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幾度かオペラ化、映画化もされている。他にも後世に作られた同名の作品が複数ある。
幾度かオペラ化、映画化もされている。他にも後世に作られた同名の作品が複数ある。


== あらすじ ==
== 登場人物 ==
アテネ公シーシアス([[テーセウス|テセウス]])と[[アマゾーン|アマゾン]]国のヒポリタ([[ヒッポリュテー|ヒッポリュテ]])との結婚式が間近に迫っており、その御前から舞台は始まる。貴族の若者ハーミアとライサンダーは恋仲であるが、ハーミアの父イジーアスはディミートリアスという若者とハーミアを結婚させようとする。ハーミアは聞き入れないため、イジーアスは「父の言いつけに背く娘は死刑とする」という古い法律に則って、シーシアスに娘ハーミアを死刑にすることを願い出る。シーシアスは悩むものの、自らの結婚式までの4日を猶予としてハーミアへ与え、ディミートリアスと結婚するか死刑かを選ばせる。ライサンダーとハーミアは夜に抜け出して森で会うことにする。ハーミアはこのことを友人ヘレナに打ち明ける。ディミートリアスを愛しているヘレナは二人の後を追う。ハーミアを思うディミートリアスもまた森に行くと考えたからだ。


シーシアスとヒポリタの結婚式で芝居をするために、6人の職人が一人の家に集まっている。役割を決め、練習のために次の夜、森で集まることにする。かくして、10人の人間が、夏至の夜に妖精の集う森へ出かけていくことになる。

[[ファイル:Study for The Quarrel of Oberon and Titania.jpg|thumb|250px|オーベロンとタイターニアの喧嘩:中央左がティターニア、中央右がオーベロン。ティターニアがかばうようにしているのがとりかえ子。周りには森の妖精が描かれている。]]
森では妖精王[[オーベロン]]と女王[[タイターニア|ティターニア]]が「とりかえ子」を巡って喧嘩をし、仲違いしていた。機嫌を損ねたオーベロンは[[パック (妖精)|パック]]を使って、ティターニアのまぶたに花の汁から作った媚薬をぬらせることにする。キューピッドの矢の魔法から生まれたこの媚薬は、目を覚まして最初に見たものに恋してしまう作用がある。パックが森で眠っていたライサンダーたちにもこの媚薬を塗ってしまうことで、ライサンダーとディミートリアスがヘレナを愛するようになり、4人の関係があべこべになってしまう。また、パックは森に来ていた職人のボトムの頭をロバに変えてしまう。目を覚ましたティターニアはこの奇妙な者に惚れてしまう。

とりかえ子の問題が解決するとオーベロンはティターニアが気の毒になり、ボトムの頭からロバの頭をとりさり、ティターニアにかかった魔法を解いて二人は和解する。また、ライサンダーにかかった魔法も解かれ、ハーミアとの関係も元通りになる。一方、ディミートリアスはヘレナに求愛し、ハーミアの父イジーアスに頼んで娘の死刑を取りやめるよう説得することにする。これで2組の男女、妖精の王と女王は円満な関係に落ち着き、6人の職人たちもシーシアスとヒポリタの結婚式で無事に劇を行うことになった。

== 物語の背景 ==
ヨーロッパでは夏至の日や[[ヴァルプルギスの夜]]に、[[妖精]]の力が強まり、祝祭が催されるという言い伝えがある。劇中でも小妖精のパックや妖精王オーベロンなどが登場する。特に[[トリックスター]]的な働きをするパックは人々に強い印象を与え、いたずら好きな小妖精のイメージとして根付いている。パック(''Puck'')はもとは[[プーカ]](''Puka'')などとして知られていた妖精のことである。

『夏の夜の夢』の執筆時期と最初の上演がいつだったのか正確な日付は不明であるが、1594年から1596年の間であったと考えられている。1596年2月のトーマス・バークレイ卿とエリザベス・キャレイの結婚式で上演するために書かれたとする説もある。『夏の夜の夢』の構想の元となった作品は不明であるが、個々の登場人物や出来事は、[[ギリシア神話|ギリシャ神話]]や[[古代ローマ]]の詩人[[オウィディウス]]による『[[変身物語]]』、[[アプレイウス]]の『黄金のロバ』といった古典的な文学から流用されている。

== 登場人物 ==
=== 貴族 ===
=== 貴族 ===
*ハーミア(Hermia):ライサンダーの想い人。イジーアスの娘。
*ハーミア(Hermia):ライサンダーの想い人。イジーアスの娘。


*ライサンダー(Lysander):ハーミアの恋人。イジーアスには嫌われている。
*ライサンダー(Lysander):ハーミアの恋人。イジーアスには嫌われている。
*ディミートリアス(Demetrius):イジアスが決めたハーミアの許嫁。ハーミアに思いを寄せる。
*ディミートリアス(Demetrius):イジアスが決めたハーミアの許嫁。ハーミアに思いを寄せる。
*ヘレナ(Helena):ハーミアの友人。ディミートリアスに思いを寄せる。
*ヘレナ(Helena):ハーミアの友人。ディミートリアスに思いを寄せる。


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*[[タイターニア|ティターニア]](Titania):オーベロンの妻、妖精の女王。とりかえ子を手元に置こうとしてオーベロンと喧嘩をする。現代英国英語では {{IPA|/tɪˈtɑːniə/|lang=en}} が一般的。米国では {{IPA|/taɪˈteɪniə/|lang=en}} とも。[[エリザベス朝]]では、この米国発音に近かったらしい<ref name="kawai" />。日本では「タイタ(ー)ニア」とも表記されるが、英語圏で {{IPA|/taɪˈtɑːniə/|lang=en}} と発音することは稀。
*[[タイターニア|ティターニア]](Titania):オーベロンの妻、妖精の女王。とりかえ子を手元に置こうとしてオーベロンと喧嘩をする。現代英国英語では {{IPA|/tɪˈtɑːniə/|lang=en}} が一般的。米国では {{IPA|/taɪˈteɪniə/|lang=en}} とも。[[エリザベス朝]]では、この米国発音に近かったらしい<ref name="kawai" />。日本では「タイタ(ー)ニア」とも表記されるが、英語圏で {{IPA|/taɪˈtɑːniə/|lang=en}} と発音することは稀。
*その他の妖精たち:豆の花(Peaseblossom)、蜘蛛の巣(Cobweb)、蛾の羽根(Moth)、芥子の種(Mustardseed)。頭がロバになってしまったボトムの世話などをする。
*その他の妖精たち:豆の花(Peaseblossom)、蜘蛛の巣(Cobweb)、蛾の羽根(Moth)、芥子の種(Mustardseed)。頭がロバになってしまったボトムの世話などをする。

== あらすじ ==
アテネ公シーシアス([[テーセウス|テセウス]])と[[アマゾーン|アマゾン]]国のヒポリタ([[ヒッポリュテー|ヒッポリュテ]])との結婚式が間近に迫っており、その御前から舞台は始まる。貴族の若者ハーミアとライサンダーは恋仲であるが、ハーミアの父イジーアスはディミートリアスという若者とハーミアを結婚させようとする。ハーミアは聞き入れないため、イジーアスは「父の言いつけに背く娘は死刑とする」という古い法律に則って、シーシアスに娘ハーミアを死刑にすることを願い出る。シーシアスは悩むものの、自らの結婚式までの4日を猶予としてハーミアへ与え、ディミートリアスと結婚するか死刑かを選ばせる。ライサンダーとハーミアは夜に抜け出して森で会うことにする。ハーミアはこのことを友人ヘレナに打ち明ける。ディミートリアスを愛しているヘレナは二人の後を追う。ハーミアを思うディミートリアスもまた森に行くと考えたからだ。

シーシアスとヒポリタの結婚式で芝居をするために、6人の職人が一人の家に集まっている。役割を決め、練習のために次の夜、森で集まることにする。かくして、10人の人間が、夏至の夜に妖精の集う森へ出かけていくことになる。

[[ファイル:Study for The Quarrel of Oberon and Titania.jpg|thumb|250px|オーベロンとタイターニアの喧嘩:中央左がティターニア、中央右がオーベロン。ティターニアがかばうようにしているのがとりかえ子。周りには森の妖精が描かれている。]]
森では妖精王[[オーベロン]]と女王[[タイターニア|ティターニア]]が「とりかえ子」を巡って喧嘩をし、仲違いしていた。機嫌を損ねたオーベロンは[[パック (妖精)|パック]]を使って、ティターニアのまぶたに花の汁から作った媚薬をぬらせることにする。キューピッドの矢の魔法から生まれたこの媚薬は、目を覚まして最初に見たものに恋してしまう作用がある。パックが森で眠っていたライサンダーたちにもこの媚薬を塗ってしまうことで、ライサンダーとディミートリアスがヘレナを愛するようになり、4人の関係があべこべになってしまう。また、パックは森に来ていた職人のボトムの頭をロバに変えてしまう。目を覚ましたティターニアはこの奇妙な者に惚れてしまう。

とりかえ子の問題が解決するとオーベロンはティターニアが気の毒になり、ボトムの頭からロバの頭をとりさり、ティターニアにかかった魔法を解いて二人は和解する。また、ライサンダーにかかった魔法も解かれ、ハーミアとの関係も元通りになる。一方、ディミートリアスはヘレナに求愛し、ハーミアの父イジーアスに頼んで娘の死刑を取りやめるよう説得することにする。これで2組の男女、妖精の王と女王は円満な関係に落ち着き、6人の職人たちもシーシアスとヒポリタの結婚式で無事に劇を行うことになった。

== 物語の背景 ==
ヨーロッパでは夏至の日や[[ヴァルプルギスの夜]]に、[[妖精]]の力が強まり、祝祭が催されるという言い伝えがある。劇中でも小妖精のパックや妖精王オーベロンなどが登場する。特に[[トリックスター]]的な働きをするパックは人々に強い印象を与え、いたずら好きな小妖精のイメージとして根付いている。パック(''Puck'')はもとは[[プーカ]](''Puka'')などとして知られていた妖精のことである。


== midsummer nightの時期と日本語訳題 ==
== midsummer nightの時期と日本語訳題 ==
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『真夏の夜の夢』の題名は古くから親しまれ定着してきたため、[[真夏の夜の夢 (1999年の映画)|1999年公開のアメリカ映画]]の邦題に用いられた他、今日でも[[夏の夜の夢 (メンデルスゾーン)|メンデルスゾーン作曲の序曲・劇音楽]]などでしばしばこの表記が用いられている。
『真夏の夜の夢』の題名は古くから親しまれ定着してきたため、[[真夏の夜の夢 (1999年の映画)|1999年公開のアメリカ映画]]の邦題に用いられた他、今日でも[[夏の夜の夢 (メンデルスゾーン)|メンデルスゾーン作曲の序曲・劇音楽]]などでしばしばこの表記が用いられている。

== 材源 ==
[[ファイル:Midsummer_Night's_Dream_Henry_Fuseli2.jpg|サムネイル|''『夏の夜の夢』''第4幕第1場の版画、1796年に発表された[[ヨハン・ハインリヒ・フュースリー]]の「ティターニアとボトム」より。]]
主筋の明確な種本と言えるものはない<ref name=":0">前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』[[小田島雄志]]訳、白水社、2004、150-160、p. 152。</ref>。特定の先行作の翻訳あるいは翻案といえるようなものではないが、[[オウィディウス]]の『[[変身物語]]』や[[ジェフリー・チョーサー]]の『[[カンタベリー物語]]』に入っている「騎士の話」などが部分的に元になっている{{sfn|Brooks|1979|p=lix}}。シーシアスとヒポリタの物語は[[プルタルコス]]の『英雄伝』に収録されている「シーシアスの生涯」、ボトムがロバになる展開については[[アプレイウス]]の『黄金のロバ』、妖精については古代や中世の文学から民間伝承までさまざまなものを参照していると考えられる<ref name=":0" />。ジョン・トワイニングによると、4人の恋人が森で試練を経験するというこの芝居のプロットは[[中高ドイツ語]]の詩である''Der Busantの一種の「変種」である''{{sfn|Twyning|2012|p=77}}。
[[ファイル:Sir_Joseph_Noel_Paton_-_The_Quarrel_of_Oberon_and_Titania_-_Google_Art_Project_2.jpg|左|サムネイル|''[[ジョゼフ・ノエル・ペイトン]]''「オベロンとティターニアの争い」(1849)]]

== 執筆年代 ==
1598年にフランシス・ミアズが刊行した『知恵の宝庫』に本作への言及があるため、それより前に初演されていたことは間違いがない<ref name=":1">前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』[[小田島雄志]]訳、白水社、2004、150-160、p. 150。</ref>。ドロシア・ケーラーによると、本作が書かれた時期は1594年から1596年の間頃だと考えられ、これはシェイクスピアがおそらく既に『[[ロミオとジュリエット]]』を完成させ、『[[ヴェニスの商人]]』を構想中だった頃である。著者にとってはキャリアが中期にさしかかった頃であり、叙情に重きを置いていた時期である{{sfn|Kehler|1998|p=3}}。

== 刊行 ==
本作は1600年10月8日に書籍商トマス・フィッシャーにより出版組合登録簿に登録され、フィッシャーは年内に最初の[[シェイクスピアの初期のテキスト#%E6%88%AF%E6%9B%B2|クォート版]]を刊行した{{sfn|Brooks|1979|p=xxi}}。この初版のタイトルページには1600年より前に「何度も人々の前で上演された」芝居だと記載されている{{sfn|Brooks|1979|p=lvii}}。 第二クォート版は1619年にウィリアム・ジャガードがいわゆる[[フォールス・フォリオ]]の一部として印刷した{{sfn|Brooks|1979|p=xxi}}。次に刊行されたのは1623年の[[ファースト・フォリオ]]に収録された時であった<ref>Sukanta Chaudhuri, Appendices, William Shakespeare, ''A Midsummer Night's Dream'', The Arden Shakespeare 3rd ed., ed. by Sukanta Chaudhuri, Bloomsbury Arden Shakespeare, 2017, 279-328, pp. 302-303.</ref>。

== 上演史 ==

=== 17-18世紀 ===
[[ファイル:Oberon,_Titania_and_Puck_with_Fairies_Dancing._William_Blake._c.1786.jpg|代替文=Four fairies dance in a circle beside another fairy who faces a human king and queen|サムネイル|300x300ピクセル|[[ウィリアム・ブレイク]]「オベロン、ティターニア、パックと妖精たちの踊り」(1786年頃)]]
『夏の夜の夢』はシェイクスピアの時代から21世紀にいたるまで、継続的に上演されている<ref>前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』[[小田島雄志]]訳、白水社、2004、150-160、p. 154。</ref>。初演は1598年より前と考えられている<ref name=":1" />。記録に残っている上演としては、1604年1月に宮廷で演じられた「ロビン・グッドフェローの芝居」は本作ではないかと考えられる<ref>Sukanta Chaudhuri, Introduction, William Shakespeare, A ''Midsummer Night's Dream'', The Arden Shakespeare 3rd ed., ed. by Sukanta Chaudhuri, Bloomsbury Arden Shakespeare, 2017, 1-116, p. 3.</ref>。

[[イングランド内戦]]から空位期にかけて劇場が閉鎖された1642年から1660年の間は、主筋がカットされ、ボトムたち職人が登場する笑劇が上演されていた<ref>前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』[[小田島雄志]]訳、白水社、2004、150-160、pp. 154-155。</ref>。1662年9月29日には[[イングランド王政復古]]で再開した劇場で[[サミュエル・ピープス]]が『夏の夜の夢』を見て、低評価を下している{{sfn|Halliday|1964|pp=142–43, 316–17}}。

王政復古以降、1840年まではしばらく翻案やカット版が上演されるのが常であった<ref name=":2">前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』[[小田島雄志]]訳、白水社、2004、150-160、p. 155。</ref>。1692年には[[ヘンリー・パーセル]]が作曲した『夏の夜の夢』に基づく[[仮面劇|マスク]]『[[妖精の女王 (パーセル)|妖精の女王]]』が上演され、1716年には『ピラマスとシスビーのおかしな仮面劇』という[[バーレスク]]作品が上演されている<ref name=":2" />。チャールズ・ジョンソンは『[[お気に召すまま]]』にピラマスとシスビーの劇中劇を組み込んだ『森の恋』を1723年に発表した<ref name=":2" />。フレデリック・レイノルズは1816年にオペラ版を作っている{{sfn|Halliday|1964|pp=255, 271, 278, 316–17, 410}}。

=== ヴィクトリア朝 ===
[[フェリックス・メンデルスゾーン]]は1826年に『[[夏の夜の夢 (メンデルスゾーン)|夏の夜の夢]]』を主題とする序曲を作曲し、続いて1843年にこれを拡張した[[付随音楽]]が発表されたが、この音楽はその後の上演に大きな影響を与えることとなった<ref>Sukanta Chaudhuri, Introduction, William Shakespeare, A ''Midsummer Night's Dream'', The Arden Shakespeare 3rd ed., ed. by Sukanta Chaudhuri, Bloomsbury Arden Shakespeare, 2017, 1-116, p. 12.</ref>。1840年に[[ルシア・エリザベス・ヴェストリス]]が[[コヴェント・ガーデン]]の劇場にて、[[フェリックス・メンデルスゾーン]]の序曲やダンスを付加しつつ、『夏の夜の夢』をあまりカットや改変を行わない形で上演したが、[[イングランド王政復古]]期以降、翻案での上演がふつうになっていたこの作品としては珍しい形での上演であったと言える<ref>前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』[[小田島雄志]]訳、白水社、2004、150-160、pp. 155-156。</ref>。ヴェストリスはオベロン役を演じ、パックも少女が演じたため、以降オベロンやパックは女性が演じることが多くなった{{sfn|RSC|n.d.}}<ref>{{Cite book|edition=2nd ed|title=A midsummer night's dream|url=https://www.worldcat.org/oclc/51965610|publisher=Manchester University Press|date=2003|location=Manchester [England]|isbn=0-7190-6220-9|oclc=51965610|last=Halio, Jay L.|year=|page=25}}</ref>。

1853年にはサミュエル・フェルプスが視覚的効果と原作への忠実さの両立を狙った上演を行った<ref name=":3">前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』[[小田島雄志]]訳、白水社、2004、150-160、pp. 156。</ref>。1856年にチャールズ・キーンがパック役に[[エレン・テリー]]を起用して行った上演は非常に凝った舞台装置を用いたもので、150回も上演された<ref name=":3" />。1895年にロンドンで開幕したオーガスティン・デイリーのプロダクションも派手なもので、21回にわたり上演された<ref name=":3" /><ref>{{cite web|url=https://shakespeare.emory.edu/a-midsummer-nights-dream/|title=A Midsummer Night's Dream {{!}} Shakespeare and the Players|website=shakespeare.emory.edu|language=en-US|access-date=2018-04-12}}</ref>。

=== 20世紀から21世紀 ===
[[ハーバート・ビアボーム・トゥリー]]は1900年と1911年に『夏の夜の夢』を上演したが、この公演は極めて華やかなもので、生きたウサギなどが使われていた<ref name=":3" />{{sfn|Kimber|2006|p=201}}。

[[マックス・ラインハルト]]は1905年から1934年までに『夏の夜の夢』を13回上演し、回転するセットを導入した{{sfn|MacQueen|2009|p=31}}{{sfn|Mancewicz|2014|p=12}}。ドイツから逃げた後、ラインハルトは1934年9月に[[ハリウッド・ボウル]]でさらに壮大な『夏の夜の夢』の野外上演を行った{{sfn|MacQueen|2009|p=31}}。建物のシェルの部分が取り外され、かわりにこのイベントのために特別に持ち込まれた大量の泥を用いた森が植えられ、丘から舞台に土台が作られた{{sfn|MacQueen|2009|p=36}}。第4幕と第5幕の間に挿入された婚礼の行列が松明を持って丘を下りながらこの土台を進むという演出が行われた{{sfn|MacQueen|2009|pp=36–37}}。キャストには[[ジェイムズ・キャグニー]]、[[オリヴィア・デ・ハヴィランド]]、[[ミッキー・ルーニー]]、ヴィクター・ジョリーが含まれており、群舞のダンサーには[[バタフライ・マックィーン]]もいた。{{sfn|MacQueen|2009|pp=51–52}}{{sfn|MacQueen|2009|pp=38, 46}}{{sfn|MacQueen|2009|pp=37–38, 46}}{{sfn|Gibson|1996|p=3}}。この上演ではメンデルスゾーンの音楽が使われた{{sfn|MacQueen|2009|pp=57–58}}。

この上演をもとに[[ワーナー・ブラザーズ]]はラインハルトと契約して[[真夏の夜の夢 (1935年の映画)|映画版]]を監督させたが、これは[[ダグラス・フェアバンクス・ジュニア]]と[[メアリー・ピックフォード]]が1929年に『[[じゃじゃ馬馴らし (1929年の映画)|じゃじゃ馬馴らし]]』を作って以来初めての[[ハリウッド]]によるシェイクスピア作品の映画化であった{{sfn|MacQueen|2009|p=41}}。 ハリウッド・ボウル上演でのキャストのうち、オベロン役のジョリー、パック役のルーニー、ハーミア役のデ・ハヴィランドは映画でも同じ役を演じることとなった{{sfn|MacQueen|2009|pp=46–47}}。ジェイムズ・キャグニーはキャリア中唯一のシェイクスピア劇の役型としてボトムを演じた{{sfn|MacQueen|2009|p=52}}。他にも、この映画に出演した役者のうち、ジョー・E・ブラウンと[[ディック・パウエル]]はこの時一回しかシェイクスピア作品には出演していない{{sfn|MacQueen|2009|pp=47–48, 52}}。[[エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルト]]が[[オーストリア]]からこの映画用にメンデルスゾーンの音楽をアレンジすべく招聘された{{sfn|MacQueen|2009|pp=44–45}}。コルンゴルトは[[ナチスドイツ]]がオーストリアを併合した後も[[アメリカ合衆国]]にとどまり、ハリウッドで伝説的なキャリアを築くこととなった{{sfn|MacQueen|2009|pp=57–58}}。

1914年に演出家の[[ハーリー・グランヴィル=バーカー]]は見世物らしさをおさえた演出で『夏の夜の夢』を上演した<ref name=":3" />。音楽はメンデルスゾーンではなくイギリスの民謡を用い、セットも[[エリザベス朝]]風のシンプルなものにして、妖精はマリオネット風の新しいデザインを導入した<ref name=":3" />。このプロダクションは大きな評判を呼んだ<ref name=":3" />。

1970年の[[ピーター・ブルック]]演出による[[ロイヤル・シェイクスピア・カンパニー]]の『夏の夜の夢』上演は「一大センセーション<ref>前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』[[小田島雄志]]訳、白水社、2004、150-160、pp. 157。</ref>」を巻き起こした。サリー・ジェイコブズがデザインした白い箱のようなセットが使われ、[[空中ブランコ]]を用いたサーカス風の動きがふんだんに用いられた<ref name=":4">{{Cite web|title=Peter Brook 1970 production {{!}} A Midsummer Night's Dream {{!}} Royal Shakespeare Company|url=https://www.rsc.org.uk/a-midsummer-nights-dream/past-productions/peter-brook-1970-production|website=www.rsc.org.uk|accessdate=2020-06-07}}</ref>。ブルックはシーシアスとオーベロン、ヒポリタとティターニアを同じ役者に演じさせ、人間の世界を妖精の世界の鏡であるかのように演出した<ref name=":4" />。

2016年、[[シェイクスピアズ・グローブ]]でエマ・ライスが[[芸術監督]]として初めて行った上演は『夏の夜の夢』であり、改変が多かったものの高い評価を受けた。現代的な改訂を行っており、キャラクターの[[ジェンダー]]を変更し、[[ボリウッド]]からの影響も見受けられる<ref>* {{cite news|last1=Clapp|first1=Susannah|title=A Midsummer Night’s Dream review – the wildest of dreams|url=https://www.theguardian.com/stage/2016/may/08/midsummer-nights-dream-shakespeares-globe-theatre-review-emma-rice|accessdate=14 April 2020|work=[[The Observer]]|date=8 May 2016}}
* {{cite news|title=A Midsummer Night's Dream, review: A rocking dream with real spirit|url=https://www.standard.co.uk/go/london/theatre/a-midsummer-nights-dream-theatre-review-a-rocking-dream-with-real-spirit-a3241611.html|accessdate=14 April 2020|work=[[Evening Standard]]|date=6 May 2016|language=en}}
* {{cite news|title=The Globe's A Midsummer Night's Dream is wonderfully bonkers ★★★|url=https://www.radiotimes.com/news/2016-05-06/the-globes-a-midsummer-nights-dream-is-wonderfully-bonkers/|accessdate=14 April 2020|work=[[Radio Times]]|date=6 May 2016|language=en}}
* {{cite book|last1=Singh|first1=Jyotsna G.|title=Shakespeare and Postcolonial Theory|date=2019|publisher=Bloomsbury Publishing|isbn=978-1-4081-8526-1|url=https://books.google.se/books?id=RJODDwAAQBAJ&pg=PT178&lpg=|accessdate=14 April 2020|language=en}}</ref>。


== この戯曲に基づく作品・翻案 ==
== この戯曲に基づく作品・翻案 ==

=== 音楽作品 ===
=== 音楽作品 ===
*[[フェリックス・メンデルスゾーン]]
*[[フェリックス・メンデルスゾーン]]
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それ以前にも戦前から『眞夏の夜の夢』のタイトルで何度か上演している。
それ以前にも戦前から『眞夏の夜の夢』のタイトルで何度か上演している。

=== 近年の舞台上演 ===
*2008年9月-10月: [[ケンブリッジ大学]][[ペンブルックプレイヤーズ]]・ジャパンツアー2008。[[共立女子大学]]などで公演。舞台を[[ヴィクトリア朝]]イギリスにおく、英語での上演。[http://cuppjt.jugem.jp/ ブログ]
*劇団[[シェイクスピア・シアター]]によって日本の高校・大学での芸術鑑賞会公演が頻繁に行われている。


=== 漫画 ===
=== 漫画 ===
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*「真夏の夜の夢」[[大場建治]]訳 研究社 2010
*「真夏の夜の夢」[[大場建治]]訳 研究社 2010
*「新訳夏の夜の夢」[[河合祥一郎]]訳 角川文庫 2013
*「新訳夏の夜の夢」[[河合祥一郎]]訳 角川文庫 2013

== 脚注 ==
{{Reflist}}{{Reflist}}


== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
{{Reflist}}
* {{citation|editor-last=Johnson|editor-first=Samuel|title=A Midsummer night's dream|work=|year=1765|volume=1|place=London|publisher=Printed for J. and R. Tonson|url=http://books.google.co.jp/books?id=dSIJAAAAQAAJ&pg=PA89|format=google}}
* {{citation|editor-last=Johnson|editor-first=Samuel|title=A Midsummer night's dream|work=|year=1765|volume=1|place=London|publisher=Printed for J. and R. Tonson|url=http://books.google.co.jp/books?id=dSIJAAAAQAAJ&pg=PA89|format=google}}
* {{citation|editor-last=Neil|editor-first=Samuel|title=Shakespeare's comedy of A Midsummer night's dream|place=London|publisher=William Collins and Sons|year=1878|url=http://books.google.co.jp/books?id=CKANAAAAQAAJ|format=google}}
* {{citation|editor-last=Neil|editor-first=Samuel|title=Shakespeare's comedy of A Midsummer night's dream|place=London|publisher=William Collins and Sons|year=1878|url=http://books.google.co.jp/books?id=CKANAAAAQAAJ|format=google}}
* {{citation|editor-last=Furnace|editor-first=Horace Howard|title=A New Variorum Edition of Shakespeare: Midsummer night's dream.|place=Philadelphia|publisher=J. B. Lippincott|year= 1895|url=http://books.google.co.jp/books?id=RIJBAAAAYAAJ|format=google}}
* {{citation|editor-last=Furnace|editor-first=Horace Howard|title=A New Variorum Edition of Shakespeare: Midsummer night's dream.|place=Philadelphia|publisher=J. B. Lippincott|year= 1895|url=http://books.google.co.jp/books?id=RIJBAAAAYAAJ|format=google}}
* Documenta musicologica. 41: {{cite web|url=http://webcat.nii.ac.jp/cgi-bin/shsproc?id=BA89583591|title=NACSIS Webcat:Ein Sommernachtstraum : Ouvertüre Op. 21 : Autograph biblioteka Jagiellońska Kraków /Felix Mendelssohn Bartholdy ; Kommentar von Friedhelm Krummacher (楽譜資料)|accessdate=2012年3月24日}} "Reproduced from holograph ; Varied title on p. of contents
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== 関連文献 ==
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== 関連項目 ==
== 関連項目 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
{{Commonscat|A Midsummer Night's Dream}}
{{Commonscat}}
*[http://www.e-freetext.net/mdnght.html 真夏の夜の夢] ラムの『シェイクスピア物語』にある「真夏の夜の夢」の有志による日本語訳(戯曲原典の翻訳ではないもの)
*[http://www.e-freetext.net/mdnght.html 真夏の夜の夢] ラムの『シェイクスピア物語』にある「真夏の夜の夢」の有志による日本語訳(戯曲原典の翻訳ではないもの)
*[[q:en:A Midsummer Night's Dream|英語版ウィキクォート]]
*[[q:en:A Midsummer Night's Dream|英語版ウィキクォート]]

2020年7月26日 (日) 06:38時点における版

「ファースト・フォリオ」(1623年)から『夏の夜の夢』の表紙の複写

夏の夜の夢』(なつのよのゆめ)、または『真夏の夜の夢』(まなつのよのゆめ、原題:A Midsummer Night's Dream)は、ウィリアム・シェイクスピア作の喜劇である。アテネ近郊の森に足を踏み入れた貴族や職人、森に住む妖精たちが登場する。人間の男女は結婚に関する問題を抱えており、妖精の王と女王は養子を巡りけんかをしている。しかし、妖精の王の画策や妖精のひとりパックの活躍によって最終的には円満な結末を迎える。

幾度かオペラ化、映画化もされている。他にも後世に作られた同名の作品が複数ある。

登場人物

貴族

  • ハーミア(Hermia):ライサンダーの想い人。イジーアスの娘。
  • ライサンダー(Lysander):ハーミアの恋人。イジーアスには嫌われている。
  • ディミートリアス(Demetrius):イジーアスが決めたハーミアの許嫁。ハーミアに思いを寄せる。
  • ヘレナ(Helena):ハーミアの友人。ディミートリアスに思いを寄せる。

職人

  • ニック・ボトム(Nick Bottom):織工。ロバの頭をかぶせられる。
  • ピーター・クインス(Peter Quince):大工。
  • フラーンシス・フルート(Francis Flute):オルガンのふいご修理屋。
  • ロビン・スターヴリング(Robin Starveling):仕立て屋。
  • トム・スナウト(Tom Snout):鋳掛け屋。
  • スナッグ(Snug):指物師。

妖精

  • パック(Puck):ロビン・グッドフェロー(Robin Goodfellow)とも呼ばれる、いたずら好きの妖精。オーベロンの命令で媚薬を塗ったりするが、早とちりや勘違いから行った行為は登場人物たちを混乱させることになる。トリックスターの典型例としてしばしば引き合いに出される。また一般的に考えられている小さな妖精のイメージはパックに由来すると言われる。
  • オーベロン(Oberon):オベロンとも。妖精の王。花の汁から媚薬を作ったり、パックを使い画策を練る。ティターニアの夫。
  • ティターニア(Titania):オーベロンの妻、妖精の女王。とりかえ子を手元に置こうとしてオーベロンと喧嘩をする。現代英国英語では /tɪˈtɑːniə/ が一般的。米国では /taɪˈteɪniə/ とも。エリザベス朝では、この米国発音に近かったらしい[1]。日本では「タイタ(ー)ニア」とも表記されるが、英語圏で /taɪˈtɑːniə/ と発音することは稀。
  • その他の妖精たち:豆の花(Peaseblossom)、蜘蛛の巣(Cobweb)、蛾の羽根(Moth)、芥子の種(Mustardseed)。頭がロバになってしまったボトムの世話などをする。

あらすじ

アテネ公シーシアス(テセウス)とアマゾン国のヒポリタ(ヒッポリュテ)との結婚式が間近に迫っており、その御前から舞台は始まる。貴族の若者ハーミアとライサンダーは恋仲であるが、ハーミアの父イジーアスはディミートリアスという若者とハーミアを結婚させようとする。ハーミアは聞き入れないため、イジーアスは「父の言いつけに背く娘は死刑とする」という古い法律に則って、シーシアスに娘ハーミアを死刑にすることを願い出る。シーシアスは悩むものの、自らの結婚式までの4日を猶予としてハーミアへ与え、ディミートリアスと結婚するか死刑かを選ばせる。ライサンダーとハーミアは夜に抜け出して森で会うことにする。ハーミアはこのことを友人ヘレナに打ち明ける。ディミートリアスを愛しているヘレナは二人の後を追う。ハーミアを思うディミートリアスもまた森に行くと考えたからだ。

シーシアスとヒポリタの結婚式で芝居をするために、6人の職人が一人の家に集まっている。役割を決め、練習のために次の夜、森で集まることにする。かくして、10人の人間が、夏至の夜に妖精の集う森へ出かけていくことになる。

オーベロンとタイターニアの喧嘩:中央左がティターニア、中央右がオーベロン。ティターニアがかばうようにしているのがとりかえ子。周りには森の妖精が描かれている。

森では妖精王オーベロンと女王ティターニアが「とりかえ子」を巡って喧嘩をし、仲違いしていた。機嫌を損ねたオーベロンはパックを使って、ティターニアのまぶたに花の汁から作った媚薬をぬらせることにする。キューピッドの矢の魔法から生まれたこの媚薬は、目を覚まして最初に見たものに恋してしまう作用がある。パックが森で眠っていたライサンダーたちにもこの媚薬を塗ってしまうことで、ライサンダーとディミートリアスがヘレナを愛するようになり、4人の関係があべこべになってしまう。また、パックは森に来ていた職人のボトムの頭をロバに変えてしまう。目を覚ましたティターニアはこの奇妙な者に惚れてしまう。

とりかえ子の問題が解決するとオーベロンはティターニアが気の毒になり、ボトムの頭からロバの頭をとりさり、ティターニアにかかった魔法を解いて二人は和解する。また、ライサンダーにかかった魔法も解かれ、ハーミアとの関係も元通りになる。一方、ディミートリアスはヘレナに求愛し、ハーミアの父イジーアスに頼んで娘の死刑を取りやめるよう説得することにする。これで2組の男女、妖精の王と女王は円満な関係に落ち着き、6人の職人たちもシーシアスとヒポリタの結婚式で無事に劇を行うことになった。

物語の背景

ヨーロッパでは夏至の日やヴァルプルギスの夜に、妖精の力が強まり、祝祭が催されるという言い伝えがある。劇中でも小妖精のパックや妖精王オーベロンなどが登場する。特にトリックスター的な働きをするパックは人々に強い印象を与え、いたずら好きな小妖精のイメージとして根付いている。パック(Puck)はもとはプーカPuka)などとして知られていた妖精のことである。

midsummer nightの時期と日本語訳題

英語の midsummer は、「盛夏」または「夏至」(6月21日頃)を意味し[2][3]、Midsummer Night は聖ヨハネ祭(Midsummer Day)が祝われる6月24日の前夜を指す[4][1]。ヨーロッパでは、キリスト教以前の冬至の祭りがクリスマスに吸収されたように、夏至の祭りも聖ヨハネ祭に移行した。この前夜(ワルプルギスの夜)には、妖精や魔女が地上に現れる、男女が森に入って恋を語るのが黙認される、無礼講の乱痴気騒ぎをする等、様々な俗信や風習があった[4][1]。劇の表題と内容はこれに一致する。

ところが、この芝居は6月23日に設定したものではなく、第4幕第1場に「きっと五月祭を祝うために早起きして……」[5]というシーシアスの台詞があるように、森での騒ぎは五月祭(5月1日, May Day)の前夜の4月30日であることがわかる。五月祭もまた自然の復活・再生を祝うもので、夏至祭の民間行事と多くの面で共通している。[4]

この表題と実際の劇中の設定時期の不一致は古くから論争を読んでおり、たとえばサミュエル・ジョンソンは、既に『シェイクスピア全集英語版』(1765年初版発行)において「シェイクスピアは、この劇が五月祭の前夜のことだとこんなにも注意深く我々に伝えているのに、彼がなぜ『A Midsummer Night's Dream』と題したのか、私には分からない!」と第4幕で注を付けている[6]

一つの説明として、midsummer が時節そのものを指すものではなく、真夏の熱に浮かされた狂乱・狂気を意味するという考えがある[4][1]。実際、シェイクスピア劇の中では、"This is very midsummer madness" (『十二夜』 第3幕 第4場)や "hot midsummer night" (『お気に召すまま』 第4幕 第1場)といった表現が見られる。

日本では坪内逍遥以来『真夏の夜の夢』という訳題が用いられてきたが、土居光知(1940年)は「四月末の夜は、我が国の春の夜の如く、(中略)夏至の夜と雖も英国の夜は暑からず寒からず、まことに快適である」というように、日本語の「真夏」を指すものに当たらないと考え、『夏の夜の夢』と訳した。福田恆存(1960年)も、「『Midsummer-day』は夏至で、クリスト教の聖ヨハネ祭日(注:前出)前後に当り、その前夜が『Midsummer-night』なのである。直訳すれば、「夏至前夜の夢」となる」とし[7]、これに続いた。以来、日本では『夏の夜の夢』の訳題で出版されることが多い(小田島雄志松岡和子など)。

一方、大場建治は「せめてこれを『真夏』として恋の狂熱を示唆しようとした逍遥の訳語の選択は、まことにぎりぎりのみごとな工夫だった」と逍遥訳を評価し、逆に土居訳を「背景の五月祭のイメージをそのまま律儀に信じ込んだ」ものであると批判している[4]。自身の訳(2010年)も「真夏」を採用している。

『真夏の夜の夢』の題名は古くから親しまれ定着してきたため、1999年公開のアメリカ映画の邦題に用いられた他、今日でもメンデルスゾーン作曲の序曲・劇音楽などでしばしばこの表記が用いられている。

材源

『夏の夜の夢』第4幕第1場の版画、1796年に発表されたヨハン・ハインリヒ・フュースリーの「ティターニアとボトム」より。

主筋の明確な種本と言えるものはない[8]。特定の先行作の翻訳あるいは翻案といえるようなものではないが、オウィディウスの『変身物語』やジェフリー・チョーサーの『カンタベリー物語』に入っている「騎士の話」などが部分的に元になっている[9]。シーシアスとヒポリタの物語はプルタルコスの『英雄伝』に収録されている「シーシアスの生涯」、ボトムがロバになる展開についてはアプレイウスの『黄金のロバ』、妖精については古代や中世の文学から民間伝承までさまざまなものを参照していると考えられる[8]。ジョン・トワイニングによると、4人の恋人が森で試練を経験するというこの芝居のプロットは中高ドイツ語の詩であるDer Busantの一種の「変種」である[10]

ジョゼフ・ノエル・ペイトン「オベロンとティターニアの争い」(1849)

執筆年代

1598年にフランシス・ミアズが刊行した『知恵の宝庫』に本作への言及があるため、それより前に初演されていたことは間違いがない[11]。ドロシア・ケーラーによると、本作が書かれた時期は1594年から1596年の間頃だと考えられ、これはシェイクスピアがおそらく既に『ロミオとジュリエット』を完成させ、『ヴェニスの商人』を構想中だった頃である。著者にとってはキャリアが中期にさしかかった頃であり、叙情に重きを置いていた時期である[12]

刊行

本作は1600年10月8日に書籍商トマス・フィッシャーにより出版組合登録簿に登録され、フィッシャーは年内に最初のクォート版を刊行した[13]。この初版のタイトルページには1600年より前に「何度も人々の前で上演された」芝居だと記載されている[14]。 第二クォート版は1619年にウィリアム・ジャガードがいわゆるフォールス・フォリオの一部として印刷した[13]。次に刊行されたのは1623年のファースト・フォリオに収録された時であった[15]

上演史

17-18世紀

Four fairies dance in a circle beside another fairy who faces a human king and queen
ウィリアム・ブレイク「オベロン、ティターニア、パックと妖精たちの踊り」(1786年頃)

『夏の夜の夢』はシェイクスピアの時代から21世紀にいたるまで、継続的に上演されている[16]。初演は1598年より前と考えられている[11]。記録に残っている上演としては、1604年1月に宮廷で演じられた「ロビン・グッドフェローの芝居」は本作ではないかと考えられる[17]

イングランド内戦から空位期にかけて劇場が閉鎖された1642年から1660年の間は、主筋がカットされ、ボトムたち職人が登場する笑劇が上演されていた[18]。1662年9月29日にはイングランド王政復古で再開した劇場でサミュエル・ピープスが『夏の夜の夢』を見て、低評価を下している[19]

王政復古以降、1840年まではしばらく翻案やカット版が上演されるのが常であった[20]。1692年にはヘンリー・パーセルが作曲した『夏の夜の夢』に基づくマスク妖精の女王』が上演され、1716年には『ピラマスとシスビーのおかしな仮面劇』というバーレスク作品が上演されている[20]。チャールズ・ジョンソンは『お気に召すまま』にピラマスとシスビーの劇中劇を組み込んだ『森の恋』を1723年に発表した[20]。フレデリック・レイノルズは1816年にオペラ版を作っている[21]

ヴィクトリア朝

フェリックス・メンデルスゾーンは1826年に『夏の夜の夢』を主題とする序曲を作曲し、続いて1843年にこれを拡張した付随音楽が発表されたが、この音楽はその後の上演に大きな影響を与えることとなった[22]。1840年にルシア・エリザベス・ヴェストリスコヴェント・ガーデンの劇場にて、フェリックス・メンデルスゾーンの序曲やダンスを付加しつつ、『夏の夜の夢』をあまりカットや改変を行わない形で上演したが、イングランド王政復古期以降、翻案での上演がふつうになっていたこの作品としては珍しい形での上演であったと言える[23]。ヴェストリスはオベロン役を演じ、パックも少女が演じたため、以降オベロンやパックは女性が演じることが多くなった[24][25]

1853年にはサミュエル・フェルプスが視覚的効果と原作への忠実さの両立を狙った上演を行った[26]。1856年にチャールズ・キーンがパック役にエレン・テリーを起用して行った上演は非常に凝った舞台装置を用いたもので、150回も上演された[26]。1895年にロンドンで開幕したオーガスティン・デイリーのプロダクションも派手なもので、21回にわたり上演された[26][27]

20世紀から21世紀

ハーバート・ビアボーム・トゥリーは1900年と1911年に『夏の夜の夢』を上演したが、この公演は極めて華やかなもので、生きたウサギなどが使われていた[26][28]

マックス・ラインハルトは1905年から1934年までに『夏の夜の夢』を13回上演し、回転するセットを導入した[29][30]。ドイツから逃げた後、ラインハルトは1934年9月にハリウッド・ボウルでさらに壮大な『夏の夜の夢』の野外上演を行った[29]。建物のシェルの部分が取り外され、かわりにこのイベントのために特別に持ち込まれた大量の泥を用いた森が植えられ、丘から舞台に土台が作られた[31]。第4幕と第5幕の間に挿入された婚礼の行列が松明を持って丘を下りながらこの土台を進むという演出が行われた[32]。キャストにはジェイムズ・キャグニーオリヴィア・デ・ハヴィランドミッキー・ルーニー、ヴィクター・ジョリーが含まれており、群舞のダンサーにはバタフライ・マックィーンもいた。[33][34][35][36]。この上演ではメンデルスゾーンの音楽が使われた[37]

この上演をもとにワーナー・ブラザーズはラインハルトと契約して映画版を監督させたが、これはダグラス・フェアバンクス・ジュニアメアリー・ピックフォードが1929年に『じゃじゃ馬馴らし』を作って以来初めてのハリウッドによるシェイクスピア作品の映画化であった[38]。 ハリウッド・ボウル上演でのキャストのうち、オベロン役のジョリー、パック役のルーニー、ハーミア役のデ・ハヴィランドは映画でも同じ役を演じることとなった[39]。ジェイムズ・キャグニーはキャリア中唯一のシェイクスピア劇の役型としてボトムを演じた[40]。他にも、この映画に出演した役者のうち、ジョー・E・ブラウンとディック・パウエルはこの時一回しかシェイクスピア作品には出演していない[41]エーリヒ・ヴォルフガング・コルンゴルトオーストリアからこの映画用にメンデルスゾーンの音楽をアレンジすべく招聘された[42]。コルンゴルトはナチスドイツがオーストリアを併合した後もアメリカ合衆国にとどまり、ハリウッドで伝説的なキャリアを築くこととなった[37]

1914年に演出家のハーリー・グランヴィル=バーカーは見世物らしさをおさえた演出で『夏の夜の夢』を上演した[26]。音楽はメンデルスゾーンではなくイギリスの民謡を用い、セットもエリザベス朝風のシンプルなものにして、妖精はマリオネット風の新しいデザインを導入した[26]。このプロダクションは大きな評判を呼んだ[26]

1970年のピーター・ブルック演出によるロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの『夏の夜の夢』上演は「一大センセーション[43]」を巻き起こした。サリー・ジェイコブズがデザインした白い箱のようなセットが使われ、空中ブランコを用いたサーカス風の動きがふんだんに用いられた[44]。ブルックはシーシアスとオーベロン、ヒポリタとティターニアを同じ役者に演じさせ、人間の世界を妖精の世界の鏡であるかのように演出した[44]

2016年、シェイクスピアズ・グローブでエマ・ライスが芸術監督として初めて行った上演は『夏の夜の夢』であり、改変が多かったものの高い評価を受けた。現代的な改訂を行っており、キャラクターのジェンダーを変更し、ボリウッドからの影響も見受けられる[45]

この戯曲に基づく作品・翻案

音楽作品

バレエ

映画

他の多くのシェイクスピア作品と同じく、何度も映画化されている。主だったものを以下に記す。

テレビドラマ

宝塚歌劇

1992年月組公演にて『PUCK』の題名で上演。涼風真世主演、潤色・演出を小池修一郎担当。主題歌の「ミッドサマー・イヴ」を松任谷由実が提供。2014年に月組で再演。(龍真咲が主演)

それ以前にも戦前から『眞夏の夜の夢』のタイトルで何度か上演している。

漫画

日本語訳

  • 「真夏の夜の夢」坪内逍遥訳 早稲田大学出版部
  • 「真夏の夜の夢」佐藤篤二訳「世界戯曲全集」世界戯曲全集刊行会 1929
  • 「真夏の夜の夢 対訳傍註」沢村寅二郎研究社出版 1937
  • 「夏の夜の夢」土居光知訳 岩波文庫 1940
  • 「真夏の夜の夢」三神勲河出書房 1953 のち角川文庫
  • 「夏の夜の夢」福田恒存訳「シェイクスピア全集」河出書房 1957 のち新潮文庫
  • 「夏の夜の夢」平井正穂訳「世界古典文学全集 第42巻 (シェークスピア 第2) 筑摩書房 1964
  • 「真夏の夜の夢」大山敏子旺文社文庫 1970
  • 「夏の夜の夢」小田島雄志訳「シェイクスピア全集」白水社 1975
  • 「夏の夜の夢」高橋康也訳「世界文学全集」集英社 1981
  • 「夏の夜の夢」松岡和子訳 ちくま文庫、1997
  • 「真夏の夜の夢」大場建治訳 研究社 2010
  • 「新訳夏の夜の夢」河合祥一郎訳 角川文庫 2013

脚注

  1. ^ a b c d 河合祥一郎(訳)『新訳 夏の夜の夢』、角川文庫、2013年
  2. ^ The middle of summer; the period of the summer solstice, about June 21st. (Oxford English Dictionary, 2nd Edition (電子版), Version 4.0)
  3. ^ 新英和大辞典, 第6版, 研究社
  4. ^ a b c d e 大場建治(訳)『真夏の夜の夢』(研究社 シェイクスピア・コレクション 第2巻)、研究社、2010年
  5. ^ 原文: No doubt they rose up early to observe The rite of May ...
  6. ^ Johnson 1765, pp.153-4 脚注
  7. ^ 福田恆存(訳)『夏の夜の夢・あらし』pp.137-138、「夏の夜の夢 解題」、新潮文庫
  8. ^ a b 前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』小田島雄志訳、白水社、2004、150-160、p. 152。
  9. ^ Brooks 1979, p. lix.
  10. ^ Twyning 2012, p. 77.
  11. ^ a b 前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』小田島雄志訳、白水社、2004、150-160、p. 150。
  12. ^ Kehler 1998, p. 3.
  13. ^ a b Brooks 1979, p. xxi.
  14. ^ Brooks 1979, p. lvii.
  15. ^ Sukanta Chaudhuri, Appendices, William Shakespeare, A Midsummer Night's Dream, The Arden Shakespeare 3rd ed., ed. by Sukanta Chaudhuri, Bloomsbury Arden Shakespeare, 2017, 279-328, pp. 302-303.
  16. ^ 前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』小田島雄志訳、白水社、2004、150-160、p. 154。
  17. ^ Sukanta Chaudhuri, Introduction, William Shakespeare, A Midsummer Night's Dream, The Arden Shakespeare 3rd ed., ed. by Sukanta Chaudhuri, Bloomsbury Arden Shakespeare, 2017, 1-116, p. 3.
  18. ^ 前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』小田島雄志訳、白水社、2004、150-160、pp. 154-155。
  19. ^ Halliday 1964, pp. 142–43, 316–17.
  20. ^ a b c 前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』小田島雄志訳、白水社、2004、150-160、p. 155。
  21. ^ Halliday 1964, pp. 255, 271, 278, 316–17, 410.
  22. ^ Sukanta Chaudhuri, Introduction, William Shakespeare, A Midsummer Night's Dream, The Arden Shakespeare 3rd ed., ed. by Sukanta Chaudhuri, Bloomsbury Arden Shakespeare, 2017, 1-116, p. 12.
  23. ^ 前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』小田島雄志訳、白水社、2004、150-160、pp. 155-156。
  24. ^ RSC n.d.
  25. ^ Halio, Jay L. (2003). A midsummer night's dream (2nd ed ed.). Manchester [England]: Manchester University Press. p. 25. ISBN 0-7190-6220-9. OCLC 51965610. https://www.worldcat.org/oclc/51965610 
  26. ^ a b c d e f g 前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』小田島雄志訳、白水社、2004、150-160、pp. 156。
  27. ^ A Midsummer Night's Dream | Shakespeare and the Players” (英語). shakespeare.emory.edu. 2018年4月12日閲覧。
  28. ^ Kimber 2006, p. 201.
  29. ^ a b MacQueen 2009, p. 31.
  30. ^ Mancewicz 2014, p. 12.
  31. ^ MacQueen 2009, p. 36.
  32. ^ MacQueen 2009, pp. 36–37.
  33. ^ MacQueen 2009, pp. 51–52.
  34. ^ MacQueen 2009, pp. 38, 46.
  35. ^ MacQueen 2009, pp. 37–38, 46.
  36. ^ Gibson 1996, p. 3.
  37. ^ a b MacQueen 2009, pp. 57–58.
  38. ^ MacQueen 2009, p. 41.
  39. ^ MacQueen 2009, pp. 46–47.
  40. ^ MacQueen 2009, p. 52.
  41. ^ MacQueen 2009, pp. 47–48, 52.
  42. ^ MacQueen 2009, pp. 44–45.
  43. ^ 前川正子「解説」、ウィリアム・シェイクスピア『夏の夜の夢』小田島雄志訳、白水社、2004、150-160、pp. 157。
  44. ^ a b Peter Brook 1970 production | A Midsummer Night's Dream | Royal Shakespeare Company”. www.rsc.org.uk. 2020年6月7日閲覧。
  45. ^ * Clapp, Susannah (2016年5月8日). “A Midsummer Night’s Dream review – the wildest of dreams”. The Observer. https://www.theguardian.com/stage/2016/may/08/midsummer-nights-dream-shakespeares-globe-theatre-review-emma-rice 2020年4月14日閲覧。 

参考文献

関連文献

関連項目

外部リンク