に言けるは去來甎石を作り之を善く爇んと遂に石の代に甎石を獲灰沙の代に石漆を獲たり
- 11:4 又曰けるは去來邑と塔とを建て其塔の頂を天にいたらしめん斯して我等名を揚て全地の表面に散ることを免れんと
- 11:5 ヱホバ降臨りて彼人衆の建る邑と塔とを觀たまへり
- 11:6 ヱホバ言たまひけるは視よ民は一にして皆一の言語を用ふ今旣に此を爲し始めたり然ば凡て其爲んと圖維る事は禁止め得られざるべし
- 11:7 去來我等降り彼處にて彼等の言語を淆し互に言語を通ずることを得ざらしめんと
- 11:8 ヱホバ遂に彼等を彼處より全地の表面に散したまひければ彼等邑を建ることを罷たり
- 11:9 是故に其名はバベル(淆亂)と呼ばる是はヱホバ彼處に全地の言語を淆したまひしに由てなり彼處よりヱホバ彼等を全地の表に散したまへり
- 翻訳
- もともと人々は同じ1つの言葉を話していた。シンアルの野に集まった人々は、煉瓦とアスファルトを用いて天まで届く塔をつくってシェム[2]を高く上げ、全地のおもてに散るのを免れようと考えた[3]。神はこの塔を見て、言葉が同じことが原因であると考え、人々に違う言葉を話させるようにした。このため、彼らは混乱し、世界各地へ散っていった
バベルの塔の物語は、「人類が塔をつくり神に挑戦しようとしたので、神は塔を崩した」という解釈が一般に流布している。しかし『創世記』の記述には「塔が崩された」とは書かれていない。ただし、以下のような文献にはこの解釈に沿った記述がある。
- ヨセフスによる「ユダヤ古代誌」
- ニムロデは、もし神が再び地を浸水させることを望むなら、神に復讐してやると威嚇した。水が達しないような高い塔を建てて、彼らの父祖たちが滅ぼされたことに対する復讐するというのである。人々は、神に服するのは奴隷になることだと考えて、ニムロデのこの勧告に熱心に従った。そこで彼らは塔の建設に着手した。……そして、塔は予想よりもはるかに早く建った
原初史といわれ、史実性が疑わしいアブラハム以前の創世記の物語の中で、バベルの塔の物語は世界にさまざまな言語が存在する理由を説明するための物語であると考えられている。同時に「石の代わりに煉瓦を、漆喰の代わりにアスファルトを」用いたという記述から、古代における技術革新について述べ、人類の科学技術の過信への神の戒めについて語ったという解釈もある。
実現不可能な天に届く塔を建設しようとして、崩れてしまったといわれることにちなんで、空想的で実現不可能な計画を比喩的に「バベルの塔」という[4]。
文化
西洋美術上の題材の一つであり、16世紀の画家ピーテル・ブリューゲルやギュスターヴ・ドレが描いた絵画が有名である。
タロットカードで最も悪い札とされる「XVI 塔」は、同じ「塔」という人工建造物、塔が破壊されるという扱い、塔から落ちる人間(人間の驕りに対する天罰という解釈)から、このバベルの塔がモチーフになっているといわれている[5]。
フィクションにおけるバベルの塔
小説
- 空の境界
- 第六章忘却録音で、玄霧皐月の能力をバベルの塔建設以前の言語として表現した。
- ブラックロッド
- ブラッドジャケット、ブライトライツ・ホーリーランドと続く、古橋秀之のSF小説。バベル型積層都市と呼ばれる、巨大な塔型の都市「ケイオス・ヘキサ」を舞台としている。「神(天)にいたる塔」という暗喩がこめられている。
映画・ドラマ
- 相棒
- 2007年の新春スペシャルのタイトル。冒頭での語りや最後の杉下右京の話にも登場する。
- ケータイ刑事 THE MOVIE バベルの塔の秘密〜銭形姉妹への挑戦状
- ケータイ刑事 銭形シリーズの映画版第1作目のタイトルの一部と主役が監禁された施設の名前。作中のバベルの塔は塔ではなく1階建ての建物でありキングアンドリウ曰く縦ではなく横に建てたということになっている。
- バベル
- アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督。2006年カンヌ映画祭監督賞。タイトルの由来がこちらの「バベルの塔」であり、言葉や心が通じ合わないことで展開する出来事を追った物語になっている。
- メトロポリス
- 1926年エリッヒオ・ポマー製作、フリッツ・ラング監督、ドイツ・ウーファー社の無声映画「メトロポリス」でラング監督はバベルの塔の寓話を象徴的にヒロインのマリアに語らせている。
漫画・アニメ
- ギャラリーフェイク
- 22巻「メソポタミアを統べる者」
- 聖☆おにいさん
- イエスその人が、東京都の高層マンションとバベルの塔が似ているというネタで、言及する。価値観の違う人間と言葉が通じない様を、五段活用で「バベ-る」と表現している。
- 戦姫絶唱シンフォギア
- 作中で「カ・ディンギル(シュメール語での「バベルの塔」の意)」の単語が登場する。
- ナイトウィザード The ANIMATION
- 魔王エイミーが大魔王(破壊神)シャイマールを召喚するための装置として建設した塔。建設中で召喚を強行するが、最終的に破壊される。
- バビル2世
- アニメ版ではバビルの塔と呼ばれる。古代に地球に漂着した宇宙人が、母星と連絡を取るために現地人に建てさせた通信施設だったが工事ミスにより崩壊したという設定。主人公のバビル2世は、普段はこの塔に住んでいる。
- ふしぎの海のナディア
- バベルの塔は古代に恒星間通信を行う施設として複数本存在したとする設定。太古の戦争において反射衛星砲に改造され兵器として使用された。
- モンタナ・ジョーンズ
- 第12話でバベルの塔の財宝について調査する話が存在する。この中ではバベルの塔が地下に埋もれたという設定になっていた。
- ルパン三世 バビロンの黄金伝説
- メソポタミアの古代都市「バビロン」において、都市滅亡前に神の手によって国内の財宝を全て集めて作られた黄金の塔として登場する。
ゲーム
- アクトレイザー2 沈黙への聖戦
- アクションステージの1つに「バベルの塔」という塔がある。ボスは人間が作った機械の神「デストラクター」
- 巨人のドシン
- バルド島の島民達が最後に造り上げるモニュメント。
- シムシティ+(都市開発シミュレーションゲーム 日本語版はハドソン)
- 携帯電話版で、フリープレイモードのモニュメントとして登場、選択できるようになっている。
- DOOM
- エピソード2ボス、サイバーデーモンのステージ名が「Tower of Babel(バベルの塔)」
- Serious Sam The Second Encounter
- 古代バビロニア編の最終ステージとして登場。
- 女神転生IMAGINE
- 東京大破壊から逃れた人々が、「七人の賢者」の導きにより建築した巨大な建造物を「新宿バベル」と呼んでいる。
- バベルの塔
- 1986年にナムコが発売したファミコン用アクションパズルゲーム。L字型のブロックを組み合わせてフロアを脱出し、塔頂上にあるという空中庭園を目指す。
- スーパーマリオブラザーズ3
- ワールド5「空の国」の地上にバベルの塔の想像図と同様の外観の塔が建っており、このステージをクリアすると雲の上のステージに移行する。
- ファイナルファンタジーIV
- 「バブイルの塔」という名のダンジョンが登場。地底から天空までの高さがある壮大な塔。
- 女神異聞録デビルサバイバー
- 世界観の一部がバベルの塔の逸話をモチーフとしているほか、バベルという名前自体は「王の門」と呼ばれ、シナリオ上で重要な役割を担う存在として登場。
- ロストワールド(カプコンのアーケードゲーム)
- ステージ8のボス「風神・雷神」の戦闘シーン背景、次の最終ステージ背景、およびラストボス「天帝バイオス」の戦闘シーン背景が、ブリューゲルの描いたバベルの塔がモチーフと言われている。
- ワイルドアームズシリーズ
- ダンジョン名に「カ・ディンギル(シュメール語での「バベルの塔」の意)」や「エ・テメン・アン・キ」といったバベルの塔に関する単語が登場する。
音楽
脚注
関連項目
- エ・テメン・アン・キ
- マルウィヤ・ミナレット - 西欧で描かれたバベルの塔のモデル。