おやしお型潜水艦

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おやしお型潜水艦
Japanese Submarine Oyashio SS590.JPEG
艦級概観
艦種 潜水艦
建造期間 1994年 - 2006年
就役期間 1998年 - 就役中
前級 はるしお型潜水艦
次級 そうりゅう型潜水艦
性能諸元
排水量 基準:2,750トン
水中:3,500トン
全長 82.0 m
全幅 8.9 m
深さ 10.3 m
吃水 7.4 m
機関 ディーゼル・エレクトリック方式
川崎12V25/25Sディーゼル機関 2基
推進電動機 (5,700 kW) 1基
スクリュープロペラ 1軸
出力 水中:7,700 ps
水上:3,400 ps
速力 水中:20ノット
水上:12ノット
乗員 70名
兵装 HU-605 533mm魚雷発射管
89式魚雷
ハープーンUSM
6門
C4I ZYQ-3潜水艦情報処理装置
レーダ ZPS-6 対水上捜索用 1基
ソナー ZQQ-6 統合式

おやしお型潜水艦(おやしおがたせんすいかん、英語: Oyashio-class submarine)は、海上自衛隊が運用する通常動力型潜水艦の艦級。計画番号はS130[1]

030813中期防により、平成5年度から平成15年度にかけて11隻が建造された[1]

来歴[編集]

1980年代後半、海上自衛隊では、第3次防衛力整備計画で建造したうずしお型(42SS)以来踏襲されてきた完全複殻構造・涙滴型船型の潜水艦の第3世代にあたるはるしお型(61SS)の基本計画・設計と並行して、新技術にあわせて根本から設計を見なおした新世代の潜水艦の検討に着手していた[1][2]

この検討にあたっては、水中吸音材と側面アレイ・ソナーという2つの新開発装備の導入が主眼とされた。この結果、船型は葉巻型へ、構造様式は部分単殻構造へとそれぞれ移行することとなった。これによって設計されたのが本型である[2]

設計[編集]

構造様式は、船体前後が複殻、中部が単殻の部分単殻構造であり、複殻部分は外フレーム式、単殻部分は内フレーム式とされている。これは、船体中部への側面アレイ・ソナーなどの設置を織り込んだ設計であった。側面アレイ・ソナーの取り付けには極めて高い精度が求められることから耐圧殻への設置が望ましく、従ってこの部分は単殻構造となる必要があった。また従来の涙滴型船型では魚雷発射管が船体中部寄りに設けられていたが、これでは船体装備の側面アレイ・ソナーと干渉することから、魚雷発射管を船体前方に移動させる必要から、艦首ソナーと上下に並べて設置できる葉巻型船型が採択されたものである[1][2][3]。流体力学的な合理性では涙滴型にわずかに劣るものの、通常動力型潜水艦が活動するような比較的低速の領域では、葉巻型でも有意な差はないとされている[4]

本型の設計の特徴の1つが、全般的なステルス化である。1980年代後半当時、対潜戦水上艦艇において、AN/SQS-5375式探信儀 OQS-101など、大出力・低周波の探信儀(アクティブ・ソナー)の配備が進んでいたが、これらは、状況次第では第1収束帯(1CZ)英語版以遠という超長距離での潜水艦探知をも期待しうる性能を備えていた。艦型拡大に伴うターゲット・ストレングス(TS; レーダーでのRCSに相当する概念)増大もあり、水中放射雑音の低減にとどまらない全般的な対策が求められるようになっていた。このことから、本型では新開発の水中吸音材が導入された。これは、外部の音に対して逆位相になるような音を加えることでこれを打ち消すというパッシブノイズキャンセラであった。ただし、低周波ソナーに対応できる吸音材はかなり分厚く、船体全部に貼り付けることは難しかった。このため、セイルには単なる反射材を設置するなど使い分けがなされている。セイルの外板は傾斜しており、ステルス機の対レーダーステルスと同様、探信音を発振元に戻さないようにすることで探知を避けることを狙っていた[5]

機関はおおむねはるしお型(61SS)のものが踏襲されており、ディーゼルエンジンとしては、V型12気筒の高速4ストローク機関である川崎重工業12V25/25S型が採用された。ただし、葉巻型船型の採用と排水量の増大に対応して主電動機は強化されており、水上3,400馬力、水中7,700馬力とされている。また主蓄電池も改良された[6]

また本型では、ディーゼル主機の発停・シュノーケルの終始、トリム注排水移水、発射管注排水の自動化や操舵操縦のワンマン・コントロール化など、省力化・自動化が大幅に導入されており、発令所の艦制御コンソール(MCC/SCC)からの一元制御とされている[4]。この結果、ディーゼル員などが削減されるとともに、人員配置が発令所に集中することとなり、ダメージコントロール面で懸念されたが、乗員の順応とともに解消された[5]。また3番艦「うずしお」以降で固体アミン式炭酸ガス吸収装置、4番艦「まきしお」以降で主電動機の電機子チョッパー化、5番艦「いそしお」以降で昇降式アンテナなど、順次に装備の更新が図られた[2]

装備[編集]

装備面での最大の特徴が、ZQQ-6ソナーの搭載である。これは艦首の円筒アレイ(cylindrical array: CA)と側面アレイ(frank array: FA)、曳航アレイ・ソナー(TAS)および逆探ソナーによって構成される統合ソナー・システムである。側面アレイでは、船体方向に長くアレイを配置することで、円筒形アレイよりも低い周波数に対応できるようになった。これはTASと同じ発想であるが、TASではアレイの揺れなどのために探知方位が曖昧であり、適宜の変針による測定が必要であった。これに対し、本型で採用された側面アレイでは、アレイは耐圧殻に直接固定されているために曖昧さがなく、またより多彩な戦術状況で運用できた。また面圧電素子の採用によって探知能力も向上したほか、後期建造艦では側面アレイへの雑音伝播遮断が高度化され、さらに有効性が高まっている[5]。円筒アレイについても、はるしお型後期型と同様のラバードームが導入された[3]

ただしこれにより、円筒アレイと側面アレイの間で、目標情報の整合化を図る必要が生じてきた。前者は比較的高い周波数、後者は比較的低い周波数を用いるため、それぞれの目標について、同じ目標から発される別の周波数の音なのか、あるいは異なる目標なのかを判別しなければならなくなったのである。また6本という多数の魚雷を同時誘導可能な潜水艦情報処理装置ZYQ-3の搭載に伴って、多数目標の現在方位についての的確な情報送出も求められるようになった。しかし急激に変針を繰り返す目標の取り違えを防ぎつつ、潜水艦情報処理装置に対して頻繁に方位を送出し、さらに攻撃対象以外の目標の把握や敵潜水艦への警戒を行う場合、従来システムではソナー員がオーバーロードとなる恐れが大きかった[5]。このことから、ZQQ-6では大幅に自動化されている。また、ZYQ-3とともに艦のコントロール系と武器系のコンソールの統一化が進められており、ZQX-1B水冷式共通コンソールが用いられている[4]。発令所のレイアウトも、潜望鏡を中心として各種の機器が並んでいた従来方式から、左右舷に統一されたコンソールが置かれた配置に変更された[3]。なお、潜望鏡にはIR探知装置(熱線映像装置)も備えられている[1]

上記の通り、6門の魚雷発射管は艦首上部に集中装備されている。形式名はHU-605で、上部2門・下部4門が並行装備とされており、発射可能水中速力は向上した[3][7]

また、機雷を敷設する能力もあり[8]、新型の自走式機雷も装備できるとされる。また、デコイ発射装置も装備されている。

配備[編集]

本型では、潜水艦製造工程が大幅に増大・複雑化したことから、建造期間は従来の4年から5年へと長期化することになった[9]

従前では海上自衛隊の潜水艦は18隻体制(16隻+練習潜水艦2隻)であり、はるしお型までは18年間運用された後に退役していた。しかし、「平成23年度以降に係る防衛計画の大綱について」で、海上自衛隊の潜水艦が24隻体制(22隻+練習潜水艦2隻)に改編される予定であり、これに合わせて本艦型からは24年間運用されるようになる予定である。また将来的に24年間運用するための延命工事が行われる予定である[10]。平成25年度予算では「おやしお」の修理に必要な部品の取得及び「おやしお」の艦齢延伸工事を実施するとともに、「うずしお」の艦齢延伸工事の予算が計上された[11]

同型艦一覧
艦番号 艦名 建造 起工 進水 竣工 所属
SS-590 おやしお 川崎造船
神戸工場
1994年
(平成6年)
1月26日
1996年
(平成8年)
10月15日
1998年
(平成10年)
3月16日
第2潜水隊群第2潜水隊
横須賀基地
SS-591 みちしお 三菱重工業
神戸造船所
1995年
(平成7年)
2月16日
1997年
(平成9年)
9月18日
1999年
(平成11年)
3月10日
第1潜水隊群第1潜水隊
呉基地
SS-592 うずしお 川崎造船
神戸工場
1996年
(平成8年)
3月6日
1998年
(平成10年)
10月15日
2000年
(平成12年)
3月9日
第2潜水隊群第2潜水隊
(横須賀基地)
SS-593 まきしお 三菱重工業
神戸造船所
1997年
(平成9年)
3月26日
1999年
(平成11年)
9月22日
2001年
(平成13年)
3月26日
第1潜水隊群第1潜水隊
(呉基地)
SS-594 いそしお 川崎造船
神戸工場
1998年
(平成10年)
3月9日
2000年
(平成12年)
11月27日
2002年
(平成14年)
3月14日
SS-595 なるしお 三菱重工業
神戸造船所
1999年
(平成11年)
4月2日
2001年
(平成13年)
10月4日
2003年
(平成15年)
3月3日
第2潜水隊群第2潜水隊
(横須賀基地)
SS-596 くろしお 川崎造船
神戸工場
2000年
(平成12年)
3月27日
2002年
(平成14年)
10月23日
2004年
(平成16年)
3月8日
第1潜水隊群第5潜水隊
(呉基地)
SS-597 たかしお 三菱重工業
神戸造船所
2001年
(平成13年)
1月30日
2003年
(平成15年)
10月1日
2005年
(平成17年)
3月9日
第2潜水隊群第4潜水隊
(横須賀基地)
SS-598 やえしお 川崎造船
神戸工場
2002年
(平成14年)
1月15日
2004年
(平成16年)
11月4日
2006年
(平成18年)
3月9日
SS-599 せとしお 三菱重工業
神戸造船所
2003年
(平成15年)
1月23日
2005年
(平成17年)
10月5日
2007年
(平成19年)
2月28日
SS-600 もちしお 川崎造船
神戸工場
2004年
(平成16年)
2月23日
2006年
(平成18年)
11月6日
2008年
(平成20年)
3月6日
第1潜水隊群第3潜水隊
(呉基地)

建造費[編集]

11番艦「もちしお」の場合、総建造費約420億円(内訳、船体約250億円、艤装約170億円)[12]

登場作品[編集]

映画
せとしお」役で「たかしお」が出演。
アニメ
「たかしお」、「やえしお」が登場。
バラエティ
  • タモリ倶楽部「海自が限界ギリギリに挑戦!?ドキッ!機密だらけの潜水艦に乗る!!(前・後編)」』
タモリガダルカナル・タカ劇団ひとりの3人が「なるしお」に乗り、艦内を紹介。
小説
架空の11番艦として「きりしお」が登場。所属は第2潜水隊群、艦長は川邊。作中の重要な舞台であり、米軍横須賀基地内の潜水艦埠頭に停泊中に、横須賀がレガリスに占拠され、艦内にいた実習幹部2人と民間人が孤立してしまう。
また、物語のエピローグには、11番艦以降のおやしお型新造艦(艦名不明)も登場している。
架空のおやしお型潜水艦「かざしお」が登場。所属は第2潜水隊群、艦長は大賀。退役後(劇中では既にそうりゅう改型が就役している設定)にJAMSTECに払い下げられ、架空のボーカロイド「小隅レイ」を用いた「行動の対話的・能動的プロジェクト」に使用される。運行は海自から出向した乗組員によって行われた。

参考文献[編集]

  1. ^ a b c d e 「海上自衛隊潜水艦史」、『世界の艦船』第665号、海人社、2006年10月、 1-140頁、 NAID 40007466930
  2. ^ a b c d 幸島博美「船体 (海上自衛隊潜水艦の技術的特徴)」、『世界の艦船』第665号、海人社、2006年10月、 118-123頁、 NAID 40007466930
  3. ^ a b c d 「兵装 (海上自衛隊潜水艦の技術的特徴)」、『世界の艦船』第665号、海人社、2006年10月、 130-133頁、 NAID 40007466930
  4. ^ a b c 幸島 博美「船体 (特集 新型SS「そうりゅう」のすべて) -- (新型潜水艦「そうりゅう」の技術的特徴)」、『世界の艦船』第713号、海人社、2009年11月、 84-91頁、 NAID 40016812491
  5. ^ a b c d 小林正男「「うずしお」から「そうりゅう」へ-運用者から見た海自潜水艦の発達 (特集 新型SS「そうりゅう」のすべて)」、『世界の艦船』第713号、海人社、2009年11月、 75-81頁、 NAID 40016812489
  6. ^ 阿部安雄「機関 (海上自衛隊潜水艦の技術的特徴)」、『世界の艦船』第665号、海人社、2006年10月、 124-129頁、 NAID 40007466930
  7. ^ 「写真特集 海上自衛隊潜水艦の歩み」、『世界の艦船』第767号、海人社、2012年10月、 21-37頁、 NAID 40019418426
  8. ^ 『自衛隊装備年鑑 2006-2007』 朝雲新聞、242-243頁。ISBN 4-7509-1027-9
  9. ^ 小林正男「潜水艦 (特集 自衛艦2014) - (自衛艦の技術と能力)」、『世界の艦船』第790号、海人社、2014年1月、 132-135頁、 NAID 40019881845
  10. ^ 『世界の艦船』2012年2月号
  11. ^ 防衛省自衛隊. “我が国の防衛と予算-平成25年度予算の概要- (PDF)”. 予算等の概要. 2013年5月16日閲覧。
  12. ^ 出典:2006年11月7日 日経産業新聞

外部リンク[編集]