対空戦車

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対空戦車(たいくうせんしゃ)は、対空機関砲・対空機銃などを戦車用車台に搭載した装甲車輌である。自走式対空砲のカテゴリーに含まれる兵器であるが、自走砲との区別は時代や国、編成により異なり、明確ではない。

概要[編集]

戦車の車体を利用した機動性により、前線の戦車部隊に追随し、前線部隊を航空機などの脅威から防御することを目的としている。ただし通常の戦車と比べ、多くの場合装甲は薄くなっており、また、武装も対空火器中心であるため、敵の戦闘車輌や対戦車兵器との直接戦闘は不得手である。

また、対空戦車が必要とされる状態とは航空優勢を失った戦局が不利な状態であり、その場合航空機や戦車、そして安価で数をそろえやすい通常の対空兵器(牽引対空砲や非装甲トラックに車載した対空機関砲など)の生産配備が優先される。逆に対空戦車を量産できるほどの余力が生じている状態とは、普通戦局が有利で航空優勢を得ている状態であり、わざわざ対空戦車を量産する必要がない状態である。どちらにしても、対空戦車の量産配備は後回しで、十分な数がそろわない傾向にある。

もっとも、搭載する機関銃/は兵器特性から発射速度が非常に大きいため、第二次世界大戦では火力支援という形で使用され、大戦後も後述のようにゲリラなど、正規軍以外の勢力に対し、対地攻撃に使われる例もある。

歴史[編集]

第二次世界大戦期、制空権を連合軍に奪われたドイツ国防軍は、I号戦車の車体を利用したI号対空戦車(20mm機関砲装備)、IV号戦車の車体を利用した、メーベルワーゲン(37mm機関砲装備)、ヴィルベルヴィント(4連装20mm機関砲装備)、オストヴィント(37mm機関砲装備)、クーゲルブリッツ(3cm連装高射機関砲)などが作られた。これらは全て戦車用車台を用いているが、制式名称に対空戦車(Flakpanzer)の名を持つのはヴィルベルヴィント以降で、それ以前の物は名称上自走式対空砲扱いとなっている。

連合国側もイギリス軍Mk.VI軽戦車に7.92mm BESA機銃を4連装で搭載した軽対空戦車Mk.I、クルセーダー巡航戦車の車体にボフォース 40mm機関砲を単装で、またはエリコンFF 20 mm 機関砲を連装で装備した砲塔を搭載したクルセーダーAAを実戦投入。アメリカ軍装甲ハーフトラック12.7mm機銃や37mm機関砲を搭載した自走式対空砲を実戦投入していたが、戦車車台利用の物はほとんど試作止まりに終わり、大戦末期にボフォース 40mm機関砲を連装で装備した、M24軽戦車をベースにしたM19対空自走砲がようやく配備されている。もっとも連合国側の航空優勢もあってか、これらは本来の任務ではあまり日の目を見ることはなく、敵歩兵に対する水平射撃などに多く用いられ、M19の本格的な実戦投入も朝鮮戦争からであった。

第二次大戦後、西側諸国ではドイツ連邦軍(西ドイツ軍、en:Bundeswehr参照)がレオパルト1の車体を利用したゲパルトを開発し、装備している。日本陸上自衛隊74式戦車の車体を利用した87式自走高射機関砲を保有している。両者は砲塔左右にエリコン製35mm機関砲を装備して高度な追尾技術を有している点で酷似している。前者の追尾機器配置の意匠には特許があり、後者が同一の配置にできなかった経緯を持つ。ただし、機器やソフトウェアの点では後者の方が後発であるためより新しい技術が導入されている。また、フランス軍も、戦車車台を用いたAMX-13DCAを配備、その後継としてAMX-30DCAも作られたが、こちらはサウジアラビアへの輸出分のみに止まった。これらは警戒レーダーを搭載しているが、照準は光学式であった。

アメリカ合衆国ではM19の後継として、M42ダスター自走高射機関砲(連装40mm機関砲装備、目視照準)がつくられ、ベトナム戦争にも派遣された。さらに高度な追尾技術を有する新型対空戦車M247サージェント・ヨークも開発されたが、このようなシステムの高価格、さらに「アメリカ軍は常に味方の航空優勢下で戦う」というドクトリンもあり、現在ではM113装甲兵員輸送車M61 20mmバルカン砲を搭載したM163対空自走砲を保有するのみである(これも正確には自走式対空砲である)。

東側諸国ではソビエト連邦ZSU-57-2、続いてZSU-23-4 シルカ(4連装23mm機関砲装備)を開発した。特に後者は世界で初めて追尾レーダーを備えた対空戦車であった。第四次中東戦争で自走対空ミサイル2K12 クープとともにエジプト軍に配備され、開戦初日に40機(諸説あり)とも言われる膨大な数のイスラエル機の撃墜に一役買った。また、ソビエト連邦のアフガニスタン侵攻では輸送車列の護衛、チェチェン紛争では建物の上層階から攻撃してくるゲリラに対抗するという別の目的に使われた。

現在ロシア連邦軍では2S6 ツングースカが主力である。これは4門の30mm機関砲に加え、8基の小型対空ミサイルを備えていて、より広範囲の敵航空機に対応できる。

このような機関砲装備の対空戦車の存在意義を疑問視する意見もある。これは車輌にとって最大の敵である攻撃ヘリコプターからの、対戦車ミサイルの射程が延長され、機関砲の射程外から一方的に攻撃される事態が想定されるということである。加えて高価な火器管制装置の搭載は、中小諸国がこうした兵器を持つのを難しくするだけではなく、先進諸国が十分な配備数を調達することも難しくしている。

対抗手段として前述のツングースカの様に小型ミサイルを装備したハイブリッド化や、あるいは機関砲弾自体の射程延長化が進められている。ただ、小型ミサイルさえ搭載できればいいなら高価な対空戦車は不要だという意見もある。現代で対空戦車とはやや異なる、安価な軽車両に対空ミサイルを装備したもの(HMMWVベースのアメリカ軍のアベンジャーシステム高機動車ベースの陸上自衛隊93式近距離地対空誘導弾など)が増加してきているのは、こうしたためである。ただし、ミサイルでは敵が有効なECMを使用した場合無力化されてしまう上に、誘導装置や弾頭などが対航空機に特化した設計となっているため非装甲車両や軽装甲車両などの地上目標には殆ど役に立たないので、そうした電子妨害が効かない点と地上の敵に対する掃射にも使用可能であるという点で機関砲は有効である。また、ミサイルには安全装置解除やロックオンのために必要な最小射程があるが、機関砲はそれより至近に入り込んだ敵に反撃することもできる。

関連項目[編集]