テクノクラート

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テクノクラート (technocrat) とは、高度な科学技術の専門知識と政策能力を持ち、なおかつ、国家の政策決定に関与できる上級職の技術官僚(技官)のこと。高級技術官僚とも呼ばれる。同様の人々にビューロクラート(事務官僚)がいる。

概要[編集]

多くのテクノクラートを輩出した時期は、近代からである。科学技術の発展により、その技術と政治力を結びつけ、国力を増大させる時にテクノクラートが大きな役割を果たしたと言われる。第二次世界大戦冷戦時の軍事政策、米ソの宇宙開発競争などでは、実に多くのテクノクラートが活躍した。特にソ連では全てを国有化して工業化に偏重したために巨大な事務官僚制・技術官僚制ができてテクノクラシーと呼ばれ[1]長老支配を敷いたブレジネフなど国家の指導者たちも工学を学び、ソ連共産党政治局のメンバーは88%がエンジニアだったと言われている[2]

一般に、テクノクラートは科学主義(テクノクラシー)を重んじ、時に民衆の利益よりも科学の発展を優先する傾向があるとされている。その暴走により、国家が破綻するとの考えもあるが、基本的に民主主義国家では、テクノクラートは国家及び民衆のためにその科学技術を基に国民の利益につながる政策に関与することが主である。

日本では、テクノクラートが多い省庁としては、国土交通省経済産業省文部科学省防衛省気象庁などがある。厚生労働省には、医師歯科医師が就くポストがある。政策決定に関与できる高級ポストが医師出身者の技官の場合、局長クラスが医政局長、健康局長、技術総括審議官などの3つほどのみである。歯科医師の最高位は課長クラスの歯科保健課の1つであり、これは政策決定に関与できる立場ではなく、テクノクラートと言えるポストではない。その意味では、医学と歯学では格差が厳然とあると言える。

なお、国立大学警察関係に上級技官というポストがあるが、これとはまったく別のものである。あくまでも、国家(なども含む)や国際機関において政策決定に関与できる者を指すことが多い。また、現行の官僚制に「テクノクラート」という役職・階級がある訳ではない。

フランスではフランス革命で貴族制が否定され、新国家再建のために高度な専門知識・技術を有する人材が求められたが、フランスの大学はリベラルアーツ教育を目的としており、実学の専門教育を高度に行う機関が存在しなかった。そのためグランゼコールと呼ばれるテクノクラート養成機関が急遽設立された(現在では経済・商業関系のグランゼコールも存在する)。

各専門分野のテクノクラート[編集]

医療関係[編集]

  • 医学系では、過去に技官に就く人は少なかったが、現在では少なくはない。これは、医師養成機関である医学部が早い段階から、「医学部=臨床医師養成機関」という価値観を変化させた点にあると考えられている。医療政策の講座の設置、公衆衛生大学院の設立、社会医学系の構築など、看護学などの保健学を傘下に幅広い人材養成体制を構築し、臨床医師以外の道を切り開いているためだと考えられる。今後、医学技術を持つテクノクラートが増えるかもしれない。
  • 薬学系では、企業研究者としての道に進む者が多く、行政関係では薬事関係の一般技官としての任に就く者が少数である。今後、薬学系と医学系テクノクラートの増加により、医薬品認可の効率化など薬事行政の効率運用が更に行われるかもしれない。
  • 歯学系では、テクノクラートと呼べる人材は少ない。それは、歯科医師養成機関である歯学部が単に臨床歯科医師養成という教育方針であり、前述の医学系のように幅広い人材育成体制を構築してこなかったことに原因があるとされている。医科が学閥や医師会の力により政治的な働きかけに長けていたのに対し、歯科ではほとんどが個人開業医であり、こうした分野への進出が盛んではなかったことによる。

防衛関係[編集]

過去の防衛軍事)関係のテクノクラートは、その暴走により科学技術の競争のための場として、戦争を選択することがあり[要出典]、その危険性を絶えず背負う立場であった。現在でもその立場を完全に払拭したわけではない。また、世界に眼を向ければ、原子力開発の技術者や軍事技術者がテクノクラートとして政策決定権のある要職に就くこともある。軍事技術者には、航空技術者、車両技術者、情報科学技術者、建築技術者、電気電子技術者、気象技術者、環境・化学系技術者など様々な要職がある。これらの人材には、資格・称号・学会への参加などのほかに指導的立場として社会に対しても影響を与えた実績のある人物であることが要求される。

経済関係[編集]

近年、理工系出身者で金融工学数理工学など高度な専門能力を活かしたテクノクラートが輩出されている。

脚注[編集]

  1. ^ Graham, Loren R. The Ghost of the Executed Engineer: Technology and the Fall of the Soviet Union. Cambridge: Harvard University Press, 1993. 73
  2. ^ Graham, 74.

参考文献[編集]

関連項目[編集]