コーチング

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
Jump to navigation Jump to search

コーチング(英:coaching)とは、促進的アプローチ、指導的アプローチで、クライアントの学習や成長、変化を促し、相手の潜在能力を解放させ、最大限に力を発揮させること目指す能力開発法、クライアントを支援するための相談(コンサルテーション)の一形態である[1][2][3]

概要[編集]

1990年ごろからアメリカを中心に広まり、2000年ごろから、日本でも経営者やマネージャーの研修に用いられるようになった[1]。個人の成長や組織の発展を後押しする活動ととして知られている[4]。2007年時点で様々な分野に広まっているが、ビジネス分野で人材開発の手法として最も成長している[1]。誰かを助けたりアドバイスする人の多くが2007年時点で「コーチ」の肩書を自称しているが、10年ほど前には彼らは「コンサルタント」を名乗ることが多かった[1]。コーチングはビジネスであり専門的職業ではないため、参入障壁はなく、だれでも自称することができる[5]

コーチ」は、中世ヨーロッパで交通の要所で馬車の産地だったハンガリーの「コチ」(Kocs)に由来し、鉄製のサスペンションを使った快適なコチ産の大型馬車が「コチの馬車(コチ・セケール)」と呼ばれるようになり、ヨーロッパに広まり、「コチ」は500年間「人を目的地まで連れて行く」ための「手段」であると認識されていた[1][6]。インストラクター・トレーナーという意味での「コーチ」は、1830年にオックスフォード大学の試験のための個人教師を指す学生スラングとして見られ、1861年にはスポーツのトレーナーがコーチと呼ばれていた[7]。1900年以降スポーツを中心として使用され、1950年代にビジネスマネジメントの世界でも使われ始めた[6]

ヒューマンポテンシャル運動の中心エサレン研究所で行われた潜在能力開発実験、そこから生じた自己啓発セミナーをルーツとする[8]。多対多で行われる自己啓発セミナーに対し、コーチングは1対1で行われる[8]。エサレン研究所には心理療法やグループ体験、ボディワーク、自己啓発、スポーツの研究者・トレーナーが集い、コーチングにはそうしたヒューマンポテンシャル運動の思想・テクニックが取り入れられている。自己啓発セミナーより健全な方向に発展した[8]。コーチングでは、人間は能力を持つ存在であり、より良く生き、より良い仕事をすることを望んでいると捉え、クライアントが自覚していない潜在的な知識やスキル、潜在能力を解放させ、それを知恵にまで高め、結果に結びつけ、最大限に成果を挙げさせることを目指す[9][3][10]。内的静寂の発展を援助することができると考えられている[11]。初期の先駆的なコーチたちの教えには、比較的健康で健全な人々がより人生を楽しみ自己実現した人生を送ることができるというメタエートスが見られる[11]。またコーチには、コーチングはビジネス、教育、そしてすべての人生における思想や行動に根本的な変革をもたらすことができるため、広い意味で政治的であるという意見もある[11]

コーチングが始まった当初は、ほとんどが電話で行われていた[1]。コーチングに支援だけでなく指導が含まれるという見解と、含まれないという見解がある[1][2]。期間は4-6カ月程度が適当とされ、1年を超えると効果が落ちると考えられている[12]

コーチングは、カウンセリングの質問技法[13]の中の未来質問や具体化質問など、狭い領域に絞り込んだ目的思考の質問をビジネスライクに行うことに特徴がある。[要出典]クライアントに関わり合い、相手に委ねること(コミットメント)が必要とされる[14]。コーチを自称する人々が行うコーチングの内容は、それぞれ大きく異なっており、コーチングには様々な種類、名称、学派、手法がある[1]。クライアントはコーチを尊敬し、信頼する必要があるが、それにはコーチの誠実さと一定以上の結果、ある程度時間が必要である[1]

精神的成長を扱うが、精神衛生は対象ではない[1]カウンセリングが治療、コンサルティングが「解決策の提示」を目的とするのに対し、コーチングはクライアントが目標を達成することを助ける「支援」を主な目的とする[1]。クライアントを支援するためのコンサルテーションにおいて、クライアントが全責任を負うプロセス・コンサルテーションの一つであり、クライアントが一定の責任(指示通りに薬を飲むなど)を負う医療の専門家によるコンサルテーションとは異なる[1]。クライアントが自身の考えをしっかり内省でき、社会的責任を取ることができる必要があるので、幼い子供や、精神的・肉体的に問題を抱えるクライアントには推奨されない[1]心理療法やカウンセリングは、必要な場合はコーチングの要素を含むが、コーチングの中で心理療法を行うことは不適切とされる。しかし、実践においてクライアントの未来や生活のポジティブな側面だけを扱うことは困難であり、専門家の中には、コーチングの中でカウンセリングを行うことを認めるべきという意見もあり、コーチングとそれ以外の領域の境界は曖昧である[15]

スポーツ・コーチ、ビジネス・コーチ、エグゼクティブ・コーチ、ライフ・コーチなどがある。ライフ・コーチは人生に関するコーチングを行うが、臨床心理士などの心理的な問題を扱う公的な専門資格を持っている人は少ない[1]。コーチには資格よりも実務経験が求められている[1]

コーチングの方法論は、目標へのモチベーション、幸福、希望や目標達成を高め、不安やストレスを軽減すると考えられている[16]。しかし、実証研究は限られており、内容を公にせず有効性が実証できない研究に基づくモデルを教えるコーチも多い[16]。コーチ達の前身は多様で、コーチング産業は幅広い教育分野を実践に取り入れており、これはコーチングの強みでもあるが、コーチングが実際どんな状況で、優れたコーチになるにはどうすればいいかわかりにくいという弱みにもなっている[17]

組織開発の一手法であり、管理職研修として行われることもあるが、組織文化にコーチングのマインドが合わなければ成果は出にくい[18]。企業のマネジメントの一手法であるが、マネジメントそのものを代替する手法ではなく、組織に明確なマネジメントがない場合も上手く機能しにくい[19]

コーチングは流行し、激しく変化する外部環境についていけない人を支援する方法、管理職育成に役立つものとして広く知られるようになった[20][21]。2007年時点で世界でコーチは7万人、200を超える教育機関があり[1]、年間で総額2億ドルを超える資金が使われている[21]。アメリカで始まったが、スペインやラテン諸国でもかなり流行しており、ヨーロッパやイギリスにも取り入れられている[1]。コーチングは個人にとっても組織にとっても大きな投資であるが、その有効性を判断するわかりやすい指標は存在しない[22]

歴史[編集]

『コーチングのすべて』(2007年、邦訳2012年)の著者ジョセフ・オコナーとアンドレア・ラゲスは、コーチングの創成期で最も重要な人物は、ワーナー・エアハード英語版トマス・レナード英語版で、最大の貢献者はレナードであると評している[1]。コーチ・コンサルタントの菅原裕子は、ティモシー・ガルウェイ英語版をルーツの一つに挙げている[23]。3人ともヒューマンポテンシャル運動の周囲で活動していた。

百科事典のセールスマンだったワーナー・エアハードは、エサレン研究所等でヒューマンポテンシャル運動・自己啓発セミナーのテクニックを学び、キリスト教の異端的潮流ニューソートの教義である積極思考(ポジティブシンキング)の系統を掘り起こし、セルフヘルプナポレオン・ヒル自己啓発書『思考は現実化する』などのアメリカに昔からある成功哲学に関する文献や思想、セールスマン精神、などの東洋思想、新宗教サイエントロジー等をつぎはぎしてアメリカナイズし、1971年にエアハード式セミナートレーニング英語版(エスト)という大人数を対象とする自己啓発セミナーを始めた[24][25]。ヒューマンポテンシャル運動の研究成果とニューソートの系譜の積極思考を混ぜた彼の自己啓発に関するアイデアと手法は、当時画期的なものであり、人々に自分の未来を自分の過去ではなく、望む未来を基準点にして創るよう教えた。[1]

エサレン研究所の創始者のひとりマイケル・マーフィー (著作家)英語版は、ゴルフとヨガの熱心な愛好者であり、エサレン研究所を設立する以前の学生時代に、瞑想時の内面の沈黙と精神の集中という精神状態がゴルフをしている時と同じであると気づき、ゴルフに心理面、スピリチュアリティ面からも注目し、エサレン研究所にはスポーツセンターが設立された[26][27]。エサレン研究所のスポーツセンターで活動し、ハーバード大学のテニスチームとエアハードのテニスコーチだったティモシー・ガルウェイは、「ヨガ・テニス」と名付けたスポーツを始め、1974年に『インナーゲーム』を著し、これがコーチングが始まる転換点となった[1][11]。ガルウェイは、人間性心理学仏教スポーツ心理学、無意識のプログラミングという考え方をまとめ、テニスプレイヤーの敵は対戦相手と自分自身であると説いて、革新的なテニスへの取り組み方を示した[1]。1人の人間の中には2人以上の人間がいるとし、本能的に無心にプレイしようとするセルフ2と、セルフ2を観察し、命令し評価し、もっとうまくプレイさせようとするセルフ1の存在を想定し、セルフ2はセルフ1の声・支配によって緊張し、委縮し、失敗してしまうので、コーチの役目は、対象者の心がセルフ1に支配されずセルフ2が自由にプレイできる状態(潜在能力が発揮されている状態)にさせることなのだとした[23]

ガルウェイの著作はテニスの本としてだけではなく、自分の能力を最大限に引き出すための考え方として、スポーツに限られず様々な分野で受容された[28]。ガルウェイ自身はコーチを育てることに興味がなく、育成が課題として残された[1]。ガルウェイの理論は、エサレン研究所で行われたゲシュタルト療法神経言語プログラミング等と共に、自己啓発の活動家たちに影響を与えた。『インナーゲーム』は2年後の1976年に邦訳され話題になったが、日本のスポーツ指導に大きな変化はなく[6]、菅原裕子は、日本では「スパルタコーチ」をあるべきコーチの姿と理解し、有名な監督・スパルタコーチの「しごき」の手段を真似て、コーチングとして受け継いでいる側面もあったようだと述べている[29]

エアハードのエストは、のちに1対1で行うザ・フォーラムになり、後続団体ランドマーク・エデュケーションのランドマーク・フォーラムに受け継がれた。エストの関係者にフェルナンド・フローレスがおり、彼のアイデアをジュリオ・オラーラが発展させ、オントロジカル・コーチングが生まれた。[1]

トマス・レナードは金融アドバイザー、ランドマーク・エデュケーションの予算部長で、エアハードの追随者のひとりであり、ランドマークのセミナーにも精通していた。レナードは、大人数を対象にしていたランドマーク・フォーラムとは異なり、個人を対象にしたいと考えており、金融アドバイザーとして仕事をするうちに、顧客がそれ以上のアドバイスを求めていることに気がつき、心理学の知識を利用しながら、コーチングの方法論を作っていった。1988年にレナードは「デザイン・ユア・ライフ」というコーチで指導を行い、1989年には「カレッジ・フォー・ライフプランニング」というコースを設立した。コーチングはここから、レナードと仲間たちのグループによって形成されていった。エストの関係者で、レナードの講座を受けたローラ・ウィットワース(Laura Whitworth)は、1992年にコーチ・トレーニング・インスティテュート(CTI)を設立してプロのコーチたちが集まり、レナードは1992年にコーチ・ユー(Coach U)を設立し、CTIと競合関係になった。(とはいえ、ウィットワースとレナードは友人でもあった。)[1]

1980年代後半には、アメリカ経済が不況に見舞われ、規制緩和や人々のライフスタイルの変化で市場の流れが変わり、社員が進んで顧客のニーズを素早くつかみ、情報を上層部に伝え、迅速に決断すること、ただ命令を聞く上司の手足としてではなく、各々自立し判断し、高いパフォーマンスを発揮することが求められるようになった[30]。こうした社員の自立への変革、中間管理職が社員の支援者となることへ要請から、コーチングが求められるようになった[30]。元軍人・スポーツマンでエサレン研究所にいたジョン・ウィットモア(John Whitmore)は、ガルウェイのスポーツコーチングを研究し、ガルウェイが訓練したチームを率いて、イギリスをはじめヨーロッパにインナーゲームをもたらした[11]IBMのスポーツ好きのエグゼクティブたちにテニスとゴルフのレッスンを行い、IBMに招待されマネージャーたちにコーチングを教えた[11]。ウィットモアはビジネスの世界にコーチングを導入し、インナーゲームからGROWモデル英語版を考案した(GROWは Goal(s), Reality, Options, Way forward の頭文字)[1][11]

2000年代には、欧米での大学や大学院でコーチングのコースが盛んに設けられ、研究対象となり始めた[6]。日本では、NHKクローズアップ現代で2003年と2011年にコーチングを紹介している[31]

手法[編集]

コーチングは、観察、信頼関係の構築、傾聴、質問、気づきの促進、誘導、提案等のスキルが必要とされる[32]。ディグマン(Myra E. Dingman)は2004年にコーチングの過程を比較し、次の6段階が一般的にみられるとした[33]

  1. 形式的な契約
  2. 関係の構築
  3. アセスメント
  4. フィードバックを行い、よく考えること
  5. 目標設定
  6. 実施と評価

コーチングの成否はコーチとクライアントの「相性」が大きいと考えられているため、初期の契約と関係の構築の段階が重視されている[33]

『コーチングのすべて』では、主なアプローチとしてインテグラル・コーチング、オントロジカル・コーチング、神経言語プログラミング(NLP)コーチング、ポジティブ心理学コーチング、インナーゲーム、コーアクティブ・コーチング、GROWモデル、行動コーチングが取り上げられている[1]。GROWモデルは強力で利点があるが、心理学者以外がこれを行う傾向があり、基礎的な心理学知識を持たずに実施されている[34]。シティ大学ロンドンの心理学名誉教授スティーブン・パーマーと公認職業心理学者でコンサルタント・コーチのアリソン・ワイブラウが編集した『コーチング心理学ハンドブック』では、コーチング心理学者等に採用されている方法として、認知行動コーチング、行動コーチング、解決焦点化コーチング等の一般的な方法と、ナラティブコーチング、実存主義的コーチング、ゲシュタルトコーチングといったあまり行われていない方法が紹介されている[35]

1990年代に主流だった商業的コーチングの養成プログラムは、徐々に論理的でなくなっていき、大学でコーチングや心理学に基づくコーチングの講座が増えるのに逆行するように、ランドマーク・フォーラムのセミナーのようなヒューマンポテンシャル運動の思想やメソッドに近づいている[34]。ヒューマンポテンシャル運動や自己啓発セミナーがニューエイジ精神世界スピリチュアル系)と関係が深いためか、神経言語プログラミングなどのコーチングのテクニックと引き寄せの法則(積極思考)等のスピリチュアル系・オカルト思想を混ぜて指導を行い、コーチを名乗る者もいる。

心理学とコーチング[編集]

ライフ・コーチは心理学者やカウンセラーの活動領域に進出しており、2017年時点でライフ・コーチを雇っている人も少なくないが、専門家たちが活動領域を取り戻そうとする動きもある[1]。大学などアカデミックな世界で研究・教授されるようになってきているが、心理学等の専門家たちが、在野で発展したコーチングと自分たちの領域を区別する向きもある。

『コーチング心理学ハンドブック』では、在野で発展したコーチングに対し、心理学研究に基礎を置くコーチングモデルを用いる分野をコーチング心理学と呼んでいる。ポジティブ心理学と密接に結びついており、オーストラリア心理学会コーチング心理学利益団体(IGCP)はポジティブ心理学の応用分野であると見做している[34]

コーチング心理学は人間性心理学の伝統をルーツとし、ポジティブ心理学やヒューマンポテンシャル運動を生み出した潮流と関係があるという[36]スポーツ心理学カウンセリング心理学臨床心理学産業心理学と組織心理学英語版健康心理学が交差するところにある[37]。ヒューマンポテンシャル運動は何でもありの折衷主義であり、この「うまくいくものは何でも使い、うまくいけば、さらにそれを使う」という哲学が、現代のコーチング産業発展の力になった。しかし、ヒューマンポテンシャル運動の折衷主義が無批判な反知性主義に向かったことで、厳格な議論や実証ができない事態に陥り、反知性主義と科学への猜疑心から、科学的研究に基づく心理学者のコーチとそれ以外のコーチの間には緊張関係が生じた[38]。『コーチング心理学ハンドブック』では、コーチングの心理学の研究とコーチング心理学という専門領域は別れて発展したとされる[34]

問題点や危険性[編集]

コーチングは、良い効果をもたらす可能性がある反面、「人を変える」「人が変わる」ことを扱うため、ルーツを同じくする自己啓発セミナーや組織開発同様、害悪をもたらしうる危うさがある[8]

例えば、部下やクライアントが必要十分な知識・ノウハウの指導(ティーチング)を受けていない状態でコーチングを行うと、それは相手への支援ではなく、わからない・知らないことを詰問する行為になりかねず、相手を傷つけ、自尊心を損なう可能性がある[39]。簡単な訓練を受けただけの人が部下にコーチングを行い、相手をより混乱させることも少なくない[40]。必要な訓練を受けていないコーチが理論的基盤のないコーチングモデルをクライアントにあてはめて介入し、心理的健康問題を見抜けず悪化させ障害を引き起こしている状況があり、無資格のライフ・コーチへの疑念の報道も増加した[41]。しかし、そもそもコーチには資格も条件もないため、不満や意見の矛先もなく、問題の実態の把握は困難である[41]

一般的にはコーチビジネスは、ライフスタイルやビジネスチャンス程度にしか考えられず、無批判に受け止められ、養成講座が流行するといういびつな状況となっている[41]。アメリカでは、子育て等の理由で在宅ビジネスを求職する消費者に対して、電話で仕事が可能なコーチングの詐欺的な商法が横行し、連邦取引委員会(FTC)が悪質な事業者を社名と個人名をあげて摘発・公表するとともに[42]、2013年1月に消費者情報としてコーチングの詐欺的商法に関する注意喚起を行った[43]

手軽で簡単なテクニックと考える風潮もあり、「部下の話をよく聞き、相手をほめて、承認して、ソフトタッチに接していくこと」といった誤解も見られる[20]

専門性と信頼性[編集]

コーチングを行う人はコーチを自称しているが、自己啓発セミナー同様、質を保証する公的な資格等は存在しない。ある程度の長さ・内容の訓練を受け経験を積んだコーチもいれば、会社の簡単な研修を受けただけで部下にコーチングを行う人もいる[20]。コーチ養成組織には資格商法としか言えないものも少なくなく、数日の訓練を受けて料金を払えば「認定マスターコーチ」を名乗ることもできる[5]。しかし、コーチングの技術は短時間で身につくほど簡単なものではない[40]。コーチング産業自体、コーチによるコーチングの実践ではなく、商業的コーチング養成組織による利益が占める部分が大きい[5]

有名なコーチであるジョン・ウィットモアは、コーチのほとんどは自分たちが行っていることの心理的原則を十分理解しているとはいいがたく、理解していなくてもコーチングの方法を表面的になぞることはできるかもしれないが、期待するような結果は出ないだろうと述べている[34]。コーチング心理学者のアンソニー・グラントは、ほとんどのコーチは心理学や行動科学の素養がなく、2008年時点でコーチングの信頼性は低く、コーチの専門職業意識は希薄であると述べている[41]

コーチング市場の拡大に伴い、主要な利用者である企業が、エグゼクティブコーチに大学院レベルの行動科学の資格を求めるなど要求水準が高まり、市場では変革が起こりつつあり、実証的なコーチングや心理学に基づくコーチングを学べる大学も増えた(2008年時点)。要求水準の高まりに伴い、コーチングと関係がない・またはほとんど関係がない学位を持つ人が、コーチングの学位を持っていると詐称するなどの問題も生じている[44]。大学と提携した商業コーチング学校が、必ずしも専門性や実証性が保証されているわけでもなく、コーチング学校が自社製品を提携する大学が認めた研究と勝手に偽って展示するなどの協働の失敗事例もある[45]

医療や心理学の関係者以外のコーチが多いアメリカでは、「誰が心理学的方法を実施できるか」という法的問題が生じている[34]。イギリスでは、コーチング提供者は外部の大学で資格を得て、専門機関から認定を受けている[34]

現在はワシントンD.C.に本部を置く、非営利団体の国際コーチ連盟(International Coach Federation)が、コーチ倫理や能力水準の提唱、資格の発行を実施している最大の機関とされている[46][出典無効]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa オコナー ラゲス, 杉井訳 2012.
  2. ^ a b ワイブラウ, 堀正訳 2011, p. 2.
  3. ^ a b 菅原 2003, pp. 28-29.
  4. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 3.
  5. ^ a b c パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 31.
  6. ^ a b c d 富居富 「講義科目「コーチング論」の最適化 : スポーツコーチングの実践に資するために」 同志社スポーツ健康科学(6), pp.57-71, 2014-06-03, 同志社大学スポーツ健康科学会
  7. ^ coach Origin and meaning of coach by Online Etymology Dictionary
  8. ^ a b c d 中原淳・中村和彦 南山大学 人間関係研究センター 公開講演会「組織開発」再考 理論的系譜と実践現場のリアルから考える 人間関係研究(南山大学人間関係研究センター紀要)2016, 211‑273.
  9. ^ 菅原 2003, p. 19.
  10. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 4.
  11. ^ a b c d e f g Leni Wildflower How Esalen & John Whitmore Influenced Coaching Fielding Graduate University
  12. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 76.
  13. ^ カウンセリングは「ラポールの形成」や「傾聴・共感」を重視するとともに、広範かつ重層的な質問技法を有し、クライアントへの関与目的やカウンセリングの進行状況に合わせて適宜・適切な質問を選択的に行う。[要出典]
  14. ^ 菅原 2003, pp. 32-36.
  15. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 416.
  16. ^ a b パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 10.
  17. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 29.
  18. ^ 菅原 2003, p. 28.
  19. ^ 菅原 2003, p. 44.
  20. ^ a b c 横山信弘 答えを持たない部下に「コーチング」は有害 日経ビジネスオンライン 2013年6月21日
  21. ^ a b パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 67.
  22. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 71.
  23. ^ a b 菅原 2003, p. 21.
  24. ^ 小池 2007, pp. 88-91.
  25. ^ アンダーソン 1998, pp. 249-250.
  26. ^ アンダーソン 1998, pp. 26-29.
  27. ^ 海野 2001, pp. 279-280.
  28. ^ 菅原 2003, p. 23.
  29. ^ 菅原 2003, pp. 39-40.
  30. ^ a b 菅原 2003, p. 24.
  31. ^ あなたの“やる気”引き出します ~広がるコーチング~ 2003年8月20日, “コーチ”をつける社長たち 2011年9月27日; NHKクローズアップ現代。
  32. ^ NLPとコーチング―2つの共通点と5つの違い NPO法人しごとのみらい
  33. ^ a b パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 78.
  34. ^ a b c d e f g パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, pp. 1-5.
  35. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 17.
  36. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 27.
  37. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 26.
  38. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 28.
  39. ^ 新美友那 ティーチングとコーチングの違いとは? マイナビニュース 2018年6月6日
  40. ^ a b 横山信弘 「伊調パワハラ」「日大タックル」問題だけじゃない! ビジネスでもよくある「コーチング」の裏事情 Yahoo!ニュース 個人、2018年6月24日
  41. ^ a b c d パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, pp. 30-31.
  42. ^ Business 'Coaching' Marketers Agree to Settle FTC Charges. FTC(Federal Trade Commission).
  43. ^ Consumer Information. FTC(Federal Trade Commission).
  44. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 33.
  45. ^ パーマー ワイブラウ 編, 自己心理学研究会 訳 2011, p. 32.
  46. ^ International Coaching Federation” (英語). International Coach Federation. 2018年8月3日閲覧。

参考文献[編集]

  • ジョセフ・オコナー、アンドレア・ラゲス 『コーチングのすべて―その成り立ち・流派・理論から実践の指針まで』 杉井要一郎 訳、金英治出版、2012年
  • スティーブン・パーマー、アリソン・ワイブラウ 編 『コーチング心理学ハンドブック』 堀正 監訳、自己心理学研究会 訳、金子書房、2011年
  • 小池靖 『セラピー文化の社会学 ネットワークビジネス・自己啓発・トラウマ』 勁草書房2007年
  • 菅原裕子 『コーチングの技術』 講談社2003年ISBN 4061496565
  • 海野弘 『癒しとカルトの大地 - 神秘のカリフォルニア』 グリーンアロー出版社〈カリフォルニア・オデッセイ4〉、2001年
  • W・T・アンダーソン 『エスリンとアメリカの覚醒 人間の可能性への挑戦』 伊東博 訳、誠信書房、1998年

関連項目[編集]