水素イオン指数

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水素イオン指数(すいそイオンしすう)または水素イオン濃度指数とは物質の酸性アルカリ性の度合いを示す物理量である。1909年デンマークの生化学者セレン・セーレンセンにより提唱された。pH(potential hydrogen、power of hydrogenの略)という記号で表される。pH の読みはピーエイチ英語読み)、またはペーハードイツ語読み)である。日本では1957年に pH の JIS を制定する際に読みがピーエイチと定められ、現在の法令[1]およびJIS[2]ではピーエッチと定められている。

ふつうは水溶液中での値を指す。なお、1 atm・25 ℃において pH = 7 の場合は中性と呼ばれる。pH が小さくなればなるほど酸性が強く、逆に pH が大きくなればなるほどアルカリ性が強い。

定義[編集]

水素イオン指数 pH 水素イオン活量[要出典] a_{\rm{H}^+} を用いて次式により定義される[3]。なお、対数(log)は10を底とする常用対数を使用する。

{\rm pH} =-\log_{10} a_{\rm{H}^+} =\log_{10} \frac{1}{a_{\rm{H}^+}}

希薄水溶液中においては、水素イオン活量は mol/L または mol/dm3 単位で表した水素イオン濃度 [H+] の数値にほぼ等しいと近似される。 特に、水溶液が、酸性条件であり、かつ、pHの値が水の電離の影響が支配的な中性(pHが7付近)から充分離れている場合に限れば、 以下の式で水素イオン濃度指数を求めることが出来る。

\mathrm{pH} =-\log_{10} \frac{[\mathrm{H}^+]}{\mathrm{mol/L}} = \log_{10} \frac{1}{[\mathrm{H}^+]/(\mathrm{mol/L})}

酸性の場合、水素イオン活量が水酸化物イオン活量より大きくなり、中性の場合は水素イオン活量と水酸化物イオン活量とが等しくなり、そしてアルカリ性の場合は水素イオン活量より水酸化物イオン活量が大きくなる。

水素イオン指数 pH と同様にして、水酸化物イオン指数: pOH が、以下の式で定義される。

{\rm pOH} = -\log_{10} a_{\rm{OH}^-} =\log_{10} \frac{1}{a_{\rm{OH}^-}}

希薄水溶液中においては、水酸化物イオン活量もmol/Lまたはmol/dm3単位で表した水酸化物イオン濃度 [OH] の数値にほぼ等しいと近似される。 特に、水溶液が塩基性であり、pHの値が水の電離の影響が支配的な中性(pHが7付近)から充分離れている場合に限れば水酸化物イオン指数を、以下の式で近似することが出来る。

\mathrm{pOH} =-\log_{10} \frac{[\mathrm{OH}^-]}{\mathrm{mol/L}} =\log_{10} \frac{1}{[\mathrm{OH}^-]/(\mathrm{mol/L})}

水素イオン濃度 [H+] と水酸化物イオン濃度 [OH] の積(イオン積)は1 atm・25 ℃でほぼ 1 × 10−14 (mol dm−3)² (実際の測定値は 1.008 × 10−14 (mol dm−3)²)で一定なので、次式の関係が成り立つ。

\rm pH + pOH =14

25 ℃ の純水の場合ほぼ pH = 7(中性)となる。中性を境に pH < 7 の場合を酸性、pH > 7 の場合を塩基性(アルカリ性)と呼ぶ。

変域[編集]

pH の変域が特に存在するわけではない。

一方で、日本の高等学校の教科書などでは pH が 0~14 の範囲で図表が掲げられ、水溶液の pH はほぼその範囲で変わると記述されている[4]

また水溶液のガラス電極による pH測定において、信頼性の高い値が得られるのはおよそ pH = 1~12 の範囲内、イオン強度は0.1以下である。まず濃厚な酸の水溶液をガラス電極により測定する場合、ガラス電極表面の膨潤および陰イオン吸着などが影響し、酸誤差が生じる。次に濃厚な塩基水溶液の場合はガラス電極表面への陽イオンの吸着などの影響によりアルカリ誤差を生じ、これは陽イオンのイオン半径が小さいほど大きい傾向がある[5]

しかし、濃厚な強酸強塩基水溶液あるいは超酸超塩基では pH の値がマイナスの値となる場合や、14を超える場合が存在する。この場合、pH や pOH ではあまり意味をなさないため酸度関数によって表現するのが一般的である。

測定法[編集]

以下の方法より pH を測定できる。

リトマス紙[編集]

単に酸性、中性またはアルカリ性かのみを確認する場合、リトマス紙を用いる。

pH指示薬(pHインジケーター)[編集]

必要に応じ、試験管などに分取した液に指示薬を加え、判定する。通常、指示薬の一覧にあるような色素が用いられ、市販されており、それぞれ色が異なる。複数試すことで、液の pH がおおむねいくつかを判断することができる。

pH試験紙[編集]

指示薬を紙に染み込ませ、乾燥させたものなどが、販売されている。液に触れると、液の pH に応じて色が変化する。

また、複数(2 - 4種類程度)の小さな試験紙が付属しているものもある。このタイプは、それぞれの色の組み合わせにより pH を読み取ることができる仕組みにあらかじめなっている。

水素電極[編集]

水素電極(白金黒水素電極など)は白金板の表面が微粒子の白金黒で覆われたもので、105 Pa の純粋な水素ガスを通じながら使用する。

その電極反応は以下の通りで、ネルンストの式により pH と電極電位との間には以下の関係が成立し、水素イオン活量と電極電位には直線関係がある。

2H+ (aq) + 2e = H2 (g),  E°= 0 V
E=E^\circ + \frac{RT}{2F} \ln \frac{{a_{\rm{H}^+}}^2}{p_{\rm{H_2}}}

参照電極(照合電極、reference electrode)としては-塩化銀電極あるいはカロメル電極などが用いられ、それらと水素電極との電位差を pH に換算する。

pH計[編集]

pH電極(ガラス電極など)を接続した pH計を使用し、電気的に測定することができる(pHメーター)。

電極内部に pH 一定の緩衝溶液が封入され、ガラス膜の内部および測定溶液に接触する外部にそれぞれ水素イオンが吸着し電位差を生ずる。ガラス電極と参照電極との電位差を pH に換算する。

内部電極 | 内部液 | ガラス膜 | 試料溶液 | 外部照合電極

操作的定義[編集]

水素イオン指数は前述したように水素イオンの活量で定義されるが、電気化学的に測定されるものは陽イオンおよび陰イオンの活量の積であり、単独イオンの活量を直接測定することは不可能である。このため単独イオンの活量で定義される厳密な意味での pH は測定が不可能であることになる。

そこで実験的に pH を測定するためには、デバイ-ヒュッケルの式などから推定される活量に基いて仮定される操作的な定義が必要となる。そこでJIS規格では15℃における0.05 mol/L のフタル酸水素カリウム水溶液の pH を4と定義している[5]

また米国National Bureau of Standards (NBS) では以下のように一次標準溶液を定義している[5][6][7]。一次標準物質には緩衝溶液としての作用が強く、再結晶などにより純品が得やすいものが選定されている。

温度/ 酒石酸塩 フタル酸塩 リン酸塩(1) リン酸塩(2) ホウ酸塩
0 4.003 6.984 7.534 9.464
5 3.999 6.951 7.500 9.395
10 3.998 6.923 7.472 9.332
15 3.999 6.900 7.448 9.276
20 4.002 6.881 7.429 9.225
25 3.557 4.008 6.865 7.418 9.180
30 3.552 4.015 6.853 7.400 9.139
35 3.549 4.042 6.844 7.389 9.102
38 3.548 4.030 6.840 7.384 9.081
40 3.547 4.035 6.838 7.380 9.068
45 3.547 4.047 6.834 7.373 9.038
50 3.549 4.060 6.833 7.367 9.011
55 3.554 4.075 6.834 8.985
60 3.560 4.091 6.836 8.962
65 4.108 6.840 8.942
70 3.580 4.126 6.845 8.921
75 4.145 6.852 8.903
80 3.609 4.164 6.859 8.885
85 4.184 6.868 8.867
90 3.650 4.205 6.877 8.850
95 3.674 4.227 6.886 8.833


試料測定前にこれらの一次標準溶液を用いて pHメーター校正を行う。校正は中性付近のリン酸塩標準溶液および酸性側のフタル酸塩標準溶液または塩基性側のホウ酸塩標準溶液を用いて2点、あるいは3点で行う。

脚注[編集]

  1. ^ 計量法および計量単位令
  2. ^ 日本工業規格 JIS Z 8802 pH測定方法(1984年改正)
  3. ^ Covington, A. K.; Bates, R. G.; Durst, R. A. (1985). “Definitions of pH scales, standard reference values, measurement of pH, and related terminology”. Pure Appl. Chem. 57 (3): 531–542. doi:10.1351/pac198557030531. http://www.iupac.org/publications/pac/1985/pdf/5703x0531.pdf. 
  4. ^ 渡辺 正 ほか 『新版 化学I』 大日本図書
  5. ^ a b c 吉村壽人, 松下寛, 森本武利 共著 『pHの理論と測定法』 丸善、1968年
  6. ^ 日本化学会編 『改訂4版 化学便覧 基礎編』丸善
  7. ^ 田村英雄松田好晴 共著『現代電気化学』培風館、1978年

関連項目[編集]

外部リンク[編集]