エニアグラム

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エニアグラムの一つ

エニアグラム(円九分割図:enneagram)とは、円周を九等分して作図される図形である。昨今では、人間の性格9種類に分類しこの図形に対応させた性格論性格類型を指すことが多い。20世紀のボリビア人神秘思想家オスカー・イチャーソ英語版とチリ人の精神科医クラウディオ・ナラニョ英語版に始まると考えられており、ニューエイジの流行に乗って広まった。スピリチュアリティとビジネス管理の文脈で、人間関係の理解や自己啓発・霊的発達に役立つとして広まっている[1]。科学的に信頼性や有効性は実証されていない[2]

本項目では主として、性格論、性格類型としてのエニアグラムについて詳述する。

概要[編集]

エニアグラムという言葉はギリシャ語に由来し、エネア(ennéa)が九を意味し、グラム(grámma)が図を表している。エニアグラムは厳密には、円周上の九つの分割点に1から9までの番号を振り、3-6-9の点を結んで正三角形を描き、さらに1-4-2-8-5-7の点を直線で結んだ図形を指す。1-4-2-8-5-7は、1を7で割って得られる循環小数0.142857142857...に対応している。

昨今では、このエニアグラムを利用した性格論性格類型との関係で使われることが多い。その場合には、人間の性格9種類に分類しエニアグラムに当てはめたもの、またはそれに基づく性格論を指す。エニアグラム性格論は、9つの相互に関連した性格の類型であるとされ、そのように教えられている。現代のエニアグラム論の起源と歴史は論争になっており、北米のニューエイジで大衆に広がる中では、イスラム神秘主義のスーフィー教団の中で門外不出の口伝として語り伝えられてきたものという説がまことしやかに語られもしたが[3]、 現在ではボリビア人の神秘思想家オスカー・イチャーソ英語版とチリ人の精神科医クラウディオ・ナラニョ英語版の教えに由来していると考えられている。ナラニョの理論は、ゲオルギイ・グルジエフの初期の教えの一部から影響を受けている。類型としてのエニアグラムは、幾何学図形で表され9つの性格のタイプで、enneatypes と呼ばれることもある。エニアグラム性格類型の教師たちの教えは様々であり、必ずしも一致していない。[4]

エニアグラム性格類型は、セミナー、雑誌、書籍、DVDなどにより、スピリチュアリティとビジネス管理の文脈の中で広まっている[1][5]。ビジネス管理の文脈では、一般的に職場の人間関係への洞察を深めるための類型として使われている。スピリチュアリティの文脈では、より高次の存在、精髄、輝きへの道として提示されることが多い。どちらの文脈でも、自己啓発、自己理解、自己発達を助けるものとして扱われており[1]、ある程度人気がある。

エニアグラムの正確な計量的心理テストは限られており、査読された研究は関連する学会で広く受け入れられていない。疑似科学であり、解釈の対象であり、科学的なテストや検証が困難、「信頼性や有効性が実証されていない判断方法」等と批判されている[2][6]

歴史[編集]

ゲオルギイ・グルジエフ1915年ごろにロシアでの講義で紹介したことが、象徴図形としてのエニアグラムがのちに広く知られる最初のきっかけとなった。そのときの講義録は英語に翻訳されたほか、P・D・ウスペンスキーの『奇跡を求めて』に一部を引用されることで一般に知られるようになった。グルジェフはこれを、「三の法則」と「七の法則」の組み合わせにより宇宙の創造と維持の原理を明らかにし成長と発展の道筋を指し示す象徴図形として教えた。

性格論との関係でエニアグラムが利用されるようになったのは1970年代以降である。ボリビアで生まれたオスカー・イチャーソ英語版がグルジエフに間接的に触発され、グループワークを主導、アリカ学院英語版を設立し、拠点をチリから北米に移して活動し、Enneagram of Personality という言葉を作った[4][1]。イチャーソが自己啓発やスピリチュアリティに関わる現代のエニアグラムの主要な源であると考えられている。

チリ生まれの精神科医クラウディオ・ナラニョは、アリカ学院でイチャーソからエニアグラム性格類を学び、1970年代にアメリカでエニアグラム性格類型を発展させて欧米の心理学・精神医学の要素を加え、キリスト教の霊性に合わせ、カトリックの司祭たちに影響を与えた[1][3]。ナラニョの初期の生徒たちの理解は主流とは異なっている[1]

ナラニョが教えた集まりには、カトリックの司祭であり司祭職の人々の霊的指導のためのプログラムとしてエニアグラムを利用したボブ・ウックス、ヘレン・パーマーがおり、ウックスの生徒にイエズス会のパット・オリアリーがいた[3]。アリオリーはキリスト教の罪の概念とエニアグラムを関連づけて解釈しており、ヘレン・パーマーはインタヴュー方式で事例を集め独自にエニアグラムのパーソナリティ・タイプについて考察した[3]。心理テスト作家の中嶋真澄によると、オリアリーらカトリックグループの著者とヘレン・パーマーは、イチャーソはエニアグラムの創始者ではないと考えており、イチャーソのアリカ学院はアリオリーらとパーマーに対し、著作権問題に関して訴訟を起こした[3]

1980年から90年に、多くの作家がエニアグラム性格類型の本を出版した。エニアグラムをキリスト教など特定の宗教の枠組みで捉えるのか、宗教を超えたスピリチュアリティの一つと考え特定の宗教と関連した解釈を否定するか等、指導者たちの意見は分かれている[3]

批判[編集]

エニアグラムの考えはある程度の人気を得ているが、エニアグラムは偽科学であり、解釈の対象であり、科学的に検証することが困難であるという批判を受けている[7]。「信頼性や妥当性が実証されていない評価方法」との批判もある[8]科学的懐疑論者のロバート・トッド・キャロルは、「あまりに曖昧で融通が利くので、関連するものは何でも理論に合うように押し込むことができるので、テストすることができない」と述べ、疑似科学理論のリストにエニアグラムを含めた[9]

また、エニアグラムは、いくつかの宗教的観点から批判を受けている。2000年には、米国カトリック司教協議会の教義委員会が、エニアグラムの起源に関する報告書の草案を作成し、司教が自分たちの教区でエニアグラムを使用する際に有用であるかどうか評価しやすいようにした。報告書では、エニアグラムは綿密な調査を必要とし、「エニアグラムは、伝統的なキリスト教の教義や霊性とはほとんど共有されていないが、現代科学の手法や基準ともほとんど共有されていない...立証責任があるのは、その主張の科学的証拠を提供するエニアグラムの支持者の方にある」と述べ、ローマカトリック主義の潜在的な関心領域として見られる、エニアグラムとの接点の様相を特定した[10]。これは、一部のイエズス会会員や他の宗教教団のメンバーが、キリスト教にエニアグラムの考えを教えていることに対する反応であり、2003年のバチカン文書では、イエス・キリストを命の水の運び手と呼んでいた。「ニューエイジ」に関するキリスト教の回想では、エニアグラムは「精神的な成長の手段として使用すると、キリスト教の信仰の教義と生活に曖昧さが生じる」と述べた[11][12]

関連文献[編集]

エニアグラム性格論:

  • Maria, Beesing『エニアグラム入門』春秋社、1984年。
  • ヘレン・パーマー『新エニアグラム』阪急コミュニケーションズ(1996年)
  • ウィリアム・パターソン『グルジェフを求めて/第四の道をめぐる狂騒』コスモス・ライブラリー(2003年)

エニアグラム総論:

  • P.D.ウスペンスキー 『奇蹟を求めて』 浅井雅志訳、平河出版社
  • 前田樹子『エニアグラム進化論』 春秋社

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f Clarke, Peter (2004). Encyclopedia of new religious movements. Taylor & Francis. ISBN 0-203-48433-9. https://books.google.com/books?id=KLipBC05pF8C&pg. 
  2. ^ a b Kaluzniacky, Eugene (2004). Managing psychological factors in information systems work: an orientation to emotional intelligence. Idea Group Inc (IGI). ISBN 978-1-59140-198-8. https://books.google.com/books?id=SwE8RVv6C8AC&pg=PA66&dq=Enneagram+scientific#v=onepage&q=Enneagram%20ad%20hoc&f=false. 
  3. ^ a b c d e f 中嶋真澄 エニアグラムの歴史 Enneagram Associates
  4. ^ a b Ellis, Albert; Abrams, Mike; Dengelegi Abrams, Lidia (2008). Personality theories: critical perspectives. SAGE. ISBN 978-1-4129-7062-4. https://books.google.com/books?id=4_FOIKi2_tYC&pg=PA569&lpg=PA569&dq=%22New+age+theories+of+personality:+The+Enneagram%22#v=onepage&q=%22New%20age%20theories%20of%20personality%3A%20The%20Enneagram%22&f=false. "Ichazo has disowned Naranjo, Palmer and the other Jesuit writers on the Enneagram on the grounds that his descriptions of the nine types represent ego fixations that develop in early childhood in response to trauma." 
  5. ^ Kemp, Daren (2004). New age: a guide : alternative spiritualities from Aquarian conspiracy to Next Age. Edinburgh University Press. ISBN 978-0-7486-1532-2. https://books.google.com/books?id=xz4EWg1WWmMC&pg=PA80&dq=%22New+age%22+%22Enneagram%22#v=onepage&q=%22Enneagram%22&f=false. 
  6. ^ Bruce A. Thyer; Monica Pignotti (15 May 2015). Science and Pseudoscience in Social Work Practice. Springer Publishing Company. pp. 64–. ISBN 978-0-8261-7768-1. https://books.google.com/books?id=EQFPCQAAQBAJ&pg=PA64. 
  7. ^ Kaluzniacky, Eugene (2004). Managing psychological factors in information systems work: an orientation to emotional intelligence. Idea Group Inc (IGI). ISBN 978-1-59140-198-8. https://books.google.com/books?id=SwE8RVv6C8AC&pg=PA66&dq=Enneagram+scientific#v=onepage&q=Enneagram%20ad%20hoc&f=false. 
  8. ^ Bruce A. Thyer; Monica Pignotti (15 May 2015). Science and Pseudoscience in Social Work Practice. Springer Publishing Company. pp. 64–. ISBN 978-0-8261-7768-1. https://books.google.com/books?id=EQFPCQAAQBAJ&pg=PA64. 
  9. ^ Robert Carroll (11 January 2011). The Skeptic's Dictionary: A Collection of Strange Beliefs, Amusing Deceptions, and Dangerous Delusions. John Wiley & Sons. pp. 306–. ISBN 978-1-118-04563-3. https://books.google.com/books?id=6FPqDFx40vYC&pg=PA306. 
  10. ^ "A Brief Report On The Origins Of The Enneagram", Draft from the U.S. bishops' Secretariat for Doctrine and Pastoral Practices, 10 October 2000, corrected 23 October 2001
  11. ^ Richard Smoley, Jay Kinney (2006). Hidden Wisdom: A Guide to the Western Inner Traditions. Western Mystery Tradition Series (revised, illustrated ed.). Quest Books. p. 229. ISBN 978-0-8356-0844-2. https://books.google.com/books?id=1uTgYGT3quAC&pg=PA229&dq=Enneagram+of+Personality+vatican#v=onepage&q=Enneagram%20of%20Personality%20vatican&f=false 
  12. ^ "Jesus Christ, the Bearer of the Water of Life. A Christian Reflection on the 'New Age'" Archived 1 October 2013 at the Wayback Machine., Pontifical Council for Culture, Pontifical Council for Interreligious Dialogue

関連項目[編集]

外部リンク[編集]