ランザ

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ランザ
ファーストフードチェーンのランザで提供されているランザ・サンドイッチ。
発祥地 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
地域 ネブラスカ州
考案者 伝統的な民族料理 (ヴォルガ・ドイツ人)
主な材料 パン牛挽肉キャベツ、調味料、タマネギ
派生料理 チェダーチーズ入り、スイスチーズマッシュルーム入り、イタリア風ハラペーニョ入り、ベジタリアン[1]
ランザチェーンのスタンダードタイプで530[2] kcal
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ランザ (: runzabierock, krautburger, kraut pirok とも) とは、イースト入りのパン生地で具を包んでオーブンで焼いた食品の一種。中には牛肉キャベツもしくはザワークラウトタマネギ、調味料を入れる[3][4][5][6]。形状は様々で、半月型、長方形、丸型、正方形、三角形などがある。ネブラスカ州のレストランチェーン「ランザ」が出しているランザは長方形だが、カンザス州で売られている類似の食品ビエロクは多くが丸型である[7]

ランザはネブラスカ州の名物であり、「コーンハスカー英語版カレッジフットボールの地元チーム)のフットボールと同じくらいネブラスカ的」と言われることもある[8]ワシントンD.C.[9]ニューヨークのネブラスカ州人会が主催する「ネブラスカの食 (Taste of Nebraska)」の催しではランザが出される[10]。全米50州の象徴的な食品を集めたフレーバード・ネーションというイベントのネブラスカ代表にも選ばれている[11]

歴史[編集]

カンザス州で食べられているビエロク。

ランザの起源はロシアのオーブン料理であるピローク[4][12]、正確にはその小型版のピロシキ(字義は「小さいピローク」)である。18世紀にエカチェリーナ2世の誘致によってロシアヴォルガ川流域に入植したゲルマン民族(ヴォルガ・ドイツ人)はピロークやピロシキを元にしてビエロク[13] (bierock) を作り出した[4][12]。ビエロクの具は塩味でピロークと似ていたが、生地が種無しではなくイーストを用いる点で異なっていた。およそ100年の後、ヴォルガ・ドイツ人の政治的特権がはく奪され始めると、多くはアメリカに移民してグレートプレーンズ一帯にコミュニティを結成した。移民たちはビエロクのレシピを携えてきたが、その中にネブラスカ州サットン市近郊に入植したブレニング家がいた[12]。サットン出身のサラ・エヴェレット(旧姓ブレニング)は家族に伝わるビエロクのレシピを元にしてランザを作り出し、「ランザ」の名を与えたとされている[3][4][12][14][15]。エヴェレットは1949年に兄弟のアレックスと共に[16]リンカーン市でランザを売るスタンドを開いた[3][4][14]

語源[編集]

サラ・エヴェレットが「ランザ」の名を考え出したことについては多くの証拠があるものの[3][12][14]、この料理がもともと持っていた名前からの借用があったと見られる。元となったのはドイツ語でビエロクを呼ぶ古い別名 krautrunz[14]、もしくは低地ドイツ語で「お腹」を指す runsa(丸々としたパンの形をたとえたもの)だと考えられている[12]。現代のアメリカでは「ランザ (runza)」はレストランチェーンのランザによって商標登録されている[17]

ランザ(レストランチェーン)[編集]

ランザ
Runza
ネブラスカ州パピリオンの店舗。
ネブラスカ州パピリオンの店舗。
種類 株式非公開
本社所在地 アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国
ネブラスカ州リンカーン市
業種 サービス業
事業内容 ファストフード
代表者 ドナルド・エヴェレットJr.(社長)[18]
関係する人物 サリー・エヴェレット、アレックス・ブレニング(創業者)
ドナルド・エヴェレットSr.
外部リンク runza.com
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ランザ(旧名ランザ・ドライブイン[19]ランザ・ハット[20])はこの料理を看板メニューとするファストフード店の名前でもある。現代的なランザを発明したサラ・エヴェレットが1949年に創業した店だが、1966年にサラの息子ドナルドSr.が店舗を拡大し始め、1979年にフランチャイズ展開した。2018年11月時点で店舗数は86を数える。ネブラスカ州に80店、アイオワ州に2店、カンザス州に2店、コロラド州に2店である[21][22]。エヴェレット家が経営を続けており、2019年時点でサラの孫ドナルドJr.が社長を務めている[18]。店名を冠したランザ・サンドイッチのほか、チリコンカーンシナモンロール[23](こちらも中西部名物)、あるいはハンバーガーフライドポテトオニオンリングのような一般的なファストフードメニューも出している。

具を生地で包む作業。

ランザは1989年にネブラスカ州外への進出を試みた。当時の経営陣はソビエト連邦ラトビア共和国への出店を企て[24]、ソ連農業省との交渉過程で試食用の冷凍ランザ200個を送付するなどした[25]。この計画はラトビアの独立宣言とそれに続く紛争によって水泡に帰した[24]。米国内ではラスベガス・ストリップファッションショー・モール英語版[26]イリノイ州モリーン英語版のショッピングモールにフードコート出店が実現したが[27]、どちらの店舗も軌道に乗らず数年のうちに閉店した[24]

プロモーション[編集]

ネブラスカ・コーンハスカーズ・フットボールチームの本拠地であるメモリアル・スタジアム英語版に出店しており、試合の日には1万食以上を売り上げる[18]。2010年から、冬季の火曜日に「テンペラチャー・チューズデイ」というプロモーションが行われている。ポテトとドリンクを買えばランザの代金がその日の午前6時の気温(華氏温度)とセント単位で同じ数になるというもので、気温がゼロ度以下なら無料である[28]

2017年、オマハ・ストームチェイサーズメジャー球団カンザスシティ・ロイヤルズ傘下のAAA級チーム)はクロスプロモーション英語版・イベントとして球団名を「オマハ・ランザズ」に改名した[29]。イベント用の新コスチュームにはランザのイラストレーションが描かれ、ランザチェーンの緑と黄色のロゴが描かれていた[29]

1991年から2004年にかけて、リンカーン市の中心部を外れたところにロックンロール・ランザという1950年代テーマの店舗があった。レトロ雑貨やヴィンテージカー、ローラースケートで注文を取るカーホップが売り物とされていた[30]

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ Coffey, Kevin (2019年10月18日). “Have you tried the new veggie Runzas? We did”. Omaha World-Herald. 2020年11月16日閲覧。
  2. ^ Runza Nutrition Information”. Runza.com (2011年12月). 2016年12月27日閲覧。
  3. ^ a b c d Rojas, Warren (2014年3月26日). “Nebraskans Know There's No Substitute for Runza”. Roll Call (Washington D.C.). http://www.rollcall.com/news/nebraskans_know_theres_no_substitute_for_runza_noshtalgia-231730-1.html 2016年12月27日閲覧。 
  4. ^ a b c d e Bordsen, John (2016年12月27日). “Sandwich That Stems from Eastern Europe Powers Great Plains Chain”. Chicago Tribune. http://www.chicagotribune.com/lifestyles/travel/ct-runza-restaurant-nebraska-travel-0108-20161223-story.html 2016年12月27日閲覧。 
  5. ^ Billingsley, Kay; Carman, Tim (2016年4月29日). “Nebraska Runzas, by Way of Washington”. Washington Post. https://www.washingtonpost.com/recipes/nebraska-runzas-way-washington/15266/ 2016年12月27日閲覧。 
  6. ^ Pearce. “Krautburger”. Allrecipes.com. 2020年11月16日閲覧。
  7. ^ Neil, Denise. “Where to get bierocks, the official food of Kansas in the fall”. The Wichita Eagle. https://www.kansas.com/entertainment/restaurants/dining-with-denise-neil/article176082361.html. "Some bake them in a round shape. Some make them rectangular." 
  8. ^ Landsel. “Only Nebraskans Know The Runza”. Food & Wine. 2021年8月15日閲覧。
  9. ^ 2016 Taste of Nebraska”. Nebraska Society of Washington, D.C.. 2018年11月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2018年11月1日閲覧。
  10. ^ MacMillan, Kyle (1987年5月15日). “Manhattan to Taste Nebraska Foods”. Omaha World-Herald. "What do you do when you live 1,252 miles from Nebraska and you suddenly have a craving for a Runza or a slice of Valentino's pizza? You order them flown in, of course. That's exactly what the Nebraska Society of New York plans to do for its Nebraska food extravaganza in New York City Sunday." 
  11. ^ O'Connor (2017年8月28日). “The Runza will represent Nebraska at new national food event”. Omaha World-Herald. 2021年8月15日閲覧。
  12. ^ a b c d e f Baker Hansen, Sarah (2017年4月1日). “Runza: The story of one of Nebraska's most treasured foods”. Omaha World-Herald. https://www.omaha.com/living/the-better-half/runza-the-story-of-one-of-nebraska-s-most-treasured/article_6e0b5a51-b017-5a23-b5cd-92f2c06a5d88.html 
  13. ^ Nebraska’s Cherished Runza: Is It a Sandwich?”. InsideHook. 2021年8月15日閲覧。
  14. ^ a b c d Rosengarten, David (2018年4月11日). “The runza sandwich: Where else but Nebraska?”. Dallas County News. http://www.adelnews.com/zz/lifestyle/20180411/runza-sandwich-where-else-but-nebraska 
  15. ^ McMorris, Robert (1978年7月15日). “Runza: Original Name for Old Recipe”. Omaha World-Herald: pp. 15–16 
  16. ^ “Alex Brening”. Orlando Sentinel. (1992年6月12日). http://articles.orlandosentinel.com/1992-06-12/news/9206120222_1_runza-brening-alex 
  17. ^ How We Support Our Franchises”. Runza.com. 2016年12月27日閲覧。
  18. ^ a b c ‘It’s nowhere else’: Why the Runza sandwich resonates with Nebraskans”. The Atlantic. 2021年8月15日閲覧。
  19. ^ “Runza Drive - Inn Opens in Aurora”. Omaha World-Herald. (1991年3月31日) 
  20. ^ “Omahan Charged In Armed Robbery”. Omaha World-Herald. (1987年5月31日). "Robert Benford, 33, 1825 Northwest Radial Highway, was charged Saturday with the armed robbery of Runza Hut, 1325 Northwest Radial Highway." 
  21. ^ Krohe, Kalin (2018年5月9日). “Runza Coming To Chadron”. Panhandle Post (Alliance). オリジナルの2018年11月26日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20181126092740/https://www.panhandlepost.com/runza-coming-to-chadron/ 2018年11月25日閲覧。 
  22. ^ Garcia, Maria-Emilia (2020年2月13日). “Runza Fans, Rejoice: The Franchise Will Open a Second Location in Colorado”. Our Community Now. https://ourcommunitynow.com/restaurants/runza-fans-rejoice-the-franchise-will-open-a-second-location-in-colorado 2020年11月16日閲覧。 
  23. ^ Mayfield. “Chili and cinnamon rolls: The murky origin of the nostalgic food pairing”. 2021年8月15日閲覧。
  24. ^ a b c Smith, Mitch (2011年8月15日). “Epilogue: Three hours south of Lincoln, an edible bastion of Huskerdom”. Lincoln Journal Star. https://journalstar.com/news/local/epilogue-three-hours-south-of-lincoln-an-edible-bastion-of/article_52a219ee-97dd-5caf-866c-a4723a3080a1.html 
  25. ^ “Runzas Pass Soviet's Test”. Omaha World-Herald (United Press International). (1989年5月4日) 
  26. ^ “Runza Drive - Inns Bet on Las Vegas”. Omaha World-Herald. (1989年11月28日) 
  27. ^ “Runza Opens Two New Stores”. Omaha World-Herald. (1990年10月21日) 
  28. ^ More than 83,000 Runzas are sold as part of 'Temperature Tuesday' promotion”. Omaha World-Herald. 2021年8月15日閲覧。
  29. ^ a b O'Connor, Michael (2018年6月5日). “Food fight: Omaha Runzas will face Green Chile Cheeseburgers at Werner Park this weekend”. Omaha World-Herald. https://www.omaha.com/sports/chasers/food-fight-omaha-runzas-will-face-green-chile-cheeseburgers-at/article_9f525c35-1bfa-5383-9c61-0d038c9d2c40.html 
  30. ^ Korbelik, Jeff (2004年12月9日). “An end of an era': Rock n' Roll Runza set to close”. Lincoln Journal Star. https://journalstar.com/news/local/an-end-of-an-era-rock-n-roll-runza-set/article_a0792fe8-3012-554f-a31c-6807b4bd7a71.html 

外部リンク[編集]