忍野八海

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忍野八海の濁池

忍野八海(おしのはっかい)は山梨県忍野村にある湧泉群。富士山の雪解け水が地下の溶岩の間で、約20年の歳月をかけてろ過され[1]湧水となって8か所のをつくる。英名はSprings of Mt. Fuji、忍野八海からの湧水は山中湖を水源とする相模川水系の桂川[2]と合流する。国指定の天然記念物名水百選に指定。県の新富嶽百景にも選定されている。

富士山-信仰の対象と芸術の源泉」の構成資産の一部として世界文化遺産に登録されている。

概要[編集]

かつてこの地に存在した忍野湖が干上がって盆地になり、富士山や近くの火山山麓の伏流水を水源とする湧水の出口が池として残った姿が忍野八海である。平地となったこの一帯は米の産地となり、湧泉の水は飲料水や農業用水として活用された。

「八海」の名は、富士講の人々が富士登山の際に行った8つの湧泉を巡礼する八海めぐりからきており(多数ある湧泉のうち8つに限ったのは、8を尊ぶ仏教的思想に基づく[3])、富士講では忍野八海のことを、元(小)八海、内八海、根元八海、富士外八海などと呼んでいる。古くは信者たちが富士山登頂前にここで水行を行なったとされるが、天保年間の1843年に各池に守護神の「八大竜王」が祀られ、出口池を一番霊場、菖蒲池を八番霊場とする巡礼路が整備された。

忍野八海はその特異な自然現象から、訪れる観光客も多く、富士山周辺でも人気の観光地として知られる。しかし、周囲の環境は観光用の商店や施設などが建ち並ぶような観光地化が進み、また人工池も造成され、特異な自然環境を楽しめる状況は失われつつある。

伝説[編集]

地元に旧家に残る古文書「宮下文書」の伝説では、もともと当地一帯には宇津湖(宇宙湖とも)と呼ばれる巨大湖があったが、800年から802年延暦19年から21年)にかけて起こった富士山の延暦噴火で流出した鷹丸尾溶岩により宇津湖が分断され、山中湖と忍野湖[4]に分かれたと伝えられているが、標高差の観点および山梨県環境科学研究所のボーリング調査により、宇津湖の存在は否定されている[5][6][7]

沿革[編集]

観光[編集]

忍野富士

忍野八海の観光化は、茅葺屋根と富士山を背景とした田園風景を売りに1960年から始まった[9]。忍野八海地区からは富士山が見え、これを忍野富士と呼ぶ。冬季には池より朝霧が立ち込めることもある。最も深い「湧池」を中心にして7つの池を巡る観光客が多く、一つだけ離れた位置にある「出口池」までを巡る者は少ない。また、あまり目立たない「鏡池」「菖蒲池」などを省く観光客もおり、そちらも比較的に人出が少ない。歴史は浅いが毎年8月8日には守護神の八大竜王を祀る「八海祭り」が催される[10]

各池の概要[編集]

忍野八海はその名の通り、8つの池のことを意味するが、周辺にはそれ以上の数の人工池が存在する。以下の表の8つの池以外は「忍野八海」の形成と何ら関係がない。旅館『池本荘』の脇にある「中池」は、当旅館のテニスコートであった土地を池に造成したものである。同様に「はんのき資料館」敷地内の大型の池も人工池であり、これらは比較的規模が大きく目立つ上に忍野八海の中心部に位置することなどから、多くの観光客が忍野八海を構成する池であると誤認してしまう傾向がある。

池の一覧[11]
画像 名称 面積 水深 水温 pH 湧水量 守護神
八大竜王
位置 備考
Deguchi03.jpg 出口池
でぐちいけ
1,467m² 約0.5m 12.5℃ 7.2 0.265m³/秒 第1の霊場
難陀竜王
なんだりゅうおう
地図 忍野八海で最大の池。出口池の高台に出口稲荷社が建つ。石碑に「あめつちの ひらける時にうこきなき おやまのみつの出口たうとき」との和歌が刻まれている。
Okama Pond, Oshino Hakkai.JPG 御釜池
おかまいけ
24m² 約7m 13.5℃ 7.2 0.18m³/秒 第2の霊場
跋難陀竜王
ばつなんだりゅうおう
地図 かつて存在した石碑には「ふじの根のふもとの原にわきいづる水は此の世のおかまなりけり」との和歌が刻まれていた。
Sokonuke04.jpg 底抜池
そこぬけいけ
208m² 約1.5m 14℃ 7.1 0.156m³/秒 第3の霊場
釈迦羅竜王
しゃからりゅうおう
地図 はんのき資料館(有料)の最奥にある池。石碑に「くむからにつみはきへなん御仏のちかひぞふかしそこぬけの池」との和歌が刻まれている。
銚子池
ちょうしいけ
79m² 約3m 13.5℃ 7.2 0.02m³/秒 第4の霊場
和脩吉竜王
わしゅきちりゅうおう
地図 間欠的な湧水。名前の由来は長柄の銚子に似ていることから。石碑に「くめばこそ銚子の池もさはぐらんもとより水に波のある川」との和歌が刻まれている。
Waku dive.jpg 湧池
わくいけ
152m² 直視深度
3m

潜水深度
5m前後
13℃ 7.1 2.2m³/秒 第5の霊場
徳叉迦竜王
とくしゃかりゅうおう
地図
湧池の水中洞窟
八海で最大の湧水量。珪藻土層でなる水中洞窟を持ち、潜水調査により池の底から最奥部まで約55mあることが確認された[12]。景観も良く、周辺住民の飲用水としても利用されている。石碑に「いまもなほわく池水に守神のすへの世うけてかはれるぞしる」との和歌が刻まれている。
Nigori04.jpg 濁池
にごりいけ
36m² 12℃ 6.5 0.041m³/秒 第6の霊場
阿那婆達多竜王
あなばたつだりゅうおう
地図 池本荘にある池から大きな排水溝が空いており、湧水は池底から少しだけ湧き出ている。川に隣接。部分的に濁ってはいるが、比較的清麗である。今は池に埋もれてないが石碑に「ひれならす竜の都のありさまをくみてしれとやにごる池水」との和歌が刻まれていた。
Kagami Pond, Oshino Hakkai.jpg 鏡池
かがみいけ
144m² 11.5℃ 5.8 月によって変化 第7の霊場
麻那斯竜王
まなしりゅうおう
地図 名前の由来は逆さ富士が映ることから。水は濁り、湧水の清らかさはない。かつて存在した石碑には「そこすみてのどけき池はこれぞこのしろたへの雪のしづくなるらん」との和歌が刻まれていた。
Shoubu Pond, Oshino Hakkai.jpg 菖蒲池
しょうぶいけ
281m² 12℃ 6.2 月によって変化 第8の霊場
優鉢羅竜王
うはつらりゅうおう
地図 沼状の池。周囲に菖蒲が生い茂る。石碑に「あやめ草名におふ池はくもりなきさつきの鏡みるここちなり」との和歌が刻まれている。

諸問題[編集]

観光地化による環境破壊[編集]

周辺地域の開発や土産物屋などの増加、人工池の造成によって環境破壊が進み、水質の悪化や湧水の枯渇が起きる可能性があるとの指摘もある。「水車小屋」の水は「湧池」内部より汲み上げられている。その為、「湧池」の湧水量は激減し、2003年に池の縁が一部崩落した。また、水が「濁池」の中より「中池」へ流出したため、「濁池」の状態が著しく変化した。

水質問題[編集]

忍野村が1995年以降から毎年秋に「湧池」の水を使って水質調査を実施しているが、毎年のように大腸菌群が検出される他、化学物質テトラクロロエチレンも検出され、名水存続の危機が叫ばれている。ただし、これらの検出結果はいずれも汚染が疑われるほどのものではない。なお、化学物質が検出される理由は不明であり、周辺環境の変化との繋がりがあるのかどうかも不明である[13]

脚注[編集]

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  1. ^ 忍野八海 - 忍野村、2013年7月閲覧
  2. ^ 神奈川県側では相模川と呼称する。
  3. ^ 『南都留郡郷土誌』 (南都留郡聯合教育会, 1938)
  4. ^ 古忍野湖、忍野化石湖、忍野乾湖とも。
  5. ^ 富士山北麓の湖底堆積物から湖形成史を探る (PDF) 輿水達司、内山高、吉澤一家 - 地球惑星科学関連学会2004年合同大会予稿集、2013年7月閲覧
  6. ^ 富士山北東麓古忍野湖の地質と化石 - 国立科学博物館地学研究部 藤山家徳、2013年7月閲覧
  7. ^ 富士山延暦噴火の謎と『宮下文書』 - 静岡大学教育学部総合科学教室 小山真人、2013年7月閲覧
  8. ^ イコモスの規定により、それぞれの池で個別の登録になるため、忍野八海で8つの構成資産を数える。
  9. ^ 村落の構造とその変容 : 山梨県南都留郡忍野村を例としてお茶の水地理23pp.49 - 49 , 1982-04-30 , お茶の水地理学会
  10. ^ 八海祭り - 忍野村、2013年7月閲覧
  11. ^ 大部分の出典は現地解説版から
  12. ^ NHKスペシャル 「世界遺産 富士山~水めぐる神秘~」 2013年6月30日放映
  13. ^ 富士山麓の清流 忍野八海の名水が汚染の危機 - 平成13年4月14日 産経新聞

関連項目[編集]

外部リンク[編集]