ノア (聖書)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
箱舟の建設を指揮するノア

ノアヘブライ語: נוֹחַ Nóaḥ, נֹחַ Nōªḥ‎、ギリシア語: Νώε, ラテン語: Noe, アラビア語: نوح‎ Nūḥ)は、旧約聖書・『創世記』5章~10章に登場するノアの方舟(箱船)で有名な人物。創世記の記述に従うならば、すべての人類の祖先ということになる。

キリスト教正教会では「ノイ」と呼ばれ、聖人とされている[注釈 1][1][2][3][4]

イスラム教においては「ヌーフ」と称され、アブラハム(イブラーヒーム)、モーセ(ムーサー)、イエス(イーサー)、ムハンマドと共に五大預言者のうちの一人とされる。聖典「クルアーン(コーラン)」にも「ヌーフ章」という名称で、単独で記述がなされている。

旧約聖書中『創世記』にみるノアの物語[編集]

旧約聖書創世記に記された物語の概容を(主、神といった表記も聖書に則りつつ)記す。

洪水まで[編集]

ノアの父はセトの子孫であるレメクであった(カインの子孫であるレメクと同名であるが別人)[注釈 2]。ノアは500歳で息子セムハムヤペテ(ヤフェト)をもうけた[5]

人が増えその娘も生まれた。神の子たち[注釈 3]が娘の魅力に惹かれ、選んだものを自分の妻とした[注釈 4][6]

そこで主「私のルーアハは長く人の中にはとどまらない。彼は肉にすぎないのだ。彼の歳は120年だろう。」と言った[7]。またその頃もその後もネフィリム(単数形”ネフィル”)(慣習では「巨人」と訳されている)が生まれた。彼らは昔の勇士、有名人であった[8]

主は地上に増え始めた人々が悪を行っているのを見て、心を痛め、人も獣も這うものも空の鳥までもぬぐい去る、これらを造ったことを悔いると言った[9]。しかし「その時代の人々の中で正しく、かつ全き人」「神と共に歩んだ」とされたノアとその家族、および動物(鳥なども含む)は生き延びさせるよう、ノアに箱舟の建設を命じた[10]

箱舟はいとすぎの木でつくられ、3階建てで内部に小部屋が多く設けられていた[11]

洪水[編集]

ノア(当時600歳)は箱舟を完成させると、「子らと、妻と、子らの妻たち」、および「すべての生き物…それぞれ二つずつ」と神から命じられた通りに[12]、自分の妻と、三人の息子と、三人の息子それぞれの妻たち(ノアを含め計8人)と[13]、すべての動物のつがい(清い動物「家畜」は7つがいずつ[14])を箱舟に乗せた。

大洪水は40日40夜続き、地上に生きていたもの全てを滅ぼしつくした[15]。水は150日の間増え続け、その後箱舟はアララト山の上にとまった[16]

40日後にノアはを放ったが、とまるところがなく帰ってきた[17]。さらにを放したが、同じように戻ってきた[18]。7日後、もう一度鳩を放すと、鳩はオリーブの葉をくわえて船に戻ってきた[19]。さらに7日たって鳩を放すと、鳩はもう戻ってこなかった[20]

それによりノアは水がひいたことを知り、家族と動物たちと共に箱舟を出た[21]。そこで祭壇を築いて焼き尽くすいけにえを神にささげた[22]。ヤハウェはこれに対して、二度と全ての生物を滅ぼすことはないと誓い、ノアとその息子たちを祝福し、そのしるしとして空にをかけた[23]

大洪水後[編集]

その後ノアは葡萄を栽培していたが、あるときワインで泥酔して裸で眠ってしまった。ハムは父の裸を見て兄弟たちを呼んだが、セムとヤペテは顔を背けて父の裸を見ずに着物で覆った。ノアはこれを知るとハムの息子カナンを呪い、カナンの子孫がセムとヤペテの子孫の奴隷となると予言した。(ノアがなぜハムではなく息子のカナンを呪ったのかは諸説ある。恐らく選ばれた人であった「ハム」の悪い面を受け継いだ人であったのかもしれない。)

創世記によればノアは950歳で死んだとされる。計算の上では10代先の子孫であるアブラハムが生まれた時にはまだ存命であるが(ノアの息子セムに至ってはアブラハムが死んだ時でさえ存命である)、その後の物語には特に登場していない。

創世記の中で、「ノアの物語」を含む天地創造からバベルの塔にいたる物語は原初史といわれ史実を述べているというよりは世界の事物の意味、由来についてのユダヤ的見解を述べている部分と通常は考えられている(枠組み説による)。 また、鳩がオリーブをくわえている図は平和のシンボルとして描かれることがあるが、このノアの物語に由来している。

旧約聖書偽典にみるノアの物語[編集]

旧約聖書偽典には正典にはない要素が盛り込まれている。たとえばノアの物語の背景(人の悪)についての件の詳細は偽典『エノク書』、『ヨベル書』に記述されている。

  • エロヒムの息子(偽典『エノク書』、『ヨベル書』では明白に天使グリゴリのこととされている。)
  • nephylymネフィリム(単数形”ネフィル”)(天から地に降りてきた者のこと。偽典では天使と人間の娘の子)

さらに旧約聖書の偽典の『ヨベル書』には次のような記述がある。 第15ヨベルの第3年周にレメクは天使バラクエルとメトシェラの姉妹の間にできた娘ビテノシと結婚しノアが生まれた。第25ヨベルの第5年周の第1年にノアは天使レケエルとレメクの姉妹の間にできた娘エムザラと結婚した。

また同じく偽典『エチオピア語エノク書』には「彼の身体は雪のように白く、またばらの花のように赤く、頭髪、(ことに)頭のてっぺんの髪は羊毛のように白く、眼は美しく(エチオピア語エノク書106:2)」(日本聖書学研究所編 『聖書外典偽典』第4巻 旧約聖書偽典II、教文館、1975年、288頁。)との記述がある。

注釈[編集]

  1. ^ 正教会では旧約聖書の義人達も聖人として記憶される。
  2. ^ カインの子孫であるレメクの父はメトシャエル、メトシャエルの父はヤエル(創世記4章18節)。セトの子孫であるレメクの父はメトシェラ、メトシェラの父はエノク(創世記5章21節~27節)。
  3. ^ ここでの「神の子」が何を指すのかは、見解・議論が分れる。(アダムの子であり、カインとアベルの後に生まれた)セトの子孫であると解釈されることもあるが、天使を指すと解釈されることもある。シリアのエフレムなどの多くの教父、およびトマス・アクィナスは、前者の説を採る。参照:Толкования на Священное Писание На книгу Бытия, 6. — преподобный Ефрем Сирин、およびフェデリコ・バルバロ『聖書』16頁、講談社 (1980/11/25) ISBN 9784061426061
  4. ^ 「神の子ら」がセトの子孫であるとの説の立場から、セトの子孫が罪を増して行ったカインの子孫達と交わったことを示すと解釈されることがある。

参照元[編集]

  1. ^ Иконы России: Ной, праотец
  2. ^ Ной, св. праотец; Греция.; XVI в. - православные мастерские «Русская Икона»
  3. ^ Каталог православных икон
  4. ^ Памятник праотцу Ною может появиться в Нахичевани / Православие.Ru
  5. ^ 聖書参照箇所:創世記5章32節
  6. ^ 聖書参照箇所:創世記6章1節~2節
  7. ^ 聖書参照箇所:創世記6章3節
  8. ^ 聖書参照箇所:創世記6章4節
  9. ^ 聖書参照箇所:創世記6章5節~7節
  10. ^ 聖書参照箇所:創世記6章9節~21節
  11. ^ 聖書参照箇所:創世記6章14節~16節
  12. ^ 聖書参照箇所:創世記6章18節~21節
  13. ^ 聖書参照箇所:創世記7章7節、7章13節
  14. ^ 聖書参照箇所:創世記7章2節~3節
  15. ^ 聖書参照箇所:創世記7章17節
  16. ^ 聖書参照箇所:創世記7章24節
  17. ^ 聖書参照箇所:創世記8章7節
  18. ^ 聖書参照箇所:創世記8章9節
  19. ^ 聖書参照箇所:創世記7章11節
  20. ^ 聖書参照箇所:創世記7章12節
  21. ^ 聖書参照箇所:創世記7章13節~19節
  22. ^ 聖書参照箇所:創世記7章20節
  23. ^ 聖書参照箇所:創世記7章21節~22節、8章13節~16節

関連事項[編集]

外部リンク[編集]