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{{Drugbox|| IUPAC_name= 7-[4-[4-(2,3-dichlorophenyl) piperazin-1-yl] butoxy]- 3,4-dihydro- 1H-quinolin- 2-one| image = Aripiprazole.svg| width = 200| image2 = Aripiprazole-3d-ball-model-V.png| width2 =200| CAS_number = 129722-12-9| ChemSpiderID = 54790| ATC_prefix = N05| ATC_suffix = AX12| PubChem = 60795| DrugBank = APRD00638 | KEGG = D01164 | C=23 | H=27 | Cl=2 | N=3 | O=2| molecular_weight = 448.385| smiles = O=C1CCc2ccc(OCCCCN3CCN(CC3)c3cccc(Cl)c3Cl)cc2N1| bioavailability = 87%|protein_bound = >99%| metabolism = 肝臓 - [[CYP3A4]] and [[CYP2D6]]| elimination_half-life = 75h (未変化体と同様の活性を有する代謝物OPC-14857 : 94h)| excretion = 糞、尿| licence_EU = Abilify| licence_US = Aripiprazole| pregnancy_category = C| legal_status = 処方箋医薬品、劇薬| routes_of_administration = 経口(錠剤、散剤、液剤、口腔内崩壊錠)、筋注<sup>*</sup>(<sup>*</sup>:日本未発売剤形) }}
{{Drugbox|| IUPAC_name= 7-[4-[4-(2,3-dichlorophenyl) piperazin-1-yl] butoxy]- 3,4-dihydro- 1H-quinolin- 2-one| image = Aripiprazole.svg| width = 200| image2 = Aripiprazole-3d-ball-model-V.png| width2 =200| CAS_number = 129722-12-9| ChemSpiderID = 54790| ATC_prefix = N05| ATC_suffix = AX12| PubChem = 60795| DrugBank = APRD00638 | KEGG = D01164 | C=23 | H=27 | Cl=2 | N=3 | O=2| molecular_weight = 448.385| smiles = O=C1CCc2ccc(OCCCCN3CCN(CC3)c3cccc(Cl)c3Cl)cc2N1| bioavailability = 87%|protein_bound = >99%| metabolism = 肝臓 - [[CYP3A4]] and [[CYP2D6]]| elimination_half-life = 75h (未変化体と同様の活性を有する代謝物OPC-14857 : 94h)| excretion = 糞、尿| licence_EU = Abilify| licence_US = Aripiprazole| pregnancy_category = C| legal_status = 処方箋医薬品、劇薬| routes_of_administration = 経口(錠剤、散剤、液剤、口腔内崩壊錠)、筋注<sup>*</sup>(<sup>*</sup>:日本未発売剤形) }}


'''アリピプラゾール'''({{lang-en|Aripiprazole}}、[[略語]]: ARP)は、[[大塚製薬]]が開発した[[非定型抗精神病薬]]の一つである。2002年7月にメキシコで製造承認され、その後60以上の国と地域で承認された。日本では[[2006年]][[1月]]に'''エビリファイ'''という商品名で承認され、同年[[6月]]に薬価基準収載された<ref name=abilify_if>{{cite web |title=医薬品インタビューフォーム(2015年5月改訂 第17版)エビリファイ |url=http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/180078_1179045B1021_1_012_1F.pdf |format=pdf |date=2015-5 |work=www.info.pmda.go.jp |publisher=[[医薬品医療機器総合機構]](PMDA) |accessdate=2016-7-22}}</ref>。
'''アリピプラゾール'''(英:Aripiprazole、商品名:'''エビリファイ<sup>&reg;</sup>''')は、[[大塚製薬]]が発見・開発し、世界60カ国・地域以上で承認されている[[非定型抗精神病薬]]の一つである。略称はARP。[[2006年]][[1月]]に許可。


2012年1月、「[[双極性障害]]における[[躁症状]]の改善」が追加された<ref name=abilify_if />。2013年6月、「[[うつ病]]・[[うつ状態]](既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」が追加された<ref name=abilify_if />。「投薬期間制限医薬品に関する情報」として、エビリファイは「投薬(あるいは投与)期間に関する制限」は定められていない<ref name=abilify_if />。
[[フェニルピペラジン]]誘導体である。一般名の語尾は "-azole" となっているが、[[IUPAC命名法]]の通り[[構造式]]内には「[[窒素]]を1つ以上含む[[環式有機化合物|複素5員環化合物]]」が存在せず(存在しているのは[[複素環式化合物|複素環式]][[アミン]]の[[ピペラジン]]である)、[[アゾール]]ではない。


[[一般名]]の語尾は'''"-azole"'''となっているが、[[IUPAC命名法]]の通り[[構造式]]は「[[窒素]]を1つ以上含む[[環式有機化合物|複素5員環化合物]]」が存在せず、[[アゾール]]ではない。存在するのは[[複素環式化合物|複素環式]][[アミン]]の[[ピペラジン]]であり、[[フェニルピペラジン]]誘導体である<ref name=abilify_if />。
[[2009年]]、アメリカの[[アメリカ食品医薬品局|FDA]]は[[自閉症]]児の癇癪を抑制する作用を承認した<ref>{{citenews|url=http://www.medscape.com/viewarticle/713006|title=FDA Approves Aripiprazole to Treat Irritability in Autistic Children|publisher=Medscape Today|date=2009-11-24|accessdate=2010-4-28}}</ref>。

[[2009年]]、アメリカの[[アメリカ食品医薬品局|FDA]]は[[自閉症]]児の[[癇癪]]を抑制する作用を承認した<ref>{{citenews|url=http://www.medscape.com/viewarticle/713006|title=FDA Approves Aripiprazole to Treat Irritability in Autistic Children|publisher=Medscape Today|date=2009-11-24|accessdate=2010-4-28}}</ref>。


== 剤形及び規格 ==
== 剤形及び規格 ==
* 錠剤(素錠):3mg, 6mg, 12mg(12mgは[[2007年]]に発売)
; 錠剤(素錠
: 3mg, 6mg, 12mg (12mgは[[2007年]]に発売)
* 口腔内崩壊錠:3mg, 6mg, 12mg, 24mg - [[2012年]]5月発売
* 内用液0.1%(分包):3mL, 6mL, 12mL - [[2009年]]4月発売。飲みやすいようにオレンジ味である<ref name="11-03-02-01">{{Cite journal| 和書| coauthors=長友 慶子、松尾 寿栄、三好 良英 他| year=2011| month=2| title=統合失調症患者が示した aripiprazole 内用液の「飲み心地」に関する検討| journal=臨床精神薬理| valume=14| issue=2| pages=283-288 頁}}</ref>
* 散剤:1%
* 持続性水懸筋注用:300mg, 400mg


; 口腔内崩壊錠
== 作用機序 ==
: 3mg, 6mg, 12mg, 24mg - [[2012年]]5月発売
=== ドパミン受容体 ===
脳内の[[ドパミン作動性ニューロン]]が形成する'''中脳辺縁系'''および'''中脳皮質系'''に作用し、[[ドパミン]]刺激を調節する。アリピプラゾールはドパミンの[[パーシャルアゴニスト]]としての作用を有し、最大で内因性ドパミン活性の約25%の作用を示す<ref>{{cite web |url=http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/180078_1179045B1021_1_011_1F |title=エビリファイ錠3mg/エビリファイ錠6mg/エビリファイ錠12mg/エビリファイ散1% インタビューフォーム |date=2014-01 |accessdate=2015-03-27}}</ref>{{rp|37}}。また前シナプスのドパミン自己調節受容体にも結合し、前シナプスにおいてドパミン放出量を調節する作用を有する。このため'''[[ドパミンシステムスタビライザー]]'''(''DSS'')ともいわれる。


; 内用液0.1%(分包)
ドパミンが不足している前頭前皮質ではこれを増量させて感情表出能力や無為・自閉などの陰性症状を改善し、またドパミンが過剰に作用している中脳辺縁系ではこれを減少させて幻覚、妄想などの陽性症状を改善する。
: 3mL, 6mL, 12mL - [[2009年]]4月発売。飲みやすいようにオレンジ味である<ref name="11-03-02-01">{{Cite journal| 和書| coauthors=長友 慶子、松尾 寿栄、三好 良英 他| year=2011| month=2| title=統合失調症患者が示した aripiprazole 内用液の「飲み心地」に関する検討| journal=臨床精神薬理| valume=14| issue=2| pages=283-288 頁}}</ref>


; 散剤
また、適度なドパミン活性があるために側座核に作用することで快楽消失などを伴わず、統合失調症患者の物質濫用を防ぐことができる。
: 1%


; 持続性水懸筋注用
=== セロトニン(5-HT)受容体 ===
: 300mg, 400mg
==== 5-HT<sub>1A</sub>パーシャルアゴニスト ====
同じ抗精神病薬でSDAに分類される[[ペロスピロン]]や抗不安薬である[[タンドスピロン]]と同じ5-HT<sub>1A</sub>受容体のパーシャルアゴニストでもあり<ref name="pm12063084">{{Cite journal| coauthors=Jordan S, Koprivica V, Chen R, et al|year=2002|month=Apr|title=The antipsychotic aripiprazole is a potent, partial agonist at the human 5-HT1A receptor.|journal=Eur J Pharmacol|issue=441|pages=pp. 137-140|id=PMID 12063084|url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12063084}}</ref>


== 用量・用法 ==
{{要出典範囲|タンドスピロンが抗うつ作用や抗不安作用を示すことから、アリピプラゾールも同様の効果を発現するとされる。|date=2016年3月}}
発売当初は以下の用法が推奨された。しかし現在は外来においては1日12mg〜18mgを開始用量として適宜増減する方法が推奨されてきている。


; 統合失調症
5-HT<sub>1A</sub>パーシャルアゴニストは前頭前皮質の血流を改善し、認知機能の向上も期待される<ref name="11-03-02-02">{{Cite journal| 和書| author=住吉 大幹| year=2011| month=2| title=セロトニン1A 受容体と統合失調症患者の認知機能および治療| journal=臨床精神薬理| valume=14| issue=2| pages=349-356 頁}}</ref>。
: [[成年|成人]]は1日6mg〜12mgを開始用量として、1日6mg〜24mgを維持量とする。1回または2回に分けて経口投与し、1日30mgを超えないようにする。なお年齢や症状に応じて適宜減量する。


効果を発揮するまでに約2週間必要なため、2週間以内に増量しないことが望まれる。
{{要出典範囲|また、タンドスピロンによって、EPSや攻撃性、妄想が軽減したとの報告があり、同様にアリピプラゾールもそのような効果は発現するとされる。|date=2016年3月}}


また急性期や不安・不眠・焦燥を伴う統合失調症においては[[GABA系神経]]を活性化させる[[ベンゾジアゼピン]]系薬剤や[[バルプロ酸ナトリウム]]の併用が単剤投与より有効である。
この5-HT<sub>1A</sub>受容体を介した薬理作用から、「ドパミン・セロトニンシステムスタビライザー」と呼ばれることがある<ref name="pm12063084" />。


== 警告 ==
==== 5-HT<sub>2A</sub>アンタゴニスト ====
; 病的賭博(賭博障害)/強迫的な食事/強迫的な買い物/強迫的な性的行動
また、'''5-HT<sub>2A</sub>'''受容体の[[アンタゴニスト]]としても高い親和性を有することから、[[錐体外路症状]](EPS)の発現を抑えることが報告されている。これらのドパミン及びセロトニンを介した機序から、陽性・陰性症状の改善と安定化や、従来の定型及び非定型[[抗精神病薬]]の副作用であった錐体外路症状をアリピプラゾールは発現しにくいという特徴をもつ。
: [[アメリカ食品医薬品局]]{{enlink|Food_and_Drug_Administration|FDA}}は、[[ギャンブル]]・[[過食]]・[[ショッピング]]・[[セックス]]に対する抑えがたい衝動と、他人への危害に警告している<ref name="fda_aripiprazole_warns">[http://www.fda.gov/Drugs/DrugSafety/ucm498662.htm FDA Drug Safety Communication: FDA warns about new impulse-control problems associated with mental health drug aripiprazole (Abilify, Abilify Maintena, Aristada)] (05-03-2016 FDA)</ref>。
: [[強迫性障害]]、[[衝動調節障害]]、[[双極性障害]]、[[衝動的性格]]、[[アルコール依存症]]、[[薬物乱用]]、[[嗜癖行動]]などの衝動が開発される場合、投与量を減らすか、服薬中止を検討すること<ref name="fda_aripiprazole_warns" />。
: 患者は、医療専門家に相談することなく突然の服薬中止をしてはならない<ref name="fda_aripiprazole_warns" />。


== 禁忌・注意 ==
このように、脳内ドパミンシステムにおいては他の抗精神病薬と比較して、有意な特異的作用を有している。{{要出典範囲|だが、2010年現在の日本では[[統合失調症]]急性期の薬物療法のファーストチョイスとして[[リスペリドン]]や[[オランザピン]]が使われることが多い、しかし、アリピプラゾールが統合失調症急性期にファーストチョイスとして使用されることも多くなってきた。|date=2011年3月}}
; 糖尿病への影響
: [[糖尿病]]またはその危険因子のある者は[[糖尿病性ケトアシドーシス]]や糖尿病性[[昏睡]]などが起こる可能性があるため、[[高血糖症|高血糖]]の症状に十分注意する。特に[[喉の渇き]]、[[多尿]]、[[多食]]、[[脱力]]感などがあった場合は直ちに[[医師]]に相談すること。


; バルビツール酸誘導体との相互作用
アリピプラゾールの秀でた点は、代謝系や鎮静系に関する受容体への親和性が極めて低いことである。しかし、これまでの抗精神病薬ではあまり見られなかった投与初期の不眠や激越、[[アカシジア]]などの副作用が目立つようになった<ref name="11-03-02-03">{{Cite book| 和書| coauthors=浦部晶夫、島田和幸、川合眞一(編集) 他| year=2011| title=今日の治療薬 2011| pages=837| isbn=978-4524263622}}</ref>。
: [[バルビツール酸]]誘導体等の強い影響下にある者は投与できない。


; アドレナリン反転作用
また、抑うつ状態に対し、[[抗うつ薬]]があまり有効でない場合、少量のアリピプラゾールを加えることによって抗うつ効果を増強させることができる症例も報告され、実際の医療現場でも応用されている。
: [[アドレナリン]]を服用中の者は[[血圧]]降下作用が増強する可能性があるため注意すること。


; 肝障害への影響
=== グリア細胞 ===
: [[肝障害]]のある者は悪化させる場合があるため慎重に服用すること。
==== ミクログリア ====
アリピプラゾールは[[ミクログリア]]活性化の阻害を介して[[抗炎症作用]]を有することが実証されている<ref name="pmid18429930">{{cite journal |author=Kato T, Mizoguchi Y, Monji A, Horikawa H, Suzuki SO, Seki Y, Iwaki T, Hashioka S, Kanba S. |title=Inhibitory effects of aripiprazole on interferon-gamma-induced microglial activation via intracellular Ca2+ regulation in vitro. |journal=Journal of Neurochemistry. |volume=106 |issue=2 |pages=815-825 |date=2008-7 |url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1471-4159.2008.05435.x/abstract |pmid=18429930 |doi=10.1111/j.1471-4159.2008.05435.x}}</ref>。


; 傾眠や集中力低下
アリピプラゾールを含む[[非定型抗精神病薬]]が[[in vitro]]において、[[インターフェロン|インターフェロンγ]]で刺激したミクログリアからの[[一酸化窒素]]と[[サイトカイン|炎症性サイトカイン]]の放出を大幅に阻害することが実証されている。ミクログリア活性化によって誘導される[[ニューロン]]損傷はまた、共培養実験により調べた<ref name="pmid21497059">{{cite journal |author=Kato TA, Monji A, Yasukawa K, Mizoguchi Y, Horikawa H, Seki Y, Hashioka S, Han YH, Kasai M, Sonoda N, Hirata E, Maeda Y, Inoguchi T, Utsumi H, Kanba S. |title=Aripiprazole inhibits superoxide generation from phorbol-myristate-acetate (PMA)-stimulated microglia in vitro: implication for antioxidative psychotropic actions via microglia. |journal=Schizophrenia Research. |volume=129 |issue=2-3 |pages=172-182 |date=2011-7 |url=http://www.schres-journal.com/article/S0920-9964(11)00167-8/abstract |pmid=21497059 |doi=10.1016/j.schres.2011.03.019}}</ref>。
: 眠気、集中力の低下などが起こる場合があるが(添付文書によると傾眠の副作用は1〜5%未満)、その他の統合失調治療薬と比較すると軽度である(むしろ、アリピプラゾールは前頭葉におけるドーパミン系の活性化により、認知機能を改善する効果が知られている)。


== 副作用 ==
==== オリゴデンドロサイト ====
; 安全性
アリピプラゾールはミクログリア活性化によって引き起こされる[[オリゴデンドロサイト]]の損傷低減による抗精神病作用が示唆されている<ref name="pmid24100191">{{cite journal |author=Seki Y, Kato TA, Monji A, Mizoguchi Y, Horikawa H, Sato-Kasai M, Yoshiga D, Kanba S. |title=Pretreatment of aripiprazole and minocycline, but not haloperidol, suppresses oligodendrocyte damage from interferon-γ-stimulated microglia in co-culture model. |journal=Schizophrenia Research. |volume=151 |issue=1-3 |pages=20-28 |date=2013-12 |url=http://www.schres-journal.com/article/S0920-9964(13)00510-0/abstract |pmid=24100191 |doi=10.1016/j.schres.2013.09.011}}</ref>。
: 神経遮断作用がない、ドーパミンD<sub>2</sub>受容体の部分的作動薬であるため、従来の抗精神薬に比べ副作用が少なく安全性は非常に高い<ref>高橋一志. 向精神薬の今(1)抗精神病薬. 日本医事新報. 2014; 4709:14-21.</ref>。


; 不眠や不安
== 禁忌・注意 ==
: [[不眠]]、[[神経過敏]]、[[アカシジア]](じっとしていることができない)、[[振戦]](手足の震え)、[[不安]]、[[体重減少]]、[[筋強剛]]、[[食欲不振]]などが報告されている(これらの副作用は添付文書によると5%以上)。
* [[糖尿病]]またはその危険因子のある者は[[糖尿病性ケトアシドーシス]]や糖尿病性[[昏睡]]などが起こる可能性があるため、[[高血糖症|高血糖]]の症状に十分注意する。特に喉の渇き、多尿、多食、脱力感などがあった場合は直ちに[[医師]]に相談すること。
* バルビツール酸誘導体等の強い影響下にある者は投与できない。
* [[アドレナリン]]を服用中の者は[[血圧]]降下作用が増強する可能性があるため、注意すること。
* 肝障害のある者は悪化させる場合があるため、慎重に服用すること。
* 眠気、集中力の低下などが起こる場合があるが(添付文書によると傾眠の副作用は1〜5%未満)、その他の統合失調治療薬と比較すると軽度である(むしろ、アリピプラゾールは前頭葉におけるドーパミン系の活性化により、認知機能を改善する効果が知られている)。


; うつ状態や躁状態の誘発
== 副作用 ==
: 患者の1〜5%未満ではあるが、[[うつ状態]]の誘発、1%未満は[[躁状態]]を誘発する可能性がある。
神経遮断作用がない、ドパミンD2受容体の部分的作動薬であるため、従来の抗精神薬に比べ副作用が少なく安全性は非常に高い。<ref>高橋一志. 向精神薬の今(1)抗精神病薬. 日本医事新報. 2014; 4709:14-21.</ref>
不眠、神経過敏、アカシジア(じっとしていることができない)、振戦(手足の震え)、不安、体重減少、筋強剛、食欲不振などが報告されている
(これらの副作用は添付文書によると5%以上)。また、患者の1〜5%未満ではあるが、[[うつ状態]]の誘発、1%未満は[[躁状態]]を誘発する可能性がある。


; アルコール相互作用
また、本剤は[[肝臓]]で代謝されるため、アルコールの摂取は悪影響を与えることがある。そのため、飲酒は控える方が望ましい。
: 本剤は[[肝臓]]で代謝されるため、[[アルコール]]類の摂取は悪影響を与えることがある。そのため、飲酒は控える方が望ましい。


; 目眩や吐き気
[[アカシジア]]はそれほど多くないが、[[目眩]]と特に[[吐き気]]が頻発する。[[高プロラクチン血症]]はほとんど起こらない。[[洞性頻脈]]の若干のリスクがある。長期継続性に課題がある<ref name="pmid18254107">{{cite journal |author=Bhattacharjee J, El-Sayeh HG. |title=Aripiprazole versus typicals for schizophrenia. |journal=The Cochrane Library. |volume=1 |pages=CD006617 |date=2008-7-16 |url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD006617.pub3/abstract |pmid=18254107 |doi=10.1002/14651858.CD006617.pub3}}</ref>。
: [[アカシジア]]はそれほど多くないが、[[目眩]]と特に[[吐き気]]が頻発する。[[高プロラクチン血症]]はほとんど起こらない。[[洞性頻脈]]の若干のリスクがある。長期継続性に課題がある<ref name="pmid18254107">{{cite journal |author=Bhattacharjee J, El-Sayeh HG. |title=Aripiprazole versus typicals for schizophrenia. |journal=The Cochrane Library. |volume=1 |pages=CD006617 |date=2008-7-16 |url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD006617.pub3/abstract |pmid=18254107 |doi=10.1002/14651858.CD006617.pub3}}</ref>。


; 暴力
[[自閉症|自閉症児]]はアリピプラゾールにより、[[興奮]]抑制と[[多動]]・[[常動]](繰り返し目的のない行動)を示した。副作用は[[体重増加]]・[[眠気]]・[[涎]]・[[震え]]などがあった。長期的転機が明確ではない<ref name="pmid22592735">{{cite journal |author=Ching H, Pringsheim T |title=Aripiprazole for autism spectrum disorders (ASD). |journal=The Cochrane Library. |issue=5 |pages=CD009043. |date=2012-5-16 |url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD009043.pub2/abstract |pmid=22592735 |doi=10.1002/14651858.CD009043.pub2}}</ref>。
: アリピプラゾールは抗精神病薬の中で最も[[暴力]]の報告が多かった(p<0.001)<ref name="pmid21179515">{{cite journal |author=Moore TJ, Glenmullen J, Furberg CD. |title=Prescription drugs associated with reports of violence towards others. |journal=PLoS One. |volume=5 |issue=12 |pages=e15337 |date=2010-12-15 |url=http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0015337 |pmc=3002271 |pmid=21179515 |doi=10.1371/journal.pone.0015337}}</ref>。


; 多動や常同行動
[[アリピプラゾール]]は[[抗精神病薬]]の中で最も[[暴力]]の報告が多かった(p<0.001)<ref name="pmid21179515">{{cite journal |author=Moore TJ, Glenmullen J, Furberg CD. |title=Prescription drugs associated with reports of violence towards others. |journal=PLoS One. |volume=5 |issue=12 |pages=e15337 |date=2010-12-15 |url=http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0015337 |pmc=3002271 |pmid=21179515 |doi=10.1371/journal.pone.0015337}}</ref>。
: [[自閉症|自閉症児]]はアリピプラゾールにより、[[興奮]]抑制と[[多動]]、[[常動行動]](繰り返し目的のない行動)を示した。副作用は[[体重増加]]・[[眠気]]・[[涎]]・[[震え]]などがあった。長期的転機が明確ではない<ref name="pmid22592735">{{cite journal |author=Ching H, Pringsheim T |title=Aripiprazole for autism spectrum disorders (ASD). |journal=The Cochrane Library. |issue=5 |pages=CD009043. |date=2012-5-16 |url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD009043.pub2/abstract |pmid=22592735 |doi=10.1002/14651858.CD009043.pub2}}</ref>。


; 異常性欲
アリピプラゾールの治療を受けて6ヶ月、[[異常性欲]]を発症した男性患者の症例報告。臨床症状は、[[性欲]]の増加、異常に頻繁な[[マスターベーション]]、[[性的本能]]であった。全ての症状はアリピプラゾールの中止時に解決し、服薬再開後に再発した<ref name="pmid25293487">{{cite journal |author=Vrignaud L, Aouille J, Mallaret M, Durrieu G, Jonville-Béra AP. |title=Hypersexuality associated with aripiprazole: a new case and review of the literature. |journal=Therapie. |volume=69 |issue=6 |pages=525-527 |date=2014-11-1 |url=http://www.journal-therapie.org/articles/therapie/abs/2014/06/th142267/th142267.html |pmid=25293487 |doi=10.2515/therapie/2014064}}</ref>。
: アリピプラゾールの治療を受けて6ヶ月、[[異常性欲]]を発症した男性患者の症例報告。臨床症状は、[[性欲]]の増加、異常に頻繁な[[マスターベーション]]、[[性的本能]]であった。全ての症状は服薬中止時に解決し、再服薬で再発した<ref name="pmid25293487">{{cite journal |author=Vrignaud L, Aouille J, Mallaret M, Durrieu G, Jonville-Béra AP. |title=Hypersexuality associated with aripiprazole: a new case and review of the literature. |journal=Therapie. |volume=69 |issue=6 |pages=525-527 |date=2014-11-1 |url=http://www.journal-therapie.org/articles/therapie/abs/2014/06/th142267/th142267.html |pmid=25293487 |doi=10.2515/therapie/2014064}}</ref>。


; 低プロラクチン血症
== 用量・用法 ==
: 投与された患者の44%が[[低プロラクチン血症]]と診断された報告がある。投与量とプロラクチン濃度に有意な相関はなかったとのこと<ref name="pmid27281387">{{cite journal |author=Sogawa R, Shimomura Y, Minami C, Maruo J, Kunitake Y, Mizoguchi Y, Kawashima T, Monji A, Hara H |title=Aripiprazole-Associated Hypoprolactinemia in the Clinical Setting. |journal=[[:en:Journal of Clinical Psychopharmacology]] |volume=36 |issue=4 |pages=385-7 |date=2016-8 |url=http://journals.lww.com/psychopharmacology/Abstract/2016/08000/Aripiprazole_Associated_Hypoprolactinemia_in_the.15.aspx |doi=10.1097/JCP.0000000000000527 |pmid=27281387}}</ref>。
発売当初は以下の用法が推奨された。しかし現在は外来においては1日12mg〜18mgを開始用量として適宜増減する方法が推奨されてきている。
: 統合失調症の場合、[[成年|成人]]に1日6mg〜12mgを開始用量として、1日6mg〜24mg を維持量とする。1回または2回に分けて経口投与し、1日30mgを超えないようにする。なお年齢や症状に応じて適宜減量する。
: 効果を発揮するまでに約2週間必要なため、2週間以内に増量しないことが望まれる。


== 作用機序 ==
また急性期や不安・不眠・焦燥を伴う統合失調症においては[[GABA系神経]]を活性化させる[[ベンゾジアゼピン]]系薬剤や[[バルプロ酸ナトリウム]]の併用が単剤投与より有効である。
=== ドーパミン受容体 ===
脳内の[[ドーパミン作動性ニューロン]]が形成する中脳辺縁系および中脳皮質系に作用し、[[ドーパミン]]刺激を調節する。アリピプラゾールはドーパミンの'''[[パーシャルアゴニスト]]'''('''部分作動薬''')としての作用を有し、最大で内因性ドーパミン活性の約25%の作用を示す<ref>{{cite web |url=http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/180078_1179045B1021_1_011_1F |title=エビリファイ錠3mg/エビリファイ錠6mg/エビリファイ錠12mg/エビリファイ散1% インタビューフォーム |date=2014-01 |accessdate=2015-03-27}}</ref>{{rp|37}}。また、前シナプスのドーパミン自己調節受容体にも結合し、前シナプスにおいてドーパミン放出量を調節する作用を有する。このため'''[[ドーパミンシステムスタビライザー]]'''('''DSS''')ともいわれる。

{{要出典範囲|ドーパミンが不足している前頭前皮質ではこれを増量させて感情表出能力や無為・自閉などの陰性症状を改善し、またドーパミンが過剰に作用している中脳辺縁系ではこれを減少させて幻覚、妄想などの陽性症状を改善する。|date=2016年7月}}

{{要出典範囲|また、適度なドーパミン活性があるために側座核に作用することで快楽消失などを伴わず、統合失調症患者の物質濫用を防ぐことができる。|date=2016年7月}}

=== セロトニン受容体 ===
==== 5-HT<sub>1A</sub>パーシャルアゴニスト ====
同じ抗精神病薬で'''SDA'''に分類される[[ペロスピロン]]や抗不安薬である[[タンドスピロン]]と同じ[[セロトニン受容体|5-HT<sub>1A</sub>]]受容体のパーシャルアゴニストでもあり<ref name="pm12063084">{{Cite journal| coauthors=Jordan S, Koprivica V, Chen R, et al|year=2002|month=Apr|title=The antipsychotic aripiprazole is a potent, partial agonist at the human 5-HT1A receptor.|journal=Eur J Pharmacol|issue=441|pages=pp. 137-140|id=PMID 12063084|url=http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12063084}}</ref>

{{要出典範囲|タンドスピロンが抗うつ作用や抗不安作用を示すことから、アリピプラゾールも同様の効果を発現するとされる。|date=2016年3月}}

5-HT<sub>1A</sub>パーシャルアゴニストは前頭前皮質の血流を改善し、認知機能の向上も期待される<ref name="11-03-02-02">{{Cite journal| 和書| author=住吉 大幹| year=2011| month=2| title=セロトニン1A 受容体と統合失調症患者の認知機能および治療| journal=臨床精神薬理| valume=14| issue=2| pages=349-356 頁}}</ref>。

{{要出典範囲|また、タンドスピロンによって、[[錐体外路症状]](EPS)や[[攻撃性]]、[[妄想]]が軽減したとの報告があり、同様にアリピプラゾールもそのような効果は発現するとされる。|date=2016年3月}}

この5-HT<sub>1A</sub>受容体を介した薬理作用から、「'''[[ドーパミンセロトニンシステムスタビライザー]]'''('''DSS''')」と呼ばれることがある<ref name="pm12063084" />。

==== 5-HT<sub>2A</sub>アンタゴニスト ====
[[セロトニン|5-HT<sub>2A</sub>]]受容体の[[アンタゴニスト]]としても高い親和性を有することから、錐体外路症状(EPS)の発現を抑えることが報告されている。これらのドーパミン及びセロトニンを介した機序から、陽性・陰性症状の改善と安定化や、従来の定型及び非定型抗精神病薬の副作用であった錐体外路症状をアリピプラゾールは発現しにくいという特徴をもつ。

このように、脳内ドーパミンシステムにおいては他の抗精神病薬と比較して、有意な特異的作用を有している。{{要出典範囲|だが、2010年現在の日本では[[統合失調症]]急性期の薬物療法のファーストチョイスとして[[リスペリドン]]や[[オランザピン]]が使われることが多い、しかし、アリピプラゾールが統合失調症急性期にファーストチョイスとして使用されることも多くなってきた。|date=2011年3月}}

アリピプラゾールの秀でた点は、代謝系や鎮静系に関する受容体への親和性が極めて低いことである。しかし、これまでの抗精神病薬ではあまり見られなかった投与初期の[[不眠]]や[[激越]]、[[不穏]]などの副作用が目立つようになった<ref name="11-03-02-03">{{Cite book| 和書| coauthors=浦部晶夫、島田和幸、川合眞一(編集) 他| year=2011| title=今日の治療薬 2011| pages=837| isbn=978-4524263622}}</ref>。

また、[[抑うつ]]状態に対し、[[抗うつ薬]]があまり有効でない場合、少量のアリピプラゾールを加えることによって抗うつ効果を増強させることができる症例も報告され、実際の医療現場でも応用されている。

=== グリア細胞 ===
==== ミクログリア ====
アリピプラゾールは[[ミクログリア]]の活性化を阻害し、[[抗炎症作用]]を有することが実証された<ref name="pmid18429930">{{cite journal |author=Kato T, Mizoguchi Y, Monji A, Horikawa H, Suzuki SO, Seki Y, Iwaki T, Hashioka S, Kanba S. |title=Inhibitory effects of aripiprazole on interferon-gamma-induced microglial activation via intracellular Ca2+ regulation in vitro. |journal=Journal of Neurochemistry. |volume=106 |issue=2 |pages=815-825 |date=2008-7 |url=https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1471-4159.2008.05435.x/abstract |pmid=18429930 |doi=10.1111/j.1471-4159.2008.05435.x}}</ref>。

アリピプラゾールを含む非定型抗精神病薬が[[in vitro]]において、[[インターフェロン|インターフェロンγ]]で刺激したミクログリアからの[[一酸化窒素]]と[[サイトカイン|炎症性サイトカイン]]の放出を大幅に阻害することが実証された。ミクログリアの活性化によって誘導される[[ニューロン]]損傷は、共培養実験により調べた<ref name="pmid21497059">{{cite journal |author=Kato TA, Monji A, Yasukawa K, Mizoguchi Y, Horikawa H, Seki Y, Hashioka S, Han YH, Kasai M, Sonoda N, Hirata E, Maeda Y, Inoguchi T, Utsumi H, Kanba S. |title=Aripiprazole inhibits superoxide generation from phorbol-myristate-acetate (PMA)-stimulated microglia in vitro: implication for antioxidative psychotropic actions via microglia. |journal=Schizophrenia Research. |volume=129 |issue=2-3 |pages=172-182 |date=2011-7 |url=http://www.schres-journal.com/article/S0920-9964(11)00167-8/abstract |pmid=21497059 |doi=10.1016/j.schres.2011.03.019}}</ref>。

==== オリゴデンドロサイト ====
アリピプラゾールはミクログリアの活性化によって引き起こされる[[オリゴデンドロサイト]]の損傷低減による抗精神病作用が示唆されている<ref name="pmid24100191">{{cite journal |author=Seki Y, Kato TA, Monji A, Mizoguchi Y, Horikawa H, Sato-Kasai M, Yoshiga D, Kanba S. |title=Pretreatment of aripiprazole and minocycline, but not haloperidol, suppresses oligodendrocyte damage from interferon-γ-stimulated microglia in co-culture model. |journal=Schizophrenia Research. |volume=151 |issue=1-3 |pages=20-28 |date=2013-12 |url=http://www.schres-journal.com/article/S0920-9964(13)00510-0/abstract |pmid=24100191 |doi=10.1016/j.schres.2013.09.011}}</ref>。


== 受賞 ==
== 受賞 ==
*[[2006年]]、[[大塚製薬]]のフランス現地子会社と[[ブリストル・マイヤーズ スクイブ]]社フランスは、アリピプラゾールの開発の功績が認められて、フランス・[[ガリアン賞]]を受賞している<ref>[http://www.otsuka.co.jp/company/release/2006/0616_01.html 抗精神病薬 「エビリファイ」仏プリ・ガリアン(Prix Galien)賞を受賞(大塚製薬ホームページ)2011年7月14日閲覧]</ref>。
*[[2006年]]、大塚製薬のフランス現地子会社と[[ブリストル・マイヤーズ スクイブ]]社フランスは、アリピプラゾールの開発の功績が認められて、フランス・[[ガリアン賞]]を受賞している<ref>[http://www.otsuka.co.jp/company/release/2006/0616_01.html 抗精神病薬 「エビリファイ」仏プリ・ガリアン(Prix Galien)賞を受賞(大塚製薬ホームページ)2011年7月14日閲覧]</ref>。


== 脚注 ==
== 脚注 ==
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== 外部リンク ==
== 外部リンク ==
* {{Mpedia|英語版記事名=Aripiprazole|英語版タイトル=Aripiprazole}}
* [https://www.otsuka-elibrary.jp/di/prod/product/file/abc/ab_bnotk.pdf エビリファイ添付文書 - 大塚製薬(PDF)](2010年4月17日閲覧)
* [https://www.otsuka-elibrary.jp/di/prod/product/file/abc/ab_bnotk.pdf エビリファイ添付文書 - 大塚製薬(PDF)](2010年4月17日閲覧)
* [http://www.info.pmda.go.jp/go/pack/1179045B1021_1_21/ エビリファイ錠-アリピプラゾル](独立行政法人[[医薬品医療機器総合機構]]
* [http://www.info.pmda.go.jp/go/interview/1/180078_1179045B1021_1_012_1F.pdf エビリファイ医薬品インタビュフォーム(2015年5月改訂 第17版 PDF) - 医薬品医療機器総合機構(PMDA)] (2016年7月22日閲覧
* {{Mpedia|英語版記事名=Aripiprazole|英語版タイトル=Aripiprazole}}


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2016年7月22日 (金) 03:12時点における版

アリピプラゾール
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
ライセンス EMA:リンクUS FDA:リンク
胎児危険度分類
  • C
法的規制
  • 処方箋医薬品、劇薬
投与経路 経口(錠剤、散剤、液剤、口腔内崩壊錠)、筋注**:日本未発売剤形)
薬物動態データ
生物学的利用能87%
血漿タンパク結合>99%
代謝肝臓 - CYP3A4 and CYP2D6
半減期75h (未変化体と同様の活性を有する代謝物OPC-14857 : 94h)
排泄糞、尿
識別
CAS番号
129722-12-9
ATCコード N05AX12 (WHO)
PubChem CID: 60795
DrugBank APRD00638
ChemSpider 54790
KEGG D01164
化学的データ
化学式C23H27Cl2N3O2
分子量448.385
テンプレートを表示

アリピプラゾール英語: Aripiprazole略語: ARP)は、大塚製薬が開発した非定型抗精神病薬の一つである。2002年7月にメキシコで製造承認され、その後60以上の国と地域で承認された。日本では2006年1月エビリファイという商品名で承認され、同年6月に薬価基準収載された[1]

2012年1月、「双極性障害における躁症状の改善」が追加された[1]。2013年6月、「うつ病うつ状態(既存治療で十分な効果が認められない場合に限る)」が追加された[1]。「投薬期間制限医薬品に関する情報」として、エビリファイは「投薬(あるいは投与)期間に関する制限」は定められていない[1]

一般名の語尾は"-azole"となっているが、IUPAC命名法の通り構造式は「窒素を1つ以上含む複素5員環化合物」が存在せず、アゾールではない。存在するのは複素環式アミンピペラジンであり、フェニルピペラジン誘導体である[1]

2009年、アメリカのFDA自閉症児の癇癪を抑制する作用を承認した[2]

剤形及び規格

錠剤(素錠)
3mg, 6mg, 12mg (12mgは2007年に発売)
口腔内崩壊錠
3mg, 6mg, 12mg, 24mg - 2012年5月発売
内用液0.1%(分包)
3mL, 6mL, 12mL - 2009年4月発売。飲みやすいようにオレンジ味である[3]
散剤
1%
持続性水懸筋注用
300mg, 400mg

用量・用法

発売当初は以下の用法が推奨された。しかし現在は外来においては1日12mg〜18mgを開始用量として適宜増減する方法が推奨されてきている。

統合失調症
成人は1日6mg〜12mgを開始用量として、1日6mg〜24mgを維持量とする。1回または2回に分けて経口投与し、1日30mgを超えないようにする。なお年齢や症状に応じて適宜減量する。

効果を発揮するまでに約2週間必要なため、2週間以内に増量しないことが望まれる。

また急性期や不安・不眠・焦燥を伴う統合失調症においてはGABA系神経を活性化させるベンゾジアゼピン系薬剤やバルプロ酸ナトリウムの併用が単剤投与より有効である。

警告

病的賭博(賭博障害)/強迫的な食事/強迫的な買い物/強迫的な性的行動
アメリカ食品医薬品局 (FDAは、ギャンブル過食ショッピングセックスに対する抑えがたい衝動と、他人への危害に警告している[4]
強迫性障害衝動調節障害双極性障害衝動的性格アルコール依存症薬物乱用嗜癖行動などの衝動が開発される場合、投与量を減らすか、服薬中止を検討すること[4]
患者は、医療専門家に相談することなく突然の服薬中止をしてはならない[4]

禁忌・注意

糖尿病への影響
糖尿病またはその危険因子のある者は糖尿病性ケトアシドーシスや糖尿病性昏睡などが起こる可能性があるため、高血糖の症状に十分注意する。特に喉の渇き多尿多食脱力感などがあった場合は直ちに医師に相談すること。
バルビツール酸誘導体との相互作用
バルビツール酸誘導体等の強い影響下にある者は投与できない。
アドレナリン反転作用
アドレナリンを服用中の者は血圧降下作用が増強する可能性があるため注意すること。
肝障害への影響
肝障害のある者は悪化させる場合があるため慎重に服用すること。
傾眠や集中力低下
眠気、集中力の低下などが起こる場合があるが(添付文書によると傾眠の副作用は1〜5%未満)、その他の統合失調治療薬と比較すると軽度である(むしろ、アリピプラゾールは前頭葉におけるドーパミン系の活性化により、認知機能を改善する効果が知られている)。

副作用

安全性
神経遮断作用がない、ドーパミンD2受容体の部分的作動薬であるため、従来の抗精神薬に比べ副作用が少なく安全性は非常に高い[5]
不眠や不安
不眠神経過敏アカシジア(じっとしていることができない)、振戦(手足の震え)、不安体重減少筋強剛食欲不振などが報告されている(これらの副作用は添付文書によると5%以上)。
うつ状態や躁状態の誘発
患者の1〜5%未満ではあるが、うつ状態の誘発、1%未満は躁状態を誘発する可能性がある。
アルコール相互作用
本剤は肝臓で代謝されるため、アルコール類の摂取は悪影響を与えることがある。そのため、飲酒は控える方が望ましい。
目眩や吐き気
アカシジアはそれほど多くないが、目眩と特に吐き気が頻発する。高プロラクチン血症はほとんど起こらない。洞性頻脈の若干のリスクがある。長期継続性に課題がある[6]
暴力
アリピプラゾールは抗精神病薬の中で最も暴力の報告が多かった(p<0.001)[7]
多動や常同行動
自閉症児はアリピプラゾールにより、興奮抑制と多動常動行動(繰り返し目的のない行動)を示した。副作用は体重増加眠気震えなどがあった。長期的転機が明確ではない[8]
異常性欲
アリピプラゾールの治療を受けて6ヶ月、異常性欲を発症した男性患者の症例報告。臨床症状は、性欲の増加、異常に頻繁なマスターベーション性的本能であった。全ての症状は服薬中止時に解決し、再服薬で再発した[9]
低プロラクチン血症
投与された患者の44%が低プロラクチン血症と診断された報告がある。投与量とプロラクチン濃度に有意な相関はなかったとのこと[10]

作用機序

ドーパミン受容体

脳内のドーパミン作動性ニューロンが形成する中脳辺縁系および中脳皮質系に作用し、ドーパミン刺激を調節する。アリピプラゾールはドーパミンのパーシャルアゴニスト部分作動薬)としての作用を有し、最大で内因性ドーパミン活性の約25%の作用を示す[11]:37。また、前シナプスのドーパミン自己調節受容体にも結合し、前シナプスにおいてドーパミン放出量を調節する作用を有する。このためドーパミンシステムスタビライザー(DSS)ともいわれる。

ドーパミンが不足している前頭前皮質ではこれを増量させて感情表出能力や無為・自閉などの陰性症状を改善し、またドーパミンが過剰に作用している中脳辺縁系ではこれを減少させて幻覚、妄想などの陽性症状を改善する。[要出典]

また、適度なドーパミン活性があるために側座核に作用することで快楽消失などを伴わず、統合失調症患者の物質濫用を防ぐことができる。[要出典]

セロトニン受容体

5-HT1Aパーシャルアゴニスト

同じ抗精神病薬でSDAに分類されるペロスピロンや抗不安薬であるタンドスピロンと同じ5-HT1A受容体のパーシャルアゴニストでもあり[12]

タンドスピロンが抗うつ作用や抗不安作用を示すことから、アリピプラゾールも同様の効果を発現するとされる。[要出典]

5-HT1Aパーシャルアゴニストは前頭前皮質の血流を改善し、認知機能の向上も期待される[13]

また、タンドスピロンによって、錐体外路症状(EPS)や攻撃性妄想が軽減したとの報告があり、同様にアリピプラゾールもそのような効果は発現するとされる。[要出典]

この5-HT1A受容体を介した薬理作用から、「ドーパミンセロトニンシステムスタビライザーDSS)」と呼ばれることがある[12]

5-HT2Aアンタゴニスト

5-HT2A受容体のアンタゴニストとしても高い親和性を有することから、錐体外路症状(EPS)の発現を抑えることが報告されている。これらのドーパミン及びセロトニンを介した機序から、陽性・陰性症状の改善と安定化や、従来の定型及び非定型抗精神病薬の副作用であった錐体外路症状をアリピプラゾールは発現しにくいという特徴をもつ。

このように、脳内ドーパミンシステムにおいては他の抗精神病薬と比較して、有意な特異的作用を有している。だが、2010年現在の日本では統合失調症急性期の薬物療法のファーストチョイスとしてリスペリドンオランザピンが使われることが多い、しかし、アリピプラゾールが統合失調症急性期にファーストチョイスとして使用されることも多くなってきた。[要出典]

アリピプラゾールの秀でた点は、代謝系や鎮静系に関する受容体への親和性が極めて低いことである。しかし、これまでの抗精神病薬ではあまり見られなかった投与初期の不眠激越不穏などの副作用が目立つようになった[14]

また、抑うつ状態に対し、抗うつ薬があまり有効でない場合、少量のアリピプラゾールを加えることによって抗うつ効果を増強させることができる症例も報告され、実際の医療現場でも応用されている。

グリア細胞

ミクログリア

アリピプラゾールはミクログリアの活性化を阻害し、抗炎症作用を有することが実証された[15]

アリピプラゾールを含む非定型抗精神病薬がin vitroにおいて、インターフェロンγで刺激したミクログリアからの一酸化窒素炎症性サイトカインの放出を大幅に阻害することが実証された。ミクログリアの活性化によって誘導されるニューロン損傷は、共培養実験により調べた[16]

オリゴデンドロサイト

アリピプラゾールはミクログリアの活性化によって引き起こされるオリゴデンドロサイトの損傷低減による抗精神病作用が示唆されている[17]

受賞

脚注

  1. ^ a b c d e 医薬品インタビューフォーム(2015年5月改訂 第17版)エビリファイ” (pdf). www.info.pmda.go.jp. 医薬品医療機器総合機構(PMDA) (2015年5月). 2016年7月22日閲覧。
  2. ^ “FDA Approves Aripiprazole to Treat Irritability in Autistic Children”. Medscape Today. (2009年11月24日). http://www.medscape.com/viewarticle/713006 2010年4月28日閲覧。 
  3. ^ 「統合失調症患者が示した aripiprazole 内用液の「飲み心地」に関する検討」『臨床精神薬理』第2号、2011年2月、283-288 頁。 
  4. ^ a b c FDA Drug Safety Communication: FDA warns about new impulse-control problems associated with mental health drug aripiprazole (Abilify, Abilify Maintena, Aristada) (05-03-2016 FDA)
  5. ^ 高橋一志. 向精神薬の今(1)抗精神病薬. 日本医事新報. 2014; 4709:14-21.
  6. ^ Bhattacharjee J, El-Sayeh HG. (2008-7-16). “Aripiprazole versus typicals for schizophrenia.”. The Cochrane Library. 1: CD006617. doi:10.1002/14651858.CD006617.pub3. PMID 18254107. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD006617.pub3/abstract. 
  7. ^ Moore TJ, Glenmullen J, Furberg CD. (2010-12-15). “Prescription drugs associated with reports of violence towards others.”. PLoS One. 5 (12): e15337. doi:10.1371/journal.pone.0015337. PMC 3002271. PMID 21179515. http://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0015337. 
  8. ^ Ching H, Pringsheim T (2012-5-16). “Aripiprazole for autism spectrum disorders (ASD).”. The Cochrane Library. (5): CD009043.. doi:10.1002/14651858.CD009043.pub2. PMID 22592735. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1002/14651858.CD009043.pub2/abstract. 
  9. ^ Vrignaud L, Aouille J, Mallaret M, Durrieu G, Jonville-Béra AP. (2014-11-1). “Hypersexuality associated with aripiprazole: a new case and review of the literature.”. Therapie. 69 (6): 525-527. doi:10.2515/therapie/2014064. PMID 25293487. http://www.journal-therapie.org/articles/therapie/abs/2014/06/th142267/th142267.html. 
  10. ^ Sogawa R, Shimomura Y, Minami C, Maruo J, Kunitake Y, Mizoguchi Y, Kawashima T, Monji A, Hara H (2016-8). “Aripiprazole-Associated Hypoprolactinemia in the Clinical Setting.”. en:Journal of Clinical Psychopharmacology 36 (4): 385-7. doi:10.1097/JCP.0000000000000527. PMID 27281387. http://journals.lww.com/psychopharmacology/Abstract/2016/08000/Aripiprazole_Associated_Hypoprolactinemia_in_the.15.aspx. 
  11. ^ エビリファイ錠3mg/エビリファイ錠6mg/エビリファイ錠12mg/エビリファイ散1% インタビューフォーム” (2014年1月). 2015年3月27日閲覧。
  12. ^ a b “The antipsychotic aripiprazole is a potent, partial agonist at the human 5-HT1A receptor.”. Eur J Pharmacol (441): pp. 137-140. (Apr 2002). PMID 12063084. http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/12063084. 
  13. ^ 住吉 大幹「セロトニン1A 受容体と統合失調症患者の認知機能および治療」『臨床精神薬理』第2号、2011年2月、349-356 頁。 
  14. ^ 『今日の治療薬 2011』2011年、837頁。ISBN 978-4524263622 
  15. ^ Kato T, Mizoguchi Y, Monji A, Horikawa H, Suzuki SO, Seki Y, Iwaki T, Hashioka S, Kanba S. (2008-7). “Inhibitory effects of aripiprazole on interferon-gamma-induced microglial activation via intracellular Ca2+ regulation in vitro.”. Journal of Neurochemistry. 106 (2): 815-825. doi:10.1111/j.1471-4159.2008.05435.x. PMID 18429930. https://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1471-4159.2008.05435.x/abstract. 
  16. ^ Kato TA, Monji A, Yasukawa K, Mizoguchi Y, Horikawa H, Seki Y, Hashioka S, Han YH, Kasai M, Sonoda N, Hirata E, Maeda Y, Inoguchi T, Utsumi H, Kanba S. (2011-7). “Aripiprazole inhibits superoxide generation from phorbol-myristate-acetate (PMA)-stimulated microglia in vitro: implication for antioxidative psychotropic actions via microglia.”. Schizophrenia Research. 129 (2-3): 172-182. doi:10.1016/j.schres.2011.03.019. PMID 21497059. http://www.schres-journal.com/article/S0920-9964(11)00167-8/abstract. 
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  18. ^ 抗精神病薬 「エビリファイ」仏プリ・ガリアン(Prix Galien)賞を受賞(大塚製薬ホームページ)2011年7月14日閲覧

外部リンク