令和元年8月九州北部豪雨

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令和元年8月九州北部豪雨
発災日時 2019年8月27日 -
被災地域 日本の旗 佐賀県福岡県長崎県
災害の気象要因 秋雨前線の停滞による集中豪雨線状降水帯の発生[1]
気象記録
最多雨量 平戸市平戸で24時間あたり434.0[2]ミリ
最多時間雨量 佐賀市佐賀で1時間あたり110.0[2]ミリ
人的被害
死者
本文参照
行方不明者
本文参照
負傷者
本文参照
建物等被害
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令和元年8月九州北部豪雨(れいわがんねん8がつきゅうしゅうほくぶごうう)では、2019年令和元年)8月27日から佐賀県福岡県長崎県を中心とする九州北部で発生した集中豪雨による災害を記述する。

長崎県から佐賀県、福岡県にかけての広い範囲で、秋雨前線の影響で線状降水帯が発生し、8月28日を中心として各地で観測史上1位の値を更新する記録的な大雨となった[2]気象庁は8月28日未明に、3県に大雨の特別警報を発表した[3][4][5][6]

気象庁による命名は行われておらず、行政機関や大企業の多くでは「令和元年8月の前線に伴う大雨」と題号している[7][8][9][10]

気象状況[編集]

27日から29日にかけて対馬海峡に秋雨前線が停滞し、集中豪雨をもたらす線状降水帯が生じた[2][11]。28日5時50分、気象庁は佐賀県と福岡県、長崎県に大雨特別警報を発表した[3][4][5][6]。対象地域は佐賀県は全域、福岡県は筑後地方(北部、南部)、長崎県は北部(平戸・松浦、佐世保・東彼)[3][12]。この特別警報は、28日午後に解除された[6]。29日には 長崎地方気象台が長崎県壱岐市で「50年に一度の大雨となっている」と発表した[13]

福岡管区気象台などによると、台風11号から変わった中国大陸の低気圧、フィリピンで発生中の台風12号、日本はるか南の太平洋高気圧の3つの気象要因が重なり、九州北部の秋雨前線に大量の湿気を含んだ暖気が流入した事によると言う[14]

雨量の記録[編集]

1時間雨量
佐賀県佐賀市佐賀:110.0mm(28日4時43分まで。観測史上1位を更新)[2]
佐賀県白石町白石:109.5mm(28日4時41分まで。観測史上1位を更新)[2]
24時間雨量
長崎県平戸市平戸:434.0mm(28日8時00分まで。観測史上1位を更新)[2]
佐賀県佐賀市佐賀:390.0mm(28日7時00分まで。観測史上1位を更新)[2]
長崎県松浦市松浦:379.5mm(28日7時30分まで)[2]
佐賀県白石町白石:371.0mm(28日7時00分まで。観測史上1位を更新)[2]
佐賀県鳥栖町鳥栖:343.0mm(28日9時10分まで。観測史上1位を更新)[2]
72時間雨量
長崎県平戸市平戸:621.0mm(29日9時20分まで。観測史上1位を更新)[2]
長崎県松浦市松浦:521.0mm(29日9時40分まで)[2]
佐賀県唐津市唐津:494.0mm(29日1時20分まで。観測史上1位を更新)[2]

被害・影響[編集]

2019年8月31日12時現在の消防庁による被害状況の集計[15]

  • 死者 3人
  • 行方不明者 1人
  • 重傷者 1人
  • 軽傷者 1人
  • 住家被害
    • 全壊 1棟
    • 一部損壊 4棟
    • 床上浸水 535棟
    • 床下浸水 1,179棟

発表および報道によると、福岡県八女市で1名と佐賀県武雄市で2名が死亡、武雄市で1名が行方不明となっている。死者・行方不明者のうち武雄市で住宅内の1名のほかは、いずれも車に乗車中だったと見られている[6][16][15]

大雨により福岡県の巨勢川、佐賀県の牛津川松浦川、長崎県の江迎川が氾濫、洪水が発生した[6][17]

その他、福岡県南部や佐賀市などの市街地でも広範囲に冠水、佐賀駅構内なども浸水した[18][19][20]。佐賀県多久市小城市、杵島郡大町町、武雄市北方町などでも洪水により浸水、住民などが一時孤立した[15][21]。ほか、福岡県で豪雨により直接、河川の堤防の斜面が一部崩れる被害も出たが、それによる決壊は無かった[18]

佐賀、長崎、福岡の3県のほか、大分県日田市中津市などでも一部土砂崩れや浸水による被害があった[22]

各電話事業者では災害伝言ダイヤル(171)を開設した。

産業への被害・影響[編集]

佐賀県杵島郡大町町では、佐賀鉄工所大町工場から油が流出し、付近一帯に流れ込んだ[6][23]。油種は、ボルト加工等の冷却材に使用する焼入油で、誤って飲み込むと下痢や嘔吐、蒸気を吸い込むと気分が悪くなるおそれがある[23]。報道によると約5万リットルが流出し[23]、量としては日本国内最大規模と言う。また、農業被害の甚大さや除去作業は容易ではないと指摘する声もある[23][24]。油は付近の多くの水田やビニールハウスに流れ込み、収穫前の農産物が油と泥まみれとなり、出荷は絶望的となっている[25]。油の一部は近くの六角川水系から有明海に流出した可能性があり、ノリ養殖ほか漁業への影響も懸念されている[26]

佐賀県伊万里市では、別の鉄工所から油流出事故が発生した[15]

28日は市街地でもコンビニエンスストアスーパーマーケットなど商業施設の閉店が相次いだ。運送業者やタクシー業者、郵便局などでも車両が浸水し、輸送にも影響が出た。一部では停電が発生した[19]

福岡県の一部の工場では28日から29日にかけて操業を停止していたが順次再開した[27]

交通への被害・影響[編集]

27日から28日に掛けて長崎、佐賀、福岡各県の在来線鉄道で運休が相次いだほか、JR佐世保線筑肥線(西唐津 - 伊万里間)が線路冠水などで30日まで運休。これにより特急「みどりハウステンボス」も同日まで運休した。筑肥線不通区間はバス代行を行った[28]

長崎自動車道下り線武雄北方IC - 武雄JCT - 嬉野ICが土砂崩れにより通行止め、復旧に暫く掛かる見込み[29][28]

長崎、佐賀、福岡各県内の一般道路では土砂崩れや冠水などによる通行止めが相次いだ。

ライフラインへの影響[編集]

佐賀市で28日時点、750世帯で断水[6]、30日に解除[30]。雷や倒木、土砂災害により佐賀市、武雄市、小城市など320戸で27、28の両日に最大15時間停電[19]

同県大町町では洪水により、工場から流出の油混じりの泥水が1階に流入した「順天堂病院」が一時孤立状態となり[6][31]、30日までに孤立状態は解消[32]

行政の対応[編集]

自衛隊[編集]

8月28日、山口祥義佐賀県知事から陸上自衛隊西部方面混成団長への出動要請により災害派遣[35]陸上自衛隊久留米駐屯地より、災害派遣初動部隊「ファストフォース」が出動[35]。在九州の陸・海・空各自衛隊が順天堂病院など孤立状態となっている地域、拠点の救援、流出油の回収や防疫等の作業に当たった[36][37][21]。30日、大町町で仮設の風呂を設置[38]

地方公共団体[編集]

  • 8月28日
    • 6時 福岡県災害対策本部設置(30日に廃止)。
    • 8時 佐賀県災害対策本部設置。
    • 11時 広島県災害対策本部設置(同日、廃止)。

8月28日、佐賀県全市町村に災害救助法適用[39]

佐賀・長崎・福岡の3県で約37万世帯、約88万人に避難指示(緊急)が発令された(29日6時時点)。[6]

順天堂病院に佐賀県DMAT派遣[31]

熊本県から緊急消防援助隊大隊を大町町に派遣[15]。緊急消防援助隊は4日間で延べ陸上168隊548名、航空ヘリ4隊29名が活動[15]。緊急消防援助隊は31日に引揚げ[15]

その他[編集]

8月29日、氾濫浸水被害に対し排水ポンプ車を動員。工場からの油流出につき国交省(海保)、自衛隊、消防と連携してオイルフェンスや吸着マットなどの適用を指示[40]

29日、国交省四国地方整備局が緊急災害対策派遣隊(TEC-FORCE)第2陣を九州地方整備局に派遣[41]

30日、環境省から民間に依頼しバキュームカー22台を大町町の油回収などに派遣[42]

行政以外の対応[編集]

イオン九州から災害時協定に基づき支援物資が大町町に供給、配送[31]

29日朝、ボランティア活動家の尾畠春夫も大分県の自宅から車で佐賀県武雄市に駆け付けた[43][44]

脚注[編集]

注釈[編集]

出典[編集]

  1. ^ “九州北部、29日も大雨の恐れ 「線状降水帯」が発生も”. 朝日新聞デジタル. (2019年8月28日). https://www.asahi.com/articles/ASM8X4J5FM8XTIPE01M.html 2019年8月29日閲覧。 
  2. ^ a b c d e f g h i j k l m n 前線による大雨 令和元年(2019年)8月26日~8月29日(速報)”. 気象庁 (20190-09-03). 2019年9月14日閲覧。
  3. ^ a b c “佐賀県、福岡県、長崎県に特別警報発表” (プレスリリース), 気象庁, (2019年8月28日), http://www.jma.go.jp/jma/press/1908/28c/201908280700.html 2019年8月29日閲覧。 
  4. ^ a b 福岡、佐賀、長崎に特別警報=2人死亡、84万人に避難指示-日本海に前線、大雨:時事ドットコム” (日本語). 時事ドットコム. 2019年8月31日閲覧。
  5. ^ a b INC, SANKEI DIGITAL (2019年8月28日). “福岡、長崎、佐賀の3県で約24万人に避難指示” (日本語). 産経ニュース. 2019年8月31日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h i 九州北部記録的大雨 2人死亡88万人避難指示 3県に特別警報” (日本語). 西日本新聞ニュース. 2019年8月31日閲覧。
  7. ^ https://www.post.japanpost.jp/notification/productinformation/2019/0830_02.html
  8. ^ http://www.bousai.go.jp/pdf/r1oame.pdf
  9. ^ 令和元年8月の前線に伴う大雨により影響を受けた手続の取り扱いについて | 経済産業省 特許庁”. www.jpo.go.jp. 2019年8月30日閲覧。
  10. ^ 令和元年8月30日 令和元年8月の前線に伴う大雨に関する関係閣僚会議 | 令和元年 | 総理の一日 | ニュース” (日本語). 首相官邸ホームページ. 2019年8月30日閲覧。
  11. ^ 暖湿気合流 豪雨の帯 九州北部 秋雨前線を活性化” (日本語). 西日本新聞ニュース. 2019年8月31日閲覧。
  12. ^ 気象庁 | 気象警報・注意報や天気予報の発表区域”. www.jma.go.jp. 2019年8月31日閲覧。
  13. ^ 長崎新聞 (2019年8月30日). “壱岐で「50年に1度」の大雨 長崎県内避難指示・勧告 12万6017世帯 | 長崎新聞” (日本語). 長崎新聞. 2019年8月31日閲覧。
  14. ^ 暖湿気合流 豪雨の帯 九州北部 秋雨前線を活性化” (日本語). 西日本新聞ニュース. 2019年8月31日閲覧。
  15. ^ a b c d e f g h 8月27日からの大雨による被害及び消防機関等の対応状況(第18報) (PDF)”. 総務省消防庁 (2019年8月31日12:00). 2019年8月31日12:48閲覧。
  16. ^ 九州北部大雨、孤立の病院へ自衛隊がゴムボートで救援” (日本語). 毎日新聞. 2019年8月31日閲覧。
  17. ^ 長崎新聞 (2019年8月28日). “江迎川氾濫 「逃げるのに必死」 佐世保 道路冠水、被害相次ぐ | 長崎新聞” (日本語). 長崎新聞. 2019年8月31日閲覧。
  18. ^ a b 豪雨被害「2年で3度目」 筑後地区 避難者、疲労の色濃く” (日本語). 西日本新聞ニュース. 2019年8月31日閲覧。
  19. ^ a b c <佐賀豪雨>県民生活、切り裂く 道路網寸断、休業相次ぐ|行政・社会|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE” (日本語). 佐賀新聞LiVE. 2019年8月31日閲覧。
  20. ^ <佐賀豪雨>「トイレの水が流れない」下水の逆流、HPに対処法 佐賀市上下水道局|行政・社会|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE” (日本語). 佐賀新聞LiVE. 2019年8月31日閲覧。
  21. ^ a b <佐賀豪雨>多くの人が孤立、不安こらえ救出待つ 武雄市北方町、杵島郡大町町|行政・社会|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE” (日本語). 佐賀新聞LiVE. 2019年8月31日閲覧。
  22. ^ 日田、中津で164世帯避難 大雨 裏山崩壊や床下浸水も” (日本語). 西日本新聞ニュース. 2019年8月31日閲覧。
  23. ^ a b c d “家も田畑も油まみれ 九州北部大雨 有明海に油膜、漁協不安”. 西日本新聞. (2019年8月31日). https://www.nishinippon.co.jp/item/n/539389/ 2019年8月31日閲覧。 
  24. ^ <佐賀大雨>油流出「国内で例を見ない最大規模」|事件・事故|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE” (日本語). 佐賀新聞LiVE. 2019年8月31日閲覧。
  25. ^ “油まみれ農地「米が全滅」「収入が途絶えた」”. 読売新聞. (2019年8月31日). https://www.yomiuri.co.jp/national/20190831-OYT1T50205/ 2019年8月31日閲覧。 
  26. ^ 大雨で流出の油か、有明海で確認” (日本語). 西日本新聞ニュース. 2019年8月31日閲覧。
  27. ^ 工場や店舗、相次いで休業 九州北部大雨 製造業の被害は限定的” (日本語). 西日本新聞ニュース. 2019年8月31日閲覧。
  28. ^ a b <佐賀豪雨>JR佐世保、筑肥線、きょう31日、全面運転再開|事件・事故|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE” (日本語). 佐賀新聞LiVE. 2019年8月31日閲覧。
  29. ^ 日本道路交通情報センター:JARTIC”. www.jartic.or.jp. 2019年8月31日閲覧。
  30. ^ <佐賀豪雨>佐賀市の断水解除|事件・事故|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE” (日本語). 佐賀新聞LiVE. 2019年8月31日閲覧。
  31. ^ a b c <佐賀豪雨>イオン九州、食品や水を提供|行政・社会|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE” (日本語). 佐賀新聞LiVE. 2019年8月31日閲覧。
  32. ^ a b c 令和元年8月30日 令和元年8月の前線に伴う大雨に関する関係閣僚会議 | 令和元年 | 総理の一日 | ニュース” (日本語). 首相官邸ホームページ. 2019年8月31日閲覧。
  33. ^ 8月の前線に伴う大雨について” (日本語). 首相官邸ホームページ. 2019年8月31日閲覧。
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  35. ^ a b 大雨で佐賀県が自衛隊へ災害派遣要請、初動部隊が出発 陸上自衛隊” (日本語). 乗りものニュース. 2019年8月31日閲覧。
  36. ^ 九州北部大雨、孤立の病院へ自衛隊がゴムボートで救援” (日本語). 毎日新聞. 2019年8月31日閲覧。
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  38. ^ <佐賀豪雨>陸上自衛隊が仮設の風呂設置 大町町|行政・社会|佐賀新聞ニュース|佐賀新聞LiVE” (日本語). 佐賀新聞LiVE. 2019年8月31日閲覧。
  39. ^ 令和元年8月の前線に伴う大雨にかかる災害救助法の適用について” (日本語). 佐賀県. 2019年8月31日閲覧。
  40. ^ 令和元年8月の前線に伴う大雨に関する関係閣僚会議(第2回)(令和元年8月29日(木))における菅官房長官発言” (日本語). 首相官邸ホームページ. 2019年8月31日閲覧。
  41. ^ 8月大雨災害支援でTEC-FORCE2陣” (日本語). 建通新聞電子版. 2019年8月31日閲覧。
  42. ^ 日本放送協会. “大雨 油流出回収支援で民間のバキュームカー派遣 環境省”. NHKニュース. 2019年8月31日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年8月31日閲覧。
  43. ^ “豪雨被害の佐賀に尾畠春夫さん登場 「なんとかせにゃ」”. 朝日新聞デジタル. (2019年8月29日). https://www.asahi.com/articles/ASM8Y45WXM8YTTHB00K.html 2019年8月31日閲覧。 
  44. ^ “片付けに追われる住民 “スーパーボランティア”尾畠さんも駆け付け 九州北部大雨”. 産経新聞. (2019年8月29日). https://www.sankei.com/photo/photojournal/news/190829/jnl1908290001-n1.html 2019年8月31日閲覧。 

関連項目[編集]