銃器対策部隊

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銃器対策部隊(じゅうきたいさくぶたい)とは、日本の警察機動隊に所属する部隊のこと。総勢約1,700名で編制されている[1]

銃器等を使用した事案への対処や、原子力発電所等の警戒警備を主要な任務としている。また、重大事案発生時は第一次的な対応を実施し、特殊部隊(SAT)到着後はその支援を行う。警察内部では略して「銃対(じゅうたい)」と呼称されることが多い。

なお近年では、刑事部特殊犯捜査係と共に、事件現場に出動する例も見られる。

概要(部隊創設から現在まで)[編集]

銃器対策部隊の誕生[編集]

1968年静岡県で通称、金嬉老事件と呼ばれる人質立て篭もり事件が発生した。この事件では犯人が、カービン銃ダイナマイトで武装していたため、警察は容易に近づくことができず、人質の救出は非常に困難であった。結果的には捜査員が報道関係者に変装することにより、犯人に接近して制圧、逮捕したが、この事件以降、犯人制圧と人質救出を目的として、都道府県警察に狙撃用ライフルの配備が進められた。

またライフルの配備に伴い、狙撃の専門部隊である特殊銃隊が都道府県警察に創設された。なお警視庁では、第六機動隊および第八機動隊に突入部隊とともに設置され、「特殊警備部隊」と呼称していた。特殊銃隊は、陸上自衛隊富士学校などで射撃の訓練を受けた警察官が、事件発生に伴って本部教養課、機動隊などから招集され、臨時に編成される部隊であった。

その後1970年瀬戸内シージャック事件が発生し、大阪府警察の特殊銃隊が出動した。この事件において特殊銃隊の隊員は、狙撃用ライフルで犯人を制圧し、人質を救出した。

1996年4月1日、警察庁は都道府県警察に通達を出し、臨時編成部隊であった特殊銃隊を、機動隊に所属する常設部隊として再編成し、部隊名称を銃器対策部隊に改めた[2]

なお、日本の警察ではライフルや機関けん銃を総称して「特殊銃」と呼称している。

装備・体制の拡充[編集]

2001年アメリカ同時多発テロ事件の発生を受け、銃器対策部隊が全国の自衛隊駐屯地在日米軍基地、全国に16ヶ所ある原子力発電所などの重要施設の警備を実施することになったが、その際、けん銃程度の軽武装であったことが問題とされ、国家公安委員会委員長により新たな特殊銃(機関けん銃)の導入が認められた。翌2002年には、全世界が注目するイベントである2002 FIFAワールドカップが控えていたこともあり、現状の装備では武装テロリストの襲撃に対処できないとして、全国の銃器対策部隊に合計およそ1400丁の機関けん銃(MP5)が配備され、より実戦的な部隊へと体制が拡充された。

2004年福井県警察など16道府県の警察本部内に、原子力関連施設の防備を専門に担当する原子力関連施設警戒隊が編成された。隊員は都道府県警察の銃器対策部隊から選抜される。

陸上自衛隊との合同訓練[編集]

2002年に都道府県警察と陸上自衛隊により、治安出動の際における治安の維持に関する現地協定が締結された。また2004年には、警察庁警備局長と防衛庁運用局長(当時)により、武装工作員等共同対処指針が策定された。これを受け、現在では、警察と陸上自衛隊による共同対処訓練が全国各地で実施されており、銃器対策部隊も訓練に参加している。

2005年10月21日、陸上自衛隊真駒内駐屯地において、警察と自衛隊による初の共同訓練が実施された。訓練の正式名称は、治安出動にかかわる自衛隊と警察との共同対処訓練である。この訓練では、警察と自衛隊による部隊輸送訓練などが行われており、その内容は以下のとおりである。

1 陸上自衛隊第18普通科連隊の隊員と、北海道警察の機動隊員が、ヘリコプターからロープで降下し、降下場所の安全を確保
2 自衛隊のヘリコプターに搭乗した銃器対策部隊が到着
3 銃器対策部隊が降下班と合流し、現場へ向かう

この訓練の模様は、テレビ等で報道された。なお、軍事専門誌「SATマガジン」12号に掲載された記事によれば、この訓練においてヘリコプターから降下した機動隊員は、装備やロープ降下の技術などから、北海道警察の特殊部隊(SAT)であると解説している。

また、2006年以降に全国で実施された合同訓練は、以下のとおりである。

2007年

都道府県警察 陸上自衛隊 訓練場所
埼玉県警察茨城県警察 第1師団 朝霞駐屯地
大阪府警察奈良県警察和歌山県警察 第3師団 信太山駐屯地
香川県警察徳島県警察高知県警察愛媛県警察 第14旅団 善通寺駐屯地
北海道警察 第2師団 旭川駐屯地
愛知県警察岐阜県警察三重県警察 第10師団 守山駐屯地

2008年

都道府県警察 陸上自衛隊 訓練場所
静岡県警察山梨県警察神奈川県警察 第1師団 駒門駐屯地
警視庁千葉県警察 第1師団 練馬駐屯地
北海道警察 第7師団 東千歳駐屯地
栃木県警察群馬県警察 第12旅団 相馬原駐屯地
長野県警察新潟県警察 第12旅団 高田駐屯地
熊本県警察宮崎県警察鹿児島県警察 第8師団 北熊本駐屯地
大分県警察佐賀県警察長崎県警察 第4師団 大村駐屯地
福岡県警察 第4師団 飯塚駐屯地
広島県警察山口県警察鳥取県警察島根県警察岡山県警察 第13旅団 海田市駐屯地
富山県警察石川県警察福井県警察 第10師団 金沢駐屯地

2009年

都道府県警察 陸上自衛隊 訓練場所
北海道警察 第5旅団 鹿追駐屯地
兵庫県警察京都府警察滋賀県警察 第3師団 千僧駐屯地
宮城県警察山形県警察福島県警察 第6師団 多賀城駐屯地
沖縄県警察 第1混成団 那覇駐屯地
青森県警察岩手県警察秋田県警察 第9師団 青森駐屯地

なお、いずれの訓練も、報道関係者に公開されたのは部隊輸送訓練のみで、共同検問訓練、包囲制圧訓練は非公開で行われている。

他機関との合同訓練[編集]

2005年前後から警察、海上保安庁税関入国管理局などが合同で、港湾空港を対象としたテロ対策訓練を実施しており、一部の地域では銃器対策部隊も参加している。この訓練は、水際危機管理対策訓練と呼ばれており、テロリストの入国を水際で阻止することが目的である。

任務[編集]

銃器対策部隊は通常、原子力発電所や在日米軍基地等、重要防護施設の警備や訓練等を実施しており、ハイジャックやテロ事件などが発生した際には、一次対処部隊として車両やヘリコプターで現場に派遣される。また、特殊部隊(SAT)到着後は後方支援活動を行う。

SATが置かれていない府県警察では、銃器を使用した立て籠もり事件が発生した際、銃器対策部隊が刑事部突入班と連携し、突入を行うこともある。

銃器対策部隊は、基本的には官姓名と素顔を明らかにして公開訓練を実施し、記者会見も行なっているが、近年では、一部の隊員には顔にマスク(目出し帽)を着用させて公開訓練を実施したり、記者会見を断わることも増えてきている。これは、身元を隠すことにより、隊員自身と家族に対する誘拐脅迫、あるいは土台人や工作員等の情報機関関連者による「獲得工作」を防ぐための措置である。

編成されている地域[編集]

銃器対策部隊は全国のすべての機動隊の中に編成されている。特に在日米軍基地や、原子力発電所等の重要施設を抱える全国28都道府県警察の機動隊、及び千葉県警察成田国際空港警備隊皇宮警察特別警備隊の銃器対策部隊には、機関けん銃が配備されている。機関けん銃の数は、今後も増加する見通しである。

銃器対策部隊の関連部隊として、警視庁第七機動隊には銃器対策レンジャー部隊が設置されている。銃器対策レンジャー部隊は、銃器対策部隊と同様に機関けん銃を装備しており、ヘリコプターやビルからロープで降下し、突入を行う。この部隊は、特殊部隊(SAT)の支援等を主要な任務としている。通常、銃器対策部隊はロープ降下の訓練を実施していないが、近年は埼玉県警察RATSや、静岡県警察SRP等がロープ降下の技術を修得している。ロープ降下は、市街地において高層建築物の一室に立てこもる犯人を、階上・階下から急襲する場合に有効であり、戦術の幅を広げることができる。

装備[編集]

車体側部に銃眼を備えた防弾装甲車両。車体上部にも銃眼付きの装甲板が設置されている。車体の塗色は配備された年によって若干異なる。また、遊撃警戒車を使用する場合もある。
一般の警察官と同様に、ニューナンブM60が主流であったが、近年ではアメリカから輸入したS&W社製 M3913や、スイスから輸入したSIG P230の配備が進行している。
ドイツHeckler&Koch社製、MP5Fを装備。スウェーデンエイムポイント社製、M2照準器(ダットサイト)やフラッシュライトを装着。2001年には、重点警備の28都道府県に1379丁配備予定と報道された。また、その後の報道により皇宮警察に配備されていることも判明した。
豊和工業製のボルトアクションライフルM1500に、照準器や二脚を装着。
金属製の防弾盾を装備。また近年ではケブラー製の防弾盾も使用。
防弾仕様のフェイスガードを装着したケブラー製ヘルメットを装備。フェイスガードは、けん銃弾に対応しているが、使用している際に機関けん銃の頬付けが不可能になるため取り外して使用する場合もある。このヘルメットの形状はジェット型である。また、大阪府警察等の一部の警察ではフェイスガードが付いていないフリッツ型ヘルメットや、防弾の能力がないABS樹脂製ヘルメットも装備。
けん銃弾から身体を防護するベスト。従来型のベストは胴体前面を防護するものだが、近年では首や下腹部、上腕部を防護するベストや、ライフル弾に対応したベストなど、各都道府県警察により様々な種類を装備している。
予備弾倉等、様々な装備品を収納できるベストで、主に防弾ベストの上から重ね着をして使用するとされる。防弾ベストと一体化したタイプが主流であるが、警視庁ではアメリカ、イーグル社製の「TAC-V1」を使用。
  • 出動服
機動隊で普段から使用しているもの。また、近年では警視庁の銃器対策レンジャー部隊や、静岡県警察SRP埼玉県警察RATS三重県警察銃器対策部隊などで専用の突入服の使用が確認されている。
  • 警備靴
主に機動隊員の装着する「編上靴」を使用。一部の警察では市販のタクティカルブーツを使用している。
一般の警察官が所持するものと同様だが、訓練では装備していない場合もある。

なお装備品の使用、着装状況は各都道府県警察により異なっている。

脚注[編集]

  1. ^ 警察庁編、警察の集団警備力 「平成22年の警備情勢を顧みて」、『焦点』第279号、2011年3月http://www.npa.go.jp/archive/keibi/syouten/syouten279/p18.html 
  2. ^ 警察庁通達「銃器対策部隊の編成について」平成8年4月1日丙備発第50号

関連項目[編集]