CD不況
CD不況(シーディーふきょう)は、1990年代後半からCDの売上金額が減少している現象をいう。CDの生産額は、国によって多少の差はあるものの、世界的に1997年 - 1998年をピークとして減少傾向にある。本項では、主に日本においての状況を記述する。
日本におけるCD売上の状況
CDバブル
日本の音楽市場においては1990年代に、再生機器の普及が進み、人気テレビドラマやCMとのタイアップ戦略やカラオケブーム、若者層を中心とする旺盛な音楽需要に支えられ空前の「好景気」時代が到来した。1997年には、シングルの年間販売数(日本レコード協会集計対象シングル、8cm+12cm)が1億6782万7000枚を記録、翌1998年には、CDアルバムの年間販売数が3億291万3000枚とピークを記録すると共に、日本国内での音楽CDの生産金額が8cm・12cmの合計で約5879億円(レコードやカセットテープを含めると約6075億円)、CD生産枚数が4億5717万枚とそれぞれ国内過去最高を記録しミリオンセラー作品が続出、後世マスコミで「CDバブル」とも回顧される活況となった。しかし、翌1999年以降、売上は急速に減少し、さながらバブル崩壊の様相を呈した。
CD不況
日本においては、CD販売枚数は1998年(平成10年)をピークとして、以降減少し続けている。たとえばシングルでは、1995年(平成7年)、1996年(平成8年)、1998年(平成10年)には、オリコンチャートで20作以上がミリオンセラーを記録しているのに対し、1999年(平成11年)には9作と急減、さらに2002年(平成14年)以降は、毎年1 - 数作出るか出ないかというペースとなった。
CDの年間販売数(日本レコード協会集計対象シングル、12cm)は、1998年(平成10年)の3億291万3000枚をピークに漸減し続けており、10年後の2008年(平成20年)には2億4221万2000枚[注釈 1]、2018年(平成30年)には1億3720万5000枚と、20年間で半分以下まで縮小した[1]。
シングルCDにおいては、iPod・iTunes・iTunes Storeの登場により、音楽配信によるデジタル・ダウンロードへの移行が2006年(平成18年)以降、鮮明になっている。2010年代以降に入ると、AKB48及びその関連グループやジャニーズ等の活躍により、2012年(平成24年)までは回復が見られていたものの、2013年(平成25年)以降は再び低下を続けている。
アルバムCDに至ってはさらに深刻で、統計を始めた1999年(平成11年)の2億7627万9000枚から漸減し、2019年(令和元年)には8896万4000枚と、1億枚を割り込み、ピーク時の3分の1の状況となった。また、デジタル・ダウンロードへの移行が殆ど進んでおらず、総需要の減少に歯止めがかかっていない。
他方、日本国内の有料音楽配信の売上(パソコンと携帯電話の合計)は、2006年(平成18年)より、シングルCDのそれ(8cm+12cm)を上回る状況が続いている。2009年(平成21年)の売上(日本レコード協会集計対象)は、シングルCD(8cm+12cm)が計4489万7000枚に対し、インターネットダウンロード・シングルトラック(PC配信+スマートフォン)とモバイル・シングルトラック(着うたフル)の合計が、1億8540万7000本に及んだこともあった[1][2]。
また、フル配信のミリオンセラー(100万DL以上)についても、シングルCDの減少分を埋めあわせる形で増加、200万DLを超える作品も登場している(フル配信によるミリオン作品一覧については日本レコード協会#着うたフル以降を参照)。
しかし、2015年(平成27年)以降、その有料音楽配信も、ダウンロード販売が、全般的に低迷の方向に辿るようになり、代わって2018年(平成30年)よりサブスクリプション方式による定額制の音楽配信(ストリーミング配信)が、ダウンロード販売を上回る状況が続いている[3]。世界的傾向から見ても、それは顕著であり[4]、全米レコード協会によれば、2019年上半期の「ストリーミングサービス」売上高は43億米ドルを計上、同国市場全体の80%を占めるに至った。[5]
CD不況の原因・背景
CD不況の原因や背景として、以下のようなことがらが挙げられている。
- コンテンツ市場の多様化・音楽への無関心
- インターネット・携帯電話などの普及によって人々の消費様式が多様化し、それによって人々が音楽のために使う消費の割合が下がったと考えられる。特に若者はCDの購入よりも、携帯電話の通話料金に消費を回すようになった[6]。
- レンタル・中古市場の隆盛
- レンタル店・中古レコード古物商と伴に、20世紀から存在していたが、レンタルによる著作権料の支払いは一説にレンタル市場約600億円のうちの90億円(15%)程度に過ぎず、交易条件として、新品CD店(売上の70%程度がレコード会社への原価に消える)よりも有利であった[7]。このような中で、特に2000年代以降、株式上場などを通じ、資本力を蓄えた一部の大型レンタル店が、新品CD実売の10分の1程度の料金で大量にレンタルを行い、また需要期を過ぎた後には同様に10分の1程度の価格で中古市場[8]へ売り払う等の市場行動に出たため、「消費者にとっては価格弾力性の高い」「しかし権利者にとっては十分な対価が支払われない」状況を生む結果となった。
- 違法アップロードの蔓延
- インターネット上で音楽ファイルが違法にアップロードされ、事実上無料で視聴できる状況になったことも、CDの売り上げが減じた一因とされている[9]。
- コピーコントロールCDの導入
- コピーコントロールCD(以下CCCDと記載)には、再生保証プレーヤーが全く無く、音質も通常のCDより劣っていた。レコード会社は、CCCDは業界的にも、ある意味受け入れられたと早合点したが、実際にはCCCDはリスキーな商品であるため、多くの音楽ファンが買わなくなり、そのまま市場から去った[10]。
- 次世代規格の失敗
- 1999年よりCDに代わる次世代オーディオ規格としてSACD対DVD-Audioが争ってきたが、どちらもメディア交代するだけの普及には至らず、テコ入れの策を図るも定着すらならず、iPod・iTunesなどのデジタル音楽配信主体へと流通形態が変化していった。また日本の音楽ビジネスが、フィジカル(CD)中心による音楽保護主義とデジタル音楽に対する取り組みのまずさも指摘されている[11]。
年表(1990年代後半以降)
- 1998年(平成10年)
- 日本国内での音楽CDの生産金額が8cm・12cmの合計で約5879億円(レコードやカセットテープを含めると約6075億円)、CD生産枚数が4億5717万枚とそれぞれ過去最高を記録する[12](翌年より、シングル・アルバム別では前年比で上回る年もあるが、CD全体の生産金額・枚数は一貫して減少を続ける)。また、ミリオンセラーの数についてもシングル20作・アルバム28作の計48作となり、過去最多を記録。
- 1999年(平成11年)
- ゼロ・コーポレーション(日本内外の個性派アーティストを多数紹介していた)が事業解散。
- この年以降、音楽CDの生産金額・生産枚数が減少傾向に転じ、CDバブルが崩壊する。
- 2000年(平成12年)
- バンダイ・ミュージックエンタテインメント(『アポロン音楽工業』を源流とする中堅メーカー。徳永英明らが在籍していた。後のランティス→バンダイナムコアーツ)が解散。
- Amazon.co.jpが日本での営業開始。中古CDの取扱で国内トップクラスのポータルサイトとなる。中古の購入が便利になることが、新品CDの売上に及ぼす影響は、様々である。
- 国民的バンド サザンオールスターズの「TSUNAMI」が293万枚を売り上げ、シングルCDが最も売れた。
- 2001年(平成13年)
- 12月 - フォーライフが特別清算を実施、会社自体はフォーライフミュージックエンタテイメントに承継。
- 2002年(平成14年)
- 3月 - エイベックスが、日本で初めてコピーコントロールCDを導入する。
- 2003年(平成15年)
- 2004年(平成16年)
- 2005年(平成17年)
- 3月 - 株式会社丸井が、ヴァージン・メガストアーズ・ジャパンの全株式を株式会社カルチュア・コンビニエンス・クラブ傘下の株式会社TSUTAYA STORESホールディングスに売却し、株式会社カルチュア・コンビニエンス・クラブの子会社となる。
- iTunes Music Store が、日本での本格サービスを開始し、開始4日間で100万ダウンロード達成。
- 著作権法の改正により、日本のアーティストのいわゆる逆輸入CDが事実上輸入禁止になる。
- この年は日本国内でのアルバムの前年比での売上は減ったが、枚数は増加した。
- 2006年(平成18年)
- 8月 - 米タワーレコードが2度目の破産。発祥の地、米国では店舗が事実上消滅。
- 12月 - 東芝が東芝EMIの株式を英EMIに売却し、音楽・映像分野から撤退。社名は翌年6月30日より「EMIミュージック・ジャパン」に変更(その後、2013年4月にユニバーサル ミュージック合同会社に吸収され法人消滅)。
- この年はシングルの前年比での売上・枚数とも増加した。
- 2007年(平成19年)
- 7月 - 女子十二楽坊の日本盤作品をリリースしていたミューチャー・コミュニケーションズが倒産。
- 2008年(平成20年)
- 2009年(平成21年)
- 1月 - ヴァージン・メガストアが日本国内の全店舗を閉店(一部TSUTAYAに業務転換し継続)。
- 10月 - サウンドホリック(ヘヴィメタル/ハードロック専門レーベル)が代表者の死去により解散。
- 2010年(平成22年)
- 2011年(平成23年)
- 2012年(平成24年)
- 4月 - ソニー・ミュージックエンタテインメントの傘下会社であるキューンレコードが、社名(レーベル名)を「キューンミュージック」(後のソニー・ミュージックレーベルズのブランド)に変更。
- 2013年(平成25年)
- 1月 - HMVが経営破綻。
- 4月 - ユニバーサル ミュージック合同会社とEMIミュージック・ジャパンが統合し、新生「ユニバーサル ミュージック合同会社」としてスタート。
- 2014年(平成26年)
- この年以降、ストリーミング方式による定額制の音楽配信が、各国で順次スタート。ダウンロード販売や、フィジカルのCD販売においても、代々影響を与える。
- 2016年(平成28年)
- 12月 - SMAP解散騒動によるファンらの購買運動により「世界に一つだけの花」の売上が300万枚に達し、21世紀初のトリプルミリオンセラーとなり、歴代の記録の面でも、「TSUNAMI」の売上を抜いた。
- 2019年(平成31年/令和元年)
- 5月 - 株式会社ジャニーズ・エンタテイメントが株式会社ジェイ・ストームに統合され、同社の社内レーベルとなる。
- アメリカにおけるレコード流通に途絶の危機。Direct Shot Distributing社による流通の寡占により、中小の店舗に流通が滞る事態が多発している[15]。
- 2020年(令和2年)
脚注
注釈
- ^ シングル5348万8000枚、アルバム1億8872万4000枚
出典
- ^ a b 音楽ソフト 種類別生産数量推移 一般社団法人 日本レコード協会
- ^ 各種統計 有料音楽配信売上実績 2009年 一般社団法人 日本レコード協会
- ^ https://www.riaj.or.jp/f/data/online.html
- ^ https://forbesjapan.com/articles/detail/20990
- ^ https://news.yahoo.co.jp/byline/kokuboshigenobu/20191010-00146080/
- ^ 津田大介・牧村憲一 『未来型サバイバル音楽論-USTREAM、twitterは何を変えたのか』 中央公論新社、2010年、158-159頁。ISBN 978-4121503701。
- ^ [1]
- ^ なお中古市場は、ECサイトや検索による技術革新により、全国から最安値の中古盤を容易に手に入れられる状況となったが、価格の暴落と、需要の長期低迷に苦しんでいる。
- ^ 『未来型サバイバル音楽論―USTREAM、twitterは何を変えたのか』160-161頁。
- ^ 津田大介、丹治吉順 (2004年11月30日). “コピーコントロールCDを徹底的に総括する ファンとアーティストを傷つけ、法制度面でも問題山積”. ASAHIパソコン (朝日新聞社) 2016年6月15日閲覧。
- ^ なぜヨーロッパではBlu-ray Audioが好調なのか? 元洋楽ディレクターが分析する世界のハイレゾ事情phileweb 2014年9月26日
- ^ 各種統計 音楽ソフト種類別生産金額の推移 一般社団法人 日本レコード協会
- ^ http://www.riaj.or.jp/data/others/chart/w140418.html
- ^ CD不況…HMV渋谷惜しまれながら閉店 nikkansports.com(2010年8月23日)
- ^ https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200317-00033462-rolling-musi
- ^ https://www.musicman.co.jp/column/308455
- ^ https://www.jiji.com/jc/article?k=20200914040565a&g=afp