コーチング

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コーチング(英:coaching)とは、促進的アプローチ、指導的アプローチで、クライアントの学習や成長、変化を促し、相手が最大限に力を発揮できるようになることを目指す能力開発法、クライアントを支援するための相談(コンサルテーション)の一形態である[1][2]

概要[編集]

1990年ごろからアメリカを中心に広まり、2000年ごろから、日本でも経営者やマネージャーの研修に用いられるようになった[1]。2007年時点で様々な分野に広まっているが、ビジネス分野で人材開発の手法として最も成長している[1]。コーチングを行う人はコーチを自称しているが、自己啓発セミナー同様、質を保証する公的な資格等は存在しない。

ヒューマンポテンシャル運動でのエサレン研究所で行われた潜在能力開発実験、そこから生じた自己啓発セミナーをルーツとする[3]。多対多で行われる自己啓発セミナーに対し、コーチングは1対1で行われる[3]。自己啓発セミナーより健全な方向に発展した[3]。同様のアプローチであるカウンセリングが治療、コンサルティングが「解決策の提示」を目的とするのに対し、コーチングはクライアントが目標を達成することを助ける「支援」を主な目的とする[1]。コーチングが始まった当初は、ほとんどが電話で行われていた[1]。コーチングに支援だけでなく指導が含まれるという見解と、含まれないという見解がある[1][2]。精神的成長を扱うが、精神衛生は対象ではない[1]。クライアントが自身の考えをしっかり内省でき、社会的責任を取ることができる必要があるので、幼い子供や、精神的・肉体的に問題を抱えるクライアントには推奨されない[1]

コーチングはカウンセリングの質問技法[4]の中の未来質問や具体化質問など、狭い領域に絞り込んだ目的思考の質問をビジネスライクに行うことに特徴がある。また、クライアントへの「助言・力づけ・援助」をクロージングとするカウンセリングと異なり、コーチングはそれらを「承認」に代える。[要出典]クライアントはコーチを尊敬し、信頼する必要があるが、それにはコーチの誠実さと一定以上の結果、ある程度時間が必要である[1]

スポーツ・コーチ、ビジネス・コーチ、エグゼクティブ・コーチ、ライフ・コーチなどがある。ライフ・コーチは人生に関するコーチングを行うが、専門資格を持っている人は少ない[1]。コーチには資格よりも実務経験が求められている[1]。ライフ・コーチは心理学者やカウンセラーの活動領域に進出しており、2017年時点でライフ・コーチを雇っている人も少なくないが、専門家たちが活動領域を取り戻そうとする動きもある[1]

コーチングは、良い効果をもたらす可能性がある反面、「人を変える」「人が変わる」ことを扱うため、ルーツを同じくする自己啓発セミナーや組織開発同様、害悪をもたらしうる危うさがある[3]

コーチングは流行し、2007年時点で世界でコーチは7万人、200を超える教育機関がある[1]。誰かを助けたりアドバイスする人の多くが2007年時点で「コーチ」の肩書を自称しているが、10年ほど前には彼らは「コンサルタント」を名乗ることが多かった[1]。コーチを自称する人々が行うコーチングの内容は、それぞれ大きく異なっており、コーチングには様々な種類、名称、学派、手法がある[1]

歴史[編集]

『コーチングのすべて』(2007年、邦訳2012年)の著者ジョセフ・オコナーとアンドレア・ラゲスは、コーチングの創成期で最も重要な人物は、ワーナー・エアハード英語版トマス・レナード英語版で、最大の貢献者はレナードであると評している[1]

百科事典のセールスマンだったワーナー・エアハードは、エサレン研究所等でヒューマンポテンシャル運動・自己啓発セミナーのテクニックを学び、キリスト教の異端的潮流ニューソートの教義である積極思考(ポジティブシンキング)の系統を掘り起こし、セルフヘルプナポレオン・ヒル自己啓発書『思考は現実化する』などのアメリカに昔からある成功哲学に関する文献や思想、セールスマン精神、などの東洋思想、新宗教サイエントロジー等をつぎはぎしてアメリカナイズし、1971年にエアハード式セミナートレーニング英語版(エスト)という大人数を対象とする自己啓発セミナーを始めた[5][6]。彼の自己啓発に関するアイデアと手法は、当時重要なものであり、自分の未来を自分の過去ではなく、望む未来を基準点にして創るよう教えた。[1]

エアハードのテニスコーチで、エサレン研究所のスポーツセンターにいたティモシー・ガルウェイ英語版は、「ヨガ・テニス」を始め、1974年に『新インナーゲーム』を著し、これがコーチングが始まる転換点となった。ガルウェイは、人間性心理学仏教スポーツ心理学、無意識のプログラミングという考え方をまとめ、テニスプレイヤーの敵は対戦相手と自分自身であると説いて、革新的なテニスへの取り組み方を示した。ガルウェイ自身はコーチを育てることに興味がなく、育成が課題として残された。[1]

エストはのちに1対1で行うザ・フォーラムになり、後続団体ランドマーク・エデュケーションのランドマーク・フォーラムに受け継がれた。エストの関係者にフェルナンド・フローレスがおり、彼のアイデアをジュリオ・オラーラが発展させ、オントロジカル・コーチングが生まれた。[1]

トマス・レナードは金融アドバイザーで、ランドマーク・エデュケーションの予算部長で、ランドマークのセミナーにも精通していた。レナードは、大人数を対象にしていたランドマーク・フォーラムとは異なり、個人を対象にしたいと考えており、金融アドバイザーとして仕事をするうちに、それ以上のアドバイスが求められていることに気がつき、心理学の知識を利用しながら、コーチングの方法論を作っていった。1988年にレナードは「デザイン・ユア・ライフ」というコーチで指導を行い、1989年には「カレッジ・フォー・ライフプランニング」というコースを設立した。コーチングはここから、レナードと仲間たちのグループによって形成されていった。エストの関係者で、レナードの講座を受けたローラ・ウィットワースは、1992年にコーチ・トレーニング・インスティテュート(CTI)を設立してプロのコーチたちが集まり、レナードは1992年にコーチ・ユー(Coach U)を設立し、CTIと競合関係になった。(とはいえ、ウィットワースとレナードは友人でもあった。)[1]

日本では、フォーラム(現ランドマーク・エデュケーション)が、1985年に日本に進出した当初からコーチングの手法を用いていた。ただし、コーチングという英語名称ではなく、「コーチすること」と訳していた。また、ライフスプリング系自己啓発セミナーの"ライフ・ダイナミックス"は社員をアメリカに派遣して、社員向けのトレーナーズ・セミナーでコーチングのノウハウを取得させていた[7][要ページ番号]

コーチングの基本[編集]

教育コーチングコーチング心理学のトレーニング、アクション・ラーニング(アクティブ・リスニング)など、様々な名称のものがある。優れたセラピストが使う言葉や関わり方の体系化に始まる神経言語プログラミング(NLP)や、ポジティブな目標達成を得手とするコーチングは、観察、信頼関係の構築、傾聴、質問、気づきの促進、誘導、提案等のスキルが必要とされる[8]

世間の反応[編集]

アメリカでは、子育て等の理由で在宅ビジネスを求職する消費者に対してコーチングの詐欺的な商法が横行し、連邦取引委員会(FTC)が悪質な事業者を社名と個人名をあげて摘発・公表するとともに[9]、2013年1月に消費者情報としてコーチングの詐欺的商法に関する注意喚起を行った[10]

日本では、NHKクローズアップ現代で2003年と2011年にコーチングを紹介している[11]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t オコナー・ラゲス, 杉井訳 2012.
  2. ^ a b ワイブラウ, 堀正訳 2011, p. 2.
  3. ^ a b c d 中原淳・中村和彦 南山大学 人間関係研究センター 公開講演会「組織開発」再考 理論的系譜と実践現場のリアルから考える 人間関係研究(南山大学人間関係研究センター紀要)2016, 211‑273.
  4. ^ カウンセリングは「ラポールの形成」や「傾聴・共感」を重視するとともに、広範かつ重層的な質問技法を有し、クライアントへの関与目的やカウンセリングの進行状況に合わせて適宜・適切な質問を選択的に行う。[要出典]
  5. ^ 小池 2007, pp. 88-91.
  6. ^ アンダーソン 1998, p. 249-250.
  7. ^ 菅原裕子 『コーチングの技術』 講談社現代新書 (2003年3月) ISBN 4061496565
  8. ^ NLPとコーチング―2つの共通点と5つの違い NPO法人しごとのみらい
  9. ^ Business 'Coaching' Marketers Agree to Settle FTC Charges. FTC(Federal Trade Commission).
  10. ^ Consumer Information. FTC(Federal Trade Commission).
  11. ^ あなたの“やる気”引き出します ~広がるコーチング~ 2003年8月20日, “コーチ”をつける社長たち 2011年9月27日; NHKクローズアップ現代。

参考文献[編集]

  • ジョセフ・オコナー、アンドレア・ラゲス 『コーチングのすべて―その成り立ち・流派・理論から実践の指針まで』 杉井要一郎 訳、金英治出版、2012年
  • ブルース・グリムリー 執筆 『コーチング心理学ハンドブック』 スティーブン・パーマー、アリソン・ワイブラウ 編、 堀正 監訳、自己心理学研究会 訳、金子書房、2011年
  • 小池靖 『セラピー文化の社会学 ネットワークビジネス・自己啓発・トラウマ』 勁草書房2007年
  • 菅原裕子 『コーチングの技術』 講談社現代新書 2003年3月 ISBN 4061496565
  • W・T・アンダーソン 『エスリンとアメリカの覚醒』 誠信書房、1998年

関連項目[編集]