フィリップ・K・ディック賞
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(フィリップ・K・ディック記念賞から転送)
フィリップ・K・ディック賞(フィリップ・K・ディックしょう、The Philip K. Dick Award)は、SF作家フィリップ・K・ディックが1982年に死去したことから、翌1983年に故人を記念して創設されたSFの文学賞である。フィラデルフィアSFソサエティ(en)が運営している。
前年にアメリカでペーパーバックで刊行されたSF小説の中の最優秀作品を選ぶ賞である。
概要
[編集]SF作家フィリップ・K・ディックが死去した翌年の1983年、代表作の大半をペーパーバックとして発表した彼を記念して、SF作家トマス・M・ディッシュにより創設された。フィラデルフィアSFソサエティが後援し、2005年からはフィリップ・K・ディック・トラストも支援している。
最初にペーパーバックの形態で出版された作品のみを対象としている点に特色がある(トレード・ペーパーバックを含む。ただしハードカバー版とトレード・ペーパーバック版が同時刊行された作品は対象外)。
候補作と受賞作は作家と研究者が構成する5人の選考委員会により決定される。この際、次点作品を特別賞(Special Citation)として発表する。結果発表と授賞式は毎年春にシアトルで開催されるSFコンベンション・ノーウェスコンで行なわれる。
運営には現在、デイヴィッド・G・ハートウェルとゴードン・ヴァン・ゲルダーが携わっている。過去にはアルジス・バドリスやデイヴィッド・アレクサンダー・スミスが運営に携わっていた。
受賞作一覧
[編集]公式サイトに従い、年は刊行年を示した。授賞はその翌年である。特別賞(Special Citation)は次点の作品に与えられる。
刊行年 | 受賞 | 著者 | 特別賞(Special Citation) | 著者 |
---|---|---|---|---|
1982年 | 『ソフトウェア』[書 1]Software | ルーディ・ラッカー | The Prometheus Man | レイ・ネルスン |
1983年 | 『アヌビスの門』[書 2]The Anubis Gates | ティム・パワーズ | 『黒龍とお茶を』Tea with the Black Dragon | R・A・マカヴォイ |
1984年 | 『ニューロマンサー』 Neuromancer | ウィリアム・ギブスン | 『荒れた岸辺』The Wild Shore | キム・スタンリー・ロビンソン |
1985年 | 『奇人宮の宴』[書 3]Dinner at Deviant's Palace | ティム・パワーズ | Saraband of Lost Time | リチャード・グラント |
1986年 | 『ホムンクルス』Homunculus | ジェイムズ・P・ブレイロック | The Hercules Text | ジャック・マクデヴィット |
1987年 | 『ストレンジ・トイズ』Strange Toys | パトリシア・ギアリー | Memories | マイク・マッキー |
1988年 | 『4000億の星の群れ』[書 4]Four Hundred Billion Stars | ポール・J・マコーリイ | ||
『ウェットウェア』Wetware | ルーディ・ラッカー | |||
1989年 | Subterranean Gallery | リチャード・ポール・ルッソ | On My Way to Paradise | デイヴ・ウォルヴァートン |
1990年 | Points of Departure | パット・マーフィー | The Schizogenic Man | レイモンド・ハリス |
1991年 | 『黎明の王 白昼の女王』[書 5]King of Morning, Queen of Day | イアン・マクドナルド | Bone Dance | エマ・ブル |
1992年 | Through the Heart | リチャード・グラント | In the Mothers' Land | Élisabeth Vonarburg |
1993年 | Growing Up Weightless | ジョン・M・フォード | ||
『エルヴィシー』Elvissey | ジャック・ウォマック | |||
1994年 | Mysterium | ロバート・チャールズ・ウィルスン | Inagehi | Jack Cady |
1995年 | Headcrash | Bruce Bethke | Carlucci's Edge | リチャード・ポール・ルッソ |
1996年 | 『タイム・シップ』The Time Ships | スティーヴン・バクスター | At the City Limits of Fate | マイクル・ビショップ |
1997年 | The Troika | Stepan Chapman | Acts of Conscience | William Barton |
1998年 | 253: The Print Remix | ジェフ・ライマン | Lost Pages | ポール・ディ・フィリポ |
1999年 | 『プランク・ゼロ』[書 6]『真空ダイヤグラム』Vacuum Diagrams | スティーヴン・バクスター | Tower of Dreams | Jamil Nasir |
2000年 | 『オンリー・フォワード』[書 7]Only Forward | マイケル・マーシャル・スミス | Evolution's Darling | スコット・ウエスターフェルド |
2001年 | Ship of Fools | リチャード・ポール・ルッソ | Divine Intervention | Ken Wharton |
2002年 | The Mount | キャロル・エムシュウィラー | The Scar | チャイナ・ミエヴィル |
2003年 | 『オルタード・カーボン』[書 8]Altered Carbon | リチャード・モーガン | Dante's Equation | Jane Jensen |
2004年 | Life | ギネス・ジョーンズ | Apocalypse Array | ライダ・モアハウス |
2005年 | 『ウォー・サーフ』War Surf | M・M・バックナー | Natural History | ジャスティナ・ロブソン |
2006年 | Spin Control | Chris Moriarty | Carnival | エリザベス・ベア |
2007年 | Nova Swing | M・ジョン・ハリスン | From the Notebooks of Dr. Brain | Minister Faust |
2008年 | 『シリンダー世界111』Emissaries from The Dead | アダム=トロイ・カストロ | ||
Terminal Mind | デイヴィッド・ウォルトン | |||
2009年 | 『エラスムスの迷宮』Bitter Angels | C・L・アンダースン[※ 1] | 『サイバラバード・デイズ』Cyberabad Days | イアン・マクドナルド |
2010年 | 『バネ足ジャックと時空の罠』The Strange Affair of Spring-Heeled Jack | マーク・ホダー | 『ハーモニー』Harmony[1][2] | 伊藤計劃 /アレクサンダー・O・スミス訳 |
2011年 | The Samuil Petrovitch Trilogy | サイモン・モーデン | 『カンパニー・マン』The Company Man | ロバート・ジャクソン・ベネット |
2012年 | Lost Everything | Brian Francis Slattery | 『ラブスター博士の最後の発見』LoveStar | アンドリ・S・マグナソン/Victoria Cribb 訳 |
2013年 | 『カウントダウン・シティ』Countdown City | ベン・H・ウィンタース | 『Self-Reference ENGINE』Self-Reference ENGINE[3] | 円城塔/Terry Gallagher 訳 |
2014年 | The Book of the Unnamed Midwife | メグ・エリスン | Elysium | Jennifer Marie Brissett |
2015年 | Apex | ラメズ・ナム | Archangel | Marguerite Reed |
2016年 | The Mercy Journals | Claudia Casper | Unpronounceable | Susan diRende |
2017年 | Bannerless | キャリー・ヴォーン | After the Flare | Deji Bryce Olukotun |
2018年 | Theory of Bastards | オードリー・シュルマン | 84K | クレア・ノース |
2019年 | 『いずれすべては海の中に』Sooner or Later Everything Falls into the Sea | サラ・ピンスカー | The Little Animals | Sarah Tolmie |
2020年[4] | Road Out of Winter | Alison Stine | The Book of Koli | M・R・ケアリー |
2021年[5] | Dead Space | Kali Wallace | The Escapement | ラヴィ・ティドハー |
2022年[6] | The Extractionist | Kimberly Unger | The Legacy of Molly Southbourne | テイド・トンプソン |
2023年[7] | These Burning Stars | Bethany Jacobs | The Museum of Human History | Rebekah Bergman |
英訳作品の受賞
[編集]- 2010年の刊行作品を対象とする回では、伊藤計劃『ハーモニー』(原著2008年刊、アレクサンダー・O・スミスによる英訳版HarmonyはHaikasoruから刊行)が特別賞を受賞した。
- 2010年の候補作 (著者名ABC順)
- Jon Armstrong, Yarn
- エリザベス・ベア, Chill
- Alden Bell, The Reapers are the Angels
- Sara Creasy, Song of Scarabaeus
- マーク・ホダー『バネ足ジャックと時空の罠』The Strange Affair of Spring-Heeled Jack(受賞)
- 伊藤計劃(Project Itoh)『ハーモニー』Harmony(特別賞)
- James Knapp, State of Decay
- 2010年の候補作 (著者名ABC順)
- 2012年の刊行作品を対象とする回では、アンドリ・S・マグナソン『ラブスター博士の最後の発見』LoveStar(原著2002年刊、Victoria Cribbによる同題の英訳版はSeven Stories Pressから刊行)が特別賞を受賞した。
- 2013年の刊行作品を対象とする回では、円城塔『Self-Reference ENGINE』(原著2007年刊、Terry Gallagherによる同題の英訳版はHaikasoruから刊行)が特別賞を受賞した。
注釈
[編集]- ^ サラ・ゼッテルの別ペンネーム。
書誌
[編集]出典
[編集]- ^ 『Harmony』のフィリップ・K・ディック賞ノミネートを伝えるHaikasoru公式サイトの記事(英語)
- ^ 故・伊藤計劃さんにSF小説特別賞 米のディック賞(2011年4月23日、asahi.com)
- ^ Self-Reference ENGINE wins the PKD Special Citation
- ^ “Stine Wins 2021 Philip K. Dick Award” (英語). Locus Online (2021年4月5日). 2021年4月6日閲覧。
- ^ locusmag (2022年4月17日). “Philip K. Dick Award Winner” (英語). Locus Online. 2022年5月18日閲覧。
- ^ locusmag (2023年4月10日). “Unger Wins 2023 Philip K. Dick Award” (英語). Locus Online. 2024年10月8日閲覧。
- ^ locusmag (2024年4月1日). “Jacobs Wins 2024 Philip K. Dick Award” (英語). Locus Online. 2024年10月8日閲覧。
外部リンク
[編集]- Philip K. Dick Award フィリップ・K・ディック賞オフィシャルサイト(英語)
- The Philip K. Dick Award - winners by year フィリップ・K・ディック公式サイト内 フィリップ・K・ディック賞受賞作リスト(英語)
- Philip K. Dick Award | WWEnd 過去の受賞作および候補作の書影一覧(英語)