「燃料ポンプ」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
Tosaka (会話 | 投稿記録)
「車輌用エンジン」以外での燃料ポンプを加筆。「ターボ分子ポンプ」に要出典範囲を付けた。Wikifyなど。
編集の要約なし
80行目: 80行目:
[[Category:エンジン]]
[[Category:エンジン]]
[[Category:自動車エンジン技術]]
[[Category:自動車エンジン技術]]
[[Category:自動車部品]]
[[Category:ポンプ]]
[[Category:ポンプ]]
[[Category:流体機械]]
[[Category:流体機械]]

2010年2月2日 (火) 08:46時点における版

ヤンマー・2GM20船舶用ディーゼルエンジンの機械式高圧燃料ポンプ

燃料ポンプ(ねんりょうポンプ、Fuel pump、フューエル・ポンプ)とは、主にエンジンボイラーなどで使用される燃料供給装置である。

車輌用エンジン

初期の自動車用やオートバイ用のエンジンでは、より高い位置に燃料タンクを備えることで、燃料がエンジンへと自然流下させていて燃料ポンプは必要なかったが、その後、一般的となった燃料タンクがエンジンのキャブレターより低い位置となる配置の車輌では、低圧の燃料ポンプが必須となった。内燃機関のキャブレター自体が負圧を生み出すために原理的には燃料ポンプを必要としないが、その吸い込み圧は比較的微弱であり、車体内での燃料タンクの配置の自由度を高める意味でも様々な形式の低圧の燃料ポンプが盛んに用いられている。また、その後に登場し21世紀現在では広く用いられるようになった機械式・電子制御式燃料噴射装置では、高圧式の燃料ポンプを使って燃料系統配管に高い圧力を掛けるようになっている。

多くの場合、キャブレター仕様のエンジンは燃料タンクの外に設けられた機械式燃料ポンプを用いるのに対して、燃料噴射装置仕様のエンジンは燃料タンクの内部に納められた電気式燃料ポンプを使用する。ガソリン直噴エンジンに代表される近年のガソリンエンジンの場合には、燃料タンク内に燃料搬出用の低圧燃料ポンプ、燃料タンク外に燃料噴射装置に燃料を供給する超高圧ポンプを配置して二重構成とする場合もある。

なお、ディーゼルエンジンの場合には、構造上高圧力の燃料ポンプが必須となる為に噴射ポンプと呼ばれる機械駆動式の高圧燃料ポンプが黎明期から用いられてきた。詳細は英語版のen:Injection_pump若しくはディーゼルエンジン#燃料噴射ポンプとインジェクターを参照の事。

機械式燃料ポンプ

シリンダーヘッドに取り付けられた機械式燃料ポンプ

電子制御式燃料噴射装置が普及する以前のキャブレターを使用したエンジンには、燃料タンクから燃料をキャブレターのフロートボウルに供給する為の機械式燃料ポンプが取り付けられていた。このような機械式燃料ポンプはシリンダーヘッドからエンジン回転を受け取って動作し、内部構造はダイヤフラムを用いたダイヤフラムポンプ(en:Diaphragm_pump)であった。

ダイヤフラム式ポンプの内部には外部からの動力で脈動するダイヤフラムが内蔵されており、燃料が一定方向へ流れる為の逆止弁がポンプの出入り口に設けられている。最も一般的な構成のダイヤフラム式燃料ポンプはOHVの場合はシリンダーブロックOHCの場合にはシリンダーヘッドに取り付けられ、カムシャフトの回転をエキセントリック・シャフトを介してポンプのプッシュロッドに伝える。ダイヤフラムはプッシュロッドによって押し上げられ、ポンプ内部のダイヤフラム・スプリングによって押し戻される。この動きを繰り返す事で燃料の搬送を行うのである。

キャブレター内部に送り込まれた燃料はフロート・ボウル内部のフロートを浮き上がらせ、一定の容量に達するとフロート・バルブが閉鎖される。この時、燃料ポンプから送り出された燃料はフロート・バルブによって行き場を失う為、ダイヤフラム内部の内圧は上昇し一定以上の圧力になるとリターン弁が開かれる。そして燃料はリターン配管を通って燃料タンクに戻される事になる。

しかし、こうしたキャブレター用燃料ポンプはキャブレターのフロート・バルブを押し戻さない程度の圧力 (10-15psi) でしか動作しない為、エンジンの熱でポンプ本体や配管が熱せられると、燃料が沸騰しパーコレーションと呼ばれる一種のベーパーロック現象を起こし易い。パーコレーションにより燃料ポンプ内部に気泡が入ると、十分に燃料の圧送が行えず、燃料の供給量が不足してパワー不足やエンジンの停止に至ることがある。

また、ダイヤフラム式ポンプは構造上ダイヤフラムから燃料が漏れてしまうと、シリンダー・ヘッドやシリンダー・ブロック内部に燃料が流出してエンジンオイルを希釈してしまう恐れがある。元々弱い圧力でしか燃料を吸入しない為、漏れがごく僅かな場合であっても、エンジンを作動させずに長く放置した場合にはポンプ内部や燃料配管内に気泡が滞留してしまい、再始動の際に燃料がなかなか送られないトラブルも発生しやすい。機械駆動方式のダイヤフラム式ポンプでは、エンジンの駆動力を使用するので常に一定の馬力損失が生じる欠点もあり、キャブレター仕様のエンジンでも比較的近年のものは電動式の燃料ポンプに置き換えられたものが存在した[1]

ダイヤフラム式燃料ポンプの中にはインテークマニホールドから発生する負圧を用いて動作するものも存在する。絶対的な燃料吐出量は機械駆動方式に比べて少ないが、構造が単純で小型化が可能であり、尚かつポンプを駆動する際の馬力損失も発生しない事から、主に小排気量のオートバイやスクーター用の燃料ポンプとして用いられる。

機械式燃料噴射装置の登場

燃料噴射装置が登場した当初はディーゼルエンジンの燃料噴射装置を模した構造の機械式燃料噴射装置が用いられた為、燃料ポンプも機械式高圧ポンプが使用された。この燃料ポンプはディーゼルエンジンの噴射ポンプ程ではないが、ダイヤフラム式ポンプよりも高い40-60psi程度の圧力を発生するように設計されていた。当然ながら、ポンプの吐出圧が増える分エンジン側の馬力損失は更に増えることとなったため、比較的早い段階で後述の電動式燃料ポンプに置き換えられていく事になった。

この時代の電動式燃料ポンプは燃料タンクの外側に配置されるインライン型(アウトタンク型)と呼ばれるものが多く、交換や点検が後述のインタンク型に比べて比較的容易な反面、ポンプの動作により発生する騒音や排熱を燃料で吸収出来ない欠点が存在する。また、配管の強度や電源系統に細心の注意を払って施工を行わなければ、万が一燃料配管が破断した場合に燃料が吐出され続けて車両火災が発生するリスク[2]もある為、機械式高圧ポンプを電動式燃料ポンプに変更する際には注意が必要である。

電動式燃料ポンプ

インタンク型電動燃料ポンプ
ピストン式電動燃料ポンプ

近代的な電子制御式燃料噴射装置を搭載した自動車においては、インタンク型電動燃料ポンプが燃料タンク内部に燃料フィルター燃料計を作動させるフロートゲージと共に納められている。吐出圧力などは前述の機械式燃料噴射装置のポンプとそう変わる事はないが、インタンク型にはポンプから発生する熱をタンク内の燃料で冷却できる利点が存在する。その為、機械的な寿命はアウトタンク型燃料ポンプと比較して長い傾向がある。しかし、燃料の中に電気式のポンプを沈める関係上、万が一の場合には燃料ポンプに起因する車両火災が発生するリスクは依然として残されている。

一般的にはインタンク式燃料ポンプが配置される燃料タンクには燃料の蒸気が籠もらないようにチャコールキャニスターと呼ばれる燃料蒸散防止装置が設けられており、燃料タンク内の燃料が爆発限界に達しないような配慮が成されている。また、フューエルレギュレータによるパルス幅変調を用いたポンプの圧力制御が行われている為に、燃料配管内部の燃圧は常に一定に保たれ、燃料の配管内での沸騰や電力の余計な消耗が抑えられるようになっている。[3]

なお、近年の電子制御式燃料噴射装置のエンジンコントロールユニットには電動式燃料ポンプの動作を制御するタイプのものが一般的となっており、燃料配管の破断に起因する燃圧の急降下や、交通事故などにより車体に設けられた慣性スイッチが作動すると即座に燃料ポンプを停止する機構(ロールオーバーバルブ)が搭載されている事も多い。また、エンジントラブルに起因する車両火災の予兆が検出された場合[4]にも、燃料ポンプを停止するようにプログラムされたECUも存在する。

燃料ポンプの交換

機械式燃料ポンプの場合には馬力損失を抑える為にアウトタンク型の電動式燃料ポンプに交換して安定した燃料供給を図る改造が行われる事が多い。この場合には緊急時に燃料を撒き散らして火災を発生させない為に、電源系統には細心の注意を払って施工を行う必要がある。

また、電子制御式燃料噴射装置の電動式燃料ポンプも経年劣化により吐出圧が次第に落ちてくる傾向がある。吐出圧が低下するとインジェクターの噴射量が減少してエンジン性能が低下する場合がある為、インタンク型・アウトタンク型共に定期的な交換が必要となる。この場合は燃料配管に圧力計を接続し、規定圧力が発生しない場合には燃料ポンプの不良、規定圧力より大幅に高い圧力が検出される際にはフューエルレギュレータの不良と判断して両方をセットで燃料フィルターと共に交換する事になる。

ターボチャージャースーパーチャージャー等の過給機を搭載するエンジンの場合には、燃料ポンプやフューエルレギュレータの不良により燃圧が安定しないと、フルブーストの際に燃料供給量が不足して最悪の場合にはエンジンブローなどの重大なトラブルが発生する恐れがある為、自然吸気エンジンよりもよりシビアな管理が必要ともなる。 その為、ブーストアップや過給機交換などの大きなターボチューンを施した場合にはより大容量の燃料ポンプに交換する必要に迫られる事もある。アウトタンク型ポンプの場合にはボッシュ等の社外品を利用して強化を図る事が比較的容易であるが、インタンク型の場合には燃料ポンプユニットを分解してポンプ本体のみを交換したり、同一メーカーの大排気量車から燃料ポンプユニットを流用[5]して対処する場合もある。

いずれの場合においても、電動式燃料ポンプを交換する際には燃料配管に高い燃圧が掛かっている為、燃料ポンプの電気配線を取り外した状態でエンジンを始動し、燃圧が喪失してエンストを起こしたのを確認してから燃料ポンプを取り外す必要がある。

航空機用ジェット・エンジン

航空機用のジェット・エンジンへは軸流式やギヤ式のポンプでジェット燃料を供給するものが多く、電動モーター駆動と油圧駆動、ジェット・エンジンの回転軸駆動がある。航空機では燃料タンクからエンジンへの燃料供給だけでなく、燃料消費に伴う機体バランス変化の調整の為のタンク間で燃料の移動や、緊急時の空中燃料投棄(ダンピング)などのためにも、燃料ポンプが使用される[出典 1]

液体ロケット・エンジン

液体燃料式のロケット・エンジンでは、燃料の供給用に専用のガス発生装置を備えるものもあるが、燃料の供給圧を高めて高性能化を求めて燃料の燃焼圧を利用したターボ式の燃料ポンプが用いられる。燃料加圧用の燃焼ガスを生じる場所は、主ノズルの上流部で予備燃焼チャンバーを設ける方式の他に、燃料加圧ポンプ用に専用の燃焼装置を設ける方式がある。

ターボ分子ポンプ

多くのジェットエンジン(特にラムジェットエンジン)やロケットエンジンではターボ分子ポンプと呼ばれる遠心式燃料ポンプが用いられる[要出典]エラー: タグの中に無用な文字が含まれていないか、{{要出典範囲}}と{{要出典}}を間違えていないかを確認してください。貼り付け年月は「date=yyyy年m月」、チップテキストに表示する文字列は「title=文字列」と指定してください。

石油ヒーター

石油ファン・ヒーターでは、燃料ポンプが灯油を燃焼バーナーへ供給している。

火力発電

火力発電プラントでは、燃料ポンプが燃料である石油類などを燃焼炉内へ供給している。

比較的新しい石炭火力発電プラントの技術としては、石炭を水と混合して液体状とし、燃料ポンプにより燃焼炉へ供給するスラリー方式があるが、エネルギー効率の点では、粉体まで破砕して流動化することで空気流に乗せてブロアー式の燃料ポンプによって燃焼炉へ供給する燃料供給系の方が優れている。

脚注

  1. ^ ダイヤフラム式ポンプでの馬力損失を嫌って、かつては馬力損失を抑え、確実な燃料搬送を行う為に燃料ポンプを電動式に交換するチューニングが実施されたが、近年では旧車のレストア時にこのダイヤフラム式の旧式な部品が入手困難となることが多いため、こうした電動ポンプが利用されている。
  2. ^ 機械式ポンプの場合にはエンジンが停止すればポンプ自体の動作も止まる為、安易に施工された電動式高圧燃料ポンプに比べれば安全性が高いとされている。
  3. ^ US Patent 6,700,281
  4. ^ 例えば油圧喪失により油圧警告灯が作動した場合
  5. ^ 日産車の場合にはRB26DETTエンジンを搭載したスカイラインGT-Rや、VG30DETT搭載車の純正燃料ポンプを流用する手法が一般的である。

出典

  1. ^ 見森昭編、『タービン・エンジン』、社団法人日本航空技術協会、2008年3月1日第1版第1刷発行、ISBN 9784902151329

関連項目