アブサン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索
アブサン。添えられているのは専用のスプーン

アブサン: absinthe)は、フランススイスチェコスペインを中心にヨーロッパ各国で作られている薬草リキュールの一つ。ニガヨモギアニスウイキョウなどを中心に複数のハーブスパイスが主成分である。

フランス語での発音はアプサーント。英語ではアブシンスアブサントアプサンとも。名前はギリシア語の "ἀψίνθιον"("apsínthion"、ヨモギの意)に由来する。[1]

日本では、有名な商品名であるペルノー(: pernod)を一般名詞的に呼ぶ場合がある。ペルノーという呼び方は、同社のもう一つの有名な商品であるアニス酒を指すこともある。

特徴・飲み方[編集]

Absinthe fountain.jpg

アルコール度数が高く70%前後のものが多い。低いものでも40%程度、製品によっては89%を超えるものもある。薄く緑色を帯びており 水を加えると非水溶成分が析出して白濁する。色と白濁の度合いは製品によって大きく異なる。

他のリキュール類と異なる、特殊な香りと味を持っている。

そのまま飲むこともあるが、度数が高いため薄めて飲んだり、特異な香気があるためカクテル材料としても用いられる。

薄めて飲む場合、角砂糖に垂らす方法がよく知られており、しばしば「アブサンスプーンをグラスの上に渡してその上に角砂糖を置く」という形で供される。パブでは、グラスの上に渡した角砂糖をアブサンで湿らせて着火し、ミネラルウォーターを注いで消火し、アブサンスプーンでよく混ぜたものをクラシックスタイルとして提供している。

誕生から禁止、解禁まで[編集]

ヴィクトル・オリヴァ『アブサンを飲む男』(1901年)

禁止前[編集]

元々はスイスヴェルト・トラ・ヴェルで作られていたニガヨモギを原料とした薬を医師ピエール・オーディナーレが蒸留を応用し独自の処方を発案、彼はその製法を1797年にアンリ・ルイ・ペルノーに売却。ペルノーが商品化した。特に、19世紀フランス芸術家たちによって愛飲され、作品の題材とされた。

安価なアルコールだったために多数の中毒者・犯罪者を出したことでも知られる。アブサン中毒で身を滅ぼした有名人としては、詩人ヴェルレーヌや画家トゥールーズ=ロートレックゴッホがいる。

禁止[編集]

ニガヨモギの香味成分であるツヨンにより幻覚などの向精神作用が引き起こされるとされ、1898年にベルギーの植民地であったコンゴ自由国で禁止されたのに始まり、20世紀初頭にはスイス・ドイツ・アメリカなどでアブサンの製造・流通・販売は禁止された[2]。現在ではツヨンが原因によるアブサン中毒は疑問視されている。

このため、ニガヨモギを用いないアブサンの代替品として、パスティス: se pastiser 似せる、を由来とする)が製造された。販売を目的としない小規模な製造についてはほとんど取り締まりがなかったため、フランス・スイスなどを中心とする欧州の各地に自家用のアブサン醸造家が存在した。

一方、スペインなど禁止されていない国もあった。日本でもニガヨモギ抽出物が食品添加物既存添加物)として使用が許可されていたため、ペルノーが一般的な流通ルートで輸入されており、国産製ではサントリーがカクテル用に一般流通させていたヘルメス・リキュール・シリーズのラインナップとしてアブサンを販売していたことから、洋酒販売店やバーにおいてはそれほど珍しい酒ではなかった。

解禁[編集]

その後、1981年にWHOが、ツヨン残存許容量が10ppm以下(ビター系リキュールは35ppm以下)なら承認するとしたため、製造が復活。禁止国であったスイスでも2005年3月1日に正式に解禁された。

作品の中のアブサン[編集]

国内の映画[編集]

  • 多羅尾伴内 十三の魔王(1958年) - 多羅尾伴内扮するインドの魔術師がバーで口に含んで火を吐く手品を披露する。
  • いつかギラギラする日安岡力也演じる武器密売人が主人公の神埼(演:萩原健一)と共にアブサンを飲み交わす。「最後に~」との台詞から、規制前の古酒、或いは密造品と推測される。

海外の映画[編集]

国内の小説[編集]

  • 人間失格(1948年) - 喪失感の例えとして登場する。
  • 苦艾の繭(2002年) - 吉川良太郎の小説。酒マニアの密売人にアブサンを利用した大掛かりなトラップが仕掛けられる。舞台はアブサン禁止令下のドイツ。

海外の小説[編集]

漫画など[編集]

  • あぶさん(1973年) - 作品名は、この酒の名前が由来の一つである。
  • 正しい恋愛のススメ - 登場人物のひとり・原田一樹を酒に例えた際に挙げられた。
  • 王様の仕立て屋〜サルト・フィニート〜 - 作中において、主人公(織部)が飲みアルコール度数の強さに顔を赤くするシーンがある。
  • BARレモン・ハート - 「世界中の酒はすべておいてあり、当店に無い銘柄はない」旨を高らかに語ったマスターに常連(メガネさん)が「アブサン呑ませろ」と(冗談半分の皮肉であるが)迫り、悔しさのあまり(当時は復刻版が販売されていなかった)店を数日間休業してヨーロッパに渡り、探し歩いた。
  • バーテンダー - Glass73「写る魂(後編)」(第10巻収録)において、アブサンとアブサンを使ったカクテル午後の死」が登場する。
  • ポーの一族 - 「ピカデリー7時」の中で、エドガーが訪ねたポリスター卿が「アブサント酒がお好み」として紹介されている。
  • Under the Rose - グレース・キングがアブサンを愛飲している。
  • うみねこのなく頃に - 登場人物のひとり、右代宮金蔵が愛飲していた。

脚注[編集]

  1. ^ ἀψίνθ-ιον. Liddell, Henry George; Scott, Robert; A Greek-English Lexicon at Perseus Project.
  2. ^ Carvajal, Doreen (2004年11月27日). “Fans of absinthe party like it’s 1899”. International Herald Tribune. 2008年11月21日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]