自己啓発セミナー

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自己啓発セミナー(じこけいはつセミナー、Large Group Awareness TrainingLGAT)とは、「本当の自分を見つけ」「可能性を開く」「自己の殻を打ち破る」「心の癒し」「トラウマの解消」と称する講座である。狭義には、アメリカで設立された"Mind Dynamics"[1]から分岐した"est"や"Lifespring"の流れを汲んだセミナーのことを指す[2]

アメリカでは1980年代から社会的な批判にさらされ始めたため、"est"は1984年に名称を"forum"(日本では後に"BT")に改めて座学中心の形態に変えて存続したが、"Lifespring"系は日本とメキシコなどの国を除けば現在はほぼ消滅している。

概略[編集]

自己啓発セミナーは、成功哲学を含むニューソートの流れを汲んだ積極的思考の思想、サイケデリックの実験から発展したヒューマン・ポテンシャル・ムーブメントのセラピー技法、マルチ・レベル・マーケティングマルチ商法)系の人脈によって、1970年前後にアメリカで確立した。

並行してアメリカで開発されたリーダー養成のための企業向け研修方式であるST(センシティビティ・トレーニング)が、受講中の自殺者や受講後の心身疾患を多発させて一挙に下火になったあと、1970年代以降に生まれたニューエイジ系の疑似科学が結びついて、事前に可否判断の情報を持ち得ず自己責任での受講となる個人向けセミナーとして通流した面が強いとされる[3]

日本へは、マルチ・レベル・マーケティングを追って1970年代中頃に上陸[4]、1990年前後に大流行し、バブルの崩壊やオウム・洗脳問題とともに下火になった。バブル以降は、自己啓発書の出版やコーチング神経言語プログラミングセラピスト養成・カウンセラー養成などの他業種へ展開したり[5]、企業間の人脈や企業内の労使関係により顧客が開拓しやすい中小企業などにターゲットをしぼったところもある[6]日本創造教育研究所アチーブメントのような大手になると、複数以上の事業や手法を兼ねるところも存在する[7]

"Lifespring"のセミナーは、かつてBasic、Advance、Leadership Programの3段階のコースで構成されていた。このようなコースの構成は、現在でも多くの自己啓発セミナーで名前は異なっているが採用されている[8]。上級の講座になると、実習の一環として自己啓発セミナーへの勧誘が含まれていることがあり、このことが議論を呼んできた。また自己啓発セミナーは精神世界や人間性の追及、自己実現や達成・成功を自称して高額な金銭を要求する点に特色がある。

成田ミイラ化遺体事件を引き起こしたライフスペース、生き方研究会が名を変えた衣川晃弘の実質的指導下にあるベストグループX JAPANTOSHIも被害を蒙ったMASAYAのホームオブハート[9]も、自己啓発セミナーが元となっている。また、ゆず (音楽グループ)が広告塔となっている新興宗教かむながらのみち身曾岐神社)」の信者向け修行にも、要所で自己啓発セミナーの手法が利用されている。

また、伊藤守 (コーチング)が代表を務める自己啓発セミナーのiBDは、干場弓子とともに出版社ディスカヴァー・トゥエンティワンを設立して自己啓発本を多数出版し販売。別会社コーチ21(現コーチ・エィ)は日本初のコーチングの企業として、コーチングの紹介、資格認定、企業人材研修など行い、自己啓発セミナーから多角的に事業の軸足を移していった[10][11]。(コーチング#歴史も参照)

主な内容[編集]

セミナーによって内容は異なるが、大まかに次のような内容で進む。

受講するまで[編集]

  • 自己啓発セミナーの受講までの特徴として、過去に受講した人から勧誘を受けることが多い。勧誘は内容を説明しないで行うようにと指示されており、勧誘を行う会場では自由意志による参加と説明しながら、1人の来場者を多数で取り囲むなどの方法もとられる。
  • マンツーマンの勧誘では、「突然だけど一緒に食事でもどうです?」などと飲食に誘うケースが多い。電話アポの場合は「女性も生き生きと活躍できるステップ・アップ講座を受けた」、「自分の可能性を予約するセミナーをやっている」など、それとなく匂わせることが多い。
  • 説明会会場での勧誘では、周囲の人々と挨拶を交わす短い時間を設けて打ち解けた雰囲気をつくりだすことを基本とする。他己(たこ)紹介と称して、小グループで輪になって勧誘者と被勧誘者が双方を紹介し合う手法がとられることもある。
  • 勧誘後の展開は、セミナーによって違いはあるが基本的に上記"Lifespring"のように3段階に分かれている。

ここでは便宜上「第1段階」~「第3段階」というように表記する。

問題点[編集]

  • 一度セミナーを受講するとセミナーの終了時に次の段階のセミナーを勧められる。すでに第1段階の受講中から「both-win」「win-win」といった「囚人のジレンマ」を逆手にとった心理的拘束を受けるため、トレーナー、アシスタント、紹介者からの圧力などで、拒否しづらい雰囲気が醸成される。
  • 第3段階の勧誘実習では「手帳活用術」や「時間管理術」が指導され、「チャレンジ目標・プラン」などの名目で勧誘をスケジュール化させる。オリジナルの手帳を持つセミナー会社は珍しくなく、市販している場合もある[12]。また、別途タイム・マネジメントのセミナーを開催しているケースがある。勧誘が家族、親戚、友人、会社の同僚に及ぶと人間関係や社会生活に支障をきたし始める。
  • 新たな気づきや学びになるとして、勧誘活動だけではなくアシスタントと称してスタッフの補助作業に無償で労力を提供させる。
  • 勧誘の段階からマインドコントロールの手法を用いているとされる。カルト宗教の場合はマインドコントロールを解くにはマインドコートロールされていた期間と同期間かそれ以上を要すると言われるが、自己啓発セミナーは個々人がどの程度の影響を受けたか測れない面があり、短期間でも麻薬的な体験や共依存関係などがネックとなる場合がある。
  • 精神病者に施す精神療法に近い行為を健常者に対して実施すること自体に疑念が呈されている。また、精神科医や専門の知識・経験を有する臨床心理士等ではなく、セミナーのマニュアル的な知識と経験しかない者が実施するため、予期せぬトラブルを起こしたりトラブルに対処できない可能性が高いという批判がある。
  • ST(センシティビティ・トレーニング)と同様、セミナー受講後に不安障害自律神経系の失調をきたすことがある。アメリカでは自殺や死亡事故も含めて訴訟が相次いだ。
  • 受講中の自殺や事故死がマスコミでも報道されることはあるが、家族による民事訴訟刑事告発では証拠保全証言協力が得難いため不利となる傾向がある。昏倒した受講者が放置され死亡した2010年1月の事故では、死亡した受講者の家族が刑事告発を行い、警察が保護責任者遺棄致死罪で書類送検に踏みきったのは事故の2年2ヶ月後だった[13]

セミナー体験の科学的知見[編集]

  • セミナー受講後の至高・至福感や万能感の発生由来についての研究は行われていないが、脳神経科学の発達によって、ランナーズハイに近似した作用が働くと考えられている。エンドルフィンドーパミンは、ストレスを受けている間はストレス緩和物質として作用するが、自己啓発セミナーの場合は有酸素運動的なストレスがほとんどないため[14]、セミナー終了後のストレス開放によってランナーズハイより劇的な作用を起こす危険性がある。

脚注[編集]

  1. ^ 1968年にアレクサンダー・エベレットによって設立され、1970年にマルチ商法のHoliday Magic社に買収された。Holiday Magic社がアメリカで実質的に非合法化されたため解散している。
  2. ^ "Mind Dynamics"解散前の1971年に"est"が、解散と相前後する1974年に"Lifespring"が設立された。
  3. ^ 『自分探しが止まらない』清水健朗
  4. ^ これには催眠商法(SF商法)の元祖とされる島津幸一という人物が深く関わった。島津は「L&G」で仮想通貨「円天」を発行して組織的詐欺罪で逮捕された波和二とともに、かつて「APOジャパン」というマルチ商法の企業を立ち上げている。
  5. ^ これが、いわゆる「心理士資格商法」の動因のひとつとなっている。
  6. ^ 会員企業化を図ったり、経営塾・経営セミナー等を勧誘の契機とするケースもある。
  7. ^ 日創研の新業態 (2004年7月7日)
  8. ^ 4~5段階としたり、就活セミナーを契機としたりする自己啓発セミナーもある。
  9. ^ セミナー参加者が損害賠償請求を提起している。
  10. ^ 伊藤守プロフィール”. 2011年5月13日閲覧。
  11. ^ 当事者による自己啓発セミナー事業の説明は「コミュニケーションに関する事業」伊藤守プロフィール”. 2015年2月16日閲覧。
  12. ^ アチーブメントの「アチブメントプランナー」手帳日本創造教育研究所(コスモ教育出版)の「理念と経営」手帳
  13. ^ 自己啓発主催者ら書類送検=セミナー中に男性死亡―遺棄致死容疑で・警視庁. 時事通信2012年3月16日配信。
  14. ^ ストレッチと称されるセッション以外でも過呼吸を引き起こすことはある。2010年1月の死亡事故はストレッチでのものだった

関連文献[編集]

関連項目[編集]

外部リンク[編集]