セキュリティポリス

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日本における要人の車列警護

セキュリティポリス (Security Police,SP) とは、日本の警視庁警備部警護課で、要人警護任務に従事する専従警察官を指す呼称である。本来英語で「Security Police」は「公安警察」を意味する。なぜこのような事になったかは諸説あるが、英語のSecurity(警備)とPolice(警察)を合わせたものではないかと思われる。本項では日本の警視庁警備部警護課において、要人警護任務に従事する警察官について述べる。

1975年三木武夫内閣総理大臣が、佐藤栄作元首相国民葬会場において大日本愛国党が差し向けてきた暴漢に襲われ負傷した事(三木首相殴打事件)がきっかけで設置された。

また、広く、警視庁以外の各道府県警察警備部警備課もしくは刑事部に属する、要人警護を行う警察官全体を指す場合もあるが、彼らは正確には「警備隊員」「身辺警戒員」などと呼ばれ、警視庁警備部警護課の課員(SP)とは区別される。近年では、民間の多くの警備会社身辺警護ビジネスを展開している。

アメリカ合衆国では、国土安全保障省シークレットサービスが要人警護を行っている[1]

概要

職務内容

政府要人等、法律によって規定された警護対象者が自宅を出てから帰宅するまでの、身辺警護が専門職務であり、犯罪捜査・地域警戒・交通取締などはその職務外である。なお、警護対象者の自宅の警護は機動隊公安警察の担当であり、自宅の周辺は遊撃警戒車や覆面パトカーなどにより警護される。SPは非常事態の際には身体を張って警護対象者を護らねばならないことや、その高度な職務内容に因り、各部署からの選抜者によって構成されている。

なお、現行犯であっても襲撃者に対する司法捜査はしない(これは機動隊や公安警察など、現場にいる警備陣の担当)。

任務部隊

部隊は近接保護部隊と先着警護部隊の2種類の任務部隊からなり、両部隊は公安警察や所轄警察署との緊密な連携のもとで警護を行っている。

近接保護部隊は常に警護対象者の身辺にて警護を行う部隊であり、一般的にSPというと、この部隊の隊員が思い浮かべられる。 他方の先着警護部隊(SAP)は、「アドバンス」と言われる、先着警護を担当する部隊である。「アドバンス」とは、公安警察の警察官と一緒に警護対象者の立ち回り先や地元の警察に赴いて警護に協力を求めるための交渉や打ち合わせをしたり、不審者や不審物の有無を検索することで事件の予防を図る為の任務である。

SP・SAP両部隊の構成員の一部には、不測の事態の際には現場に留まって、犯人と最後まで交戦する任務を受けたSPが含まれており、この隙に警護対象者は他のSPに護られて速やかに退避する。警護対象者にかかる脅威度等の状況や行動によっては、アドバンスはなされないか、あるいは簡略化される。

SPは、法律等で定められた警護対象者(後述)については管轄に関係なく身辺警護を行い、地元の道府県警察はSPの警護活動の支援を行う。

その他

天皇皇族の身辺警護(護衛[2])に関しては、警察庁の附属機関である皇宮警察本部所属の皇宮護衛官のうち護衛専従の侍衛官が専属で行う(警視庁にも警衛課は存在するが、周辺警備のみで身辺警護は行わない)。警視庁警衛課および各警察本部の警察官は地方公務などの際に皇宮護衛官の後方支援を行う。「行幸啓」や「お成り」の場合は、警視総監、道府県警察本部長は制服に拳銃を帯びて随従するのが慣例となっている。

警視庁警備部警護課の編制

  • 警護管理係(庶務担当)
  • 警護第1係(内閣総理大臣担当)
  • 警護第2係(国務大臣担当)
  • 警護第3係(外国要人・機動警護担当)
  • 警護第4係(東京都知事・政党要人担当)
  • 総理大臣官邸警備隊 ※官邸の施設警備を行う部隊で身辺警護は行わない為、SPではない。

資格・技能

資格条件

身長173cm以上、柔道もしくは剣道3段以上、射撃上級など、一定の条件を満たした警察官であることが必須条件とされる。その条件を満たすことで、SPとしての適性を認められた警察官の中で、部署の上司などから推薦を受けた者は、候補者として警察学校等の警察施設で3ヶ月間の特殊な訓練を受ける。訓練を通じて、厳しい競争を勝ち抜いた優秀な候補者だけがSPに任命される。

逮捕術、格闘術、射撃技能(5メートル先の直径2センチの的―イメージとしては角材の先端―に、拳銃で10秒以内に5発以上命中させられる事)、不審者を捜索するため目配りを怠らない強靭な体力・精神力が求められる。また、パトカーの運転テクニック、同僚との協調性、自制心、自己管理能力、法令遵守の精神、礼儀作法、自己犠牲の精神…などの人間性なども問われる職種である。そのため、警察官の中でもとりわけ、それらの条件に該当した者のみが任命される。

射撃について

銃器・射撃に関しての技術は、一般の警察官に比べ優秀である。SPは、一般の警察官の射撃レベルをはるかに超える、とされている。(ドラマや小説の影響で、私服警察官(所謂「刑事」)も射撃に長けていると思われがちだが、実際にはその技量でSPに並ぶものは多くなく、刑事部の機動捜査隊、SITなどは除き、制服警察官との間に大差は無い)。

しかし、射撃訓練に、SWATシークレットサービスが行うようなプログラムが導入されているかは定かではなく、一部の報道機関のニュース映像によれば、一般の警察官と同じく、自らは移動せず、射撃の素早さと精密さを鍛える訓練が主とのことである。一方で、同じ警備部に属する特殊部隊(SAT)は、射撃訓練において「実際の銃撃戦」を想定したプログラム(CQB)等を訓練に取り入れている。

性別について

一般的に、課員は男性ばかりだと思われがちだが、女性の対象者を警護する必要もあることから、課員全体の5パーセント程度は女性課員で構成される(エリザベス2世来日の際には女性SPのみで近接保護を行う通称「表敬部隊」が編成され、現在も残っている)。ただし、母数自体が小さいため、その数は非常に少なく、対象者が女性である場合も警護にあたるSPの大多数は男性で、女性SPは対象者に最も近い場所に寄り添う1~2名程度である。女性警察官の全体に対する割合は3割を超えているが、女性SPの課員全体に対する割合が小さいのは、SP選抜過程における男女の体力・体格差が影響していると思われる。

任務中について

SPは端整な身なりが求められ、髪型も例外ではない(以前、男性SPには七三分けが多かったが、規定があるわけではない。現在ではスポーツ刈り風の課員もいる)。それにもかかわらず、上着の前を開けたままなのは、いざというときに裾を払って腰に携行している武器を素早く取り出すためである。また、眼鏡の着用は許されていない[3]。さらに、警護中はトイレに行くことが制限されるため、水分摂取には特に気を配っている。 夏場の任務につく際には、熱中症防止のため保冷材を上着の内側やポケットに入れたり、胸や背中に保冷剤を装着することが認められている。

装備

車列警護に使用されるメルセデス・ベンツS600
車列警護に使用されるランドクルーザープラド

武器・防具

拳銃に関しては採用されているものが複数あり、各課員が自らに合う銃を選んで使用していると思われる。大半のSPはSIG SAUER P230JPよりもS&W M37等のリボルバーを使用している。パシフィコ横浜で2010年4月26日に行われた公開訓練ではグロック社の自動拳銃を装備していた[4]。拳銃以外では、特殊警棒、防刃衣、携帯用無線機、マグライトを常に装備している。また、ブリーフケース、ガーメントバッグや薄い手さげカバンに似せた折り畳み式の防弾盾を持つこともある(被襲撃時には、警護対象者の周りをこれを広げて囲み、銃弾から守るとされている。さらには、これを犯人の腕や首に叩きつけて制圧する格闘術も訓練されている)。

バッジ

“SP”の文字をデザイン化した銀色と原色のツートーンのバッジ(警護員記章と呼ばれ、裏に個人番号が刻印 1号は警視庁警備部長が保持。記章の色は偽造防止の為不定期に変更される)を上着の衿に付け、白抜き文字入りの赤いネクタイを締めた地味な色の背広姿が有名だが、実際の活動では周囲に溶け込めるよう、当日の関係者にしか分からないマーク(カラークリップなど)を使っている事も多いという。“赤い太陽と三日月の中に白抜きの”(“昼夜を問わず警護対象者を護る”という誓いのシンボル)の警護員記章もある。SPバッジは皇族護衛、警護員記章はそれ以外の要人(内閣総理大臣を始めとする閣僚や政党党首、国賓公賓)護衛の際に着用する。

欧米では、警戒中に異物から目を保護するとともに、報道陣等のフラッシュから視線を遮られないよう、サングラスを着用する場合が多いが、それに対し日本のSPがサングラスを着用するのはまれである。

警護対象者

日本では警察官による警護対象者は法的に明確に規定されており、要人と呼ばれる人間全てを警護するわけではない。法律上、規定がある警護対象者は下記。

上記の該当者については法律上の警護対象者である為、要請に関係なく警護する。因みに、アメリカのシークレットサービスは大統領の家族も含めて警護するよう規定されているが、日本の場合は内閣総理大臣の家族は警護対象者ではなく、SPは総理大臣を警護してもその家族までは警護しない。

  • 法律上の規定はないが、衆議院副議長参議院副議長国務大臣、首相経験者は警察官による警護の対象者である。
  • 与党である民主党の代表代行・幹事長参議院議員会長が警視庁からの要請により2009年9月から[5]対象となった。更に、同年11月からは民主党のナンバースリーと目される山岡賢次国会対策委員長が特別に警護の対象に加えられた。一方、従来対象だった自由民主党自由民主党総裁自由民主党幹事長のみが現在の警護対象であり、与党時代警護を受けていた自由民主党政務調査会長自由民主党総務会長・参議院議員会長・参議院幹事長・選挙対策委員長には現在SPは付いていない。
  • 日本共産党を除く、国会に議席を有する政党の代表者について、必要に応じて警護を行なう。これらは「要請出動」と呼ばれる警護で、要請がなければ警護しない。主要政党の代表者は国政に重要な位置を占めていても法律的には警護対象者ではない為である。日本共産党だけは、党員有志の中から警備員を雇って自主警備していることと、在日朝鮮統一民主戦線事件や中核自衛隊事件などの歴史的経緯により、未だに公安調査庁公安警察警視庁公安部・道府県警察公安課)から「破防法に基づく調査対象」に指定されていることが不服であるとして、警察官からの要請出動の打診を拒絶し続けている(同じ警備部でも警備警察は共産党議員の保護に努めるが、公安警察は共産党を監視対象として敵視している)。
  • 法律で定められている警護対象者以外に、東京都知事には条例により、大阪府知事は府条例により(2008年2月から)、SPと同等の立場にある警察官からの警護を受けている(警視庁は東京都の、大阪府警は大阪府の機関である)。
  • 駐日大使では、中華人民共和国、イスラエルなどの大使には、彼らが雇用している警備員や大使館関係者によるボディガードに加えて、警察官の警護がついている。
  • 民間人においては、唯一、日本経済団体連合会(経団連)の現役会長がSPの警察官による警護を受けていた。経団連会長にSPがついていた期間は、野村秋介率いる三島由紀夫派の右翼団体による経団連襲撃事件が起きた1977年から、2010年までの33年間であった。正社員雇用の増加を目指した鳩山由紀夫首相と、正社員を一人でも多く非正規労働者へと転身させることを要望する経団連との対立が決定的となったのと同じ時期に、警察庁警備局から警視庁に指示があり、警護対象から除外された。現在、民間人の立場にSPによる警護を受けている者はいない。
  • 2011年3月(福島第一原子力発電所事故)以降、東京電力会長にSPをつけることが検討されたが、実施されなかった。SPの代わりに、所轄警察署から派遣される制服警察官が入る警備派出所が、東京電力本社前と会長私邸前の路上に設置されている。

国会議員への警護

一般に、国会議員(主要政党の代表者や閣僚ではない者)にもSPが付いていると思われがちだが、原則的に、SPが国会議員の警護にあたることはなく(前述の例外を除く)、それぞれの国会議員は警備会社のボディガードを個別に依頼している。ただし、その発言や政策などで、暴力団や右翼団体、過激派などから命を狙われる危険のある国会議員には、当該議員側もしくは警察当局からの要請でSPによる警護が行われる場合がある(「要請出動」) [6]。 このように、SPが身辺警護を行う対象人物は、あくまでも、法律に基づいた非常に限られた範囲であるため、たとえ政治家や大物芸能人、大企業の重役といった著名人であっても、生命を狙われる危険性が明白でない限りは、SPが警護することはない。彼らの警備は、支持者有志や警備会社ボディーガードにより行われる。詳しくはボディーガード参照のこと。

その他

総理大臣官邸には警備を専門に行う警察官が配置されるが、あくまでも総理大臣官邸という施設の警備を行うのみでSPの行う対人警護とはまったく異なる(警視庁総理大臣官邸警備隊)。

なお、SPの内閣総理大臣担当の部署である警護第一係と総理大臣官邸警備隊は同じ警視庁警備部警護課に属しており、両者は人事交流を行っていて総理大臣官邸警備隊からSPが選抜されるケースもある。

SPの活動をテーマにした作品

映画
漫画
小説
ドラマ

脚注

  1. ^ アメリカ合衆国のシークレットサービスは、要人警護のみだけでなく、マネーロンダリング関連の詐欺事件やコンピュータ犯罪の捜査も任務とする法執行機関である。
  2. ^ 天皇・皇族の身辺警護については、「警衛」は警察官のみに用いられる語で、皇宮護衛官の警護は「護衛」。
  3. ^ 道府県警察警備部の警護隊員には眼鏡をかけた隊員も存在する。
  4. ^ You Tube 2010年4月26日にパシフィコ横浜で行われた公開訓練の動画
  5. ^ 民主党:菅代表代行ら3幹部にSP 一足早く与党並みに 毎日新聞
  6. ^ 現在は、外国人参政権問題についての発言により、反対派や右翼から激しい抗議を受けている民主党の山岡賢次国会対策委員長が警護の対象に加えられている(ただし、これは山岡が要請したものではなく、事態を重く見た警視庁当局の配慮による)。他、自由民主党総裁選挙の際、候補となった国会議員には総裁選挙期間中に警護官がついていた(与党時代)。

参考文献

  • 警察官・消防官になるには(ぺりかん社なるにはブックスシリーズ・旧版)
  • 警察の本(三才ムック)
  • 小泉内閣メールマガジンhttp://www.kantei.go.jp/jp/m-magazine/backnumber/2002/0124.html

関連項目